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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第四章 存在を求めて
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52.悪魔の世界

 コーボネルドの中は落ち着いていた。

 ブローダンがいなくなって、街の中は混乱しているのではないかと思っていたので意外だった。

 どうしてだろうと思ったのだが、その疑問はすぐにとけた。



「レンレ~ン! 元に戻ったんだね~!」



 コボルドと仲良く話していたエルンが僕達の方に近づいてくる。

 多分エルンがコボルドの混乱を食い止めてくれていたんだろう。

 ってあれ?

 元に戻ったっていうことは、エルンにバルグが見えているということ?



「今はレンじゃないぞ」

「あっ、ということはバルきゅんか~ごめんごめ~ん」

「それより、エルンは俺のことが見えるのか?」

「うん、そうだよ~」



 やはりエルンはバルグのことが見えるらしい。

 一体何が起きているんだろう……


 

「エルン、フィナはどこに行ったか知らないか?」

「フィナちゃんなら図書館にいると思うよ~」

「そっか、ありがとな」



 僕達はコーボネルド図書館へと向かった。





 コーボネルド図書館の中は静まり返っていた。

 でも人がいないという訳ではなく、中にいるコボルドの人達はみんな落ち着いているようだった。



「バルグ、戻ってきたのね!」



 フィナが僕達に気づいて近づいてきた。



「フィナも俺が見えるのか?」

「ええ、見えるわよ。よかった、一時はどうなることかと……」



 フィナはほっとした様子だった。



「でも、バルグとは違う所からレンの気配を感じるんだけど、どういうことかしら?」

「ああ、そのことなんだが……」



 バルグは廃墟であった事をフィナに説明した。

 するとフィナは納得すると同時に不思議そうな表情をした。



「だとすると、ここに霊竜になったレンがいるはずよね? でもそれらしき姿はないんだけど?」



 僕の姿が見えない?

 バルグの隣にいるから見えないはずはないんだけど……



「レンなら俺の隣にいるぞ。白くて小さい竜の姿をしてる」

「バルグの隣ねぇ……やっぱり見えないわ」



 見えなくなるのは霊魂覚醒砲の副作用によるものだ。

 僕はその副作用をうけて、みんなから見えない存在になっている。

 それは精神が入れ替わった今でも同じこと。


 でもバルグはみんなに見えている。

 ということは、バルグは副作用を受けていないのか。

 なんか不公平な気がするけど、僕の判断で霊魂覚醒砲を使ったんだから文句は言えないんだろうな。

 とにかくこれからやるべきことを考えよう。



「バルグ、フィナに虚空の宝玉を渡してもらって」

「ああ、分かった」



 バルグはフィナに虚空の宝玉を貸してほしいことを伝えた。



「あ、虚空の宝玉はコーボネルド図書館に返しちゃったの。どうしても必要なら、受付の人に頼まないといけないわね」



 そういえば、虚空の宝玉はこの図書館の物だったんだ。

 争いが終わった今、貸してもらったものを返すという形でフィナは図書館の騒動をおさめたのかもしれない。

 だとすると、返したばかりなのにまた貸してほしいというのは気が引けるなぁ……

 でも、ここで立ち止まってしまったら死んでしまうんだから、躊躇してはいられないよね。


 とはいっても、僕の声は受付の人には届かないので、交渉はフィナとバルグにしてもらうことになった。


 フィナとバルグは頑張って受付の人と交渉するのだが、虚空の宝玉は一般立ち入り禁止の場所にあるものなので、断固として許してくれそうにない。

 フィナとバルグは一度交渉を止めて、改めて作戦を考えようとしていた。

 しかし、膠着状態を打開する一手は意外にもエナからもたらされる。



「交渉しなくても、見えないレンが虚空の宝玉の所に行って悪魔に会えばいい」


  

 確かにそうだ。

 僕の姿や声はバルグとエナにしか分からないんだから、立ち入り禁止の所に僕が言ったってバレないよね。

 交渉できないなら、交渉しなくても実行できる行動をすればいい話だ。


 フィナとバルグもエナの言ったことに賛成のようだった。

 バルグから念のため、一般立ち入り禁止場所のセキュリティ解除方法を教えてもらってから、僕は受付の奥へと向かう。


 僕が受付の人のそばを通っても、全く気付かれる心配はなく、なんだか不思議な気分だった。

 こうして僕は特に問題なく立ち入り禁止場所を進むことができ、ついに虚空の宝玉のある場所までたどり着いた。


 僕はセキュリティを解除して、虚空の宝玉を手に取る。

 すると頭の中から声が聞こえてくる。



《お前は……レンか。何か用か?》



 ブロースがすぐに反応してくれて、僕はほっとする。

 周りの人から僕の姿が見えないといっても、虚空の宝玉のセキュリティを解除したことは見たら分かってしまうので、あまりもたもたしていられないのだ。


 僕がブロースにこれまでの経緯を説明すると、



《つまり、レンは私に天使の攻撃による後遺症を治してほしいということか?》

「はい。厳しいですか……?」

《そうだな……恩もあるし、レンを助けたいのはやまやまなんだが、私にその知識はないのだ。申し訳ない》



 悪魔の中で比較的年上そうなブロースでも分からないのか。

 だとすると、後遺症を治せる悪魔って相当限られてしまうんじゃ……



《だが、治せる者は知っている》

「誰なんですか?」

《お前もよく知っていると思うが――――ブローダンだ》



 ブローダンだって!?

 でもブローダンは倒したばかりで、まだ復活してないだろうし、何よりも僕とは敵対する存在なはず……



「ブローダンはまだ復活していないんじゃないですか?」

《いや、もう復活しているぞ。力はだいぶ失ったようだが》

「そうだとしても、ブローダンが協力してくれるとは思いません」

《そうか? 私はそう思わないが……》



 どうして今まで敵対していたブローダンが急に協力してくれるなんて発想になるんだろうか……

 全く謎だな。



《確かに協力してくれない可能性もあるだろう。だが、それでお前は諦めてしまうのか?》

「それは……嫌です」

《そうか。それならとりあえずブローダンに頼んでみるといいんじゃないか?》

 


 まあ、確かに気は進まないが、可能性があるなら頼んでみるのもいいかもしれない。


 

「そうですね。ブローダンに頼んでみることにします」

《分かった。では私が悪魔の世界に行くためのゲートを作成しておく。レンは宝玉の中に入ってしばらく待っていてくれ》



 そのブロースの声を聞くと同時に、僕は虚空の宝玉の中に吸い込まれた。


 虚空の宝玉の中は相変わらず、灰色の空間だった。

 その空間の中にある黒いもやが集まって、人を形作る。



「レン、ゲートの作成にはまだ時間がかかる。ここでゆっくりと待っていてくれ」



 あまりゆっくりできないんだけどなぁ……

 まあ、時間かかるというなら仕方ないか。



 しばらく待っていると、ブロースは僕の目の前に立つ。



「いでよ、デモンズゲート!」



 ブロースがそう叫ぶと、空間にある黒いもやのようなものが集まり、目の前に巨大な門が現れた。



「これが悪魔の世界への入り口か……」

「そうだ。この門を呼び出したのは久しぶりだな……」

「前にこの門を呼び出したのはいつ頃なんですか?」

「そうだな……多分100年は前だったと思う」



 100年!?

 やはり長生きな悪魔の感覚は人間とは違うよなぁ。



「せっかく門を開くんだから、私も故郷に戻るとしよう。ブローダンの所までの案内は任せてくれ」



 どうやらブローダンの所まで案内をしてくれるようだ。

 悪魔の世界の事なんて知らないので、案内してくれるのは助かる。

 それに今は悪魔と敵対する霊竜の体をしているからなおさらだ。

 ってあれ?

 ブロースは僕が霊竜になっていることに全く触れてないけど、どういうことなんだろう?



「ブロースは、今の僕が霊竜の体をしていることを不思議に思わないの?」

「別にどんな体をしていようが、レンに変わりないんだから、特に気にならないな」

「まあ、確かにそうだけど……」



 悪魔は精神体だから、肉体への関心が低いのだろうか?

 その方が助かるけど。



「霊竜って悪魔と敵対する存在なのに、そんな無関心なのはちょっと意外だな」

「ん? 霊竜が悪魔と敵対するなんて聞いたことないぞ?」



 ブロースはきょとんとしている。

 何か変なことでも言ったかな?



「え? でも悪魔は浮霊族フロートゴースト襲っているんでしょ? 彼らを守る霊竜も悪魔と敵対するんじゃ……」

「確かに悪魔の中には浮霊族を襲うものはいる。だが、遊び半分で襲っていて、敵と認識している者なんてほぼいないだろうな」



 遊び半分か。

 襲われる方は命がけだというのに、とんでもない奴らだな。

 悪魔ってみんなそういう戦闘好きな奴らばかりなのだろうか……



「悪魔がみんな遊び半分で他の人を襲ったりしないから心配しなくてもよい。少なくとも私がついていれば、レンが悪魔から襲われることなんてないはずだ」


  

 そうならいいんだけど。

 まあ、確かにブロースやデジュラは比較的冷静で戦いを好むっていう訳ではなさそうだから、悪魔がみんな好戦的な訳ではないんだろう。

 あまり心配はしなくてよさそうだ。



「ではそろそろ行くとしようか」



 ブロースは門を開いた。

 門の先は真っ暗で、何も見えない。

 一体悪魔の世界ってどういう所なんだろうか……


 不安を抱きつつも、ブロースの後を僕はついていった。




 僕が門をくぐると、門が勝手に閉まってしまった。

 そして辺りは真っ暗闇で何も見えなくなってしまう。


 するとブロースが呪文を唱えて、小さな青い炎を出した。

 炎によってわずかに明るくなるが、相変わらず周りはほとんど暗くてよく見えない。



「何も見えないだろうが、しばらく我慢してくれ。この炎を目印に私についてきてほしい」

「分かりました」



 それからは青い炎を目印にひたすらブロースについていくことに努めた。

 重くて動きにくい霊竜の体では歩くだけでも正直辛いのだが、なんとか頑張った。


 しばらく歩くと、巨大な門が目の前に立ちはだかった。

 ブロースが召喚した悪魔の門と似た門である。



「この門をくぐれば悪魔の世界に到着する」

「え? ここは悪魔の世界じゃないんですか?」

「そうだ。ここは混沌世界と悪魔世界が交わる場所、虚構空間だ」



 混沌世界は多分バルグ達がいる世界のことだろう。

 でも虚構空間って何だろう?



「虚構空間はどういう所なんですか?」

「そうだな……次元の狭間と言えばいいか? 実は私もよく分かってはいない」



 って、ブロースも分からないんかい!

 そうなると、ブロースはよく分からない所を道案内しているってことになるよな……


「分からない所をよく道案内できますね?」

「別にここは何度も通ったことがあるから、道は分かる。だが、この場所についての解明はされていないんだ」

「解明されていない? 何度も通れる位なんだから、色々と調べられていてもおかしくなさそうなのに」

「確かに普通はそう思うだろうな。だが、解明されない理由があるんだ」



 解明されない理由?

 何か訳ありのようだ。



「ここは極めて不安定な地で、長時間いると体や精神が分解されてしまうとされているんだ」

「体や精神が分解するですって!?」



 つまり、この地にしばらくいると命の危険があるということか。

 なんか恐ろしくなってきた。

 でも、どうしてそんなことが分かるんだろう?



「どうしてそんなことが分かるんですか?」

「実体験した訳ではないから、聞いた話に過ぎない。だが、ここを通った後は少し気分が悪くなるから、あながち間違いではないと思っている」



 まあ、実体験してたら生きていないよね……。

 話の真偽はこの際重要じゃない。

 とにかく早くここから出なくては。



『では、扉を開くぞ』



 ブロースは門を開く。





 門の先には、まるで地獄のような光景が広がっていた。

 たちこめる熱気。

 一面を赤く染めるマグマ。

 地面には焼け焦げた体のようなものが転がっていて、あちこちからうめき声が聞こえる。



「一体何なんだろう、ここは……」

「ここは処刑場だ。罪を犯した悪魔がここで処罰される」

「処罰? でも悪魔は精神体だから痛みはあまり感じないはず……」

「ああ、普通はな。だが、ここにいる悪魔達は完全に肉体と精神を強制的に一体化させているから、痛みを他の生物と同様に感じるようにしてあるのさ」



 強制的に一体化?

 なんか恐ろしいことをしていそうだし、怖いから詳しい内容は聞かないでおこう……


 僕達は処刑場をあとにし、さらに先に進む。



 しばらく歩いていると、今度は町が見えてきた。

 悪魔の町なんてあるんだなあ。


 町の中に入ると、色々な姿、形をした人でたくさんあふれていた。

 ランドリザード、コボルド、ウルフなど様々な魔物がいた。

 中身はみんな悪魔なんだろうけど。

 特定の肉体を持たない悪魔の村だから、一見色んな種族が住んでいるように見えるという事だろう。



「けっこう賑やかなんですね。なんか悪魔の町というイメージじゃないです」

「そうか。ならどんなイメージだったんだ?」

「えっとですね……冷酷なイメージでした」

「そんなイメージ持たれていたのか……」



 ブロースはショックを受けているようだった。

 悪気はなかったのだが、ひどく傷つけてしまったようだ。



「ブローダンが僕にとっての悪魔のイメージだったから、イメージが悪くなっちゃっただけですよ」

「ブローダンも変わってしまったとはいえ、そんなひどい奴じゃないと思うんだがなあ」

「そ、そうなんですか……」



 あれ?

 ブロースと最初話したときは、結構ブローダンの事を厳しく言っていたような気がするんだけど……

 なんか認識が変わっている気がする。



「ブロースは最初に僕と話していたときは、ブローダンが道を間違えているとか言っていて悪いイメージを持っているように思えたんですけど」

「確かに奴は道を間違えたが、決して冷酷ではないと思うぞ。デジュラによれば、ブローダンは自らの過ちを認め、反省しているようだからな」



 そういえばデジュラはブローダンを説教するとか言っていたっけ。

 説教されて考えを改め、反省しているのなら、心から冷酷な人ではないのかもしれない。

 本当に冷酷な人だったら、どんなにひどいことをしても心は痛まないだろうし、反省なんてしないだろうからね。


 その後もブロースと話しながら町の中を進んでいった。

 ブローダンとデジュラはどうやら町の東の方に家を持っているらしい。

 僕達はこれから二人の家を訪れることになっている。

 いきなりブローダンと会いたくはないし、まずデジュラに会いに行こうかな。

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