51.霊竜の体
「一体どうしたっていうんだ、レン……」
どうやら、今はバルグが体を動かしているらしい。
バルグがしっかりと言葉を話すことによって、エナもほっとしたようだ。
いきなりピィーとか奇声をあげたら、心配するよね。
ちょっと落ち着いた所で僕は話を切り出してみた。
「えっと……僕がレンなんだけど、もしかして精神が入れ替わっちゃってたりする?」
僕のその言葉を聞いて、バルグとエナは驚いたような表情でこちらを見てくる。
「えっ、お前がレンなのか……? どう見ても小さな白い竜にしか見えないんだが……」
「そういえば、未来で見たレンは白い竜だった。不思議だったけど、これで納得」
エナ、さりげなく重要な事を言ってるよね。
未来で見た僕の姿が白い竜に変わっているなんて大きな事が分かっているなら教えてほしかったよ……
「レンの気持ちや言葉が急に伝わってこなくなるし、変な声までだすもんだからすごい焦ったぞ……」
バルグはほっとしたような表情でそう言った。
バルグと体が分かれてしまったから、バルグとの思念伝達もできなくなってしまったのかもしれないな。
そして今バルグと一緒にいるのが、この体の本来の持ち主、白い竜ということなのか。
「バルグは今、僕の代わりに白い竜の精神体と一緒にいるんだよね? 会話とかできたりするの?」
「確かにピィーという声は聞こえるんだが、何言っているのかも分からないし、気持ちもよく分からないな」
思念伝達らしき事はできるそうだが、結局話ができないと意味ないよなぁ。
「正直、ピィーピィーうるさいから、黙っていてほしい……ってうわっ!? 分かったから、少し落ち着けって!」
バルグが耳を塞いで苦しそうにしている。
多分白い竜がバルグに色々と文句言っていたりするんだろうな。
バルグ、大変だろうけど頑張れ!
しばらくすると、バルグは落ち着きを取り戻した。
どうやらバルグは苦労しつつも、白い竜の機嫌をとって、さらに話を聞き出すことに成功したらしい。
その内容をまとめると
・白い竜の名前はシルピィ
・つい最近、天使にやられ、肉体、精神ともに子供化した
・精神交換は命の危険を避けるために行った
とのことだった。
なんか色々と疑問点があるなぁ……
まず、どうして天使にやられたら子供になるのかよく分からない。
「バルグ、どうしてシルピィが天使にやられたら子供化したのか分かる?」
「やられたら子供化して復活する……霊竜の特徴だな。霊竜は基本的に寿命以外では死なないとされているからな」
寿命以外では死なない……か。
とても不思議な生物だよなぁ……
でもちょっと待てよ。
それだと命の危険を避けるために精神交換を行うことの説明がつかないんだけど?
「死なないなら、どうして僕と精神交換をする必要があったんだろう?」
「そうだな……どうやら、今の霊竜の体は天使のダメージの後遺症によって滅びる寸前なんだそうだ。体が滅びると、その体に宿っている精神も消滅する。新たな体には新たな精神が宿るのだそうだ」
つまり、今のシルピィの精神は、一回死んでしまうと二度と復活しないのか……
精神だけ見れば、僕達と同じように生死は決まるんだろう。
……って落ち着いている場合じゃないよね!?
このままじゃ、僕はこの体のまま死んでしまうっていうことだよね!?
「このまま死ぬなんて嫌だよ、早く元に戻してよ!」
「そう言われてもなぁ……シルピィは断固拒否のようだしな。困ったな……」
もうすぐ死にそうな体と交換してくれって言っても誰も応じてくれないだろうね、当然。
それは体の本来の持ち主、シルピィだって例外ではないだろう。
シルピィに精神交換をしてもらう為には、まずこの霊竜の体をなんとかして死の危険から救わないといけないということか。
いや、そうしないと僕自身も生きられないから、そうせざるを得ないんだけど。
でも不思議なことがある。
死の危険があるっていうのに、シルピィはどうしてあんながれきの山に埋まっていたんだろう?
「二人とも、危ない!」
エナが叫ぶ。
急にどうしたんだろうと思ったが、エナの危険予知は正しかったようだ。
前から狼のような霊が僕達に向かって襲い掛かってきたのだ。
「ん? 何も起きてなさそうだが……とりあえず炎熱壁」
バルグが使った魔法によって狼の霊は攻撃をやめ、遠くに逃げていった。
意外とあっさりと退いてくれてよかった。
「……なに? さっきの霊に追われていたから今まで隠れて過ごしていただと? 霊なんてどこにも見えなかったが……」
バルグにはどうやら狼の霊は見えていないらしい。
というより、僕が霊を見ることができるようになったということだろうか。
シルピィが、がれきの山の中にいたのは、狼の霊から隠れる為だったのか。
でもその割にはピィーピィー鳴いていたから、本当に隠れる気があったのか疑問なんだけど……
落ち着いた僕達は、その場を離れ、移動を開始した。
しばらく歩いていると、どこかから声が聞こえてくる。
「シルピィ様! こんな所にいらっしゃいましたか!」
すると周りから多くの霊が集まってきた。
多くの霊を見るというのは不気味なのだが、先程の狼の霊とは違って敵意はなさそうなので、命の心配はなさそうだ。
「あなた達は誰なんですか?」
「とぼけないでくださいよ! 我々が何度あなたに会いにいっているか、忘れたなんてことないですよね?」
「いや、僕はシルピィと精神交換されてしまったレンなんです。なので、シルピィの過去の事は全く知らないものでして……」
「そうなんですか!? これは失礼しました。私は浮霊族の長、ユートスと申します」
この人達がバルグの言っていた浮霊族か。
体は半分透けていて、地面から若干浮いているので、いかにも幽霊って感じの姿をしている。
「シルピィに何度も会いにいっているらしいけど、どうしてなんですか?」
「それはですね……我々は先代の霊竜様から、今の霊竜、シルピィ様を守ることを託されたからです」
先代から託された……?
霊竜と浮霊族は一体どういう関係なんだろう?
「レンは知らないだろうが、霊竜は浮霊族の守り神のような存在なんだ。霊竜の存在によって浮霊族は悪魔や天使から守られているらしい」
守り神か……だから幼いシルピィに対しても敬語を使っているのか……
ちょっと待てよ?
だとしたら……
「ユートスさん、シルピィは狼の霊から逃げていたらしいんですけど、その狼ももしかして……」
「ああ、ユウルのことですか。彼にはシルピィ様の護衛につかせようとしたんですが、シルピィ様はユウルを見るなり逃げだしてしまったんですよね……」
やっぱりね。
あの狼の霊も浮霊族だから、シルピィを守ろうとしていたんだな。
でも幼いシルピィはそんなことを知らず、怖いから逃げていたと。
とんだ取り越し苦労をしたものだ。
狼に襲われる心配がなくなったので、改めてこれからすべき事について考えよう。
霊竜の体が天使の攻撃の後遺症で滅びかけているっていうことだったよな。
浮霊族ならば、その後遺症を治す方法を知っていたりしないだろうか。
「ユートスさん、どうやら霊竜の体が天使の攻撃による後遺症で、滅びかけていると聞いているんですが、治す方法をご存じないですか?」
「そうですね……恐らく、それは悪魔ならば解けるのではないかと考えます」
悪魔なら解けるのか。
でも浮霊族って、悪魔と敵対する関係じゃなかったっけ?
そうなると浮霊族を守る霊竜も悪魔と敵対する訳だよね……
「浮霊族を守っている霊竜って、悪魔と敵対関係にあるんじゃないんですか? 大丈夫なんでしょうか?」
「そうなんですが、思いつく方法が他にないので……」
危険を冒さないと病は治らないか……
でも僕には悪魔の知り合いがいるし、何とかなるよね。
いや、何とかしないといけないんだけど。
とにかく悪魔と話す必要がありそうだな。
これから会って話せそうな悪魔は、フィナが持っている虚空の宝玉の中にいるブロースだろう。
となると、次にフィナのいるコーボネルドを目指した方が良さそうだ。
「虚空の宝玉を持っているフィナに会いに行って、悪魔と話しに行こう。彼なら協力してくれるかもしれない」
「そうだな、そうするか」
「そうしましょう」
バルグとエナも同意見のようだ。
「我々は、この場から離れられないのでお供することはできませんが、ここからご無事を願っております」
どうやら浮霊族は廃墟から離れられないようだ。
その理由は分からないが、別に聞く必要はないと思い、特に触れないでおいた。
こうして僕達は浮霊族に見送られながら、コーボネルドに再び向かうことになった。
霊竜の体は小さくて身軽な見た目に反して、とても動きにくかった。
最初は疲れているだけだろうと思って我慢していたが、ずっとその状態が続くとやはり厳しいものがある。
コーボネルドまで歩いて向かわなければいけない現状、肉体的にも精神的にも疲れ果ててきた。
「この霊竜の体、すごい重くて歩きにくいんだけど、そういうものなの?」
「そうだな……シルピィの先代の記憶によれば、天使の攻撃を受けてからずっとそうらしい」
「レン、大変そう……」
天使の攻撃による後遺症ってこんなに厳しいものなのか。
どれだけ強力な攻撃だったんだよ……
結局僕はバルグに背負ってもらいながらコーボネルドを目指すことにした。
僕自身はすごい体が重く感じているのだが、バルグにとってはそれほど重くないらしい。
単純に霊竜の体が弱りすぎている為に重く感じるだけなんだろう。
現時点でこんなに体が弱りきってしまっているけど、一体あとどれ位生きることができるんだろう……
何か不安になってきた……
「バルグ、この体であとどれ位生きることができると思う?」
「オーラから判断すると、すぐに死ぬようなことはないとは思うぞ。でも猶予はそこまで長くはないだろうな……」
すぐには死なないという言葉をもらっただけでも一安心だった。
全く行動できないうちに体が尽き果てるなんて御免だからね。
少し時間はかかったものの、なんとか僕達はコーボネルドの入口にたどり着くことができた。
「歩くとやっぱり時間がかかるな。飛んで移動するのがどんなに楽か身に染みるな……」
バルグは顔に疲れを浮かべつつ、そうつぶやいた。
本当にその通りだと思う。
かかる時間も疲労感も段違いだからね。
帰りも飛んで移動できたら良かったな……
「バルグ、どうして天竜にならなかったの?」
エナが素朴な疑問をバルグにぶつける。
確かに今のバルグには両翼揃っている。
僕の精神がバルグにないとはいえ、飛べるのではないかと思ってしまう。
「実は天竜化できないか試してはみたんだ。でも全くできる気配がなかったな」
「レンと一緒じゃないと、ダメ?」
「そうみたいだ。天竜化はレンと二人だからこそできる技なんだから、当たり前なんだけどな!」
バルグはなんだか安心したような表情でそう言った。
バルグが飛べた方が僕としては嬉しかったんだけどな……
それからも雑談を続けつつ、僕達はコーボネルドの中に入って行った。




