50.存在という代償
『デジュラのおかげでブローダンに勝てたよ、ありがとう』
「いや、それほどでもないですよ。それより、これからが大変でしょうけど、頑張ってくださいね。では、私はブローダンをちょっと説教しに行ってきますので」
デジュラはそう言うと、消え去ってしまった。
ブローダンを説教って……実体がなくても悪魔同士なら会いに行くことができるのだろうか?
悪魔の謎は深まるばかりだなぁ。
戦いが終わったので、僕は天竜化を解除し、その場に座って一息つく。
「ブローダンに勝ったのね、レン。でも、一体どこに消えてしまったの? オーラはすぐそばに感じるのに……」
フィナはあたりをキョロキョロと見渡す。
僕はフィナの目の前まで行ってみる。
でもフィナは全く僕に気づく様子はない。
どうやら僕は既に存在を失ってしまっているようだった。
僕自身に変化は感じていないので、奇妙な感覚。
しばらくするとエナ、エルン、ジル、リザースが部屋に入ってきた。
「ブローダン倒したみたいだね~」
「うん。でも、レンがどこにも見当たらないの……この部屋からオーラは感じるんだけど……」
「この部屋にレンさんがいるってことッスか? どこにも見当たらないッスけど」
「喜びを分かち合いたいのに、そして謝らないといけないのに……会えないなんてあんまりです師匠……」
みんなそれぞれ話している。
やはりフィナ以外のみんなも僕を見ることはできない―――
「レンなら、そこにいる」
エナがフィナの目の前を指さした。
そう、僕のいる場所をエナは正確に指さしたのだ。
「え、こんな近くにいるの? でも全く見えないわよ?」
「でも、そこにいる」
エナの言葉を聞いて、みんな困惑している。
エナが僕の存在を認識できるのは朗報なんだけど、だからといってこの状態でみんなと一緒にいても、戸惑わせちゃうだけだよなぁ……
やっぱり、バルグが言っていた、存在を取り戻すということをするべきだと思う。
そのための旅にこれから出かけよう。
「エナ、僕の声が聞こえる?」
「うん」
「僕はこれから存在を取り戻す旅に出る。みんなはブローダンがいなくなって混乱していそうな村を助けてくれると嬉しい」
「分かった、伝えとく。でも、私がレンについていくことが条件」
「え、でもエナを巻き込む訳には……」
「仲間、だよね?」
「……分かった。その代わり、みんなに伝えてよ」
エナはコクンとうなづき、みんなに僕の言った事を伝えた。
「確かに混乱をしずめるのも大切だけど……私もレンと一緒に旅したいわ」
「ボクも~仲間外れはやだよ~」
「オレもついて行くッス!」
「私は……師匠を二度と誰にも傷つけさせないと誓いましたから」
みんな僕についていくと言い張っている。
「でも、みんなにはレン、見えない」
「確かにそうだけど……」
「そんな状態でついてきても、みんな困るし、レンも困る」
エナの言葉を聞いて、みんな困ったような表情になっている。
「大丈夫、レンが元に戻ったら、みんなと会える」
「本当に? 絶対だよね?」
「うん」
会えないのは一時的で、ちょっとしたらまた会える。
その事が伝わると、みんな少し安心した表情に変わった。
「そっか~ならここは我慢どころだね~エナっち任せたよ~」
「レンとの絆魔法は途絶えてない。レンは必ず元に戻るわよね。エナ、頑張ってね」
「エナさん、頼んだッス!」
「主を信じて待つのも……必要でしょう」
「うん、任された」
エナはみんなに微笑む。
「じゃあこうなったらボク達はやるべきことをやらないとね~まずはコーボネルドから行くよ~」
「ええ」
「そうッスね」
「そうですね」
みんなは急いで部屋から立ち去って行った。
部屋に残されているのは僕とエナだけだ。
「これで、良かったの?」
「うん。多分大変な旅になるだろうから、あまり仲間を巻き込みたくない。本当はエナも巻き込みたくなかったんだけど」
「レン、水臭い」
僕に協力的なのは嬉しいんだけど、それでみんな本当にいいのかな?
そう思ってしまうのだ。
ブローダンとの戦いのときは、放っておいたら世界がブローダンの支配を受けてしまうから協力する理由はあった。
でも今回は僕一人の問題だ。
いや、バルグもそうだから二人の問題になるのかな。
仲間達が何もしなくても平和に暮らしていけるし、協力してもらう必要はないんだよね。
『でも、それでも助けたいって思うのが仲間だ、そうだろ?』
そういうものなのかな?
仲間なんてこの世界に来て初めてできたから、まだ慣れない所があるんだよね。
――話がそれてしまったから本題に戻ろう。
これからまずはどこを目指すべきなんだろう?
『浮霊族が住む、廃墟ゴルン・ダークに向かうべきだな』
浮いた霊って……
霊ってそもそも浮いているものなんじゃないかと思うんだけど、まあそこは気にしないでおく。
どうしてそこに行く必要があるんだろう?
『そこに俺達を元に戻す力のある霊竜がいる可能性が高い』
『霊竜に頼めば、僕達は元に戻れるということ?』
『多分な。だが、それなりの対価を求められるだろうから、一筋縄ではいかないだろうな……』
バルグがためらうほどだから、きっと相当苦労はするんだろうな。
でもとにかく霊竜に会いにいかないと話にならない。
早速、廃墟ゴルン・ダークへ向かうことにする。
僕とエナは建物の外に出た。
「ここからまた下まで降りるのって面倒だな……」
「うん、確かに」
上るのに数時間かかったけど、下るのにもおそらくそれ位かかるんだろうな……
街を出るだけで一苦労だ。
『別にわざわざ歩いて行かなくても、飛んで行けばいいんじゃないか?』
確かに飛んでいければ早いだろうけど、この街はシールドに覆われているし、シールドがない所には城壁があるから飛んではいけない気がする。
飛んでから、街の下の方で着地する方法も考えたけど、天竜の姿で着地できるほど広い所というのはあまり思いつかないし、着地するときに風圧とか起きて周りの人に迷惑をかけてしまうから気がすすまない。
『そんな面倒な事をしなくても、シールドをつき破って飛べばいいだろ?』
シールドをつき破る?
ちょっとその発想はなかった。
でも、そんな簡単にシールドって壊れるものなのかな?
『俺の故郷のシールドには歯が立たないかもしれないが、ここのシールドはもろくて簡単に破壊できるぞ。それに破壊した後は勝手に修復されるから、気に病む必要もないしな』
そういうものなのか……
なら、ためらう必要はないか。
僕は天竜化し、エナを背中に乗せて空を飛ぶ。
そしてシールドの近くで滞空する。
「エナ、しっかりつかまってて」
「うん」
「爆炎熱!」
僕はシールドに向かって魔法を放つ。
すると、魔法が当たった範囲のシールドはあっさりと壊れ、シールドに穴が空いた。
本当にあっさりとシールドって壊れるものなんだな……
僕はシールドにできた穴からコーボネルドの外へと出た。
それからしばらくシールドを眺めていると、次第に穴が塞がっていくのが分かる。
バルグの言う通り、シールドには自動的に修復される機能があるようだ。
シールドの修復が終わったのを見届けてから、僕はコーボネルドを後にした。
廃墟ゴルン・ダークはコーボネルドの南西にあるらしいので、その方向に進む。
移動中、ただ飛んでいるのも退屈なので、エナに話しかけてみた。
「どうしてエナには僕の姿が見えるの? 他のみんなには見えなかったみたいなのに」
「分からない。でも、私、霊感が強いらしいから、そのせいかも」
エナは霊感が強いのか。
現実世界にもそういう人がいるって聞くよね。
僕には霊感は全くないので、そういうことはよく分からないんだけど。
そういえば、霊感が全くない僕にデジュラが見えたのは謎だよな……
『体が変わったから、そういう霊感にも変化があったんじゃないか?』
そういうものなんだろうか?
まあ、気にしても仕方がないよね。
早くも目的地の廃墟らしい所が見えてきた。
結構近くにあったんだな。
廃墟の近くに着地してから天竜化を解き、歩いて廃墟の中へと入って行った。
廃墟の中に入ると寒気がした。
辺り一面霧で覆われていて、日の光も霧でかすんでしまっている。
「いっぱい幽霊いる」
エナがつぶやいた。
僕は辺りを見渡すが、どこにも幽霊らしい姿は見えない。
幽霊に会いに来ても、幽霊が見えないんじゃ意味ないよな……
「エナは幽霊見えるんだね。僕には全く見えないんだけど」
「そうなの? でも、未来ではレンも幽霊と話してた」
「幽霊と話してたってことは、幽霊を見ることができているってことだよね?」
「多分」
未来では幽霊と交流できているということなので、ここに来たのは全くの無駄足にはならないのかもしれない。
でもこのままここにいても、全く幽霊を見ることができずに終わってしまいそうだよな……
何か見えるようになるための手がかりはないものか。
「エナ、どうしたら幽霊を見ることができると思う?」
「うーん……その瞬間の未来は分からない」
そんな都合よく未来を見ることはできないよね。
とにかく適当に歩き回ることにしよう。
ピィー!
「エナ、何か音がしない?」
「何の音もしない」
『俺にも聞こえないぞ? 気のせいじゃないか?』
エナにもバルグにも聞こえなかったようだ。
ただの聞き間違いなのかな?
ピィー!
また聞こえた。
一回ならまだしも、二回も聞こえるなんて変だよなぁ。
気になった僕は、その音がする方へと向かうことにした。
すると次第にその音は大きくなっていく。
ついに僕は音源のすぐそばにたどり着いた。
どうやら、目の前にあるガレキの山の中から音が聞こえるらしい。
僕はガレキをかきわけて、音源を探してみた。
すると、何やら白い物体が現れた。
『何だろう、これ?』
不思議に思った僕は白い物体を掘り出そうとしてみる。
しかし、なかなか抜けない……
やけになった僕は全力で白い物体を引き抜こうと試みる。
すると急に白い物体がガレキから引き抜かれ、勢い余って僕は白い物体を手に持ったままガレキの山を転がり落ちてしまう。
あまりに大きな衝撃を受け、僕はそのまま気を失ってしまった。
しばらくして僕は目を覚ます。
結構派手に転げ落ちたにも関わらず、不思議と体に痛みはない。
あんまり怪我をしていないようでよかった。
足元がグラグラと揺れる。
足元が安定しないことから、何かの生物の上に乗っているように見える。
足元の生物とは一体……
僕は辺りを見渡す。
すると、足元の生物の正体が分かった。
その正体とは――――竜人族だ。
えっ、竜人族って僕以外に見たことがないんだけど、これってどういう事だ?
僕が混乱しているうちに、足元の竜人族が起きあがった。
僕に怪我がなかったのはきっとこの竜人族が衝撃を受けてくれたからだろう。
その竜人族は僕の方を見て、言葉を発する。
「ピィー!」
えっ!?
なに、ピィーって……
もしかしてこれって……
「レン、どうしちゃったの?」
エナはその竜人族に向かって話しかけている。
僕があの白い物体、いや、生物と精神が入れ替わってしまったということじゃないか!?




