49.VSブローダン
しばらく歩くと、コーボネルドで最も高い所にある建物が見えてきた。
あそこにブローダンがいるのか……
そして建物の前には黒いコボルドが立ちはだかる。
ゴーダンだ。
「来たか、意外と遅かったな」
「ちょっと色々あったからね」
「そうか、ご苦労だったな。だがそんな苦労もここで終わりだ。すぐに楽にしてやる」
そう言ったゴーダンが僕の方に向かってくる。
「影爪!」
「炎壁!」
ゴーダンの攻撃を炎の魔法で受け止める。
「やはり、この程度では防がれてしまうか……ならば!」
ゴーダンが何やら唱え始めた。
「まずいわ、何とかしてゴーダンをとめないと……炎の精霊 イフリート!」
「遅い! 能力均等!」
ゴーダンの魔法が僕、フィナ、ゴーダンを光で包み込む。
その光が消え去ったとき、だいぶ僕の体に疲れがおしよせてきた。
「確かにお前は強い。だが、まだまだ技術的には未熟だ。ならば能力を等しくして技術勝負に持ち込めばどうなるか、想像つくよな? 黒炎!」
「獄炎!」
僕とゴーダンの魔法がぶつかり合う。
しかし、ゴーダンの魔法が僕の魔法を消し去り、僕を襲ってきた。
「ぐあっ!?」
押し寄せる痛みに思わず叫ぶ。
ゴーダンの魔法はそこまで強力なものには見えなかった。
でも僕の魔法をあっさりと打ち消した上、僕の体に大きなダメージを与えてくる。
一体どうして……
『恐らく、さっきのゴーダンの魔法によって、レンの体や魔力が大きく弱体化したんだろうな』
『弱体化……? そうか、もしかしてさっきのゴーダンの魔法って!?』
『ああ。対象人物の体力、魔力など能力全体を均等にする魔法だ。だから、能力の高いレンは全体的に能力が引き下げられてしまうのさ』
そうか、それで今まで能力に頼って力押しでやってきた僕はだいぶ苦戦することになっているんだな。
能力が全く一緒なら、あとは技の熟練度、技術力で強さは決まる。
ゴーダンはその技術力が優れているから、僕の魔法を圧倒しているんだろう。
これは相当不利な状況になってしまったなぁ……。
僕はこれから打開する方法をなんとか考えようとする。
「レン、ここは私が戦った方がいいわ」
そう言ったフィナが前に出る。
確かに今の僕とフィナは全く同じ能力で、しかもフィナの方が魔法の熟練度は高いので、実質フィナの方が強いことになりそうだ。
ここはフィナに任せることにする。
「ほう、妖精が相手か、面白い。少しは楽しませてくれよ! 黒炎!」
「甘くみないことね。水の精霊 ウンディーネ!」
ゴーダンとフィナの魔法がぶつかり合う。
一見、二人の魔法は互角のようだったが、徐々にフィナの魔法がゴーダンの魔法を上回り始める。
さすがフィナだ、これならゴーダンに勝てる!
そう思っていたのだが、
「隙だらけだな、血爪!」
突如ゴーダンがフィナの背後に現れ、フィナを切り裂く。
「キャア!?」
「フィナ!」
ゴーダンに切り裂かれたフィナに僕は駆け寄った。
「二人とも吹き飛べ! 爆雷!」
ゴーダンの攻撃が僕とフィナに直撃し、遠くに吹き飛ばされる。
まずい、このままじゃやられてしまう……
でも、一体どうすれば……
結構大きなダメージを受けた僕とフィナは立ち上がるのがやっとだ。
ゴーダンは僕達に一歩一歩近づいてくる。
「無様な姿だな。だが、もう楽にしてやる。暗黒吸収!」
ゴーダンが放った魔法が僕とフィナの体力、精神力を奪っていく。
まずい、このままでは何もできないままやられてしまう……
絶望を感じつつ、何とか動こうとしたその時、
「水竜剣!」
その技が油断していたゴーダンに直撃し、思わずゴーダンは地面に体をうちつける。
するとゴーダンの魔法が解除され、僕とフィナはほっと息をつく。
でも一体、こんな所まで誰が助けてくれたのか……
ゴーダンを切りつけた後で、その人物は僕とフィナの近くへやってきた。
「ようやく、追いつくことができました。お役に立てそうで何よりです。ここは私が引き受けますので、早く先を急いでください!」
そう言っているのは、見覚えのあるランドリザード、リザースだった。
リザースは真剣な表情でゴーダンと向かい合っている。
ここにいても邪魔になるだけだろうし、僕達はブローダンの所に急いだ方が良さそうだ。
リザースに感謝の意を伝えてから、僕とフィナは建物の方へと必死に移動する。
大きなダメージを受けているので、動くだけでも辛いのだが、そこはなんとか頑張った。
「そうはさせない、黒炎!」
「邪魔はさせない! 水流障壁!」
ゴーダンの攻撃をリザースはあっさりと防いでみせた。
それからもゴーダンの攻撃は全てリザースが防いでくれたので、僕達は攻撃を受けることなく建物の中に入ることができた。
ありがとう、リザース。
建物の中に入った僕とフィナはしばらく体を休めた。
ゴーダンの魔法の効果がなくなってからは、だいぶ体の痛みは和らぎ、力も戻ってきたようだった。
一方、フィナは体が弱体化したことによって、より痛みを感じるようになってしまったらしい。
僕はフィナに炎の治癒魔法をかけて、しばらくじっとしていた。
体を休める際に、コボルドの変装服を脱いで、その辺に置いておいた。
もう後はブローダンと戦うだけだし、変装する必要はないと思うからね。
でも、変装していた割にはあっさりとリザースに見破られていたりしているから、本当に変装の意味はあったのか疑問だったけど。
建物の中には相変わらず黒と赤を基調とした不気味な雰囲気が漂っている。
休むのに最適とはとても言えない環境ではあるが、それでも徐々に傷は癒えていく。
「もう大丈夫よ、行きましょう」
フィナの傷は問題なく行動できるほどまで回復したようだ。
これでいよいよブローダンとの決戦に挑める。
僕とフィナは覚悟を決め、建物の奥へと歩いていく。
長い通路を通り、ついに大きな扉の前にたどり着く。
「覚悟はいい?」
「もちろんよ」
僕は扉を開け放つ。
扉の先にある部屋は1000人は入れそうなほど大きく、床には大きな魔法陣が描かれている。
これは以前と変わらない。
ただ、以前と異なるのは、部屋全体が邪気であふれていて、寒気を感じられることがある。
部屋全体に黒く禍々しい何かが動き回っているのだ。
そんな部屋の奥に待ち構える人影がある。
体長は2m50cm位はありそうなほど巨大で、黒い邪気にあふれたオーラを身にまとっている。
狂気に満ちた赤い目を光らせ、そのコボルドが言葉を発する。
「ついに来たか、抜け殻風情が」
ゴミを見るような目で嘲り笑いを浮かべるブローダン。
僕はそんな挑発にはのらず、フィナに指示を出す。
「フィナ、例のもの、よろしく頼むよ」
「ええ、任せて」
フィナは虚空の宝玉を取り出し、詠唱を始めた。
「ふん、それを使って逃げられなくするつもりか。別に構わないさ、何故ならば、俺様が負けることなど万が一にもないのだからな!」
「……ブローダン、話がある。できれば、お前とは戦わずに分かり合えたらと思っている」
「俺様と分かり合うだと? はっ、何を寝ぼけたことを」
ブローダンは相変わらず人を見下すような口調でそう言い放つ。
ブローダンの言葉を聞いていて、不愉快な気持ちになるが、ここはぐっと我慢する。
「ブローダンはデジュラを倒した天使達を倒す為に頑張っているんだよね? そのことは僕達が別に邪魔する必要はないし、むしろやり方を変えてくれれば協力すらしようと思うんだ」
「デジュラ……懐かしい響きだな。だが、俺は決してデジュラの為に頑張っている訳じゃない。それにお前達に協力してもらおうとも考えていない」
「ブロースに聞いたんだよ、昔のブローダンはとても優しい人だったって。そしてデジュラがやられたことで変わってしまったってことも」
「あの爺さんの仕業か、余計な事を。いいか、俺様は昔から優しくなんかない! 力がなかったから、自己主張をできなかっただけだ!」
ブローダンは若干いらついていて、少し早口にそう言った。
「友人の為に怒ったり、友人を救う為の力を得ようとするなんてこと、優しくないとできないよ」
「いい加減にしろよ……そんな戯言を二度と口にできなくしてやる!」
そう言ったブローダンは猛烈な勢いで僕の方へ向かってくる。
「黒炎爪!」
「炎熱壁!」
ブローダンの攻撃を炎魔法の壁で受け止めようとするが、一瞬で壁は壊されてしまう。
なんとかギリギリで回避することで事なきを得たが、直撃していたらだいぶ危なかっただろう。
「協力……できないんだね?」
「当たり前だ! 何で俺様が抜け殻野郎と協力なんてしなければいけないんだ!? さっさとねじ伏せて、減らず口をたたいたことを後悔させてやる!」
どうやら交渉決裂のようだ。
分かってはいたが、いよいよ本気でブローダンと戦わないといけないことが確定し、だいぶ気が重い。
でもやるしかない。
『バルグ、天竜化するよ!』
『ああ、分かった!』
バルグを意識する。
すると、みるみるうちに体は変化し、あっと言う間に天竜化を成功させることができた。
『すぐに天竜化できたね、慣れなのかな?』
『分からない。そんなことよりも、今は戦いの事を考えるぞ!』
『そうだね。一緒に頑張ろう、バルグ!』
『もちろんだ!』
天竜化した僕はブローダンを迎え撃つ。
「結界、張り終えたわ!」
どうやらフィナが虚構の宝玉による空間制限結界を張り終えたらしい。
これでブローダンの瞬間移動を封じることができた。
「フン、瞬間移動ができないこと位どうってことない。黒炎!」
「獄炎!」
天竜化したことによって、ブローダンの魔法を打ち消せるようになっていた。
やはり天竜化による力の増大は凄まじい。
そして僕にある力は天竜の力だけではない。
「いけっ! 炎の精霊 イフリート!」
「くっ、大黒波!」
天竜の圧倒的な魔力を使った精霊魔法は、ブローダンの魔法を打ち破り、ブローダンの体にダメージを与えた。
よし、この調子なら勝てる!
そう思っていたのだが、
「クハハ! やるな、こうでなくては面白くない! だが、それでも俺様に勝つにはまだ力が足りんな」
僕は目を疑った。
なんとブローダンの体にある傷は一瞬のうちに癒えてしまったのだ。
恐らく赤い宝玉で得た天竜の治癒能力をブローダンが持っているのだろう。
ブローダンの治癒能力に関する予想はしていたが、まさかこんな一瞬で回復してしまうとは思っておらず、驚いた。
そうなると、ブローダンを倒すには回復ができないほどの致命傷を与えないといけないということか。
その後もブローダンとの攻防は続いた。
互いにダメージを受けては、すぐに回復するの繰り返しで、全く戦いに進展がなかった。
負けることはないが、勝つこともない。
でも、この終わりが見えない戦いに徐々に僕の精神がすり減っていく。
このままでは根負けしてしまうと思い始めたその時、
《困っているようだね、レン君》
頭の中から急に声が聞こえた。
『誰なんだろう、バルグじゃないよね?』
『ああ、俺じゃないぞ。誰なんだろうな?』
《いきなりだったから、分からないよね? ごめんごめん》
その声を聞くと同時に、僕の目の前に透けている人間が現れた。
透けているとはいえ、人間を見るのはずいぶん久しぶりで、懐かしい気がする。
この世界で見たのは初めてだろうか。
というか、姿を見ても一体誰なのか見当もつかないんだけど……
「僕はデジュラと言うんだ。君が戦っているブローダンの旧友さ」
デジュラ……行方不明だって聞いたけど何でこんな所に?
それより、そんな所にいたら危ないって!
ブローダンが僕をめがけて魔法を放つ。
僕はブローダンの魔法をなんとか回避する。
だが、僕の目の前にいたデジュラに魔法は直撃してしまう。
だから言わんこっちゃない。
しかし、信じられないことに、ブローダンの魔法を受けたデジュラには傷一つなかった。
「あ、言い忘れてたけど、この人間の体は霊体だからどんな攻撃も効かないよ。だからレン君達の戦いの邪魔にはならない。ちなみに僕の姿は君にしか見えていないから、ブローダンが僕に反応することもない。思考の読み取りを妨害する魔法もかけてあるから、思考からバレることもない」
デジュラはそう言ってニヤリと笑う。
全く攻撃を避けようともしないと思ったら、そういうことだったのか……
心配して損した。
それより、どうしてデジュラがこんな所にいるんだろう?
行方不明だったはずなんじゃ?
「それはね、君が復活した後の白い宝玉の中に僕の精神が宿ったからだよ」
白い宝玉の中に?
確か儀式が終了した後も白い宝玉だけが残って、それはフィナが大切に持っているって話だったっけ……
となると、今のデジュラの本体は白い宝玉っていうことなのかな?
「その通り! 本当、長い間探していた僕にぴったりの器が現れて、本当に感無量だったよね!」
長年探してたって……
もしかして、今まで復活しなかったのは、納得のいく器が現れなかったからなの!?
「そうだよ。なんか問題ある?」
うーん、大いに問題あるような気もするが、問題ないことにしておこう。
それよりも、どうしてデジュラはこのタイミングで姿を現したんだろうか?
「もちろん、レン君を助ける為だよ。君がやられ、ブローダンが勝ってしまったら、フィナちゃんが持ってる白い宝玉が壊されかねないからね。僕もそうなっては困るんだよ」
デジュラは、何を当たり前のことを聞いているんだい、とでも言いたげな表情でそう言う。
薄々分かってはいたけど一応聞いてみたんだよ。
確かに僕達が負けてしまうと、白い宝玉がブローダンに壊される可能性を否定できないし、そうなるとデジュラは依代を失って、再び行方不明になってしまうだろう。
デジュラが僕達に協力する理由もそれで筋が通っている。
でもデジュラが僕達に協力するっていっても、一体何をするんだ?
「何をするって、そんなの共にブローダンを倒すことに決まっているだろう」
それは分かっているんだけど、でもこのブローダン相手に一体どうしたら致命傷となる一撃を与えられるんだろうか?
「究極霊魔法、霊魂覚醒砲を僕とレン君で使うんだ」
霊魔法?
そんなのあるんだね、知らなかった。
『おい、そんな魔法使ったら……』
「うん。間違いなくレン君達は魔法の代償を受けるだろうね。だから本当は、この魔法のことを話さずにじっと見守っていようと思ったんだけど……」
代償?
一体どういう代償なんだろう?
『それはな、魔法使用者の実体が消滅して霊体になってしまうということだ』
『霊体になるって、どういう事?』
『体の質量がなくなって、意識だけの存在になるってことだ。つまり、目に見えない存在になる』
目に見えない存在……幽霊になるってことかな?
でもそれって死ぬってことじゃ……
『それはちょっと違う。それに霊体になってしまっても、体を取り戻す方法はあるにはあるからな』
そうなの?
それだったら霊体になっても問題ないんじゃないかな?
『だいぶ問題あると思うんだが……でも、それでブローダンを止められるなら十分か』
バルグがためらうってことは余程面倒な事をする必要がありそうだな……
なんか気が重い。
あ、そういえば、魔法使用者の実体が消滅する魔法なら、元々実体がないデジュラだけが使えばいいんじゃないかな?
「そうはいかないな。実体を持つ者がいないと、霊魂覚醒砲は成功しないんだ」
そうなんだ……
だとしたら、もう覚悟するしかないか。
「覚悟を決めたかい? なら、今からやり方を思念で伝えるよ」
その言葉と同時に、何やら呪文の使い方のようなものが頭の中に伝わってきた。
うん、これならできそうだ。
「それじゃ、いくよ!」
『はい!』
『ああ!』
僕は両手を上に突き上げる。
「なんだ、その恰好は? 降参でもするのか?」
僕の挙動を見てブローダンは嘲り笑う。
僕は左手を上に突き上げたまま、右手をブローダンの方に向け、銃の形を作る。
「お、おい、それってまさか……」
ブローダンが少し焦り始める。
「今から僕が伝えることをブローダンに伝えてくれ」
『分かりました』
僕はデジュラに伝えられた言葉をそのままブローダンに伝える。
「”ブロロ、君はもうやり過ぎた。少し休んでいるといいよ、黒の大樹の下で”」
「何故お前がその言葉を!? まさかデジュラは……」
ブローダンが言い終わらないうちに、僕の右手から紫の光線がブローダンに放たれる。
光線は無防備になっていたブローダンに直撃する。
そして、光線が消えたとき、ブローダンの姿も消えてしまっていた。
逃げ場のないこの場所でブローダンが消えた。
ということは勝ったのか……!?
『ああ、そうだ。どこからもブローダンのオーラは感じない。俺達は勝ったんだ!』
ブローダンが消えたからか、周囲を漂う邪気が一瞬にして消え去った。
恐らく、ブローダンが消滅したことで、ブローダンの邪気が関与していたものは全て消え去ったのだろう。
人を操る黒い腕輪も、ブローダンに精神操作されていた人も、これで元通りだ。
戦いは終わったのだ!




