4.スライム村の水事情
村に案内すると言ったスラオは茂みの中をずっと進む。
本当にこの先に村なんてあるのか疑問に思いつつも、とりあえずついていく。
しばらく歩いていくと茂みから抜け出し、少し広い空間に出た。
まるで小さな洞窟のようで、球を半分にしたような土壁で覆われた空間であった。
壁には小さい穴がたくさん空いているように見える。
「ここがオイラ達の村だア。おーい! みんな! お客さんを連れてきたゾ!」
そうスラオが叫ぶと、周りの穴からたくさんのスライムが飛び出してきた!?
「わー! 客だ客だ!」
「お犬さんだ! こんな近くで見たの初めて!」
「お客さんなんてずいぶんと久しぶり! 歓迎のしがいがあるわ!」
「ねえ、ボクと一緒に遊ぼうよ!」
「いや、オレと一緒に遊ぼうぜ!」
「あたしと一緒に遊ぶの!」
ずいぶんと色んな性格のスライムがいるんだなぁと実感した。
ゲームでいうスライムなんてただの敵というくくりでしかなかったからこう一人一人に個性があるのはなんだか新鮮に思えた。
「コラー! 静まらんかー!? せっかくのお客様に失礼だ! 早く自分の家に戻れ!」
一匹のスライムがそう叫ぶ。
すると僕の周囲にいたたくさんのスライムが一目散に自分の家らしき穴の方に戻っていった。
「いやぁ、若者どもが大変失礼なことをしてすまなかった。落ち着いて過ごしていただけるようワシの家に案内させていただこう。スラオ、お客様をワシの家まで案内しなさい!」
「うん、分かったゾ。レン兄ちゃん、長老の家はこっちダ!」
こうしてスラオの案内でスライムの村の長老の家を訪問することになった。
長老の家は他のスライムの家よりも大きめではあったが、僕の体のサイズでは、長老の家でさえ入るのがやっとだった。
油断すると天井に頭をぶつけそうになる。
「スラオを命の危機から救っていただいたそうで、本当に感謝してもしきれません。大したおもてなしもできないのですが、是非旅の疲れをここで癒していってくだされ」
「いえいえ。スライムと話せたのも、スライムの村を見れたのも初めてで新鮮な事です。それだけでも僕にとっては十分なおもてなしになっていますよ」
「いやはや、お気遣いまでしていただいて本当恐縮ですな」
長老は申し訳ない表情でそう言っていた。
別に気遣って言った訳じゃないんだけどなぁ。
「そういえば、レン兄ちゃんはどうして一人なノ? お犬さんって集団で行動すると思ってたから不思議だったヨ?」
「うーん……そもそも僕はこの世界とは違う所に住んでいて、しかも人間だったなんて言っても信じられないよね?」
僕が人間という言葉を言った瞬間、スラオと長老が驚いて固まったように見えたが気のせいだろうか?
少し時間が流れてから、長老が再び口を開いた。
「レン殿はどこからどう見てもコボルドですし、どこにもあんな忌々しい人間になんて見えません。私たちと問題なく意志疎通できているのがあなたが魔物である何よりの証拠です」
まぁ、普通はそんな突拍子もないことは信じてくれないか……
それに長老の発言から感じ取れたんだけど、魔物にとっての人間は宿敵ともいえる存在なんだな。
信じられていない今の状況はかえって好都合かもしれない。
「ははっ、すいません、ちょっとした冗談ですよ。でもこの世界に疎いのは事実なんです。是非この世界について知っていることを教えてくれたら嬉しいんですけど……」
「この世界について知らないなんてレン殿はきっと俗世間とは無縁の高貴な方なのですね。いいでしょう。私の知る限り、世界のことをあなたに伝えましょう」
なんか僕のことを変な風に解釈されているけど、それで納得してくれるのならそういうことにしておこう。
長老の話をまとめると、
・人間と魔物が対立している
・魔物には多くの種族がいる
・他種族に対して敵対心を持つ魔物が多く、魔物間の仲は悪い
・スライムは比較的友好的な種族である
とのことだった。
「いくらスライムが友好的な種族といっても、よく自分を攻撃するかもしれない相手を村に招いたりできますね?」
「いやぁ、普通はそんなことはしないですよ。他種族とは交流しないのが魔物の中での常識ですし。実際、私がコボルドの方と話すのはレン殿が初めてです」
そう考えると自分よりも強くて殺されるかもしれない相手に対して平然と接触してきたスラオって結構大物なんじゃないかと思えてきた。
「そうなんですか。じゃあ、僕がこのスライム村のように他種族と交流するのは難しいっていうことでしょうか?」
「そういうことになりますな……」
他種族との交流は難しい、か。
という事は、魔物の町に行って情報収集することも難しいんだろうか?
そうなると赤い宝玉に関する情報収集をすることは一筋縄じゃいかなそうだ……
「のどが渇いたな……」
そう言った声が僕の口から聞こえてきた。
って、ええっ!?
何言ってんの、僕!?
これ、バルグの仕業だよね!?
『いきなり何言ってくれてるの、バルグ!?』
『だってのどが渇くものは乾くだろう? というか俺でさえのどの渇きを感じているんだからレンはもっとのどが渇いてるんじゃないか?』
『まあ確かにそうだけどさ……』
確かにのどが渇いているのは事実だし、その発言内容自体は大きな問題ではない。
長老に失礼かもしれないけど。
問題なのは自分が意図せずに変なことを口走ってしまう可能性があることだ。
特にバルグは細かいことは気にしないタイプみたいなので、バルグの発言が事態をよりややこしくしそうだもんな。
これからの事を考えると頭が痛くなってくる。
「……そういえばお飲物も用意しておりませんでしたな! 失礼致しました。スラオ、飲み物の用意を!」
「了解だア!」
スラオが言うと大慌てで奥の部屋に入っていった。
「気を遣わせてしまうことを言ってしまってごめんなさい」
「……いや、レン殿が気にすることではありませんぞ! 本来はこちらから率先してお出しするものですから! ……ただちょっと飲み物を出すのをためらう事情があるのです」
「何やら事情がありそうですね。よろしければお聞かせ願いますか?」
こうして村長から飲み物事情について聞いたところ、スライム達の水源としている村の奥の水溜りが枯れかけているらしい。
本来は水が天井から滴り落ちてくるのだが、ここ最近その水が落ちてこなくなったそうだ。
スラオが持ってきた水を僕は大事に少しずつ飲むことにした。
するとスラオが話を始めた。
「実はさっきまでオイラは水を確保するために出かけてたんダ。その途中で蛇に襲われたところをレン兄ちゃんが助けてくれたんダ!」
「そうなんだ……そういえば水が枯れかけているっていう位だから、ここ最近雨は降っていないの?」
「いや、雨はそれなり降っているサ。だからどうして水が滴り落ちなくなったかオイラ達も分かってないんダ」
「なんか引っかかるなぁ。スラオ達が水源にしているところの水源をたどって行った方がいいかもしれないね。そこまで行ってみようか?」
「えっ!? 一緒に調べてくれるノ!?」
「うん。せっかく大事な残り少ない水をご馳走になって何もしない訳にはいかないからね。僕にできる事だったら何でも手伝うよ!」
こうして僕とスラオはスライムの水源が枯れた原因を突き止めることになった。
貴重な水をご馳走になった後、僕とスラオは調査の旅に出かけた。




