47.コーボネルド侵入作戦
作戦といっても、結局は変装して街の中に入るという何の変哲もない行動をすることに決まっただけだった。
結局は普通の行動が一番だからということでそういうことになった。
移動を続けた僕達は、ついにコーボネルドの目の前に到着する。
相変わらず大きな街で、見ていると圧倒されてしまう。
入り口も厳重警戒といった様子だ。
果たして無事に切り抜けられるのだろうか?
僕達はコーボネルドの入口へと差し掛かる。
すると門番が話しかけてくる。
「君達、戦果は?」
戦果……?
もしかして外に出たコボルドは、何らかの獲物を捕らえてコーボネルドに戻る決まりでもあるのだろうか?
そんなことを知らなかった僕達は、全く対策をしておらず、戸惑った。
僕はとっさにバッグの中にあるフィナをちらっとのぞかせた。
「妖精か! それは大きな戦果をあげたものだな! よし、堂々と街に戻って報告しに行くがよい!」
門番はフィナを僕達が捕らえて連れてきたと勘違いしてくれたようだった。
これでなんとかコーボネルドへの潜入は成し遂げた。
ただ、残る問題は……
「レン、ひどいよ! 私を獲物扱いするなんて!」
そう、フィナの機嫌である。
獲物のように扱われたことにフィナはご立腹のようだった。
「ごめん、フィナ……ああするしかなかったんだ」
「妖精にとって、誰かに捕われるなんてことは、屈辱以外の何物でもないのよ!」
フィナは既にリザースに捕われているから、そんなこと気にする必要ない気もするんだけど……
ゴーレムにも捕われていたし。
『仲間と思っていた奴からそんな扱いをされたから怒っているんじゃないか?』
『確かにそれはあるのかも……』
事前に打ち合わせでもしておけば、こんなことにはならなかったと思うから、この場面を想定できなかった僕に非があるのかもしれない。
「フィナがいなかったらコーボネルドの潜入はできなかった。最悪、門番との戦闘が始まってしまったかもしれない。助かったよ、本当にありがとう」
「か……感謝されても、許さないんだからね!」
フィナは相変わらずご機嫌ななめなようだったが、少し嬉しそうな感情が伝わってきたので、多分もう大丈夫だと思う。
「ところで、ブローダンの反応はだいぶ遠いわね……ずっと高い所にあるように感じられるわ」
フィナの方から話題を切り替えてくれて僕は内心ほっとした。
そのことはおいといて、確かにフィナの言う通り、ブローダンの反応はずっと遠く高い所から薄らと感じられる。
多分僕の精神がコボルドの体から分離させられた場所にいるんだろうと思う。
となると、ここからだいぶ距離はあるし、たどり着くだけでも一苦労しそうだ。
「うわ~レンレ~ン、あんな所にお菓子屋さんがあるよ~! ちょっと寄って行ってもいい?」
エルンは完全に観光気分のようだった。
「エルン、そんな余裕はないよ。目的を忘れちゃ駄目だよ」
「え~ちょっとくらい、いいじゃ~ん! ね、ちょっとだけだから~」
相変わらずエルンは僕の手におえない。
言っても聞かなそうだったので、エルンがお菓子屋に行くことを許可した。
ただ時間がないので、僕達はエルンを待たず、先にこの街の頂上を目指すことにした。
コーボネルドの頂上に向かって歩いていると、何やら街が騒がしくなってきた。
「敵襲だー! みんな気を付けろー!」
どうやら、コーボネルドを襲う人達がいるらしい。
これでもし僕達がコボルドじゃないことがバレても戦力が分散されて少し楽になりそうだ。
僕達にとってだいぶ追い風である。
多くのコボルドが街の入り口の方へ向かっていく中、僕達だけが反対方向、頂上を目指して進んでいく。
明らかに僕達だけ行動が他のコボルドと違っていて、目立っていそうだけど、こればかりはしょうがない。
どちらにしろ、頂上に向かうコボルドはあまりいなそうなので、目立つことには変わりないのだ。
しばらく上り坂を進んでいくと、目の前に階段の壁が出現する。
そして、その階段を上りきると、コルトと見た懐かしい見晴らしの良い景色が目の前に現れた。
なんかそのことが随分昔のことのように感じられて、懐かしい気分になる。
コルトと見たときは夕日が沈む頃だったので、橙色に染まった空が印象的だった。
今はまだ朝早いので空は青く、景色は、以前見たときとはまた違った印象を受ける。
「うわぁ……綺麗な景色……」
「凄くいい眺めッスね!」
「とても、きれい」
みんなそれぞれ感慨にふけっているようだった。
僕も初めて見たときは圧倒されたなぁ。
そういえば、この景色を見たときってバルグの反応がないときだったから、バルグも見るのは初めてなのか?
『いや、俺もレンと一緒に見ていたぞ。あのときはちょっと事情があってレンに話しかけられなかっただけだ』
そうなんだ。
事情というのは少し気になるが、詮索はしないでおいておく。
しばらく僕達が景色に見とれていると、後ろから誰かが近づいてくる。
「はぁ、はぁ……も、もうみんな置いていっちゃうなんてひどいよ~」
エルンだ。
「ちゃんと先に行ってるから追いついてきてねとは言ったはずだけど?」
「それはそうだけど~本当にこんな遠くまでさっさと行っちゃうなんて普通思わないよ~!!」
エルンはご立腹なようだった。
「あ、すごいね、この景色~初めてこんなの見たよ~」
景色を見たエルンは態度を急にコロッと変えて、景色に夢中になっていた。
一体さっきまでの怒りはどこへ消え去ってしまったのか……
とにかくエルンも追いついた事だしそろそろ出発しよう。
そう思った瞬間、突如異変が起きる。
「みんな、危ない!」
すると地面が隆起して巨大な壁が目の前に現れた。
その壁によって僕はエルン、ジル、エナと分離されてしまった。
一体何が起きているんだ……
「な、何が起きているの~!?」
「お、オレは何もしてないッスよ!」
「ジル、あやしい」
なんか地属性の魔法を使うジルが疑われているようだ。
いやいやジルがそんなことする理由がないだろう。
多分どこかに敵がいるはず。
「あそこ、敵いる」
そうエナが言ってから、急にピリピリしたムードが漂うように感じられる。
どうやら向こうは戦闘態勢に入ったようだ。
僕とフィナに近づく気配を感じる。
こちら側にも敵がいるようだ。
「ここまで侵入してくるとは……お前達は一体何者だ?」
そう言って一人の黒いコボルドが近づいてくる。
「お前は……ゴーダン!?」
「ほう、よく私の名前を知っているな?」
ゴーダン、それは僕をコーボネルドに来るように脅迫してきたコボルドの名である。
悪魔の力を得ている今のゴーダンは、以前よりもさらに強大な力を持っていて、体も強靭になっているように見える。
「何故お前が私の名前を知っているかは分からないが、排除することには変わりない。許せ」
そう言ったゴーダンが僕に襲い掛かってきた。
僕は真正面からゴーダンの拳を右手で受け止める。
ゴーダンは確かに強い。
でも精霊の力を得た僕ならば、そのゴーダンにさえ負ける気がしないのだ。
攻撃を受け止めた僕は左手を使って炎をまとった拳をゴーダンの腹部を殴りつけた。
「ごはぁ!?」
攻撃を受けたゴーダンが吹っ飛んでいき、地面にたたきつけられる。
「や、やるな……お前。確かに私一人ではお前には敵わないだろう。だがな……」
急に後ろから殺気を感じた僕は横に移動する。
すると先程まで僕がいた場所に攻撃を放つコフィーの姿があった。
「さすが私の右腕だ。そちらはもう始末し終わったのか?」
「まだ始末し終わってはいませんが、問題ありません、マスター。あの者達は私の幻影とひたすら戦っているだけですから、力尽きるのは時間の問題かと」
幻影……しまった!
壁の向こう側にいるエルン、ジル、エナでは幻覚を打ち破ることはできない。
確かにこのままではコフィーの言う通り、エルン達が消耗して負けるのは時間の問題だろう。
その前になんとかゴーダンとコフィーを倒さなければ。
『レン、私手伝おうか?』
『いや、大丈夫だよ。ここは僕に任せて。フィナにはエルン達をお願いしてもいい?』
『ええ、分かったわ』
フィナと念話で会話をし、フィナはエルン達がいる方向へと向かった。
こんな所で立ち止まっているようじゃブローダンには勝てない。
僕は覚悟を決めて、ゴーダンとコフィーを迎え撃とうとする。
「ずいぶんとなめられたものだな……後悔させてやる!」
ゴーダンが僕に向かって襲い掛かる。
同時に後ろにいるコフィーも僕の方へ襲い掛かろうとしてくる。
「火炎!」
左右の手でそれぞれゴーダンとコフィーに炎魔法をぶつける。
精霊の加護によって強化された魔法は、ゴーダンとコフィーを焼きつくした。
そしてゴーダンとコフィーは消滅した。
「消滅って……まさか幻影!? でも確かにオーラは感じられたはず……」
そう、確かにゴーダンとコフィーのオーラは感じられたし、幻覚ではなかったはずなんだけど……
「それはただの幻影ではない。私達の精神の一部を使って構成された実体を持った人形なのだからな」
だいぶ遠い、頂上の方から声がする。
声がする方に振り向くと、そこには無傷のゴーダンとコフィーが立っていた。
「ここは分が悪い。一度退かせてもらう」
そう言ったゴーダンはコフィーとともにその場から消えた。
「消えた……? 一体何が起きているんだか……」
「多分、あの人達は転移魔法を使っているんだと思うわ。天使や悪魔にのみ伝わる秘術なのだそうよ」
転移魔法……ゲームでいうテレポーテーションのようなものだろうか?
この世界にもそんな魔法があるのか……
となると、だいぶ厄介だな。
だって、ブローダンが転移魔法を駆使してくれば、僕の攻撃が全く当たらない可能性だってある。
どんなに強力な力を持っていても、当たらなければ意味がないのだ。
『対策する方法ならあるぞ』
『転移魔法の対処方法があるっていうの?』
『ああ。空間制限結界をはればいいんだ』
空間制限結界……そんなのがあるのか。
でも、それって簡単にできるものなのかな?
『簡単にはできないさ。でも俺達にはフィナがいるだろ? 妖精は結界に関する知識が豊富だと聞くからな』
バルグの言葉を聞いた僕はフィナ達と合流し、フィナに空間制限結界について聞いてみた。
すると、どうやらフィナは結界に関する知識を持っていて、必要なものさえあれば結界をはることができるらしい。
「ただ、その必要なものっていうのが厄介なのよね……」
「厄介ってどういうこと?」
「かなり貴重な物を使うの。だからそんな物を手に入れるには時間がかかりそうで……」
僕達がコボルドじゃないとゴーダン達にバレてしまっている以上、コーボネルドに長居はできない。
また、一旦退いてしまうと、変装作戦をもう使えなくなってしまうし、より厳重に警戒されることになりそうだから、潜入は一層困難になる。
いったいどうすれば……
『貴重な物なんだったら、むしろそれはチャンスなんじゃないか?』
バルグがよく分からないことを言っている。
貴重な物だからチャンスってどういうことなんだ……
『実はなレン、俺達が言ったコーボネルド図書館には本だけじゃなくて、色んな素材も保存されていたんだ。貴重な物ならば図書館に保管されている可能性がある』
素材が保存されている?
僕はそんなの図書館で見た記憶がないんだけど……
『とにかく俺には素材の入手方法が分かるかもしれないんだ。ちょっとフィナと話してもいいか?』
『うん、いいよ』
バルグが何考えているのか分からないけど、あてがありそうなので、ここはバルグに任せよう。
いつものように僕から体の感覚がなくなっていく。
「フィナ、必要な素材の名前を教えてもらってもいいか? 俺に心当たりがあるかもしれない」
「オーラが若干変わったってことは、今はレンじゃなくてバルグなのね。必要な素材の名前は、虚空の宝玉というものよ」
「虚空の宝玉……恐らく、図書館にあるな。なんとかなりそうだ。それ以外に必要なものは?」
「他に必要なものは全部持ってるから心配しないで。それにしてもバルグ、もしかして宝玉を図書館から盗み出すつもり?」
「ああ、そうだ。虚空の宝玉は使ってもなくならないから、いざとなったら返せばいいし、そもそも今は戦争状態だから物が盗まれても文句言えないよな?」
まあ、確かにバルグの言うことは一理あるのだが、盗むってなんか気が引けるよなぁ……
フィナがためらう気持ちもよく分かる。
でも短時間でブローダンを倒す活路を切り開くにはやるしかないんだと思う。
こうして僕達は虚空の宝玉を求め、コーボネルド図書館へと向かう。
まだゴーダン達以外のコボルドには僕達の情報が伝わっていないらしい。
特にコボルドと戦うこともなくコーボネルド図書館の前までたどり着くことができた。
「さっさと終わらせるぞ、みんな遅れずについて来いよ!」
そう言ったバルグが図書館の中へ入っていく。
みんなもバルグの後に続く。
「眠りの使い手、ザントマン!」
フィナの召喚魔法によって、図書館の中にいるコボルドを深い眠りにつかせる。
そして入口にあるセキュリティゲートは、エナの氷魔法によって凍らせて機能を停止させた。
こうしてバルグ達は易々と受付の先、隠し通路の先へ行くことができた。
隠し通路を抜けた先にある大きな部屋にはずらっと本棚が並んでいた。
バルグはその部屋の奥の方へと進んでいく。
すると、部屋の奥には本棚ではなく、机が並んでいた。
その机の上には何かを守るようなガラスケースが置かれていた。
きっとそのケースの中に貴重な物が入っているんだろう。
「おそらくこの中に虚空の宝玉があると思うんだが、フィナ、分かるか?」
「ええ、反応があるわ。こっちよ」
フィナにみんなついていく。
「これね。私も初めて見たけど……この反応は間違いないわ」
フィナが指差したものは、灰色の宝玉だった。
その宝玉の中にはどす黒いものが渦巻いていて何だか気味が悪い。
バルグはセキュリティ解除の魔法をかけてから、ガラスケースをとり、虚空の宝玉を手に取る。
「なんか薄気味悪いものだな、虚空の宝玉って」
「それも仕方ないと思うわ。その宝玉って悪魔が作ったものらしいから」
「悪魔が? でも一体何のために?」
バルグは首をかしげる。
《気になるか? それなら教えてやろう! 来るがいい!》
突如頭の中から声が聞こえてきた。
そして次の瞬間、バルグは手に持っていた宝玉の中にみるみるうちに吸い込まれていく。
「な、何が起きているんだ!? くそっ! 抜け出せない!」
バルグは必死に宝玉の吸い込みから脱しようとするのだが、全く抗うことができていない。
「バルグ、もうちょっと頑張って! 炎の精霊 イフリート!」
フィナが宝玉に攻撃を加えようとするのだが、宝玉の周囲に結界が出現し、全く傷つけることができない。
「氷吹雪!」
「大地槍!」
エナとジルも攻撃するが、宝玉の結界に阻まれてしまう。
バルグは為す術なく、宝玉の中に飲み込まれてしまった……




