42.不気味なオーズド村
捕えたランドリザード達はミ・ザーカ村でアクアリザードによって管理されることになった。
「な……なんで俺様がアクアリザードなんかに……痛たたたっ! わ、分かったからもうやめてくれぇ!」
リョーザンが変な事を言うので、アクアリザードはロープをきつくしめたようだ。
僕はリョーザンからミ・ザーカ村を襲撃するまでの経緯を聞くことにした。
リョーザンの話によれば、
・リョーザンはリ・ザーダ村にいて、コーボネルドから帰ってきたランドリザードによって配布された腕輪をつけた
・リョーザンは腕輪による思考支配は受けなかった
・腕輪から間接的に命令が下されるようで、その命令に従ってミ・ザーカ村までたどり着いた
ということだった。
「なるほどね。もしかして森を越えることができたのも、その腕輪の命令のおかげだったりするのかしら?」
「ああ、そうだな。腕輪の導きに従って進んでいたらいつの間にか大陸の東側に着いていたって訳よ」
「そうなの……だとすると、あなた達以外にも大勢こちらに攻め込んでくる可能性があるってことね……」
森はとても迷いやすい構造で、無事に抜けることが非常に困難らしい。
なので、大陸の西側から東側へ陸路で向かうことは、普通の人ではまず無理なのだという。
でも、リョーザンの話によれば、腕輪の導きによって苦も無く森を抜けることができるらしい。
つまり、森によって西側からの侵攻は止められないということだ。
東側の被害を減らすには、早いところブローダンを倒して、ブローダンの支配からみんなを解放する必要があるように感じる。
『そうだな。ブローダンさえ倒せば、腕輪の効果もなくなるだろうし、洗脳も解けて戦いはおさまるだろう』
『じゃあ、今すぐ倒しにいけば……』
『いや、それは危険すぎる。ブローダンは悪魔だ。悪魔といえば、様々な精神支配や幻術を使うと聞くから、無策で戦おうとすれば全く歯が立たないと思うぞ』
『そっか……それは厄介だね』
『しかも、ブローダンは赤い宝玉の力を全て集めたコボルドのレンの体を持っている。それだけでも相当厄介なんだ……』
『確かにそうだね。半端な攻撃じゃ、すぐに再生力を使って回復されちゃうもんね……』
赤い宝玉の恩恵を受けていた僕は、大きな怪我をしても再生力によってすぐ体の傷を癒せていた。
それを考えると、致命傷になりうる攻撃をブローダンに与えない限り、僕は勝てない。
しかも、精神支配や幻術を得意とする悪魔が相手だ。
まともに攻撃が通用するかどうかさえ怪しい。
『非常に厄介な相手だが、こちらにも策がない訳じゃない』
『どういう策があるの?』
『それはな……フィナから絆魔法をもらうことだ』
『フィナの絆魔法?』
『ああ。フィナは精霊を使役することで幻覚に惑わされず、精神支配も受けていないだろう? そのフィナが力を与えてくれる絆魔法ならば、悪魔に対抗できそうじゃないか?』
確かに、フィナはブローダンの演説を聞いても精神を支配されずにここまで来れている。
また、迷いやすい森に入っても、迷わずに目的地に行くことができているよね。
それは、フィナが精神支配や幻術に強いことを意味するように思える。
なら、試す価値はあるかもしれない。
僕はフィナに絆魔法の話を持ち出すことにした。
「絆魔法ね。確かに聞いたことはあるけど……」
「ひょっとして~さっきの天竜になったのは絆魔法だったりするの~?」
「うん。絆魔法”天竜化”って言うらしいよ」
エルンの質問に僕は答えた。
「あれが絆魔法……確かに肉体があそこまで大きく変化するなんて常識では考えられないわ……」
変身魔法を使うことで、自分とは違う姿に変身することはできる。
でも、その違う姿というのは自分と同じ程度の大きさ、もしくは小さい姿にしかなれないとされている。
天竜化というのは、ただの変身魔法とは少し違うようだ。
「ごめん、絆魔法をレンにあげられるものだったらあげたいんだけど……」
フィナはどうやら絆魔法がどういうものか分からないらしい。
分からないことを求めたって仕方ないよね。
この方法は諦めるしか―――
「フィナ、絆魔法、難しくない」
「どういうことなのかしら、エナ?」
「絆魔法は、その人と絆がつながったとき、自然と使えるもの。難しく考える必要ない」
「そうなんだ……だったら、使えるときが来たら、自然と使えるようになるよね! 今は絆が足りないということにはちょっと納得いかないけど……」
フィナはエナの言葉を聞いて、多少不満はあるものの納得したようだった。
どうやら、フィナとの絆が強くなると、自然と絆魔法が使えるようになるらしい。
でもどうしてエナがそんなこと知っているんだ?
「どうしてエナは絆魔法のことを知っているの?」
「未来で、フィナがレンに絆魔法使っているのが見えた。結構ピンチな場面だった」
未来を見たからこその言葉だったのか……
それなら確かに絆魔法はいつか自然と使えるようになるのかもしれない。
でも、絆魔法を使えるようになるまで相手からの侵攻を放置しておいていいとは思えない。
一体どうすれば……
『別に侵攻を食い止めれるだけでいいなら、大陸の東側に残って侵攻してくる敵を倒すだけでよくないか?』
確かにバルグの言うことは一理ある。
別に時間稼ぎをするだけならば、侵攻してくる敵を倒し続けるだけでいいのだ。
根本的な解決にはならないけど、無策で悪魔に挑んで返り討ちにあうよりはマシだろう。
「みんな、とりあえずは西側に攻め込むよりも、東側の大陸に残って侵攻を食い止めることに徹しよう」
「確かに何もできない現状で西側に攻め込むよりはマシだよね」
「そうだね~ボクもそれがいいと思う~」
「頑張って、食い止める」
「オレも、張り切って頑張っちゃうッスよ!」
みんな侵攻を食い止める案に賛成のようだ。
この案は単なる時間稼ぎにしかならない。
でも、絆魔法という対抗手段さえ得られれば、反撃に移ることも可能になるのだ。
そのための時間を稼ごう。
西側からの侵攻を食い止めるということは、西にある森から来る敵を倒していくことになる。
すると、防衛の拠点は森の近くの村が良いと思う。
どこの村がいいんだろうか?
「森から敵が侵攻してくると思うから、森の近くにある村を防衛の拠点にしたいと思うんだけど……」
「それなら、飛鷹族の村、ホーン村にいくといいわよ」
「ホーン村~? 初めて聞いたよ~?」
「無理もないわね。ホーン村は森の中にある村だもの。目立たなくて当然よ」
どうやら、森の中にあるホーン村を拠点に使うということらしい。
でも、森の中の村でいいんだろうか?
「森の中で防衛って難しそうじゃないかな?」
「あら、むしろ森の中の方がしやすいんじゃないかしら? 視界は確かに悪いけど、私の精霊の力によって、誰かが森を抜けだしたら分かるし、倒し漏れはおきないはずよ」
確かにフィナがいるから、見通しが悪くても敵の倒し漏れは起きないし、そう考えると、視界が悪い森の中は防衛に好都合なのかもしれない。
いい考えだと思った僕はフィナの案に賛成する。
他のみんなも異論はないようだ。
こうして僕達はホーン村へと向かうことになった。
「もうすぐ日が暮れちゃうから、オーズド村を経由して休んでから行きましょう?」
まあ確かにそうだよな。
戦闘続きで疲れたし、一回休憩をはさみたい。
ということで、まずはオーズド村に向かうことになった。
オーズド村へは、僕が天竜化して飛んで行くことになった。
天竜化はあっさりとできたのだが、飛ぶことがうまくできない。
天竜の体の扱いにまだ慣れていない為だ。
『レン、ここは俺が手本を見せてやるから、感覚を覚えておくんだぞ?』
そういう事で、バルグにオーズド村まで飛んで行ってもらうことにした。
オーズド村の近くまでたどり着いたバルグは仲間達を降ろすと、天竜化を解き、僕の意識と交代する。
竜人族の体に戻った僕は仲間と一緒にオーズド村の方へ歩いていった。
オーズド村はどうやらオーガの村のようだ。
あちこちに大きな鬼がいるのが見える。
「なんか村の雰囲気が前来た時とは違うような……」
フィナが不安そうな声で言う。
でも村を見渡す限り、特に変な所はないように見える。
腕輪がつけられて黒いオーラを出しているようなこともないし、虚ろな目をしている訳でもない。
「多分気のせいだよ。とにかく今は宿屋を探そう」
「そうよね。気のせいよね……」
村のオーガに宿屋の場所を聞き、僕達は宿屋へと入った。
ちなみに、宿屋の料金については、先ほど捉えたリョーザン達、ランドリザードから少しお金をいただいたので問題ない。
なんかお金を巻き上げているみたいだけど、これは立派な戦果なんだ。
うん、やましいことじゃない。
ということで、宿屋の料金を問題なく払った僕達は、自分達の部屋へと向かった。
「フィナちゃんも言ってたけど~何か村の雰囲気が変わっちゃったよね~」
「そうなの? 前来た時の村はどんな感じだったの?」
「えっとね~何か女の子がいたらチヤホヤするような男達がいっぱいだったよ~」
「ええ、ちょっと危なかった」
今の村はどちらかというと落ち着いた雰囲気のように見える。
確かにバルグ達が話している様子とはだいぶ雰囲気が変わったようだった。
何か原因があるのだろうか?
「何かあったんだろうけど、気にしてもしょうがないから早い所寝ようか」
そう、変な事を考えても仕方がない。
とりあえずは明日の戦いに備えて早めに体を休めるべきだろう。
仲間達は僕の言葉にうなづき、僕達はそれぞれ眠りについた。
「みんな、起きて!」
フィナの言葉で僕達は目を覚ます。
「私達、なぜか囲まれているみたいなの……」
確かにフィナの言う通り、周囲から殺気を感じる。
真夜中で暗い中、こんな殺気を放つ人達に囲まれるなんて異常事態だろう。
オーズド村の雰囲気が変に感じていたのは間違いじゃなかったらしい。
「フィナ、多分この村にはもういられない」
「そうね、とりあえず安全なミ・ザーカ村を目指して、作戦を練り直した方が良さそうね」
僕達はミ・ザーカ村を目指すことに決めた。
「僕が道を切り開くから、みんなは後に続いて!」
そう言った僕は部屋から出る。
すると、オーガが急に襲い掛かってくる!
僕はオーガの攻撃をかわし、炎の移動妨害魔法をかけ、足止めをした。
「今のうちにみんな行くよ!」
こうして僕達は宿屋からなんとか脱出できた。
だが、宿屋から出ても、また別のオーガが襲ってくる!
「粘着炎! これじゃ、キリがないよ……」
「ここはオレに任せるッス!」
ジルが一歩前に出る。
「大地隆起!」
ジルがそう呪文を唱えるとオーガの足場が崩れ、進行方向にある地面が上に突き出て、オーガを妨害する。
「さあ、今のうちに逃げるッスよ!」
ジルの妨害のおかげで僕達はオーズド村から脱出することに成功した。
というか、ジルって魔法使えたんだね、知らなかった……
「ジル、すごい魔法だったよ! ジルがあんな魔法使えるなんて知らなかった!」
「お、オレにかかればあれ位の魔法、どうってことないッスよ!」
「そうなんだ~だったら今度はあの辺の敵を火属性あたりの魔法でやっつけちゃってよ~」
エルンが指を指した方向を見ると、僕達に殺気を向ける集団が待ち構えているように感じる。
オーズド村から出たにも関わらず、その外にも敵はたくさん待ち構えていて油断はできないようだ。
「火……火属性ッスか……も、もちろんつかえ、使えるッスよ! 当たり前じゃないッスか!」
「じゃあちゃちゃっと倒してきてね~」
「でも、あの数はさすがにオレでも無理ッス……」
確かに暗くてよく見えないが、20……いや30人位の敵がこの先にいそうである。
このままミ・ザーカ村方向に向かうと、その敵と戦うことになり、そのうちにオーズド村のオーガが追いついてきて挟み撃ちにされかねない。
ここは、迂回してミ・ザーカ村を目指した方が良さそうだ。
「レン、ここは南側に一回進んでから東側に向かいましょう」
「うん、そうした方が良さそうだね」
フィナの提案を採用し、僕達は南の方へ進むことにした。
僕達は敵から逃れるためにオーズド村から南下する。
だが、敵も僕達の動きに気づいたようで、僕達の後を追ってくる。
「敵、来てる」
「うん、そうだね。なんとかまくことはできないかな……」
「ちょっと厳しそうね。相手は統率のとれた動きでこちらに向かってきているわ。今までのランドリザードよりもかなり強敵かもしれない」
統率のとれた動きか……
敵にはリーダー的存在がいるのかもしれない。
だいぶ厄介だな……
数人のランドリザードが僕達に接近し、水属性の攻撃をしかけてきた。
「危ない。氷棺!」
エナの氷属性の魔法でランドリザードは氷漬けになり、足止めに成功した。
「エナ、ありがとう!」
「油断、ダメ」
エナは相変わらずクールな表情で次の敵を見据えていた。
ランドリザード達は、同族が氷漬けにされても全くひるむことなく襲ってきた。
「みんな、できるだけ戦いは最小限に、進むことを考えてね!」
そう、フィナの言う通りだ。
ここでランドリザード達の相手をして、もたついてしまえば、オーガに追いつかれてしまう可能性がある。
そうなっては逃げ出した意味がない。
ランドリザードによる波状攻撃によって、休む間もなく防御に徹しないといけない状況が続いた。
でも、周囲の岩に隠れたりして攻撃をやり過ごしつつ、着実に南方向へと移動を続けた。
そして、大陸を二分する森が見えてきた。
「そろそろ東側に移動しましょう」
十分に南方向に進んで、オーズド村から距離をとることができた。
後は東方向に進むだけ。
そう思っていたのだが……
「レンさん、あっちの方、なんだかやばそうッスよ……」
ジルが少し震えながら言う。
無理もないだろう。
だって僕達が向かおうとする東側にいるのは……
「コボルド……」
そう、コボルドの群れがいたのだ。
統率がとれたランドリザードですら対応に苦労している現状、元々種族として統率のとれたコボルドを相手にするには無理がある。
となると、東側に進むのは絶望的であることが分かる。
残された道は……
「これは……森の中に突入するしかないわね」
そう、森の中に入って身を守ることしか考えられないのである。
北側にはランドリザード、東側にはコボルドがいる。
南側は海なので行くことができない。
なので残るは西側、森に突入するしかないのだ。
敵の本拠地に近づくことになってしまうので、とても危険だろう。
でも、フィナがかつて言っていた、森の中にある村に行けばなんとかなるかもしれない。
フィナがいる僕達にとって森の中は防衛に適した地となるのだ。
僕達は迷わず森の中へと入って行った。




