41.VSバルグ
現れたバルグは右手にエネルギーを集めている。
何か大技がくる気がする……
僕も対抗してエネルギーを集め始める。
エネルギーを集め終わったバルグが何やら技を繰り出す。
すると、バルグの前方の広範囲が強烈な炎に包まれ、地獄と化す。
きっと炎熱牢獄だろう。
僕は被害を出さないように打ち消す魔法を繰り出す。
「氷変換! 炎熱牢獄!」
僕が技を放つと、僕の前方の広範囲は一面氷漬けとなり、氷の大地と化す。
僕の技とバルグの技が衝突すると、激しい蒸気みたいなものが発生する。
辺りはその蒸気に覆われてすっかり見えなくなってしまった。
バルグが技を放った後にどこかに動いたように見えた。
僕はバルグの後を追う。
バルグの後を追っていた僕は、だいぶ戦場から離れた所に来た。
戦場には相変わらず蒸気であふれていて、視界がほとんどない状態だが、この場所まで来ると蒸気がなくなっている。
どうやらバルグは一人で戦場から離れた場所に来たようだ。
しかし、一体何の目的でこんな所に?
動いていたバルグの足が止まり、僕の方へ振り向く。
バルグの腕にはランドリザードにつけられているような黒い腕輪がつけられている。
やはり、あのランドリザードの結界から脱出できなかったのか……
だけどちょっと違和感がある。
他のランドリザードとは違ってバルグからは黒いオーラが感じられない。
それに腕輪をつけたランドリザードは虚ろな目をしている場合が多いのだが、バルグの目は特に不自然な所はない。
しかも何だかニヤッっと笑っているようにも見える。
だがバルグは僕の方へ向かっていき、炎をまとった爪の攻撃を仕掛けてきた!
どうやら戦いは避けられないらしい。
僕はとっさに攻撃を避け、体勢を整える。
とりあえずバルグを正気に戻すために腕輪を壊さないといけない。
バルグを攻撃するのは気が引けるのだが、仕方がないか。
僕は覚悟を決めた。
バルグは躊躇なく僕の方へと向かってきて、今度は炎のエネルギーで作られた無数の槍を放ってきた。
「炎壁!」
僕は槍の進行方向にだけピンポイントで炎の壁を作り、炎の槍攻撃を防ぎきる。
炎壁は自分の周囲を囲むような作りにすることもできるのだが、それでは同じ面積あたりの防御が薄くなってしまい、攻撃を防げなくなってしまう。
なので、必要な所に必要な面積だけ炎の壁をつくって、狭い範囲に防御を集めるのだ。
正直いって、僕はバルグに力ではかなわない。
だから、その分、攻撃や防御の精度をあげることによって何とかするしかないと思う。
精度をあげることによって、守れないはずの攻撃を守って防いだり、通らないはずの攻撃が通ったりする。
でも、この精度をあげる戦闘方法には欠点もある。
「ぐはっ!?」
体に強烈な痛みを感じる。
体を見ると、炎の槍が突き刺さっていて、血が噴き出しているのが見える。
結構なダメージを受けたようだ。
なぜ防ぎ切ったはずの炎の槍が僕の体を貫いたのか?
恐らくバルグは炎熱槍の呪文を二回唱えていて、僕が認識していない二回目に放たれた槍が僕の体を貫いたのだろう。
そう、これこそが僕の精度を高める戦闘法の欠点である。
精度を高めた守りというのは、守っていない所は全くの無防備になることを意味する。
だから自分が攻撃を全て認識できないと、むしろ全く守りの影響を受けない攻撃が直接自分に襲い掛かることになってしまう。
とてもリスキーな方法でもあるのだ。
その危険性に、僕は今、痛みをもって実感している。
でも、この危険な戦いをしないと、バルグには到底太刀打ちできないだろう。
炎の槍を抜き、炎の治癒魔法で傷を塞ぎつつ、バルグから距離をとる。
しかし、バルグは容赦なく僕を追いかけ、追撃しようと炎をまとった爪を向けてくる。
普通だったら同じ攻撃で受け止めるか、シールドを張ってなんとかやりすごす。
でも、そんなことをしても、攻撃が連続してとんでくるのは分かり切ってる。
なら、ここは……
僕はバルグの攻撃をあえて受けた。
するとバルグの爪が無防備な僕の体を容赦なくえぐりとる。
だが、僕はひるまない。
「迅雷熱爪!!」
そう叫んだ僕はバルグの腕輪ごと、バルグの体を引き裂く!
僕とバルグは互いに深い傷を負い、その場に倒れた。
僕の体はだいぶ傷を負って、出血もしているが、何とか炎の治癒魔法でギリギリ治りそうだ。
しばらく無防備になってしまうが、バルグの腕輪は壊した。
問題ないと思う。
バルグも僕の一撃を受けてすぐには動けない様子だった。
でも、意識はしっかりしているようで、笑みを浮かべている。
あれっ?
僕、腕輪壊したよね?
バルグもう洗脳解けてるよね?
なんで笑ってるの?
それって、もしかして……
「バルグ、もしかして最初から操られてなんかいなかったんじゃ……」
その言葉を聞いたバルグはちょっとビクッと震えた。
「そ……そんな訳、ない、だろ? それはそれとして、助けてくれてありがとうな、レン!」
そう言ってガハハと笑って誤魔化そうとするバルグ。
やっぱりあやしい。
「でも、レンって本当に強くなったよな……俺ともう互角の勝負ができるんだからな……」
「へぇー、戦っているときの記憶があるんだ? ってことは……」
「いや、そんな気がするだけだ! 俺は何も覚えてなんかいないぞ!」
自分から墓穴を掘っていくバルグ。
「でも、レンと戦うなんて今までなかったから、きっとすごい楽しかったんだろうなと思っただけだっ!」
「楽しい……ねぇ」
僕は戦いは好きじゃないので、その感覚はよく分からない。
確かに自分が成長した、バルグとそれなりに戦えるようになったということには喜びを感じた。
でもだからといって、戦い自体は楽しくはないよなぁ。
痛いし、苦しいし。
バルグと少し感性が違うのかもしれない。
「拳を交えることで、今まで見えなかったレンの闘志、覚悟が見えたような気がして、俺は嬉しかった……ような気がするぞっ!」
「見えないものが見える……か」
闘志、覚悟ね。
確かにこんなに生き生きとしているバルグを見たのは初めてかもしれない。
戦いの中でしか見えない部分というのもあるんだろうな、きっと。
「さて、俺の傷は癒えた。レン、立てるか?」
「うん、もう大丈夫だよ」
「そうか。じゃあ、あの調子に乗っているリョーザンの野郎をぶちのめそうじゃないか!」
「そうだね!」
僕はバルグに引っ張ってもらって立ち上がる。
そしてバルグは僕の中に入って、僕の背中には両翼が揃う。
二人そろった僕達は、急いで戦場へと向かう。
僕が戦場に到着する頃には、蒸気がなくなり、戦闘が開始されていた。
数で優位にたっていたアクアリザード達は複数人でランドリザードを相手していて、優勢に戦いを進めているようだ。
アクアリザードの連携攻撃によって、次々とランドリザードの腕輪を破壊していく。
しかし、腕輪を破壊されたランドリザードは、闘志を失うことなくアクアリザードを相手に戦い続ける。
このランドリザード達は、かーぱぁ村のランドリザードとは何か違うように感じる。
『ああ、こいつらはリ・ザーダ村の荒くれ者連中だ。だから、腕輪がなくてもリョーザンへの忠誠心があるから戦おうとするんだ』
自ら進んで戦いを選ぶ者達か。
今まで会ってきたランドリザードは、戦いを望まないにも関わらず無理やり腕輪で戦わされていた人がほとんどだった。
でも、このランドリザード達は違うみたいだ。
自ら進んで戦いを望み、そして戦いに役立てる為に腕輪の力を使用するということか。
そういう人を相手にするとなると、腕輪を壊す意味ってないんじゃないか?
『いや、腕輪を壊す意味はあるぞ。腕輪を壊すことによって、悪魔の力を断つことができるから弱体化させることができるのさ』
悪魔の力を断つ……
本来のランドリザードの攻撃であれば、僕を傷つけることはないのだが、悪魔の力を得たランドリザードは違う。
それほど強力な悪魔の力を削ぐことができるのだから、やはり腕輪を壊す意味はあるのだろう。
「よおっ、お前、俺様が捕まえた奴にそっくりだな?」
僕の背後からそう声をかけてきたのはランドリザードのリョーザンだった。
「せっかくだからお前も俺様の下僕となれ!!」
そう叫んだリョーザンは何やら黒い物体を僕に投げつけてきた。
すると、黒い物体が空中で開き、僕の周りを黒い膜で覆ってしまった。
そして黒い膜から黒い稲妻が僕の体を襲う。
痛い、でも耐えられないほどの痛みじゃない。
だけど身動きがとれない……。
「ハハハハハ! さあ、そのまま大人しくしていろよ? すぐに楽にしてやるからな……」
リョーザンは黒い膜をぐるっと半周し、僕の背後に回る。
そして何やら黒いものをとりだし、それを僕の尻尾に取り付けようとする……
おそらくランドリザード達を操っている黒い腕輪だろう。
その腕輪が今、僕の体にはめられようとしているのだ。
リョーザンが僕の尻尾に黒い腕輪を取り付けたらしく、カチリという音が聞こえる。
すると、僕が付けていた白い腕輪が消滅した。
恐らく白い腕輪が黒い腕輪と相殺したのだろう。
普通だったらこの時間に隙を見て逃げ出したり、体勢を整えたりするのだが、今は身動きがとれずにどうすることもできない。
リョーザンは黒い腕輪が消えたのに気付いたのか、もう一つ黒い腕輪を取り出し、僕の尻尾に取り付けようとする。
カチリ。
腕輪が尻尾に取り付けられる音がした。
だが、腕輪が取り付けられても、思ったほどは体に変化はない。
何か少し体がモヤモヤしてきて気持ち悪いのだが、変化と言えるのはそれ位だ。
別に体は自由に動かせそうだし、変な思考が植えつけられている訳ではなさそうだ。
『これって、どういうことなんだろう?』
『こんな腕輪のちっぽけな効果なんて、俺達には効かないのさ!』
『効かないの?』
『ああ、こんな悪魔の力の一部で作られたもの位で俺達が操られる訳ないだろ?』
『そっかぁ。じゃあやっぱりバルグもあのとき……』
『い、いや……俺だけだったら効くぞ! レンと一緒だから効かないだけだぞ!?』
『あーはいはい分かったよ』
バルグは必死に誤魔化そうとしているけど、恐らくバルグだけのときでも黒い腕輪の効果はなかったようだね。
なんでバルグが僕と戦おうとしたのかはよく分からないが、黒い腕輪が効かないのは良い情報である。
『それより、こんな奴、さっさと倒しちまおうぜ!』
『倒すってどうやって? 操られていないといっても、黒い稲妻に邪魔されて身動きとれないんだけど?』
『それはな、絆魔法”天竜化”を使えば大丈夫だ!』
『絆魔法?』
『ああ。魔法であって魔法じゃない。説明はちょっと難しいが、魔法よりすごいものって思ってもらえばいいさ!』
魔法であって魔法じゃないっていう意味がよく分からないなぁ。
まあとにかくそれでこの状況を打開できるならどうでもいいか。
『でもどうしていきなり絆魔法なんて使えるって分かるの?』
『絆魔法は互いが互いを認めたときに使えるものなんだ。俺はついさっき、レンの実力をこの目で見て、レンを心から頼れる存在だと思った。だから今なら絆魔法が使えると思うのさ!』
『つまり今までは頼りなかったって言いたいの?』
『……うっ!? それはきつい言い方だが……でもとにかく今なら実力も対等な存在だと俺には思えているんだ!』
まあ確かに戦闘面ではバルグに依存していることが多かったからなぁ。
別にバルグが僕を頼りないと思ってしまうのも無理はないね。
その考えが僕との直接対決を通して変わったということか。
『絆魔法ってどうやったら使えるの?』
『イメージとしてはウルフ戦のときと同じようにしてくれればいい。そうすれば自然と発動するはずだ!』
ウルフ戦と同じイメージか……
とりあえずやってみよう。
「ハハハ! さあ、俺様の命令に従え!」
リョーザンが何やら叫んでいるようだ。
僕は気にしないで集中力を高める。
すると何やら体が変化していくのを感じる。
体がどんどん大きくなっていくような……
しばらくすると何かが破裂するような音が聞こえた。
多分黒い腕輪や結界が破裂したんだろう。
その後も体が変化を続け、ようやく変化がおさまった。
「な……何が起こっている……!?」
リョーザンの声が震えている。
変化がおさまったように感じた僕はそっと目を開けた。
すると視界のはるか下に縮こまっているリョーザンの姿が見えた。
だいぶ体が大きくなり、目線が高くなったらしい。
他にも変化はあるようだ。
体を覆う鱗が純白に変化している。
また、翼も非常に大きくなった。
竜人族の僕の翼と形状は同じなのだが、おそらく今の体にあった大きさになっているから巨大になっているのだろう。
以上のことから、おそらく今の僕は天竜になっているのだろうと推測した。
まあ、自分で自分の姿をまるまる見ることができないからすぐには分からなかったが、多分そういうことだと思う。
『レン、これがかつての俺そのもの、つまり天竜族ってやつだ!』
『バルグって、こんなに大きかったんだ……』
竜人族に転生する前に竜の姿のバルグと会ったような気がしたが、そのときはこんなに大きいようには感じなかった。
まあ、記憶が曖昧だったし、その情報はあてにならないということかもしれない。
『今ならあんなリョーザンなんてひとひねりで倒せるな!』
『そっか。じゃあさっさと戦いを終わらせちゃおう』
僕はリョーザンの方を見る。
「ねえ、もう降伏してくれないかな? 無駄な戦いは避けたい」
「こ……降伏だと!? そんなこと言葉……俺様には存在しない!」
リョーザンは震えながらも槍を持って僕を攻撃しようとする。
僕はそんなリョーザンを平手打ちして遠くに吹っ飛ばした。
「ぐぁー!?」
うめき声をあげながらリョーザンが遠くに飛んでいく。
ちなみにリョーザンにつけられた腕輪は、平手打ちの衝撃であっけなく壊れていた。
悪魔の力を失ったリョーザンなど、もはや敵じゃないだろう。
リョーザンがあっさりと倒される様子を見ていた周りのランドリザードやアクアリザード。
するとランドリザード達は戦意喪失したみたいで、次の瞬間には武器を投げ捨てていた。
こうして戦いはあっさりと幕を閉じたのだった。




