40.VSジル
「炎熱槍!」
僕はジルにつけられた腕輪に向かった攻撃をしかけた。
しかし、ジルの尻尾が動いて攻撃を当てることができない。
ジルが僕に迫ってきて、炎のブレスを吐いてくる。
僕はジャンプしてブレスを回避する。
しかし、ジルはその隙を狙っていたかのように、ブレス攻撃をやめ、地属性の魔法、大地槍を使ってきた。
僕は辛うじて炎の防御魔法を発動させるのだが、体勢が悪くて攻撃を防ぎきれず、壁にたたきつけられてしまった。
「ぐぁっ!?」
壁にたたきつけられ、思わず声が漏れる。
ジルの攻撃はかなり強力だった。
不安定とはいえ、防御魔法を使ったにも関わらず、あっさりと貫通してみせたのだ。
元々強力なジルが、腕輪によってさらに強化された結果だと思う。
非常に厄介だな。
「レンレ~ンお待たせ~解析終わったよ~!」
遠くからエルンの声が聞こえる。
どうやら、解析が終わって助けに来てくれたようだ。
僕はエルン達の方に向かいたいのだが、ジルが僕を追撃しようと向かってくるのが見えるので、それは無理そうだ。
「ごめん、エルン! ジルが腕輪にやられちゃっていて、そっちに行く余裕がないんだ!」
そう叫ぶと同時に、ジルから逃げようと走り出す。
「えっ!? ジルがおかしいの~!? そりゃ大変だよ~!」
エルンが何か言っているが、反応する余裕はない。
僕はジルから逃げて、反撃しようと振り向いたとき……
「悪い子はおしおきしちゃうぞ~!」
エルンはジルの背後に瞬時に移動し、何やら注射器をジルの体に差し込んだ!?
「ギャーー!?」
「暴れちゃ駄目~! 動作固定!」
そうエルンが言った途端にジルの動きが急に止まった。
一体何をしたっていうんだ……
「そうそう、良い子だね~あっ、今のうちに腕輪回収しとこ~」
エルンはジルの尻尾につけられた腕輪を軽く破壊してジルから外し、自分のカバンに入れた。
俺が対応に苦労したジルをあっさりとおとなしくさせるなんて、エルン、一体何者なんだ……
「エルンー速すぎるよー!」
「エルン急ぎすぎ」
「あっ、フィナちゃんとエナっち! もう戦い終わっちゃったよ~遅かったね~」
フィナとエナが遅れてやって来た。
ちなみに僕がジルと応戦している間に残ったランドリザードは、エルフの手で倒されていた。
なのでエルンがジルを助けておとなしくさせたことで、戦いは終わったのだ。
「全部ボクのおかげだよね~レンレ~ン、ほめてほめて~!」
「ああ、その通りだ。ありがとうエルン」
「キャ~本当にほめてくれた~! それだったらさ~今度一緒にショッピングに付き合ってよ~いいでしょ~」
えっ、何でいきなりショッピングがでてくるんだろう?
さっぱりエルンの考えは分からないな……
こうして何とかフロセアでの戦いは無事に幕を閉じたのだった。
「ひどいッスよ! あんまりッスよ!」
ジルはエルンに抗議している。
「ボク、戦いに必死だったからつい……ね。だから許して~」
「絶対許さないッス!!」
逃げるエルンと追うジル。
どうしてこんなことになったんだっけ?
そうだ。エルンがジルにつけられた腕輪を外す際に、腕輪のついている付近にあるジルの鱗をはがしてバックにしまったんだっけ。
だから、ジルの尻尾の一部分だけ鱗がなくなってしまっているのだ。
それに気づいたジルは、鱗がなくなった原因がエルンだと知り、今エルンを追いかけている最中なのである。
腕輪を外す為に鱗を剥ぎ取る必要はないと思うので、多分エルンはドサクサに紛れて地竜の鱗を剥がして研究材料にしようとしたのだろう。
「しっかりと研究に役立てるし、ジルたんもきっと助かると思うよ~」
「そんな言い訳聞きたくないッス! しっかりと謝るッスー!!」
関わると面倒そうなので、二人を置いてフロセアから出発することにした。
エルンが腕輪を解析し、抵抗物質を作成してくれたおかげで、腕輪をつけた人を大きく弱体化させる手段を得た。
先ほどエルンがジルにしたように、抵抗物質を相手に注入することによって相手を弱体化させることができる。
ジルは体が強靭だったため、すぐに効かなかったみたいだ。
でもランドリザード相手であれば、すぐに効いて、相手を動けなくすることが可能だろう。
そして動けなくなって無防備になった所で腕輪を壊すというコンボをすることができる。
ちなみに抵抗物質は注射器でしっかりと体に注入しなくても、少しでも相手の体に当てれば効果があるらしい。
なので、大勢を相手にするときは、とりあえず抵抗物質をばらまくだけで、だいぶ戦いが楽になりそうだ。
「レンレ~ン、待ってよぉ~」
置いてきたエルンが追いついてきた。
「あっ、エルンおかえり」
「おかえりじゃないよぉ~レンレンからもジルたんに説明してあげてよぉ~」
説明って……エルンがジルの鱗をとった理由なんて僕も分からないんだけど?
まあ、研究に使うんだろうけど、それだけじゃ説明になってないし……
「レンさん、オレ、もう諦めたッス。こいつ、言っても分かってくれないッス」
追いついてきたジルは元気なエルンとは対照的にぐったりとうなだれている。
どうやらさすがのジルでもエルンの天然さに勝てなかったようだった。
さて、エルンとジルの争いが一段落ついた所で、これからのことを考えよう。
腕輪のついたランドリザードへの対応策はだいぶ充実してきたので、負けることはまずないと思える。
だが、まだ懸念は残っている。
さっきランドリザードがジルにしたように、僕自身や仲間達に腕輪をつけられた場合の対処法はまだ確立していない。
どうしたものか……
「エルン、ジルがランドリザードにやられたように、僕達に腕輪をつけられちゃうと面倒なことになるよね?」
「そうだね~でもそんな面倒なことを防ぐもの作っちゃったよ~!」
「えっ、どういうものなの?」
エルンはカバンの中をあさり始め、何やら一つの白い腕輪を取り出した。
「じゃじゃ~ん! これこそ黒い腕輪から作り出した抵抗道具、ホワイトバングルだよ~」
ホワイトバングル……って見たまんまじゃないか!?
エルンにはネーミングセンスはないみたいだった。
いや、別にそんなのはどうでもいい。
その白い腕輪がどういう効果を発揮するかどうかが気になる。
「ホワイトバングルをつけてるとね、黒い腕輪を取り付けられても効果を相殺し合って、黒い腕輪の効果を受け付けなくできるんだよ~!」
黒い腕輪の効果を打ち消す効果があるようだ。
これはかなり使えそうだね。
敵が黒い腕輪を取り付けようとしても、白い腕輪のおかげで体の自由が奪われるまでの時間に猶予が生まれる。
その時間で黒い腕輪を自分で破壊してしまえばよさそうだしさ。
早速エルンから白い腕輪を受け取って、僕と仲間達は白い腕輪を装着した。
「これで準備万端だね。次の目的地だけど……」
「次の目的地はかーぱぁ村がいいと思うわ。フロセアから最も近い村がかーぱぁ村だから、近い所からランドリザードの魔の手から解放していくといいと思うの」
「それがよさそうだね」
フィナの提案に異議を唱える人はいなかったので、僕達はかーぱぁ村を目指すことにした。
といっても、僕にはかーぱぁ村の場所は分からないので、フィナに先導してもらうことにした。
僕達は、かーぱぁ村の近くに到着した。
でも何だか、かーぱぁ村の様子がおかしい。
「なんか静かすぎないかな?」
「確かに……どうかしたのかしら?」
村から声も聞こえないし、生活音も聞こえないのだ。
いったい何が起きているのだろうか?
「中、入ってみる?」
エナが提案するので、僕はうなづいておいた。
不気味さを感じつつも、僕達は村の中へ入っていく。
村の中に入っても、静かなままだった。
そして村の中心には茶色く濁った水たまりがあった。
なんでこんな村の中央に汚い水があるのだろうか?
色々と疑問は尽きない。
「前来た時はこんなに水がにごっていなかったのにおかしいな~?」
どうやらエルンは、かーぱぁ村に来たことがあるらしい。
かーぱぁ村にあった水たまりが濁っている様子を見て首をかしげている。
「そうなんだ。じゃあ本当はここの水が何か目的の為に貯めてあったものなのかな?」
「生活用水、かも」
僕の疑問にエナが答える。
生活用水か……確かにあり得るかもしれない。
河童は川に住むイメージなのに、この辺りは海しかないから、淡水を確保する必要があると思うんだよね。
でも、それならどうしてこんなに水が濁っているんだろうか?
「レン、危ない! 守護精霊ガーディアン!」
馬に乗った鎧騎士をフィナが召喚してくれたおかげで、僕達に降り注いだ矢の雨をなんとかしのぐことができた。
って、何で矢の雨が急に降りかかってくるんだ!?
僕は何が起きたのかすぐには分からなかったが、村中のあちこちから攻撃を受けたのだと少し経ってから理解する。
僕達はこの村の敵として認識されているのだ。
だが、どうしていきなり攻撃なんてしてくるんだろう?
僕が疑問に思っていると、今度はランドリザード達が多くの河童を連れてやってきた。
「お前達、あいつらをやっつけろ!」
ランドリザードがそう命令すると、河童達は僕達に襲い掛かってきた。
「フィナ、河童達も操られているのかな? 邪気を感じないんだけど……」
「そうは思えないわ。私にも河童から邪気を感じないもの。邪気はランドリザード達からしか感じられないわ」
河童から邪気を感じられない……か。
河童が操られていないんだとすると、きっと河童達はランドリザードの命令をきいているだけなんだろう。
だとすると、河童はできるだけ傷つけないほうがいい。
狙うはランドリザードのみだ。
「河童は僕が相手する。みんなはランドリザードの腕輪を壊してきてほしい」
「私も残る」
「そっか。じゃあ僕とエナだけ残るから、他のみんなはランドリザードを頼んだよ!」
「「「了解!」」」
フィナとエルンとジルはうなづき、その場を後にした。
一部の河童達がフィナ達を追いかけようとするが、ガーディアンによって退けられた。
「さて、時間稼ぎといきますか。エナ、時間稼ぎに使えそうな魔法持ってない?」
「持ってる。時間停滞!」
エナが魔法を唱えた途端、周りの河童の動きが急に遅くなった。
おそらくエナが使ったのは、対象の動きを遅くする魔法なんだろう。
だいぶ強力な魔法である。
「すごいよ、エナ! 後は適当に攻撃をさばくよ!」
「うん、頑張る!」
動きが遅くなった河童の攻撃は全く僕達にかすりもしなかった。
避けることには全く苦労しないし、河童の背後に回ることも難しくなかった。
なので、エナがなぜか持っていたロープみたいので河童の手足を拘束して戦えないようにしていった。
河童の数は想像していたよりも少なく、一人ひとりをロープで拘束していくうちにあっという間に全員縛り上げてしまったのだった。
「こっちも終わったよ~!」
どうやらエルン達もやるべきことを終えたようだった。
僕達は、無力化したランドリザードと河童を河童の村長の家に集め、事情をきくことにした。
かーぱぁ村の村長によれば、
・綺麗な淡水を作る為の宝がランドリザードに奪われてしまった
・綺麗な淡水がないと河童は生きていけない
・綺麗な淡水を得るために嫌々ランドリザードの命令に従っていた
ということだった。
やはり、河童は操られてはいなかったらしい。
そして一方で腕輪をつけていたランドリザードは……
「あなたが伝説の竜人族様ですよね!? いやぁ、一目あえて私感激しております!」
どうやら全く腕輪をつけていたときの記憶がないらしい。
これじゃあ責める気にもなれないなぁ。
「君達は、腕輪をつけている間に河童を命令して支配していたっていう記憶はないの?」
「そうですね……全くないという訳じゃないんですが、非常に曖昧な記憶しかないですね。リ・ザーラ村にいたらいつの間にか、この場所にいたっていう表現の方がしっくりきます」
「リ・ザーラ村にいたらいきなり……ってことはリ・ザーラ村で何かあったの?」
「コーボネルドから帰ってきた我が同胞を迎えている途中に急に記憶を失ってしまい、何が何だか私もさっぱり……」
どうやら、コーボネルドでブローダンの演説を聞いたランドリザードが村に戻ってきたことが原因で、村のランドリザードがみんなおかしくなってしまったようだった。
となると、僕が過ごしていた大陸西側の村はみんな敵になってしまっていると考えた方が良さそうだ……
腕輪が外れたランドリザードが悪さをする気配はなさそうなので、ランドリザードに腕輪に関する注意喚起をしておき、河童と一緒に仲良く暮らすように言っておいた。
河童も元々は優しい民族らしいので、しばらくわだかまりが残るだろうが、いつかは分かり合える時がくるだろう。
ちなみに、河童の生活用水を作る禊の聖皿という道具は、正気に戻ったランドリザードが持っていた。
なのでランドリザードがそれを河童に返して一件落着。
ランドリザードと河童に見送られながら、僕達は次の目的地へと向かう。
「この次はどこへ向かおうか? ちょっとずつ正常化させた方が良いと思うんだけど」
「そうね……ここの近くにある村といえば、ミ・ザーカ村かしら。アクアリザードが住む村ね」
「じゃあそこに向かおう」
僕達はミ・ザーカ村を目指し、歩き始めた。
「やっほ~ミリーナちゃん久しぶり~!」
「あら、エルンさんじゃないですか、お元気そうで何よりです」
ミ・ザーカ村に着いた僕達は、エルンの知り合いらしいミリーナというアクアリザードと話をしていた。
「ここにはランドリザードは襲ってきてない感じ~?」
「いえ、結構襲ってきています。ですが、ランドリザードがつけている腕輪を壊すと戦う意志がなくなるみたいなので、そこをついて何とかなっています」
自力で腕輪のことに気づくとは大したものだなあ。
エルフ達は気付けていなかったというのに。
「ただ、最近ランドリザードの中でも強い人がでてきたので、結構戦いは厳しくなってきていますね……」
確かに村の人々の様子を見ると、所々怪我をした人であふれていて、村全体が疲弊してきているように見える。
なかなか厳しい状況のようだ。
「敵襲だー! みんな気を付けろー!」
「くっ、また来たのね……みなさん、すいません、私は行きます!」
ミリーナはそう言うと、数人のアクアリザードを率いて村の外へ出ていった。
「なんかこういう雰囲気嫌だな~」
「確かに……相手のランドリザードもそうだけど、こんな戦いなんて好きでやっている人なんていないんだ。早く戦いを終わらせよう」
僕はこの戦いを終わらせる決意をした。
「そうなったら、今はミリーナ達の加勢をした方がいいんじゃないかしら?」
「そうだね、フィナ。それじゃあ、僕達も行くよ!」
こうして僕達は戦いの地へと向かった。
こちらの戦力、アクアリザード約50人プラス僕達。
相手の戦力、ランドリザード約30人。
一見こちらが有利に見える。
だが、油断はできない。
相手が何か特殊な攻撃をやってくる可能性もあるし、腕輪による操りもある。
警戒を怠ってはいけないのだ。
まもなく戦いが始まろうとしていたそのとき、相手のランドリザードが何やら言い始めた。
「ハーハッハ! お前ら残念だったな! この俺様、リョーザン様が来たからには、この戦い、万が一にもお前達に勝利の可能性がなくなった!」
「何を寝ぼけたことを! あんたなんてただのランドリザードの一人にすぎないわ!」
「そうか、では試してみるとするか」
リョーザンが槍を高く突き上げた後、振り下ろす。
すると、リョーザンの前に鋭い刃のようなエネルギー波が出現して直進し、アクアリザード達を吹き飛ばしていった。
技でもないのに、この威力とは、かなりの力の持ち主だと考えられる。
「あなた、一体何者なの……!?」
「ハハハ! だから、言っただろう!? それに俺様達の戦力はまだまだこんなもんじゃないぜ! ほら、行け、竜人!」
リョーザンが誰かを軍の先頭に向かわせる。
現れたのは―――
「う……うそ……」
「こんなことって……」
「こんなのヤダよ~」
「嘘ッスよね……」
僕の相棒でもある竜人族、バルグだった。




