39.ランドリザードとの攻防
僕達は地竜の洞窟から出た。
すると何やら周囲から殺気を感じる。
『レン、敵に囲まれているぞ!』
『うん、分かってる!』
他の仲間達も殺気に気づいているらしく、戦闘態勢をとる。
ピリピリした重い膠着した状態が続くが、ついに変化が訪れる。
敵の一人が飛び出してきたのだ。
敵は――ランドリザード。
黒いオーラを身にまとい、狂気を感じさせる目をしている。
ランドリザードは今にもエナに襲い掛かろうとしていた。
「氷爆風!」
エナが呪文を唱え、冷気を帯びた暴風がランドリザードを襲う。
しかし、ランドリザードは少しひるんだだけで、気を取り直すとまたエナに襲い掛かろうとする。
「エナ、危ない! 雷神カプーニス!」
フィナが召喚魔法を唱えると、放たれた強烈な雷撃がランドリザードの体を貫き、ランドリザードは気絶した。
しかし、ほっと息つく間もなく、様子をうかがっていた他のランドリザード達が次々に僕達に襲い掛かってくる。
『フィナが放ったのは上位の召喚魔法だ。そのレベルの攻撃じゃないと倒せないヤツがごろごろいるんじゃ分が悪いぞ!』
『そうだね……ここは無理に戦うよりも逃げることを優先した方が良さそうだ』
でも、こんな数のランドリザードから無事に逃げることも困難だ。
誰かがランドリザードを引き付けて、その隙に逃げないといけないと思う。
こんな大勢のランドリザードを引き付ける役割となると命の危険が伴う。
でも僕は仲間を犠牲にしたくなんかない。
なら、僕がその役割を引き受けよう。
「炎熱牢獄!」
僕が放った魔法がランドリザードを襲う。
だが、足止めをするのが精一杯で、倒すまでには至らない。
「ここは僕が食い止める。みんなは先にフロセアに向かって!」
「レンだけに任せておけないよ……」
「レンレンだけじゃ危ないよぉ~」
「心配……」
「オレもここに残って戦うッス!」
みんなは心配そうな顔をしてそう言ってくる。
でもこのままじゃ下手するとこのまま共倒れになってしまう!
「ごめん、時間がないんだ。それに、ボクは一人じゃない。バルグがいる。だから万が一にも負けるなんて事はないよ。だから、ね?」
僕の言葉を聞いたみんなは、僕の意図を察してくれたようで、心配しながらもここから逃げていってくれた。
これでよかったのだ。
別に僕はここで死のうとなんかしていない。
僕が本当に一人だったら、この行為は自殺行為かもしれないけど、僕にはバルグがいる。
バルグと二人だったら、こんな状況も何とかできる。
そんな気がするんだよね。
『ああ、俺とレンだったら何でもできるさ!』
『ありがとうバルグ。相手の数が多すぎるからここは二手に分かれて戦うべきかな?』
『確かに、体が一つだと、力はあっても手数で押し負ける可能性があるな。その方が良さそうだ』
僕はバルグと意識を切り離すイメージをする。
すると、僕の前に一人の竜人族の姿が現れた。
「レンの中にいた方が居心地がいいから、本当は外に出たくないんだが、ここは仕方がないな。さっさと片付けちまおうぜ!」
「うん!」
僕とバルグは背中を合わせて、隙のないように体勢を整える。
そして炎熱牢獄の効果がきれて襲い掛かってくるランドリザードに応戦し始めた。
ランドリザード達は強かった。
以前のランドリザードの攻撃は直撃しても全く傷を負わなかったのに対し、今の攻撃は、かすっただけで傷が付く。
しかも、軽い攻撃では倒れてくれないので、ある程度強力な魔法を使う必要がある。
「炎熱暴風!」
僕は炎をまとった暴風を狭い範囲に収束させ一体のランドリザードを倒す。
恐らく普通に炎熱暴風をうつだけではエナが使った呪文のように、ランドリザードにダメージを与えられない。
でも、エネルギーを狭い範囲に集中させることで、より殺傷力が上げることができる。
「炎熱牢獄! 炎爪撃!」
バルグは炎熱牢獄でランドリザードの動きを止めてから、爪に炎をまとわせて直接ランドリザードに攻撃をしているようだ。
バルグはやる事が派手だなぁとつくづく思う。
バルグがランドリザードに放った炎爪撃はランドリザードについた腕輪に当たって、腕輪が砕け散った。
すると、腕輪が壊れたランドリザードから黒いオーラが消え去った。
「バルグ、やっぱりその腕輪はもしかして……」
「ああ。腕輪がランドリザードのおかしな行動の原因のようだな」
腕輪さえ壊せばランドリザードは正気に戻る。
この情報は非常に重要だ。
今まで僕達はランドリザードの動きを止めるためにはランドリザードを気絶させるほどの攻撃をする必要があった。
だが、戦闘をさせないためには、黒い腕輪を壊すだけでいいことが分かったのだ。
となると、狙いは難しいものの、腕輪にピンポイントで攻撃を与えて壊せれば、より早く、より少ない魔力でランドリザードを処理することができる。
勝機が見えてきたね。
「バルグ、それじゃあ早速腕輪を……」
「レン、危ない!!」
バルグがそう叫ぶと同時に僕を思い切り突き放す。
すると僕の目には、何か不思議な黒い結界に包まれたバルグの姿が映った。
一体何が起こったのか……
「バルグ、一体どうしたの?」
「レン、早くここから逃げろ!早くしないとレンも……」
何か遠くから物が飛んでくる気配がする。
僕は素早く後ろに飛びのいた。
すると、僕がいた場所にバルグを囲んでいるのと同じ黒い結界がまた出現する。
危うく捕われてしまう所だった……
「バルグを置いてなんていけないよ! 今助けるから!」
「馬鹿! これを解くのはかなり高度な知識がいるんだ! レンに手伝ってもらえることなんてない!」
「でも……!」
「大丈夫だ。俺なら少し時間はかかるが問題なく結界を解除できる。だから、レンは先にみんなの所に行って俺を待っててくれないか?」
バルグはそう言ってくれているが、本当にそうなのだろうか?
でも、確かに僕がバルグの結界を解くためにできることはほとんどない。
となれば、ここはバルグの言う事を信じて、待つしかないか。
「バルグ、信じてるから! 必ず追いついて来てよ!」
「ああ、安心して待っていてくれ!」
僕はバルグの自信に満ちた表情を見て安心し、仲間の後を追った。
バルグと別れた僕は、特に敵に出会うことなく生命の源泉フロセアに到着した。
「レンレ~ン、おかえり~!」
町に到着してすぐにエルンがやってきて喜びながら声をかけてきた。
「レン、無事でよかったわ!」
「心配、した」
「レンさんなら無事だって信じてたッス!」
どうやらみんな無事のようだった。
良かった。
「あれっ、レン、翼が片方ないよ? もしかして……」
片方の翼しかない――それはバルグがいなくなり、バルグの右翼がなくなってしまったということだ。
フィナはそのことを分かっているから不安そうに聞いてきたのだろう。
「実はね……」
僕はランドリザードの戦いで起こったことを仲間達に話した。
みんなは信じられないといった驚きの表情をうかべていた。
「バルグが黒い結界に……でも、きっとバルグなら大丈夫……よね?」
「僕もそう信じてる。だけど、何もしないで待ってるというのは良くないと思うんだ」
「それもそうね。フロセアでランドリザードに関する情報を集められるだけ集めましょう」
僕達はそれぞれ町の人達に聞き込みを行った。
聞き込みを行った結果、
・腕輪には人を操る効果がある
・ランドリザードの腕輪が外れた途端、襲ってこなくなった
・ランドリザード以外の種族も腕輪の影響を受ける
とのことだった。
だいたい僕達の認識と一致していた。
「レンさん! オレ、お手柄ッスよー!」
「どうしたの、ジル?」
「フロセアの騎士さんから、ランドリザードの腕輪をもらってきたッス!」
どうやら、ジルはランドリザードの腕輪をもらってきたようだった。
僕はジルから腕輪を受け取る。
腕輪は多少損傷はしているが、形状は残っている。
恐らくフロセアの騎士は、この腕輪の性質を調べる為に、ランドリザードと戦った際に奪った腕輪の中で状態の良いものを保存していたのだろう。
これは今の僕達には活路を見出す一歩となりそうだ。
「レンレ~ン、その腕輪、ボクが解析しておこうか~?」
そう、今の僕の仲間には研究者のエルンがいるのだから。
「うん、お願い! 解析にどれ位時間かかりそうかな?」
「そうだね~? やってみないと分からないから何とも言えないなぁ~」
「それもそうだよね……。とにかくよろしく頼むよ!」
僕は腕輪をエルンに渡す。
「そういえば、こんな道端じゃあ研究しにくいよね? 宿屋でも借りた方がいいかな?」
「別に大丈夫だよ~それにレンレンってお金持ってないんじゃないの~?」
あ、そうだ。
竜人族に転生してしまった今はお金持ってないんだった……
「ご、ごめん……そのことすっかり忘れてたよ……」
「気にしない、気にしな~い! ささっ、ボクはもうこの場で研究始めちゃうから、何かあったら護衛よろしく~」
エルンはカバンから機械を取り出し、キーボードみたいなものに打ち込みを始めた。
あれってパソコンみたいだけどパソコンとはちょっと違うよな……
何か不思議な気分……
エルンが腕輪の解析している所を眺めていると、
「て……敵襲だー! みんな、気を付けろー!」
フロセアの住民が叫んで走ってくる。
「敵ですって!? まだエルンの解析が終わってないのに……」
フィナは思わずそう嘆く。
確かに不意をつかれた感じはするが、腕輪をつけたランドリザードの侵攻具合からして、フロセアが襲撃されるのは時間の問題だとは思っていた。
今はとりあえず、エルンの解析結果を待ちつつ、できることをしよう。
「エルンは戦闘できない状態だから、エナとフィナはエルンの護衛を頼んだよ!」
「分かったわ!」
「うん、了解」
「オレはレンさんと一緒に戦えばいいッスよね?」
「うん。ジル、行くよ!」
僕とジルはフロセアの入り口の方へと走って行った。
フロセアの入り口では戦いが既に開始されていた。
あの強力なランドリザードに対し、エルフの騎士や義勇兵が必死で戦っている。
数ではエルフの人の方が上回っているのだが、戦力はランドリザードが圧倒的に上で、町に侵入されるのは時間の問題であるように見えた。
「ジル、ランドリザードは手強い。でも、ランドリザードの腕輪さえ壊してしまえば無力化できるから、腕輪を狙って攻撃するんだ!」
「了解ッス! オレ、そんな丁寧なことする自信ないッスけど、やれるだけやってみるッス!」
僕とジルはエルフに加勢した。
「炎熱槍!」
槍のようにエネルギーが一点に集中した炎の塊がランドリザードの腕輪に命中する。
そして腕輪はあっさりと砕け散り、ランドリザードはその場で倒れた。
『やっぱり。腕輪さえ壊せればあまり苦労せずにランドリザードを無力化できそうだ』
攻略法が分かってしまえば後は簡単だ。
僕は腕輪に狙いを定めて炎熱槍を連発し、多くのランドリザードを倒していった。
一方のジルはというと……
「炎熱息! あー、やっぱり全然効かないッスね!」
全然腕輪に攻撃が当たっていないんですけど……
頑丈な体を持つジルは、負けはしない。
だが、腕輪を壊せない為にランドリザードを倒すことができずにいて、苦戦している。
だから、ジルに腕輪を狙えって言っておいたんだけどなぁ……
まぁ、やられそうにはないから大丈夫か。
僕はジルを放っておいて、再びランドリザードの腕輪の破壊に集中する。
僕の攻撃を見たエルフの人が腕輪を壊せばいいことに気づき始め、エルフ側が優勢になってきた。
残るランドリザードはあと数人。
戦いは問題なく終わる。
そう思った矢先に事態は急展開を迎える。
「しまっ……!?」
ジルがそう叫ぼうとするが、意識が遠のいて倒れたようだった。
ジルに一体何があったのか?
その答えはジルの近くにいたランドリザードが示していた。
ランドリザードは、自らがはめているものと同じ腕輪をジルの尻尾に取り付けたのだ。
まずい……
あれは腕輪だけど多分腕以外の部分に取り付けられても、操る効果が発動するだろう。
となると、ジルは……
「グワァーーー!!!」
腕輪で操られてしまっている。
ジルは少し馬鹿だが、体は頑丈で、とても大きな力を持っている。
エルフでは到底太刀打ちできない。
ここは僕がジルを止めるしかない!
まさかジルと戦うことになるとは……
僕は心に動揺を隠しきれないが、でも覚悟を決め、ジルと対峙した。




