番外編 バルグが宝玉になったワケ
『今日も良い天気だ! って当たり前か』
今日も我が国の天気は快晴!
雲の上に位置するこの国では快晴以外の天気がないのである。
俺の名前はバルグという。
この国、天空竜国ヴェルナーダの王子である。
王子っていう身分は裕福な暮らしができる所は良いのだが、問題は……
「王子、探しましたぞ! さあ、早く部屋に戻って勉学の続きを……ってお待ちください!? おい、王子が北の方角に向かったぞ!」
そう、自由がないのである。
毎日同じことの繰り返しで飽き飽きとしていた俺はよくこうして脱走しては連れ戻されるのだ。
今日こそは絶対に逃げ出してやると思っているものの、脱走は一度も成功したことはない。
脱走を成功させられない理由とは、この国の構造にある。
天空竜国ヴェルナーダは雲の上に存在するという立地的に外敵から攻められにくいという特徴がある。
それ故か、独自の技術が破壊されずに蓄積され、国全体を外敵を遮断するシールドで覆っているなど高度な文明が存在する。
そう、そのシールドが厄介なのだ。
シールドは外敵から身を守る手段であるとともに、自国民を容易に外の世界に出さないという目的もあるのだ。
外の世界に出るためにはシールドを破壊するか、外の世界に通じる転移装置を使うかの二択になる。
シールドを破壊するのは俺単独の力では無理なので、実質転移装置を使うしかない。
だが転移装置の周りは厳重な警備がされていて、そこを突破しようとするのはまず不可能。
だからこうして繰り返し脱走を試みては失敗するのである。
今回も案の定、城の兵士に捕まり、俺の脱走は失敗した。
だが失敗しても決して諦めるもんか。
次の脱走のチャンスは数日後にやってきた。
何だか城内が騒がしい。
こっそり盗み聞きをしてみると、どうやら珍しく人間が国の近くまでやってきてシールドを攻撃しているらしい。
人間がシールドを破壊する速度よりもシールドが自動修復する速度の方が早いので放置していても問題はない。
だが、戦い好きな兵士達が人間の元まで出向いて戦う準備をしているみたいだ。
俺以外の竜達も退屈しているから、暇つぶしに戦いをしようとしているんだろう。
そこで俺は閃いた。
その戦い好きな兵士達に紛れることができれば簡単に国の外まで出られるというアイデアを考えついたのだ。
今回は今までで最大の脱走のチャンスだと思ったので、準備は念入りにしようと思う。
まず、俺が脱走したことに気づかれないように身代わりとなる人形を置いておく。
人形といっても、姿は俺と瓜二つになるように作っている上、俺の魔力を注入しているし、それなりの会話、行動ができるので、当分俺本人でないことはバレないだろう。
次に、俺自身が城の兵士に変装する。
この変装もどの兵士になりきるかはもう決めており、その兵士の個別認識証もこっそり拝借しているので抜かりない。
さあ、脱走の始まりだ!
事前準備のおかげもあり、特に問題なく兵士の中に紛れ込むことができ、人間達との戦いに参加できることになった。
竜の軍の集会らしき所に俺は紛れ込む。
「さあ、野郎ども! 小賢しい人間達を蹴散らすぞ!」
「「「オーーーーーー!!!」」」
興奮に満ちた竜の雄たけびが響き渡る。
何しろ久しぶりに実戦をすることができるのだ。
興奮するのも無理はないだろう。
隊長と竜の兵隊達が叫び終わると続々と転移装置に向かい、どこかへ転移していく。
俺もその流れについていって、転移装置を初めて使用した。
すると、どうやら人間の乗り物の中に到着したようだった。
「さあ、第二小隊は左に向かって進め。第三小隊は右だ! 急げ!」
俺は第二小隊に配属されたみたいなので、とりあえず左に進む。
すると比較的広い部屋に入る。
そこには三十人位の人間がいて、先に到着していた竜と戦闘状態になっている。
正直竜側に過剰な戦力があるのだが、竜の兵士達は戦いを楽しむためにわざと手加減をして戦いを長引かせているようであった。
若干人間達が気の毒になる。
この場にいてもつまらないので、どさくさに紛れて第二小隊から離脱して自由に行動することにした。
どこも戦闘状態であり、俺が戦いに入る余地がなさそうだった。
そこで何か他に面白そうなことないかと探し回っていると、壁の一部に変色している所を発見した。
不思議に思った俺はその部分を押してみると、くるっと壁が回った。
すると驚く暇もなく違う空間に押し込まれ、今度は床にある魔法陣らしきものが発光し始めた。
『罠か!? まずいっ!』
気づいたときには手遅れだった。
脱出する間もなく魔法陣が発動し、周囲は光に包まれた。
光がおさまってから周囲を確認する。
どうやら薄暗い研究室のような場所に転移したらしい。
辺りを俺はきょろきょろと見渡していると、
「フフフ・・・罠にかかりましたわね?」
どこからか甲高い女性の声が聞こえた。
俺にも分かる、魔物の言葉で。
「お前は誰だ! そして何で俺らの言葉を知っている!?」
「あら、魔物研究の第一人者である私にとっては魔物語なんてお手の物なのですよ?」
女は魔物語を理解するなんて簡単といってのけるが、そんなことはないはずだ。
いわゆる人間の書物でいう犬や猫がワンワンとかニャーニャーとしか聞こえていない内容を全て言葉にして理解できているということなのだから。
実際魔物語を理解している人間など数十人もいれば多い方だろう。
「せっかくここまでやってきてくれたのですから、偉大な私の研究に役立たせてあげましょう!」
「誰がお前の思い通りになるものか!」
「フフフ、威勢の良いことは結構なことです。でも、口だけじゃ何とでも言えますよね?」
「フン、その言葉を言ったことを後悔させてやる!」
そう言って俺は女に襲い掛かろうとしたのだが、おかしい。
体が全く動かないのだ。
「くそっ、どうなってやがる……!?」
「アハハ! 今頃気づいても遅いわよ? あなたは既に私の術中に嵌まっているのだから!」
女はそう言ってニヤリと笑みを浮かべてきた。
心底ムカつく女だ。
「さあ、実験を開始するわよ!」
そう女が言うと、赤い宝玉のようなものを取り出した。
「おい、何をするつもりだ……!?」
「ふふっ、あなたの力と意識を今からこの宝玉の中に閉じ込めて、私が存分に活かしてあげるのよ。感謝しなさい。フフフ……」
「ふざけるな! そんな簡単にお前の思い通りに……」
俺はまだ、抵抗しようとしていた。
しかし、途端に力が全く入らなくなり、言葉も話せなくなってしまった。
くそっ、一体何をしやがった!?
「あら、もう抵抗は終わり? あっけないものね。まあ、あなたの力は私が存分に活用してあげるから心配しないでね。フフフ……」
その女の言葉を最後に俺の記憶は途絶えた。
きっと女の言う通り、俺は宝玉の中に自身の力と意識を取り込まれてしまったのだろう。
そして俺の本体も恐らくは宝玉の中に入れられている。
ちなみに5つに分かれていることは、俺が5つの魂を認識できるから何となく理解できた。
また、俺の意識部分が憑依した者の肉体を動かせる事をなぜ知っているのかというと、竜の国で赤い宝玉について学んだことがあるからだ。
やっぱり俺って博識だよな。うん。
うろ覚えだから完璧に分かっている訳ではないんだけど、まあ気にしないことだ。




