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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第二章 バルグの冒険
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36.双竜の奇跡

 俺は目を覚ますと洞窟の中にいた。

 もちろん地竜の洞窟の中だろう。

 ボーっとしていた俺に誰かが声をかけてくる。

 


「バルグさん、目覚めたッスか? 親父がバルグさんのこと呼んでたッスよ!」

「ああ、ジルか。ジールダースが呼んでるのか……」



 これは、悪夢の始まりの展開と非常によく似ている。

 おそらく双竜の奇跡を行う時間が間もなくやってくるのだろう。


 ついにこのときがやってきたという喜びとともに、失敗することへの恐れを感じている。

 今の俺達は、悪夢の中でみた俺達よりも双竜の奇跡を起こす時間が遅れている。

 そのため、悪夢の時よりも儀式に時間がかかったり、失敗する危険性は高まるだろう。


 でも今度こそ、レンを助けてみせる。

 可能性が低くとも、失敗してしまったことをやり直せる現状に感謝しよう。



「大事な話みたいッス。恐らく今日行う儀式についての話なんじゃないかとオレは思うッス」

「ああ、多分そうだろうな。ジル、俺はもう大丈夫だから先にジールダースの所に行っていていいぞ」

「了解ッス! オレは先に親父の所で待ってるんで、バルグさんも早く来るッスよ!」


 

 そう言ったジルは遠くに飛び去ってしまった。


 双竜の奇跡……どうしてあの悪夢では失敗したのか?

 恐らく何かが足りていなかったんだろう。

 でもいったい何が……


 俺は考え、二つのことが足りてないのだと推測した。


 一つ目は代償だ。

 レンという大事な一つの大事な命を助けるために払う代償が鱗と角の一部だけですむとは思えないのだ。

 だが、どれ位の代償ならば足りるのかという線引きが難しい。

 命を救うために命を犠牲することになっては元も子もないのだ。

 ジールダースの提案、鱗と角の一部を捧げるというのは、自分の体を犠牲にしつつ、でも回復できる範囲の代償なので、悪い判断ではないのかもしれない。

 適切な代償……難しい所である。


 二つ目は覚悟だ。

 ジールダース戦で気づいたが、悪夢の中の俺はレンがいなくなりそうになってもただ見ていることしかできなかった。

 何が何でも助けるという気持ちが足りなかったのだ。

 レンは助かるに決まっているという慢心が双竜の奇跡に影響を与えたことも否定できない。


 ただし、これは所詮俺の推測にすぎない。

 本当の失敗理由は全く違うものかもしれないが、それでも全く考えないよりもマシだろう。


 失敗を糧にして、今度こそ、必ず成功させる。

 俺はそう心に誓った。



 ジルが去った後に来たエルンとエナと合流し、ともにジールダースの元へと向かう。

 そしてジールダースの所へ着くと、ジールダースの他にジル、フィナが待っていた。



「あ、バルグ! 無事に起きてくれてよかった……」

「来たか、バルグよ」



 フィナとジールダースが俺を出迎えた。



「我が汝に伝えた必要なものはすべて揃った。だが、まだ足らないものがある」

「”代償”だろ?」

「そうだ。確かに汝に集めてもらった物はどれも貴重な物であり、それを捧げるということは大きな意味を持つだろう。しかし、本当にそれだけで”代償”になるのか我には疑問なのだ」

「ああ。種族を決定づけるものが何もないからな」

「そこで我は考えたのだが、我らの体の一部を献上するというのはどうだろうか?」

「鱗と角の一部を献上するってことか?」

「そうだ、よく分かったな」



 夢の中と同じ展開。

 確かにその鱗と角の一部を献上するという事は理にかなっている。

 だけどそれだけでは足らないのだ。



「俺もそのことに異論はない。だが、本当に”代償”はそれだけで足りるか俺には疑問だな」

「足りないというのか?」

「ああ。だからもし俺が”代償”のことで多少の無茶をしようとしても止めないでほしい」

「……そうか、分かった。だが、過度な無茶はするなよ?」



 ジールダースと俺は話し合った後、互いの鱗の一部を剥ぎ取り、角の一部を取った。

 そして巨大な魔法陣が書かれている広い空間へ移動する。



「では皆、配置につけ!」



 ジールダースがそう叫ぶと、十数名の地竜が一定の距離を保って魔法陣を囲む配置に付き始めた。



「バルグ、汝は魔法陣の中央にいき、必要なものを置くのだ」



 ジールダースの指示に従い、俺は魔法陣の中央に行き、儀式に必要なものを置く。

 生命の若葉、精霊の涙、深紅の宝石、地竜と天竜の鱗、角。


 そして白いほうぎょ……いやほとんど透明な宝玉。

 明らかに悪夢の中で見たよりも白くなく、ほぼ透明になってしまっている。

 多分時間ギリギリだから白さがほとんどぬけてしまっているのだろう。

 本当にレンの魂を復活させる期限までに間に合っているのか少し心配になる。


 俺が必要なものを置き終わると、ジールダースは魔法陣の中央に向かって歩いてきた。



「我も手伝おう。汝は少し中央から離れ、我と対角線になるような位置につくがよい」



 俺はジールダースに言われた位置につく。



「バルきゅん、頑張って~」

「無理はしないで」

「頑張るッスよー!きっと大丈夫ッスー!」

「信じてるわよ……」

「では、これより双竜の奇跡を行う。全員、魔力を魔法陣の中央に集めるのだ!」



 そうジールダースが叫び、双竜の奇跡の儀式が始まった。



 俺達はしばらく魔力を魔法陣の中央に集めることに集中する。

   

 すると宝玉が宙に浮き、魔法陣の魔力を吸い始める。

 ほとんど透明だった宝玉は、魔力を吸うにつれて白さが増していき、白く光り輝き始めた。


 悪夢の中で行った双竜の奇跡よりもおよそ二倍近くの時間がかかったが、何とか無事に魂を集められたようだ。

 ちなみに俺がジールダースの所へ向かう途中、エナに聞いた話によれば、俺は半日位寝ていて、今は7日目の昼間なのだという。

 タイムリミットぎりぎりではあったが、なんとかなったのなら問題はない。


 一つ懸念がなくなったことに安堵しつつ、再び俺は魔力を魔法陣の中央に集めることに集中する。



 少し経つと、魔力を吸った生命の若葉が、何かの肉体らしきものを形作る。

 次に魔力を吸った精霊の涙が、肉体らしきものと白く輝く宝玉を融合させる。

 その後、魔力を吸った深紅の宝石が、肉体の中に吸い込まれていき、肉体から生命の鼓動を感じられるようになった。


 これは悪夢のときと変わりない。

 順調である。

 だが、ここからが最大の問題だ。


 しばらくすると、地竜と天竜の鱗、角が宙に浮かび、肉体のようなものに吸収される。

 そして、肉体のようなものに地竜と天竜の鱗が混じったような鱗が体を形作り始め、頭には地竜と天竜の角が一本ずつ生えた、竜人族ドラゴニュートの体が顕現する。



『今度はどうだ……?』 



 俺は不安に思いながら竜人族の体を凝視する。

 体が形を持って少し状況が落ち着いたと思われたその時。



『ありがとう、バルグ……』



 そのレンの声が聞こえると同時に、無情にも竜人族の体が分解を始める。

 俺はたまらずすぐに竜人族の体のそばに駆け寄った!


 俺はこの状況になることをもう覚悟していた。

 そしてこうなってしまったとき、俺はどう行動するか、もう決めていた。


 ”代償”と”覚悟”が足りないと俺は考えている。

 では、何であればその二つを示すことができるのか。

 俺はひたすら考え続けていた。


 最も大きな”代償”としては、自分の命を捧げることが考えられるだろう。

 そして本気で命を捧げるのなら、”覚悟”も自然と発生する。

 だが、それでは自分が死んでしまうのだからレンに会えなくなってしまう。

 そんな展開を俺は望んでいないし、レンを悲しませることになるので却下だ。

 

 ではどうしたらいいのか?

 その答えは……



「グァーーーー!?」



 俺は悲鳴をあげる。

 俺の体から大量の血が噴き出し、竜人族の体が真っ赤に染まる。



「汝、何しておる!?」

「きゃー!?」

「バルきゅん、ダメだよぉ……」

「そんなことって……」

「バルグさん、なんてことを!?」



 周りから悲鳴が響き渡る。



「それでは汝は竜として生きていけないぞ!?」



 竜として生きていけない。

 そう。

 俺は自分の片翼――左翼を自分の手で引きちぎったのだ。

 

 天竜、いやこの世界の竜には皆大きな翼がある。

 竜にとっての翼は竜の象徴として大切にするものであり、移動も翼を使った高速移動がほとんどである。

 片翼しかなければ、移動もまともにできなくなるし、竜の社会では一人前の竜としてまともに扱ってもらえなくなる。

 翼を失うということは、一人の竜として生きることができなくなることを意味するのである。


 確かに翼を失った生活など俺には想像できないし、かなり不自由するだろう。

 だが、俺はそれ以上にレンがいなくなってしまった生活を想像できないのだ。

 想像しようとしても、とても絶望的な、後悔に包まれた未来しか見えないのだ。

 レンという一人の命を救うことは、俺にとって、翼を失う以上の価値があるのだ。

 だからこそ、レンを助けることができるのなら、翼を失うことなんて怖くない。

 儀式の為に翼を提供する。

 これこそが命以外で捧げることのできる最も大きな俺の”代償”、そして大きな”代償”を受け入れる”覚悟”なのだ。  


 だが、この代償は大きすぎたのかもしれない。

 俺の体からは血の流出が止まらず、辺り一面、血の海と化していた。

 このままでは出血多量で俺の命はないだろう。


 命を捧げずに行う代償をしたつもりだったのに、結局命まで捧げてしまうことになるとは。

 つぐつぐ俺ってバカだなと思った。

 だが後悔しても、もう遅い。

 

 俺の視界は徐々におぼろげになり、いつの間にか闇に包まれていた。

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