35.VSジールダース
俺達は必死に下山した。
逃げる俺達を火竜は追いかけてきて、炎のブレスを吐いて攻撃してくる。
俺とジルは火竜の攻撃から他のみんなを守るために、あえてゆっくりめに撤退している。
「バルグさん、何で火竜を攻撃しないんスか? バルグさんなら、逃げるなんてことしなくても普通に倒せるッスよね?」
「確かに倒せるさ。だが、考えてもみろ? この火竜って何も悪いことしてなくないか? 悪いのはエルンだろ?」
「そ、そうッスね……」
「だから火竜を無駄に傷つけたくないんだ。分かってくれ」
俺の言葉にジルは黙ってうなづく。
どうやら納得してくれたようだ。
本音をいうと、火竜を傷つけたくないというより、後に控えるジールダース戦の為に力を温存しておきたいのだ。
火竜を動けなくさせるには相当量の魔力を消費してしまうし、中途半端に攻撃すると火竜の攻撃がエスカレートする恐れがある。
なので、火竜をできるだけ刺激せず、必要なときだけ防御魔法を使って逃げた方が魔力の消費を抑えられるという訳だ。
回避できるなら回避し、回避できそうになかったら防御魔法を使う。
こうして俺達は火山から下山しきった。
「バルきゅ~ん、無事でよかった~」
「よかった」
「なんとか逃げ切れたようね……」
先に逃げていたエルン達が俺とジルを出迎える。
「あ、ああ……何とか逃げ切れている……かな?」
「どうしたの? その言い方? もしかしてまさか……」
そうフィナが言うと同時に俺の後ろから何かが近づいてくる。
グオォーーーーーー!!
そう、火竜である。
俺とジルは今まで火竜の攻撃をかわし続け、逃げ続けた。
そして火山を下山しきって地竜の洞窟まで行くことができたのだが、なんと火竜は地竜の洞窟まで追いかけてきたのだ。
すごい執念である。
火山地帯を抜ければ諦めてくれると俺は思っていたので、予想がはずれて困っている。
「騒がしいが何かあったのか?」
そう言ってやってきたのはジールダースだ。
そのジールダースは怒って火のブレスを吐いている火竜を一目見て状況を把握したようで、
「なるほど、火山にいる火竜をここまで連れてきたって訳か。なかなかやってくれるな」
恨めしげに俺を見てそう言いながらも、火竜の目の前に立ち塞がる。
火竜の体長は俺と同じ位で決して小さい訳ではないのだが、ジールダースと比べてしまうと子供のように見えてしまう。
まあそれは俺に対しても同じことが言えるのだが。
火竜は一瞬ひるんだものの、すぐに攻撃態勢へと移り、ジールダースに火のブレスを吐き出す。
しかし、ジールダースは全く動じない。
ジールダースの強靭な体は俺が張るシールドを遥かにしのぐ強度を持つだろう。
そんなジールダースの体には火竜のブレス攻撃程度では全く話にならない。
どんなに攻撃しても効果がないことに火竜は徐々にあせりを募らせていく。
「ふん、その程度か」
ジールダースはそう言うと、膨大な魔力を体から放出し、火竜を威圧する。
すると火竜は一気に戦闘意欲が削がれ、一目散に火山の方へと向かっていった。
火竜はなんて情けないのだろうと一見思えるかもしれないが、火竜が逃げ出すのも無理はない。
少し距離をおいていた俺でさえ、ジールダースの威圧を受けて足がすくみ、一瞬動けなくなったほどだ。
至近距離であの威圧を受けたら心に大きな恐怖感が植えつけられ、戦う意欲をなくしてしまうだろう。
意外にも、凄まじいジールダースの威圧を受けたにも関わらず、フィナ達は無事だったようだ。
どうやらフィナが近くにいる仲間をまとめて防御結界で包んでくれていたようだった。
多分直撃を受けていたら、誰かが気を失うということもあり得るので、フィナの判断はとても良かったと思う。
「バルグ、あまりそう無茶をするものじゃないぞ」
落ち着いてからジールダースにそう釘をさされる。
本当は俺じゃなくてエルンが悪いんだがな……
完全にとばっちりである。
まあ、でもエルンがいなかったら深紅の宝石を見つけるのは遅れていたんだよな。
だからあまり責める気になりきれなかったりする。
「この冒険でだいぶ疲れていることだろう。ゆっくりと休むがよい。その間に儀式の準備を少しずつ進めておくとしよう」
「いやジールダース、できるだけ早くに双竜の奇跡を起こしたいんだ。時間が惜しい、今できることは今やってしまいたいんだ」
「そうか。我は構わないが、汝は良いのか? 疲れているだろう?」
「ちょっと数分休憩すれば十分さ。その後にジールダースと戦えばいいんだろ?」
「そうだな。戦いについての詳細はそのときに話す。今は体を休めよ」
そういってジールダースは去って行った。
「バルグ、話がある。いい?」
「エナ、いきなりどうしたんだ?」
「私、未来を見てジールダース戦のこと知ってる。多分アドバイスできると思う」
どうやらエナが戦いのヒントをくれるらしい。
相手はあのジールダースだ。
無策でジールダースに挑もうとすると大きな怪我は避けられないだろう。
傷を癒す為に儀式を遅らせる事態を避けたいと思っていたので、エナの助言はとてもありがたいことである。
俺が見た悪夢の中ではジールダース戦が既に終わってしまっていたので、ジールダースに関する情報は全く持っていないのだ。
そんな状況で挑もうとしていた俺は焦りすぎていたのかもしれない。
エナの気遣いに感謝しつつ、話を聞くことにした。
エナの話を聞くと、ますますジールダースってバケモノなんだと痛感させられた。
だが、攻め手がない訳ではない。
そこをどう攻めるか。
俺にはそれを考えるしかない。
覚悟を決めた俺はジールダースの所へ向かった。
「もういいのか?」
「ああ、さっさと始めようか」
ジールダースの元へたどり着いた俺。
そんな俺をジールダースは心配そうな目で見てくる。
「気持ちが焦るのも分かるが、ちょっと待て。まずこれから行う戦いの勝敗条件を決めようと思う」
「勝敗条件?」
「そうだ。汝は少し休んだとはいえ過酷な火山から帰ってきた身。疲労がたまっているだろう。そこで少し配慮しようと思うのだ」
「配慮か……それはありがたいな」
ジールダースは俺が疲れていることを理由に勝敗条件の変更を提案してきたが、実際はただ単に実力が違いすぎるためにそう提案しているのだろう。
くやしいが、俺自身もジールダースと正面から戦っても勝てる気はしない。
また、俺がジールダース戦で目指すことは、ジールダースの打倒ではなく、なるべく怪我をすることなく乗り越えることがある。
怪我を軽減できる可能性がある提案であるなら断る必要などないのだ。
「汝の勝利条件は、我の体勢を崩すこと。敗北条件は、戦闘続行不可能になること。それでいいか?」
「ああ、問題ない」
「あと、この戦いの目的は、我が認める相手に汝がふさわしいか確かめることにある。認める相手でないと、危険な儀式の協力をする気持ちにはなれないからな」
地竜を認めさせる……か。
かつて双竜の奇跡を実現させた人間は、地竜と天竜それぞれから認められるために試練をうけたのだという。
俺の場合は、地竜の協力が必要だから、その地竜から認められる必要があるという訳だ。
俺自身が天竜なので、天竜の協力を得なくてもいいところは、人間よりも楽なのかもしれない。
「では汝からかかってくるがよい」
「ああ!」
こうしてジールダースとの戦いが幕を開けた。
ジールダースは相変わらず威厳に満ち溢れていて、近づくだけで恐ろしさを感じる。
だが、俺はひるまない。
俺だって種族は違くともジールダースと同じ竜族なのだ。
一矢報いる位はどうってことないはず。
「では遠慮なくいくぞ! 炎熱雷轟!!」
熱気をまとった雷がジールダースを襲うが、
「ふん、甘いな」
ジールダースは避けることなく俺の攻撃を真正面から受けた。
「直撃したから無傷ってことは……」
しかし、目の前のジールダースには俺の攻撃で負傷した跡が一切なかった……
「そんなものか?ならこちらもいくぞ!」
そう言ったジールダースが一瞬静止する。
何かくる!
とてつもない攻撃が……
「大地貫柱!!」
ジールダースが叫んだと同時に地面から現れた柱が俺の体を貫いた。
顕現した柱があまりにも早く、俺を襲ったので、避ける余裕なんてなかった。
反射的にとった回避行動のおかげでなんとか致命傷は避けられたが、攻撃は直撃し、出血は止まらない。
「くっ、早すぎる……」
「なんだバルグ、もう終わりか? そんな覚悟ではレンとやらを助けることはできないぞ?」
覚悟、か……
俺はレンを助けたい一心でこれまで行動してきた。
だが、本当にどんな困難があっても諦めない覚悟を持っていたことを自信持っては言えない。
悪夢の中で俺は双竜の奇跡が失敗するのをただ眺めることしかできなかった。
そう、諦めてしまっていたのだ。
そんな自分を叱りつけたくなる。
まだできることはあったんじゃないのか、何でやらずに見ているだけで終えてしまったのか。
きっと俺は怖かったんだと思う。
何かすることで失うことを。
そしてきっと甘えていたのだろう。
レンがいなくなるはずなんてないって。
でも現実は非情なのだ。
レンも一つの命に過ぎず、肉体をもたないレンはいついなくなってもおかしくない儚い存在。
そして双竜の奇跡でもレンの命を救える確率は、恐らく俺が想定していたよりずっと低いものなのだろう。
レンを救うのは困難。
そして困難を乗り越えるためになんだってする。
そう誓ったはずなのに……
多分俺にはレンを救う覚悟がなかったのだ。
レンを救うために双竜の奇跡をいかに成功させるかに気をとられ、ジールダース戦はとにかく早く終わらせようと軽く考えていた。
しかし、そんなに甘くはなかった。
ある未来の自分が乗り越えた道だからといって今の俺も乗り越えられると油断していたのかもしれない。
俺が見た未来の自分と今の自分は別人なのだ。
そのことは双竜の奇跡を成功させる可能性を残していることを示していると同時に、双竜の奇跡を行う資格を得られるとは限らないということでもある。
まだ決定事項ではないのだ。
とにかくどうしたらジールダースに勝てるか考える。
なるべく怪我をしないようにと思っていたが、とんでもない。
どんな大怪我をしてでも勝ちに行く覚悟でないと、ジールダースは倒せないのだ。
ジールダースの大地貫柱は非常に強力だ。
大地のどこから柱が顕現するか予測できず、目視した瞬間には既に自らの体を貫かれている。
今回は直撃したとはいえ、かろうじて致命傷を避けられたのは奇跡だと思う。
また避ける自信はない。
避けるといっても体のどこかには直撃してしまうのだから出血多量になって行動ができなくなってしまうだろう。
一回だ……
チャンスは次の一回のみ。
それで決める。
決めないと、俺の勝ち目はなくなる。
それはレンを救えなくなることを意味する。
そんなの俺は認めない。
絶対に決めてみせる。
「火炎加速!!」
呪文を唱えた俺はジールダースの左側に向かって駆け出す。
「まだ立ち上がるか、それでいい。こちらも再びいくぞ。グランド……」
「爆炎加速!!」
ギアをさらに上げた俺は、恐らくジールダースが予測しているよりもはるかに速く、ジールダースへと近づく。
加速を二段階で行って、予測を外すことでジールダースの二度目の大地貫柱は無傷で切り抜ける。
「むっ? バルグはどこ行った?」
俺はジールダースの認識から外れたわずかな隙に入り込み、一気に間合いをつめる。
そして……
「大爆発!!」
ジールダースの至近距離で放った俺の攻撃がジールダースのいる空間全体に影響を与える。
俺も例外ではなく、凄まじい大爆発によって体が吹き飛ばされ、体を強打してしまう。
ダメだ、もう動けない……
爆発がおさまってから目に見えたジールダースは右ひじを地面についていて、わずかに体勢を崩していた。
「バルグ、汝の勝ちだ……」
全く……俺の決死の一撃を受けてもそれだけで済むなんてどんなバケモノだよ……
俺は思わず苦笑いする。
でも勝ったのだ。
これでなんとか希望をつないだのだ……
安心した俺はその場で眠りについた。




