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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第二章 バルグの冒険
36/98

34.深紅の宝石

 地竜が住んでいる空間は、じめじめしつつも適温だった。

 だが、火山の方に向かうにつれて、徐々に気温が上がっていき、息苦しくなっている。



「バルきゅん~ボクもうダメかもぉ~」

「そうか、じゃあ俺達は先に行ってるから、エルンは待ってていいぞ」

「ちょっと~一人は嫌だよぉ~待ってよぉ~」



 エルンは俺を慌てて追いかけてくる。


 現在弱音を吐いているのはエルンだけだが、実際今の状況は厳しそうだ。

 エナは辛さからか、顔をうつむいたまま歩いている。

 またフィナもいつもより元気なく飛んでいるように見える。

 俺も歩くスピードが少し鈍っている。


 そんな中、一人元気なヤツがいた。

 ジルである。



「みなさん、元気ないッスねー! 早く来てほしいッスよ!」

「ジル、初めての冒険だからってそんなにはしゃがないでみんなのペースに合わせてくれよ」

「バルグさん、急いでるんじゃなかったッスか? 早く進んだ方が良い気がするッスよ!」



 まあ、ジルの言う事も正しいのだが、無理をしすぎると早く深紅の宝石を手に入れるどころか、命を落とすこともあるだろう。

 それでは元も子もない。



「ジルの言う事はもっともだが、俺達にはこれ以上スピードを上げる余裕がないんだ。すまないな」

「情けないッスねー。そんなことなら、オレがちょっと先に行って深紅の宝石を見つけてもってくるッス!」

「おい、待てっ!」



 制止を求める俺の声には耳を傾けることなく、ジルは火山の山頂方面へと向かっていった。

 ジルを一人にさせるのは何となくまずい気がするが、俺達にはジルを追いかける余裕がない。

 そのため、走り去っていくジルを誰も追いかけずに放っておくことにした。


 まあ、ジルはジールダースと同じ地竜で頑丈な体をしているからそう簡単にやられはしないだろう。

 ジールダースのお墨付きもあったしな。

 俺達は俺達のペースで進むだけだ。


 ジルと別れて少し経ったころ、エルンがふと口を開く。



「バルきゅん、暑さを緩和する魔法とかないの~?」



 そういえば、そんな魔法もあったような気がする。

 えーっと何だっけか。



「私が魔法をかけるわ。冷却空間クーリングスペース!!」



 フィナがそう呪文を唱えると、俺達の周りに冷たい空気が広がった。

 ずっと暑さにさらされてきた俺達は、待望の冷たい空気を浴び、一気に元気を取り戻した。

 


「どうして最初からこの魔法使わなかったの~? そうしたらこんな苦労する必要もなかったのに~!」



 確かにその通りだ。

 俺は完全に魔法で過酷な環境を緩和できることを忘れていた。

 まぁ、俺はどういう魔法を使えば良いのか忘れてしまっていたのだが、フィナが使えるのだから俺が使えなくても問題ないだろう。

 冷却魔法を使うのが遅れてしまった為に、歩むスピードが遅れ、ジルを一人で先に行かせてしまったことが悔やまれる。


 でも起こってしまったことを悔やんでも仕方ないので、さっさとジルが向かった方角に急ぎ足で向かった。 


 フィナの冷却魔法のおかげで俺達はスムーズに先に進むことができるようになった。

 先に進むにつれてマグマが所々から噴き出しているのが見えるほど、辺りは灼熱地獄になりつつあったが、問題なかった。 

 まさに魔法様様だな。



「フィナちゃん本当にありがとう~これなら火山も全然へっちゃらだよね~」

「いえ、むしろ私こそ魔法の事すっかり忘れててごめんね。何かこれからすることを考えていて頭いっぱいになっちゃってたわ」



 ああ、確かにこれからするべきこと多い。

 その中でもまずしなければいけないことは……



「バルグさーん、助けてほしいッス! 死んじゃうッス! まだオレ死ぬなんて嫌ッスよ!」



 ジルの救出だろうな。


 どうやらジルは火山に生息するマグマの塊の魔物に襲われているようだった。

 おそらくあの魔物は熱塊族ラバランプだろう。

 全身がマグマで覆われていて、その体に触れたものを容赦なく溶かすという。


 ジルは今、熱塊族のマグマの手で鷲づかみされ、今にも食べられそうになっている。

 ジルがマグマに触れているにも関わらずに怪我をしてなさそうな所を見ると、地竜ってやはりすごい頑丈な体をしているのだろう。

 

 ジルが助けを求めて慌てている様子を眺めているのも面白そうだと思ったが、それで見殺しにしてしまってはジールダースからどんな仕打ちが飛んでくるか分からない。

 ここは素直に助けるとしよう。



「仕方ないな。水変換アクアコンバート! 炎熱刃ヒートカッター!」



 俺が二つの呪文をとなえると、切れ味の鋭い水の刃が俺の手から発射される。

 水の刃がジルをつかんでいる熱塊族の手を切断し、ジルを熱塊族の拘束から解放する。


 

「さっすがバルグさんッスね! 助けてくれるって信じてたッスよ!」



 この前、俺の事を情けないとか言ってた気がするのだが、助けた途端にこの反応か。

 つくづく調子の良いヤツだな。


 切断された熱塊族の手は、自身の体の中に落ちて体の一部となり、再び新しく手が生えてきた。

 液体っぽい体を持つから再生力も凄まじいのだろう。


 熱塊族がまたジルを襲うのではないかと心配したのだが、不思議と熱塊族は大人しくなってマグマの中に入って行ってしまった。

 戦う必要があると思った俺は拍子抜けしたが、無駄に戦わずに済んだので良しとしよう。



 ジルと合流した俺達はさらに先へと進む。

 熱塊族に襲われるのではないかと心配していたのだが、全く襲われる気配はなかった。



「熱塊族はね、比較的穏やかな種族なのよ。だからそう普通は誰かを襲うってことはないはずなんだけど……」



 穏やかな熱塊族が人を襲うということはまず考えられないらしい。

 となると、明らかに原因となるのは……



「お、オレは何にもしてないッスよ! ちょっと用を足しただけッス!」



 熱塊族は体に不純物が付着するのを嫌うそうだ。

 だからジルを襲うことになったんだな。

 というか、ジルがやったことをやられたら誰でも怒るだろう。



「それにしても、皆さんさっきよりも急に元気になってるッスね? 何かあったんスか?」

「ああ。フィナが冷却魔法をかけてくれてるから暑さを感じずに済んでいるんだ」

「冷却魔法ッスか。そんな魔法に頼るようじゃまだまだッスよ、バルグさん! ほら、そんな小賢しい魔法なんか解いて、暑さに耐えながら冒険するッスよ!」



 ジルがなんか変な事を言い始めたので、俺は黙ってジルにおしおき(ブレイズプリズン)しておいた。



「うわっ! アチチ! な、何をするんスか、バルグさん! 暑い所でそんな魔法使わないでほしいッスよ!」

「いやぁ、暑さ足りなさそうに見えたからつい、な」

「そんなこと一言も言ってないッスよー!? 早く魔法解いてほしいッス!」



 色々とわめくジルを無視して俺達は先に進む。


 俺がジルにかけた炎熱牢獄ブレイズプリズンの効果がきれる。

 だが、ジルは全く怪我を負ってなさそうであった。

 さすがは地竜、頑丈だな。



 なんだかんだ話しているうちに、火山の山頂付近まで来たようだ。

 ずっと上り坂だったのだが、ここにきて地面が平らになっている場所にでたのだ。


 その場所を眺めると、赤く輝く石があちこちに点在していた。



「もしかして、あの辺に見える赤く光っているものって全部深紅の宝石だったりするのか?」

「そんな事ないと思うわ。深紅の宝石ってすごい貴重なものって伝えられているから、あんなにたくさんあるとは思えない」



 深紅の宝石じゃないだと?

 とりあえず近くにある赤く輝く石を手に取って確かめてみる。


 その石は真っ赤に輝いていた。

 夢の中で見た深紅の宝石と同じような見た目をしている。

 だが、この石からは溢れ出るエネルギーを感じることができない。



「多分その石は炎熱石ね。火山の山頂付近でよくとれる石よ。そこまで珍しいものではないわね」



 炎熱石か……

 となると、目の前の至るところに見られる赤く輝く石は、ほぼ炎熱石なのかもしれない。

 どれが炎熱石で、どれが深紅の宝石なのか……

 見分けるのは困難だろう。

 一体どうするべきか。



「フィナ、深紅の宝石と炎熱石の違いって何か分かるか?」

「うーん……炎熱石よりも深紅の宝石は内に膨大なエネルギーを蓄えているらしいんだけど、それだけじゃ分からないよね」



 膨大なエネルギーか……

 俺が悪夢の中で手に取った深紅の宝石からも確かに何となく溢れ出るエネルギーを感じていた。

 なので恐らく見分けるとすれば、フィナの言う通り、エネルギーを感じるかどうかだと思う。


 悪夢の中ではあるが、俺は実際に深紅の宝石を手にしたことがある。

 そのため俺が確かめれば、恐らくどれが深紅の宝石か見分けることはできるはずだ。

 であれば、やるべき事は一つ。



「俺は悪夢の中で深紅の宝石を手にしたことある。だから、みんなで手分けしてエネルギーを感じられそうな石を集めてきて、それを今いる場所に集めるっていうのはどうだ? そうしたら俺がまとめて判定できるからな」

「分かったよ~」

「バルグがそう言うなら……」

「頼りにしてる」

「了解ッス!」



 こうして深紅の宝石探しが始まった。


 俺以外のみんなが手分けして深紅の宝石候補となる石を集め、俺はみんなが持ってきた石を鑑定する。

 最初はエルンの番のようだ。



「バルきゅ~ん持ってきたよ~」

「うーん、どれどれ? あー全部違うな」

「え~本当に調べてるの~? もっとちゃんと調べてよ~」



 エルンが三つの石を持ってきたので三つの石をまとめて持ってみたのだが、どの石からも大きなエネルギーを感じられないのだ。

 炎熱石でさえ、多少のエネルギーを持っているものもあるのに、エルンが持ってきたものからはそんなエネルギーすら感じられない。

 一体どんな基準で選んできているんだ?



「エルン、一応聞くが、深紅の宝石の候補ってどうやって選んでいるんだ?」

「えっと~キラキラ輝いて綺麗なものを持ってきてるよ~だって貴重なものってことは、きっとすごい綺麗な石なんでしょ~?」



 うん、エルンには期待しないでおこう。


 続いてジルが石を持ってくる。



「バルグさん、持ってきたッス!」

「おう、どれどれ……というかこれ、炎熱石でもなくないか?」

「え? そうなんスか? エネルギーを感じる石ってバルグさん言ってたッスよね?」



 ジルは三つの石を持ってきた。

 そして確かにどの石からも比較的大きなエネルギーを感じられる。

 だが、ジルが持ってきた石は一目見て深紅の宝石でないことが分かった。

 なぜならジルが持ってきた石は――赤くないのだ。


 どうやら深紅の宝石は赤いということをジルは分かっていなかったらしい。

 名前からして紅ってあるから、色のことは分かりそうな気もするのだが……まあジルはそういうやつなんだろう。

 

 ジルにもちょっと期待できそうにないな。


 続いて石を持ってきたのはエナだ。



「バルグ、持ってきたよ」

「おっ、そうか。どれどれ……というかこれなんだ?」

「中に深紅の宝石、入ってる」



 エナが持ってきたのは氷漬けにされた何かだ。

 確かに中には赤くて、エネルギーを感じるものが入っていそうである。

 だが、恐らく中に入っているのは――マグマだろう。


 確かにマグマは赤いし、大きなエネルギーを秘めている。

 だけど明らかに炎熱石に似たものではないから、深紅の宝石じゃないと分かりそうなものである。

 というか、どうして適当にとってきたマグマが深紅の宝石だと思うのだろうか……


 エナにも期待できないようだ。


 残るはフィナだけとなった……。



「バルグ、この辺りにある石の中で大きなエネルギーを持つもの三つ持ってきたよ!」

「おお、そうか! どれどれ……確かに三つともエネルギーを感じるな」



 見た目も深紅の宝石と同様のものである。

 これはしっかりと調べる必要があると思い、一つずつ調べることにした。

 

 だが、残念ながら三つとも夢の中で手に取った深紅の宝石ほどのエネルギーを感じなかった。



「フィナ、どうやら三つとも違うみたいだ。せっかく集めてきてくれたのに悪いな」

「そっか……そうなるとこの辺りにある石は全部深紅の宝石じゃなさそうね。私が持ってきた石より大きなエネルギーを感じられる石はなかったもの」



 ここにある石は全部違うか……

 となると、深紅の宝石は炎熱石とは全く違う所にあるものなのではないか?

 そう思えてきた。


 俺がどうしたものかと悩んでいると、どこかからエルンが走ってくる様子が見えた。

 手に何かを持っている。



「バルきゅ~ん良い石みつけたよ~ほら、綺麗でしょ~」

「どうしたんだ、エルン? ……ってこれ、深紅の宝石じゃないか!?」



 驚くことにエルンが持ってきた石は、炎熱石と同じような見た目で、溢れ出るエネルギーを感じる、深紅の宝石だったのだ。



「これ、どうやって入手したんだ?」

「ここよりもっと奥に穴があいてる所があったの~その中に卵とこの綺麗な石があったから、石だけとってきたんだ~」

「そ、そうか……」

「石をとるときに、つい手を滑らせて卵を一つ割っちゃったんだけどね~てへ~」



 穴があいているところにある卵、そしてその卵が割れてしまった。

 それってつまり――



 グオォーーーーーー!!



 竜の卵を割っちゃったってことだな。

 これはまずい……


 怒った火竜が俺達の元へと迫り、炎のブレスを吐き出してくる。



熱防御ヒートプロテクト!!」



 俺が放った防御魔法によって火竜の攻撃を何とかしのぐ。



「おい、ここは危険だ。目的を達成したんだから、みんな早く戻るぞ!」



 こうして火山の逃亡劇が始まった。

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