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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第二章 バルグの冒険
34/98

32.悪夢

 俺は目を覚ますと洞窟の中にいた。

 洞窟といっても、先ほどまでいた魔光の窟ではないようで、暗くてじめじめした所のようである。

 ボーっとしていた俺に誰かが声をかけてくる。



「バルグさん、目覚めたッスか? 親父がバルグさんのこと呼んでたッスよ!」



 声をかけてきたのは一人の地竜だった。


 どうやら俺は地竜の洞窟にいるようだ。

 話しかけてきた地竜は体長5m位で、地竜としてはかなり小柄のように見えた。



「大事な話みたいッス。恐らく今日行う儀式についての話なんじゃないかとオレは思うッス」



 儀式?

 地竜との儀式と言えば……双竜の奇跡のことか?

 でも俺は魔光の窟で気を失って、まだ必要なものを集めていないはずなんだが。



「でも俺はまだ精霊の涙と深紅の宝石を集めていないぞ?」

「何寝ぼけてるんスか? バルグさんはとっくに精霊の涙は集めていましたし、深紅の宝玉に至っては昨日集めたばかりじゃないッスか!? ……もしかしてオレと冒険したことも忘れてたりしないッスよね?」



 ギクッ!

 そう言われても全く覚えがないのだから仕方がないだろう。

 でも知らないと素直に言ってしまうのもどうかと思う。

 どう言うべきか……



「ジルたん、バルきゅんの調子はどう~?」

「あ、エルンさん!バルグさん目覚めたッスよ!」



 どうやらエルンが様子を見に来たらしい。

 エルンの言葉のおかげでジルたんという地竜の質問を回避できたな。

 エルン、よくやった!



「バルきゅん~心配したよ~!? でも体の怪我も治ったみたいで良かった~! あ、そうそう、ジルたんも言ってると思うけど、ジールダースさんがバルきゅんのこと呼んでたよ~」



 どうやら俺を呼んでいたのはジールダースだったらしい。

 ジールダースから話となると、やはり双竜の奇跡に関する話なんだろう。



「じゃあオレは先に親父の所で待ってるんで、バルグさんも早く来るッスよ!」



 そう言ったジルたん、いや多分ジルというらしい地竜は遠くに飛び去ってしまった。



「バルグ、起きたのね。無事みたいで良かった」



 そう声をかけてきたのはエナだ。



「いや無事じゃない。バルグ、ボーっとしてて変」

「そうだね~何かあったの~?」



 この二人なら今の俺の状況を話してもいいと思えるので、素直にこれまでの経緯を話した。



「バルグ、記憶喪失?」

「ありゃりゃ~ちょっとまずい感じなんだね~」



 二人からかわいそうな者を見るような目で言われてしまう。

 いきなり記憶喪失になったなんて言われたら誰でもそう思うだろう。



「それに魔光の窟でバルきゅんが倒れることなんてなかったよ~? ちょっと双竜の奇跡を目前にして緊張しすぎてるんじゃない~?」



 魔光の窟で俺が倒れていない?

 それはどういうことなんだろうか?

 ここの俺は昨日までは普通に活動していたらしく、ずっと寝たきりなんてことはないようだ。


 せっかくなのでこれまでどう冒険してきたか聞いたことを整理すると

 四日目 魔光の窟を無事に通り過ぎ、妖精の里フィーティアで精霊の涙を入手。その後地竜の洞窟にて一泊。

 五日目 火山に行って、深紅の宝石を入手。地竜の洞窟に戻ってきた俺はジールダースと戦った後に一泊

 六日目 現在に至る

 ということだった。


 つまり今の状況は、必要なものが全部揃った上でタイムリミットまであと2日残っている余裕のある状態ということになる。

 だが、レンの魂が体から分離して八日目に双竜の奇跡を起こすと失敗したことが分かっているというだけで、本当は今日、六日目でも期限ギリギリ、もしくは手遅れになっている可能性すらあるのだ。

 油断はできない。



「ああ、全部思い出したよ。迷惑かけてすまなかったな」



 そう俺が言うと、エルンとエナはほっとした様子になる。

 それから少しエルンとエナと話しつつ、ジールダースの所へ向かうことにした。



「あ、バルグ! 無事に起きてくれてよかった……」



 ジールダースの近くにいくと、フィナと出会った。

 フィナはジールダースの近くで俺が来るのを待っていたようだった。



「来たか、バルグよ」



 ジールダースはそう相変わらずの低い声でそう言った。


 ジールダースの巨大で迫力のあるその姿は威圧感がある。

 ジールダースの隣にいるジルがまだ幼い子供のように見えてしまうほどだ。 



「我が汝に伝えた必要なものはすべて揃った。だが、まだ足らないものがある」

「足らないものって何だ?」

「”代償”だ。確かに汝に集めてもらった物はどれも貴重な物であり、それを捧げるということは大きな意味を持つだろう。しかし、本当にそれだけで”代償”になるのか我には疑問なのだ」



 代償か……俺達がこれから行おうとしているのは新しい肉体を創造し、その肉体に魂を注ぎ込むことだ。

 この世にない肉体を新たに創造するなんてことは常識的にはあり得ないことである。

 そんなことを成し遂げてしまうからこそ、これから行おうとしていることは奇跡だと伝えられ続けているのだ。

 そりゃあ何の犠牲、代償もなく起こせることではないよな。


 奇跡を起こすために必要なものの役割として、生命の若葉は肉体を形づくって命を宿し、精霊の涙は魂を肉体と結びつけ、深紅の宝石は肉体に血を通わせることがあると考えている。

 確かにその3つのものがあれば肉体も精神もあるし、問題ないように見える。


 だが、それらだけではどの種族の体になるのかが不明だ。

 どの種族の体か決めるものがないことが、奇跡の失敗につながる恐れを俺は感じている。

 種族を決定するものがないことをジールダースに言うと、



「確かにそうだな。そこで我は考えたのだが、我らの体の一部を献上するというのはどうだろうか?」

「自分の身の一部を捧げるという訳か。確かにそれなら俺達が”代償”を払うことにもつながるな」

「そうだ。そして捧げる部位についてなのだが――鱗と角の一部を考えている」



 鱗と角か。

 鱗と角は地竜や天竜の象徴のようなものだし、体の構成を決定付ける為に役に立ちそうである。

 それに鱗や角の一部を失っても、時間が経てばまた元通りになる。

 決して悪い代償ではないように思える。



「それが良さそうだな。そうしよう」



 そう俺が言ってから、ジールダースと俺はそれぞれ鱗の一部を剥ぎ取り、角の一部を取った。

 当然その際に激痛が走るのだが、レンを救うためならこれ位の困難は気にならない。

 俺はそういう思いがあるからなんとか耐えられた。

 でもジールダースはそういう事情がないにも関わらず、全く表情を変えることなく鱗と角の一部をとって俺に渡してきた。

 なんて強い竜なのだろうと改めて思わされた。


 必要なものを全て揃えた俺達は地竜の洞窟の中で最も広い空間へと移動した。

 そこには巨大な魔法陣のようなものが書かれていた。

 地竜って魔法を使わない印象があったから驚きである。



「この魔法陣って誰が書いたんだ?」

「それは我を含む数人の地竜で書き上げたものだ。人間が使う魔法陣とは一味違う、いにしえのものである」



 いにしえの魔法陣か。

 俺は本を読むことで、人間が使う魔法陣をある程度把握している。

 だが、そんな俺でも地竜が書いたこの魔法陣の仕組みは全く理解できない。

 根本的な理論からして違うものなのかもしれない。



「では皆、配置につけ!」



 ジールダースがそう叫ぶと、十数名の地竜が一定の距離を保って魔法陣を囲む配置に付き始めた。

 今更ながら、これから行おうとしていることは非常に大きなことなんだと実感させられる。



「バルグ、汝は魔法陣の中央にいき、必要なものを置くのだ」



 ジールダースの指示に従い、俺は魔法陣の中央に行き、儀式に必要なものを置く。



 生命の若葉――フロセアで町長からもらったこの葉は淡い緑色に少し輝きを放っている。

 精霊の涙――小さな瓶になにやら液体が入っているようで、見た目にはただの水と変わらない。

 深紅の宝石――真っ赤に輝くその石から溢れんばかりのエネルギーを感じる。

 地竜と天竜の鱗、角――痛みを我慢してとった、レンの復活に捧げる”代償”である。


 そして、白い宝玉――レンの魂が入っているはずである。俺がコーボネルドから持ち去ったときよりも白さがぬけて透明になっているような気がする。




 俺が必要なものを置き終わると、ジールダースは魔法陣の中央に向かって歩いてきた。



「我も手伝おう。汝は少し中央から離れ、我と対角線になるような位置につくがよい」



 あの屈強なジールダースが最前線でともに双竜の奇跡を行おうとしてくれるというのだ。

 正直心強い。

 俺はジールダースに言われた位置につく。



「バルきゅん、頑張って~」

「無理はしないで」

「頑張るッスよー! きっと大丈夫ッスー!」

「信じてるわよ……」



 エルン、エナ、ジル、フィナは遠くから見守ってくれている。  



「では、これより双竜の奇跡を行う。全員、魔力を魔法陣の中央に集めるのだ!」



 そうジールダースが叫び、ついにレン復活の為の儀式が始まった。



 大丈夫だ、うまくやれる。

 そう自分に言い聞かせながら、俺も魔力を放出し始めた。 


 魔力を魔法陣の中央にしばらく集めていると変化が起きる。

 白い宝玉が宙に浮き、魔法陣の魔力を吸い始めたのだ。

 白い宝玉は魔力を吸うにつれて白さが増していき、白く光り輝き始めた。



「うわっ、綺麗だな……」

「バルグ、すごいうまくいってる。未来は変わった!」



 どうやらエナが見た未来の俺はこの時点で双竜の奇跡を失敗させていたらしい。


 白い宝玉の白さはレンの魂の密度だと考えている。

 白い宝玉が白くなっていき、光り輝いているということは、恐らく拡散したレンの魂が再び集まってきている状態なのだろう。

 この時点で失敗してしまうということは、レンの魂を集めることができないということ。

 つまり、レンの魂が拡散しすぎて魂を集めることもできないほど手遅れになってしまっているということだろう。


 だが、今の俺はエナが見た未来の俺より二日もはやく双竜の奇跡の儀式を行っている。

 故に手遅れにならずに魂の集積に成功したのだろう。

 俺は少し安堵する。

 だが、まだまだ儀式は始まったばかりで気を抜けない。

 俺は再び魔力を魔法陣に注ぐことに集中した。



 また少し経った頃、今度は生命の若葉が宙に浮かび上がる。

 魔力を吸った生命の若葉が、何かの肉体らしきものを形作る。


 次に精霊の涙が宙に浮かび上がる。

 魔力を吸った精霊の涙が、肉体らしきものと白く輝く宝玉を融合させる。

 

 その後、深紅の宝石が宙に浮かび上がる。

 魔力を吸った深紅の宝石が、肉体の中に吸い込まれていき、肉体から生命の鼓動を感じられるようになった。



「すごい、どんどん形になっていく……」

「これが双竜の奇跡か~何か生命の誕生を見ているようで神秘的な光景だよ~」

「ほんと、見とれてしまうッスね」

「奇跡って素敵ね……」



 ここまで順調にきている。

 双竜の奇跡を成功させるのは困難と言われていたが、意外とあっさりうまくいきそうである。

 おそらく地竜と天竜の仲が悪くて交流がしばらく行われていなかったから、双竜の奇跡自体起こそうとする人がおらず、実現例がほとんどなかっただけなんじゃないかと思えてくる。

 

 だが、油断は禁物だ。 

 レンの魂が無事に集まり、レンの体となるものもほとんど出来上がってきてはいるが、まだレンが無事に復活するとは限らない。

 最後まで気を抜いてはいけないのだ。



「まだ儀式は終わっていない。皆、油断せずに集中せよ!」



 ジールダースがそう叫び、周りの地竜は気持ちの緩みを引きしめる。

 

 そうだ、まだ終わっていないのだ。

 俺は魔法を注入することに集中する。


 しばらくすると、ついに地竜と天竜の鱗、角が宙に浮かび、肉体のようなものに吸収される。

 そして、肉体のようなものに地竜と天竜の鱗が混じったような鱗が体を形作り始め、頭には地竜と天竜の角が一本ずつ生えた。

 竜の鱗を持ち、頭に竜の角を生やすその姿は竜人族ドラゴニュートの体であった。

 体が生成し終わろうというときになって



『ありがとう、バルグ……』 



 そうレンの声が聞こえたような気がした。



『レン……? レンか!? もう少しでお前と会え……』



 しかし、次の瞬間、事態が急変する。

 竜人族の体が再び分解し始め、形がくずれていったのだった。



「な、何が起きているんだ!?」



 ジールダースは驚く。

 周りの地竜達、フィナ達も動揺する声が聞こえる。



「レン、何があった!?しっかりしろ!」



 俺は竜人族の体のそばに夢中で駆け寄っていた。

 そしてレンに必死に呼びかけたのだが、レンからの返答は全くない。

  


「頼む、復活してくれ……一人にしないでくれ……」



 しかし、俺の思いもむなしく、竜人族の体は徐々に形を失い、ついに完全に消え去ってしまった……

 魔法陣も消滅し、周りの地竜やフィナ達は何が起こったか分からないという様子で呆然としていた。


 

「冗談だよな……冗談だって言ってくれよ、レン……!!」



 俺はただ一つ残されたレンの残骸、二つに割れた白い宝玉を手に持ちながらそうつぶやく。

 そして二つに割れた白い宝玉も、白さが抜けて、透明になり、俺の手元から消え去ってしまった。

 俺の手に残ったのは、俺の無念と無力さを示す涙だけであった。



=======



「バルグ、バルグ、しっかりして!」



 フィナの声だ。

 俺はゆっくりと起き上がる。



「ん? フィナか? ここは……家の中か?」

「ええ、私の家まで運んできたの。あなた、いきなり倒れてしまうんだもの。びっくりしたわよ!?」

「えっ……ということは、さっきのは夢……? 双竜の奇跡はまだ行っていない?」

「当たり前じゃない! 必要な道具もまだ集めきっていないわよ!?」



 さっきのは夢。

 つまり、まだ双竜の奇跡は失敗していない。


 俺は自分が持っている白い宝玉を確認する。

 うん、まだ白さは残ったままだ。

 つまり、まだチャンスはある。


 俺はまだやり直せることに安堵し、静かに涙を流すのだった。

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