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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第二章 バルグの冒険
33/98

31.魔光の窟

 レンの魂を救うまでに残された時間はあと4日である。

 あと2つも必要な物があることを考えると、ペースを上げることは欠かせない。

 でも、フィナのおかげで精霊の涙を入手する目途がたった。

 今日一日で精霊の涙を入手できればだいぶ余裕が生まれるだろう。

 気を引き締めなければ。


 朝早くに起きた俺達は早速村から出発する準備をする。



「でも、なんか不思議ね。バルグも私達と一緒に旅をしていたってことだよね?」

「ああ、そうだな。俺とレンは同一人物みたいなもんだったからな」

「同一人物かぁ~どういう感じだったの~?」

「そうだな……自分が体を動かすときは別に今とそこまで変わらない。レンが体を動かしているときは感覚が鈍くなって遠くから見守っている感じだったな」

「遠くから見守る……バルグはレンの保護者?」

「ああ、危なっかしいレンをいつも見守っていたぞ!」



 実際は俺の面倒をレンが見てくれていた感じが強いのだが。

 まあ、今はちょっと嘘ついても誰も分からないだろう。

 それにレンを見守っていたことは本当である。

 ちょっと厄介事をレンに押し付けていただけだ。



 準備ができた俺達はオーズド村から出発した。

 先導するフィナに俺達はついていっている状態である。

 どうやらオーズド村から北の方角にある妖精の里フィーティアへと向かうらしい。



「妖精の里か……別に歩いていかなくても俺が飛んでいった方が早く着いていいんじゃないか?」

「本当はそうできたらいいんだけどね。妖精の里には簡単に入れないように複数の結界がはられていて、空から飛んで見つけることが難しいのよ」

「フィナが一緒にいるんなら、別に迷ったりはしないんじゃないか?」

「いや、私でも厳しいと思う。感覚を狂わす結界が上空に張られているから、正確な方向も分からなくなっているの」

「そうか、それなら仕方ないな」



 すぐに妖精の里にたどり着いて妖精の涙を手に入れるなんてそんな甘いことはないようだ。

 まあそれは仕方ないだろう。


  

「妖精の里までは歩いても半日かからずに到着すると思うわ。だからそんなに焦らなくていいと思う」



 フィナの言葉によって、俺の気持ちは少し落ち着いた。

 残り時間が限られている中で、こんなにのんびり移動していていいのか、それだと移動に時間がかかりすぎてレンの魂を救う期限に間に合わないのではないかという不安があったのだ。

 

 時間に対する懸念は和らいだ。

 あと気になるのは、妖精の里まで無事にたどり着けるのかどうかだ。



「フィナ、飛んで妖精の里にたどり着くのは厳しいって言っていたが、陸路でも厳しいんじゃないか?」

「甘くはないけど、私がいつも通っている道を使うから、迷うことはないはずよ。上空に比べて陸路は結界の影響が弱いからなんとかなると思うわ」



 俺達がこれから進む道は心配するほど厳しいものではないらしい。

 だが今度は、陸路が手薄だと妖精の里の防衛は大丈夫なのかと不安になる。

 空を飛ぶ魔物よりも陸を歩く魔物の数の方が圧倒的に多いんだし。



「フィナ、陸路の結界が弱かったら妖精の里が魔物に襲われるリスクとかあるんじゃないか?」

「それは大丈夫。上空に比べると弱いっていうだけで十分結界の影響を受けるから、妖精の案内がないとまず里までたどり着けないはずよ」



 どうやら、里が襲われる心配はないようだ。

 一安心である。


 しばらく歩いていると、洞窟の入り口のようなものが見えた。



「この洞窟を抜けた先に私達の里、フィーティアがあるわ。迷うと抜け出すのが難しくなるから、絶対私からはぐれないでね!」



 フィナの言葉にうなづいた俺達は、洞窟の中へと入っていった。




 洞窟の中は赤、青、緑など様々な色で光り輝く石に囲まれていた。

 外よりも明るいんじゃないかと思えるほど洞窟の中は石によって明るく照らされていた。

 洞窟というと、中が暗闇になっていることがほとんどなので異様な光景である。



「うわ~綺麗だな~ねえねえ、この石持って帰ってもいいかな~?」

「素敵。私も持って帰る」



 エルンとエナは光る石を見てうっとりしている。



「その気持ちも分かるけど、やめておいた方がいいわ。その石って幻覚作用があるから、結構危ないものなのよ」

「そんなぁ~そんなのってないよ~」

「こんな綺麗なものが盗まれずにいるのはそういうことね」



 確かに光り輝く石は思わず見とれてしまうような魅力がある。

 そんな石がそこらじゅうにたくさんあるこの洞窟の中はとても美しいもののように映るだろう。

 だが俺には逆に、その輝きが気味の悪いものに次第に見えてきた。

 これは幻覚作用によるものなのだろうか?



「なあ、フィナ。なんだか気持ち悪くなってきたんだが、おかしいか?」

「無理もないわ。この石は魔力をねじ曲げる効果があって、多くの魔力を持つ人ほどその影響を強く受けるわ。だから、多くの魔力を持つバルグが気分悪くなるのはおかしくない」



 魔力をねじ曲げる……か。

 おそらくその効果が続くと、方向感覚や物を認識する力が狂ってきて幻覚が起こるんだろう。

 あまり魔力を持たない者であっても、影響を受ける早さが遅いだけで徐々に石の効果を受け、幻覚に襲われるのだ。

 とても恐ろしいことである。

 

 もし妖精の里にたどり着けずに永遠とこの中にとどまってしまえば、幻覚の影響をより強く受けるようになっていって、脱出は不可能になることも想像できる。

 妖精がいないと妖精の里にたどり着けないというカラクリはここにあるように思えた。



「バルグ、ちょっとじっとしていて」



 そう言ったフィナは俺に魔法をかけた。

 フィナの魔法を受けた途端に、気持ち悪い感覚がだいぶ和らいだ。

 おそらく魔力を正常化させる類の魔法をかけてくれたのだろう。



「助かる、ありがとうフィナ」

「気にしないで。それより、早く妖精の里にたどりつかないと大変なことになるわ」

「ああ、おそらく感覚がやられて、ここからの脱出がほぼ不可能になるだろうな」

「ええ。――魔光の窟。この洞窟はその名で言われているわ」



 魔光の窟。

 洞窟の中を満たす光は、一見ただの輝く光にしか見えない。

 だが、少し異変に気付いたが最後、感覚が狂ってしまって、来た道を戻ることもままならず、脱出不可能になってしまうのだ。


 俺は書物でその名前だけ聞いたことがあるが、実際に目の当たりにしたのは初めてである。

 油断をさそって、気づいたときにはもう手遅れな状況に追い込むこの洞窟はまさに魔窟と言えるだろう。

 

 フィナは俺にかけた魔法をエルンとエナにもかけてくれた。

 そして俺達はフィナの先導のもと、急ぎ足で魔窟の中を進むのだった。



 それから俺達は魔窟の中を一時間ほど歩き続けた。

 フィナの案内があるから迷わずに妖精の里フィーティアに向かっているはずなのだが、全く進んでいる感じがしない。

 なぜなら魔窟に入ってから壁にびっしりはりついた光る石であふれる光景がひたすら広がるだけだったからだ。


 幻覚作用を防ぐ魔法をフィナにかけてもらったはずだが、なんだか気持ち悪さを感じる。

 変わり映えのしない、永遠と同じ所を歩いていると、いつまでこの状況が続くのか気が滅入ってしまうのだ。

 もしかしたら気持ち悪さは、幻覚の影響を少しずつ受け始めていることの表れかもしれないが。



「みんな、もう少しの辛抱よ! あと2、3分歩けば着くはずだから!」



 フィナがみんなを鼓舞する。


 こんな鬱々としそうな状況で元気づけようとするフィナはすごいと思う。

 フィナが精霊の力であとどれ位歩けばいいのか把握できていて、終わりが見えているから元気なのだろうか?

 魔窟に入って間もない頃にはしゃいでいたエルンやエナもすっかりと疲れ切った表情である。


 ずっと変わらない光景が続いていたが、ついに変化が訪れる。

 狭い通路やちょっとした部屋のような空間が広がることが連続していたのだが、この魔窟に来て初めて広い空間に出たのである。


 100人位がいても全く窮屈さを感じさせないほど広い空間には虹色に光る石がそこら中にはりついていた。

 いままで通ってきた道は、赤、青など単色に光る石しか見かけなかったので、同じ光り輝く空間でありながら、新鮮味を感じた。


 また、空間の中央には大きな虹色の結晶が光り輝いていた。

 透き通るような美しい色合いであるその巨大な結晶に俺はつい目を奪われてしまう。



「あんな結晶あったっけ……みんな、気を付けて!」



 フィナはそう言って、警戒を呼びかける。

 エルンとエナもフィナの言葉を聞いて立ち止まったようだった。

 だが、俺の足は自然と結晶の方へ向かっていった。



「バルグ、何してるの!?危ないって!」



 そうフィナは叫んでいるが、俺の歩みは止まらない。


 もう俺には周りの状況が分からなくなっていた。

 フィナが俺を呼び止めていることも、エルンやエナが俺を心配そうに見ていることも分からなかった。

 なぜなら――



「レン、待ってくれ……」



 俺の目の前には一人のコボルド、レンがいたのだから。

 レンは微笑むと、巨大な結晶の方へと向かっていき、結晶の中へと消えた。

 俺はレンを追いかけるのだが……



「バルグ、幻覚を見ているのよ! しっかりして!」



 結晶の近くまで来た所で俺は倒れこんでしまった。

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