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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第二章 バルグの冒険
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28.フロセアの危機

 走り続けたエナと俺は生命の源泉フロセアにたどり着いた。

 フロセアの中央には巨大な樹があるのが印象的だ。

 町には二階建てのちょっと古めな木製の家が立ち並んでいる。


 フロセアの町は住民が右往左往していて落ち着きがない。

 多分ブロドーアの汚染がすぐそばまで迫っているのだろう。



「バルファ、こっちだよ!」



 エナがそう言って、大樹の方へ向かっていく。

 俺もエナについていった。



 大樹の近くまでやってきた俺達は、フロセアの町がいかに危機的状況に陥っているか実感させられた。

 大樹は町の中央にあり、少し丘のようになって周りを見渡せる高所にある。

 なので町全体を見渡すことができるのだが……



「これはひどいな……」

「私が気を失う前はもっと被害は少なかったのに……」



 俺達が町に入った反対側が既にブロドーアの腐食の影響を受け、黒く不気味な土地に変わってしまっていたのだった。

 そして腐食の作用は今も続き、エルフの魔法使い達が必死に腐食を食い止めようと頑張っている。



「こんな状況、どうしたらいいっていうんだ……」

「でも、あきらめる訳にはいかない」

「そうだな。俺達もできる限りのことをするんだ」



 言葉を交わした俺達は、腐食を食い止めようとエルフの魔法使い達の援護にまわる。



「助けに来たぜ!」

「ああ、ランドリザードさんか。こんな所まで来るとは珍しい。悪いが、この町はもう……」

「ごちゃごちゃ言ってないで、目の前の腐食を食い止めることに集中だろ!?」

「ああ、悪いな、でも君みたいなランドリザードでは魔法―――」



 俺は魔法使いの男と言葉を交わしたあと、呪文を唱える。



「いくぜ! ファイアーボール!」



 俺が放った火の玉は、腐食した黒い物体を少し押し返す。



「おお、かなりの威力の魔法だ! 君、やるなあ!」



 でも、押し返した分だけまた黒い物体があふれだしてくる。



「やっぱり普通の魔法じゃダメか。例の魔法使うしかないのかよ、クソッ!」



 腐食する黒い物体はヘドドのような汚泥族スラッジダートを相手にするように、神聖魔法でないと数自体を減らせないのだろう。

 非常に厄介である。

 ヘドドのようなある一定量の黒い物体であれば神聖魔法で少しずつ数を減らしていけばいい。

 だが、今回のような非常に大規模な黒い物体となれば話は別だ。

 いくら俺の魔力がたくさんあるといっても、限度がある。

 それ以前に神聖魔法を連発しすぎることによって俺の体がだいぶ傷ついてしまうだろう。

 一回に受けるダメージが少なくても、ダメージが累積してしまえば、致命傷にもなり得るのだ。


 それに神聖魔法を使えるのは俺以外にはいないものと考えると、黒い物体の数を減らせるのが俺だけということになる。

 それでは黒い物体を減らすスピードよりも、増殖するスピードが上回って、時間稼ぎにしかならないのだ。

 結構絶望的な状況である。


 どうしようもない状況に気が滅入る俺。

 そんな時、遠くから状況に似つかわしくない明るくおどけた声が聞こえてきた。



「バルきゅん、ひどいよ~置いてくなんて~!」



 その声の主はエルンである。

 そういえば置いてきたんだっけな。

 まあ、エルンだし問題ないだろう。

 それよりもこの場所は危険なので、エルンに近づかないように声をかけようとしたのだが……



「エルン、ここは危な―――」

「あ、バルきゅん危ないよ~! それっ!」



 エルンが何か白い粉末をまいたようだ。

 そして白い粉末がかかった黒い物体は瞬時に消え去った。


 え……消え去った……だと……

 何が起きたか分からない。

 なんでこんな俺達が苦労していることをエルンが簡単にやってのけてしまっているのだろう……。



「え……エルン、一体何をしたんだ……」

「え? 何って、女の子を腐食から守る為に使った抵抗物質レジストマテリアルを黒い物体にぶつけただけだよ~?」



 腐食に対抗するための物質か……

 そういえばエナの腐食の原因は黒い物体なんだよな。

 ならエナの腐食をなくす物質というのは黒い物体を消滅させる性質を持つということか。

 これって、かなりすごい技術だし、俺達の活路を見いだせないか!?



「エルン、その物質を量産して、俺達も使えるようにできないか?」

「できるよ~? ちょっと時間かかっちゃうかもしれないし、黒い物体の採取が必要なんだけどね~」

「そうか、じゃあ黒い物体は俺が採取するから、エルンはその抵抗物質を量産してエルフのみんなに渡してくれ!」

「うん、分かった~頑張るね~」



 こうしてエルンと俺が連携することで、黒い物体への対抗策となる抵抗物質の量産をすることに成功した。

 量産された抵抗物質をエルフが使うことによって、黒い物体の侵攻が止まり、一転フロセアの町から追い出すことすらできるようになったのだった。


 エルンの発明した抵抗物質を使うことによって、俺達の攻勢は続いた。

 町から黒い物体を押し出し続け、ついに町から黒い物体を完全に追い出すことができたのだ!



「やった! 町から黒い物体を追い出せたぞ!」

「本当にすごいなこれ! あの猿何者なんだ? 初めて見るぞ?」

「おい、まだ油断するなよ! これから町に侵攻されないようにまだ黒い物体を倒さないといけないんだからな!」



 エルフがそう口々に言う。

 

 町の外に出てからも、俺達の攻勢は続く。

 抵抗物質の扱いに慣れたエルフは少ない量で多くの黒い物体を消し去るような効率的な攻撃方法が身に付きつつあり、黒い物体をより早く消滅できるようになっていった。

 これなら、フロセアから黒い物体を守りきることはさほど難しくないし、安全を確保するのは時間の問題だと思えた。


 しかし、異変は起こる。



「おい、なんかあっちの方の黒い物体おかしくないか?赤みを帯びているような気がするんだが……」



 そうエルフの男が言う。

 そのエルフが見つめる先には、確かに黒い物体ではなく、赤い物体もその中に混じっている様子が見えた!

 遠目に見えた赤黒い物体は徐々にエルフの方へ迫っていく。



「まあちょっと色が違うだけで問題ないだろう。ほらよっ!」



 エルフの男が手慣れた感じで赤黒い物体に向かって抵抗物質をかける。


 しかし、赤黒い物体の侵攻は止まらない。



「な、何が起きているんだ? こいつは黒い物体とは違うのか!?」



 赤黒い物体には抵抗物質が効かないという事実が広がるまでには時間はかからなかった。

 そしてその事実が広まるにつれ、落ち着いていたエルフ達は再びパニックに陥る。

 その混乱は町の入り口付近にいる俺やエルンのもとにも届く。



「抵抗物質が効かない赤黒い物体……? そんなやつがいるのか?」

「はい、始めは遠くの方になんとなく見えている程度だったんですが、徐々に私達の方へ侵攻されています。このままでは再び町が襲われるのは時間の問題です」



 赤黒い物体か……新たな悩みの種が増えたものだ。

 恐らく赤黒い物体に抵抗物質が効かないのは、赤黒い物体が黒い物体とは違う性質を持つからだろう。

 エルンが作った抵抗物質は、黒い物体に対する抵抗物質なので、違う物質に対して効果を発揮しないのは簡単に予測できる。



「エルン、赤黒い物体の解析と抵抗物質の作成はできるか?」

「もちろんできるよ~ただ作るのに時間がかかるし、その間黒い物体に対する抵抗物質が作れなくなっっちゃうけどいいかな~?」



 そう、エルンは非常に優秀なのだが、当たり前なことに一人しかいない。

 黒い物体の抵抗物質を作れるのはエルンだけなので、そのエルンが他の作業に取り組んでしまったら、今度は黒い物体への対抗策も途絶えてしまうのだ。

 今の段階では赤黒い物体よりも黒い物体がほとんどなので、黒い物体への対抗策がなくなってしまうのは避けたい。



「エルン、やっぱりこのまま黒い物体の抵抗物質の作成を続けてくれ、赤黒い物体の侵攻がもう少しひどくなるまでは我慢だ」

「うん、分かったよ~」



 こうするのが最善だと俺は思う。

 まだ赤黒い物体の侵攻はそこまで進んでいないので、魔法を放ったりして侵攻を食い止めつつ、周りに多く存在する黒い物体を消滅させていくのだ。


 この方法を続けることによって、赤い物体が増えるものの、黒い物体が減り、現状をなんとか維持することができていた。

 しかし、また異変が訪れる。



「あれなんだ? なんか緑色の混じったやつがこっちに向かってくるぞ……?」



 どうやらまた新たな物体がやってきたようだった。


 この新しい物体の襲来には頭を抱える。

 エルンが作成できる抵抗物質は一種類のみ。

 抵抗物質を作った種に対しては対抗できるが、抵抗物質がない二種類の物体には為す術がないのだ。

 自然と俺達は劣勢に立たされてしまう。

 どうしたものか……



「おい、緑の物体がなんか進む方向を変えたぞ!」



 どうやら緑の物体は他の物体と違う動きをしているらしい。



「うわっ、緑の物体がこんなところからやってきたぞ!? まずい!」



 そう叫んだエルフの声が近くから聞こえてきた。

 どうやら緑の物体が俺やエルンのすぐそばに近づいてきているようだ。



「エルン、お前はここで抵抗物質の作成を続けてくれ、緑の物体は俺が食い止める!」

「うん、バルきゅん、気を付けてね~」



 エルンの見送る声を聞き、俺は戦地へと向かう。

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