3.初めての戦い
殺気を感じた僕は無意識に真横にジャンプをしていた。
すると、先ほどまで僕が立っていた部分が何かの液体によってえぐられている所が見えた。
ぼーっと立っていたら間違いなくあの液体に溶かされていただろう。
軽く2メートルはありそうだな、この赤蛇。
こんな奴に勝ち目なんてないでしょ!?
そう思った僕は逃げようとしたが……
「キシャーーーーーー!!!」
その鳴き声と同時に回り込まれてしまった。
なんという素早さだろう……
『バルグ! こいつからなんとかして逃げられないの!?』
『逃げる? 何言ってるんだ? お前のその足で逃げ切れるわけないだろうが!』
僕の折れかけている心をさらにえぐるバルグの発言。
じゃあどうすればいいって言うんだよ!?
『僕はもうここで死ぬしかないっていうことなの?』
『なんで逃げられないからってすぐ死ぬって決めつけるんだ? 倒せばいい話だろ!』
なんと無茶な事を言うんだろうか、この竜は。
逃げられない相手を倒すだって?
冗談じゃない。
いや、待てよ?
確かに蛇の動き自体は速いのだが、蛇の攻撃速度はそこまで速くない。
つまり、無防備に背中をさらして逃げるよりも蛇の攻撃を避け続けるほうがずっと安全なのではないか?
でもだからといってどう倒せばいいのかは想像もつかない。
『攻撃を避け続けることはなんとかできそうだけど、攻撃なんてできないよ!?』
『まぁ、確かにそうだな。レンは初めての実戦になるんだし、いきなり強敵とあたって勝つなんて難しいよな』
『期待に沿えなくてごめん』
『いや、むしろ強敵相手に一回も被弾せずに避け続けているだけでも大したものだ。そこで提案なんだが、あと三十秒位持ちこたえてくれないか?』
『三十秒? それでどうするの?』
『それだけ持たせてくれたら、俺が一撃であの蛇を倒してみせる。頼めるか?』
『うん、それ位だったら任せて!』
『よく言った。お前と俺は二人で一人だ。その抜群のコンビネーションをこの戦いで証明してみせようじゃないか!』
バルグの言葉によって絶望に打ちひしがれていた僕の心に明かりが灯った。
ただ避けるだけという消極的な行動がこの瞬間、勝利への軌跡となったのだ。
バルグが僕に蛇からの攻撃を避けるということを任せてくれた。
ならば、僕はそのバルグの期待に沿うように全力を尽くし、後はバルグに任せよう、そう心から思えたのだった。
『絶対に持ちこたえて見せる!』
そう決心してからは体が今までよりも軽やかになり、危なげなく蛇の攻撃を避けることができている。
時間が経つにつれて右手にエネルギーが集まっているのを感じる。
おそらくバルグが攻撃の準備をしてくれているのだろう。
その状況に勇気づけられ、攻撃の回避にさらに集中する。
そしてついに……
『待たせたな! 後は任せろ!』
その言葉を聞き、僕は安心して体をバルグに任せることにした。
バルグが右手の力を解放すると右手から炎が溢れ出てくる。
その隙を逃すまいとバルグに向かって無数の毒棘が放たれるものの、
「無駄だ! ファイアーウォール!」
バルグは左手で一瞬にして炎の壁を作り出し毒棘から身を守る。
「そんなものか! ならこれで終わりにするぞ!」
そう言うと同時にバルグは赤い蛇に向かって駆け出した。
蛇はバルグに攻撃を加えようと溶解液を吐き出したり、尖った尻尾で攻撃しようとするが、攻撃を全て避けつつ蛇に近づいていく。
そしてついに……
「覚悟しろ! フレイムクロー!!!」
バルグがそう叫ぶと欠けていた爪が新しい鋭利な爪と入れ替わる。
そうして放たれた右手に全エネルギーを凝縮したバルグの攻撃は巨大な蛇の首を容赦なく刈り取り、蛇を絶命させた!
『すごいよ、バルグ! 本当に蛇を倒してしまうなんて!?』
『お前と二人で戦ったんだ。勝って当然だろ?』
二人で掴んだ勝利。
そうバルグに言われて嬉しく感じるとともに、自分はそんな大したことしただろうかと若干恥ずかしい気持ちになった。
『じゃあ後は頼むな』
そうバルグが言うと同時に体に感覚が戻ってくる。
すると蛇の死体から赤い色が抜けて黒くなっているところを目撃する。
『バルグ、ここの世界の蛇って色が変わるものなの?』
『いや、そんなはずはないんだが……まさか!? レン、もう少し蛇に近づいてみてくれ!』
バルグがそう言うので蛇に近づいてみた。
すると蛇から赤い物体が飛び出してきて、それが僕に近づいてくる。
間違いない、赤い宝玉だ。
赤い宝玉が僕の体に触れると、バルグと出会ったときのように体の中にめりこんでなくなった。
すると体に力が湧いてくる気がした。
バルグの力の恩恵をより強く受けているんだろうか?
『もしかすると蛇は元々赤かったのではなく、赤い宝玉を取り込んだから赤くなったのかもな』
『確かにそう考えられるね。じゃあ赤そうな魔物がいたら赤い宝玉を持っている可能性があるということかな?』
『そうかもしれないな。でも赤い宝玉を取り込んだからといって赤くなるとも限らないぞ。現にレンは赤い宝玉を取り込んでいても赤くないしさ』
確かに言われてみればそうだよね。
となると、赤い宝玉を探すために赤い魔物を探せばいいという単純な話ではなくなる。
『まぁあせらずにのんびりと集めればいいんじゃないか? 集めないと生きていけない訳じゃないしな』
『それはそうだけど……そういえば赤い宝玉を全て集まるとどうなるの?』
『恐らくレンが俺の力の全てを手に入れることになるだろう。また、レンの意志によっては俺を元の姿で分離させることも可能だろうな』
えっ、それってこのプライバシーのない生活から解放されるってこと!?
なら赤い宝玉を早く集める一択でしょ。
全ての行動を誰かに見られる状況が続くのはさすがに精神的に辛いものがあるしさ。
今回のバルグとの共闘で一緒にいるのも悪くないかなと思った気もするが、それはきっと気のせいだ。
勝利の余韻に浸っていると、突然背後からガサゴソガサゴソと音がする。
驚いたものの、気を引き締め直し、振り向いて戦闘態勢を整える。
すると茂みから出てきたのは予想に反して出てきたのは可愛らしい魔物だった。
RPGの最初に出てくるジェル状の魔物―――スライムである。
「危ないところを助けてくれてありがとウ!」
スライムはつぶらな瞳を向けて話しかけてくる。
ちなみにこの世界のスライムは目はあるが口がないようだった。
「別に助けた覚えはないんだけど?」
「いや、間違いなくあなたはオイラの命の恩人だア!」
よく話の意味が分からなかった僕はスライムから詳しく話を聞いてみた。
するとどうやらこのスライムは赤い蛇に見つかって食べられそうになっていたが、変な音がしたと同時に赤い蛇が音のした方角へと去って行ったのだという。
崖から飛び降りたことを一層後悔することになったが、まぁ終わったことは気にしてもしょうがない。
結果的にこのスライムも助けることになったんなら、それはそれでいいだろう。
「助けてくれたお礼にオイラの村に案内したいんだけどいいかナ?」
「えっ、いいの?」
「もちろんだア! 命の恩人なんだから遠慮はいらねエ。ついてくるといいゾ! ちなみにオイラはスラオっていうんだ、よろしくナ!」
「僕はレンだよ。よろしくね、スラオ」
スライムだからスラオか。
なんと覚えやすい名前だろう。
こうして僕はスラオにスライムの村まで案内してもらうことになった。




