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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第二章 バルグの冒険
29/98

27.エルフの少女

 エプール村からだいぶ離れて人目に付かないような場所まで来た。

 ここで俺は陸蜥蜴の変身魔法を解除し、大空へと飛び立つ。

 そして生命の若葉があるという、生命の源泉フロセアを目指す。

 実際にはフロセアの場所が分からないので、まずブロドーアを目指す訳だが。



「久しぶりの空は気持ちいいな」



 思わずそう言葉が漏れた。

 空を飛ぶこと自体に気持ちよさを感じるが、実は陸蜥蜴の変身を解いて本来の姿でいられることの気持ちよさの方が強い。


 俺のような天竜族は、体が大きい為、空を飛び回っているか、天空都市に住むかしないと本来の姿で存在するだけで目立ってしまうのだ。

 そのためこの世界では変身した仮の体で生活することが多い。

 変身すること自体は大したことはないのだが、ずっと変身した姿を維持しないといけないので疲れるし、本来の体でもないから若干動きにくくもある。

 変身なんてしないでどこでも暮らせたらいいと何度も思う。

 

 その点、レンと一緒に過ごしたときは気楽であった。

 確かにレンの体は俺の本来の体ではなかったが、レンの体を維持する為に俺の魔力を使う訳でもないので、変身を維持するような疲れを感じない。

 それにレンとずっと一緒に過ごしていたからか、レンの体もまるで自分の体のように違和感なく動かすことができるようになっていた。

 その証拠に、野狼族戦ではレンと一体になって何不自由なく体を動かすことができていたのだ。

 そして何より、体が巨大すぎることないので、レンの姿であれば色んな村で過ごすことができた。

 

 ああ、レンの体への居候生活に戻りたい……

 俺はそうやってレンとの過ごした日々にしばらく浸っていた。





 しばらく上空を飛んでいると、黒く荒れ果てた土地が見えてきた。



「あれが、腐敗の地ブロドーアか……」


 

 ブロドーア、一目見ただけで荒れ果てていているのが分かり、近寄りたくない場所である。

 そしてその荒廃した土地はコーボネルドの二倍以上にわたって広がっているように見える。

 エルンの言うことが正しければ、ブロドーアの周囲の土地も腐敗していくのは時間の問題だろう。



「そうだよ~あそこがブロドーアで、その南にある森の中にフロセアがあるんだよ~」



 なんか聞きなれたウザったい声が聞こえてくる。

 俺がさっきエルンのこと考えたからきっと聞こえてきた空耳だろう。

 間違いない。



「ねえ~あの辺にフロセアありそうじゃないかな? 降りてみようよ、バルきゅん~」



 気のせいだ。



「聞いてる~? あそこだよ、あそこ~なんか周りの森よりも綺麗じゃない~?」



 疲れてるな、俺。



「もう、なんで無視するのバルきゅん~!? こうなったら、いたずらしてやる~! えいっ!」



 ぶすっ。

 その音を聞いた途端に、俺は左の翼に力が入らなくなるのを感じた。



「えっ……何が起こったんだ!?」



 自分の体の変化に驚いて思わず叫んだ。



「バルきゅんが無視するからいけないんだよ~」



 俺は首を曲げて背中に乗っているエルンを確認する。

 一体いつからそこにいたんだよ。

 いや、そんなことはどうでもいい。


 左の翼が動かないということはつまり……



「わ、バルきゅんしっかりしてよ~! キャー!? 墜落するよぉ~!?」



 バランスを崩した俺は上空にいられなくなり、落下をし始めた。

 右の翼しか動かせないので、落下を食い止めることはできない。

 落下スピードの軽減や、落下位置の調整をすることが精一杯である。


 飛べなくなった俺は速度を多少は落としたものの、地面に体を打ち付けてしまった。

 だが俺は天竜の頑丈な体をしているので、体にダメージはさほどない。

 とりあえず地上に降りたので、目立たないように陸蜥蜴に変身しておいた。


 そういえばエルンはどこに行ったのだろう?

 色々と問い詰めないと気が済まないんだが。

 そう思いながら周りを見渡していると、



「バルきゅん~ヒドイよ~いきなり落下するなんて~!」



 いや、どう考えてもお前のせいだからな。

 せっかくの空の旅が台無しなんだからな。

 とりあえずいつから俺に張り付いていたのか聞かなければ。



「エルンはいつから、俺の背中に乗っていたんだ?」

「バルきゅんが竜になってからすぐ背中に張り付いていたんだ~振り落とされないようにすることに必死だったよ~」



 どうやら最初からずっと俺に張り付いていたようだった。

 普通誰かが張り付いていたら気づくと思うんだが、どうして気づけなかったか不思議だ。



「それよりも、バルきゅんって竜だったんだね~ビックリしちゃったよ~」

「エルン、このことは絶対他の奴に言うんじゃないぞ。面倒な事はごめんだからな」

「分かってるよ~それ位の常識ボクにもあるって! だいじょうぶだいじょうぶ~」



 何かすごい不安なんだが……

 まあでも疑ってばかりいても仕方ない。

 とりあえず現状の確認だ。

 

 着陸したこの場所はどこなんだろうか?

 上空から見ていた限り、ブロドーアの近くには来ているはずなので、フロセアの近くにはいるはずなのだが。



「エルン、フロセアがどこにあるか分かるか?」

「そうだね~多分あの森じゃないかな~なんか少し輝いて見えるし~」



 エルンが指差した方向を見ると、確かにその森は他の森よりも光り輝いていて、淡い緑色の木々が生い茂っている様子である。

 何か特殊な場所であるのは間違いないだろう。



「とりあえずあそこに向かうとするか」

「そうだね~分かったよ~」



 エルンは村で研究しなくていいのかと疑問に思ったが、その辺の事情は後々聞けばいいか。

 今はフロセアをとにかく目指そう。



 森の中は、遠目に見るよりも神秘的だった。

 木々や草花の一つ一つが光をほのかに発しており、幻想的である。

 遠くから穏やかに水が流れる音が聞こえるのも心地よい。



「ここってすごい落ち着くな~もっとゆっくりできたらいいのに」

「そうだな。できればブロドーアの浸食を食い止めて守れたらいいんだが……」



 森の中の光景は夜に見たらもっと幻想的なんだろうとも思った。

 でも今は見とれている時間なんてない。

 この森を素晴らしいと思うからこそ、一刻も早く急がなければいけないのだ。




 しばらく俺達は森の中を進んでいた。

 すると、誰かが倒れていることに気づく。

 耳が少しとんがっているし、どうやらエルフの少女のようだ。



「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」

「どうしたんだろ……なんか魔力が流出しちゃってるような?」

「魔力の流出? ってこの子、体が腐食し始めちゃってるじゃないか!?」



 少女をよく見ると、左足が黒く変色し始めていることが分かる。

 顔色が悪く、だいぶ辛そうに見える。

 一刻の猶予もない。



「時間がない。ここでこの子を助けよう。熱回復ヒートリカバリー!」



 俺は回復魔法の中でも使い慣れている火属性の魔法を少女に使う。

 だが、腐食の進行を食い止めるので精一杯で、少女を救うには至らない。



「くそ……このままじゃジリ貧だ。一体どうすれば!?」

「バルきゅん、ここはボクに任せて~」



 エルンは持っている鞄から注射器を取り出した。

 そしてその注射器を少女の腐食した足にさした。



「エルン、そんなことしたら足がとれてしまうんじゃ……」

「大丈夫だよ~この注射器は見た目以上に高性能だからね~」



 そう言ったエルンは注射器を少女からぬき、鞄から取り出した画面のある何かの機械にその注射器をセットした。



「バルきゅん、あと三分だけ持ちこたえてね~」



 エルンは機械に物凄いスピードで何やら打ち込み始めた。

 のんびりしていた今までのエルンとはまるで別人だった。

 エルンの変わりぶりに目を奪われそうになったが、腐食を食い止めることに集中し直す。


 少し経つと、エルンの動きが止まる。



「よし、それじゃいっくよ~抵抗物質レジストマテリアル!」



 エルンがそう呪文を唱えると、注射器が新たに現れた。



「バルきゅんありがとね~! これで大丈夫だよ~」



 そう言ったエルンは少女の足に新しく現れた注射器をさした。


 すると、注射器をさした所から少女の足の腐食がなくなっていく!

 いつの間にか少女から腐食した部分がなくなり、少女の顔色も良くなっていく。

 エルン、一体何をしたんだ?



「エルン、すごいな。でもどうして腐食をこんなあっさりとなくせたんだ?」

「えへへ~それはね、腐食する物質と逆の物質を作って、その女の子に投入したからだよ~」

「ん? つまりどういう事だ?」

「そうだね~腐食を浄化する薬をつくって、それをあげたら腐食がなくなったって所かな~」



 うん、よう分からないが、何やらすごいことをエルンがやってのけたことは分かった。

 エルン、恐るべし。



 体の腐食がなくなってしばらく経つと、森妖族の少女は目を覚ました。



「あれ、私……倒れていたの……?」

「そうだ、この場所で倒れていたんだ。体が腐食されていたんだが、何かあったのか?」

「腐食……そうだ、町のみんなが……」

「町? 生命の源泉フロセアって町か?」

「うん。早く助けないと……」



 そう言うと少女が走り出してしまったので、俺もあわてて追いかける。



「あ~待ってよぉ~置いてかないでよぉ~」



 泣き言をいうエルンも後ろから俺達についてきた。


 少女に追いついた俺は、走りながら話しかける。



「なあ、もしかして町が腐食され始めているのか?」

「うん。あっ、先ほどは助けてくれてありがとう」

「ああ、礼ならあの変な賢猿に言ってやってくれ。それより、町が大変なら俺も手を貸すぜ?」

「ありがとう。やっぱりあなたが―――バルグなのね」



 え、なんでこの少女、俺の名前知ってるんだ?

 名乗ってもいないし、しかも偽名じゃなくて本名だと?

 本名がばれるのはまずいのではぐらかさないと……



「お嬢さん、俺はバルファっていうんだ。確かに二文字同じだし、似てるけど、人違いじゃないか?」

「あ、そういえば偽名使ってるのね。ごめん、気が利かなくて」



 なんか全てを見透かされた気分である。



「ええっと……どうして君は俺のことをバルグって呼んだんだ?」

「私には未来が見えるの。部分的にだけどね。あなたが私を助けてくれること、そしてあなたをバルグと呼ぶ光景を見たの」

「未来……か。なんか信じがたいが、名前をいきなり当てるなんて只事じゃないし、信じるしかないな」

「ありがとう。そういえばまだ名乗ってなかったね。私はエナっていうの。よろしく」

「エナか。俺はバルグで合ってるが、この姿のときはバルファって呼んでくれ。よろしく頼むな」



 自己紹介を終えた俺達は、少し打ち解けあって会話を交わしつつフロセアへと向かった。



「待ってよ、バルきゅん~ひどいよ~」



 エルンは相変わらず泣き言を言っているが、勝手についてくるので問題ないだろう。

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