22.かーぱぁ村
上空を飛び回っていると、海の近くに集落らしきものが見えた。
俺は集落から少し離れた所に着陸し、ランドリザードに変化する魔法を自分にかける。
天竜の姿で村に入ってしまったら驚かれてしまうし、そもそも竜の姿では体が大きすぎてほとんどの建物に入れなくなって不便だ。
なので村で聞きこみをする際には何らかの変化魔法を使う必要があるんだよな。
変身を終えた俺は集落に向かうことにした。
「ねぇ、お兄さん、どこに向かっているの?」
ん、誰だ?
でも声をかけられた方向を見るが誰もいない。
「お兄さん、こたえてよー!」
よくよく聞けば、下の方から声が聞こえてきた。
そこで下の方を見ると30cm位の小さな河童の少女がいた。
なんだ、小さくて見えなかっただけか。
「俺はあそこの集落に向かってるんだよ?」
「そうなんだ! わたしと一緒だね! 一緒に村まで行こうよー!」
そう言った少女は手をぐいぐい引っ張ってくる。
ずいぶん積極的な子だな……とたじたじになりながらも女の子と一緒に集落へ向かうことにした。
「あ、そういえば自己紹介忘れてた! 私は河童族のかぱなっていうの! お兄さんのお名前はなんていうの?」
「俺はバル―――」
俺は名前を言おうとしたが、慌てて言うのをやめた。
バルグと正直に言ってしまうと、人によっては俺の名前が天竜の王子と同じだと気づかれるだろう。
それは何としても避けたい。
「バル―――それからなんていうの?」
「えっと……バルファだ」
「バルファ兄ちゃんか、よろしくね!」
こうしていきなり訪れた危機をなんとか乗り越えたのだった。
俺とかぱなはその後も適当に話をしながら集落にたどり着いた。
「ついた! ここがわたしの村、かーぱぁ村だよ!」
かーぱぁ村に到着してまず驚いたのが河童の小ささだ。
かぱなが幼いだけだと思ったが、河童族自体が小さい生き物のようで、見渡しても50cm以上の人が見当たらない。
意外にも河童族が住む家はだいぶ大きく、2m近くある俺のランドリザードの体でも楽々入れそうな程である。
ちなみに大きな家を作っている理由についてかぱなに聞いたが、かぱなも分からないようだ。
町をしばらく歩くと、村の中央にある水溜りが目についた。
「これはねぇ、私達が安心して水浴びできる綺麗な水なんだよー」
綺麗な水?
見た所普通な水に見えるんだが。
不思議に思って水溜りを眺めていると他のかっぱから声をかけられた。
「あぁ、旅のお方。その水が気になるかい?」
「この水は綺麗な水らしいが、そうなのか?」
「ああ、確かに私達にとってはね。その水は海水をろ過して淡水にしたものなんだよ」
どうやら、河童族は海水につかるのは苦手で、海水につかった後は必ず淡水で体を洗うらしい。
「でもどうしてそんなに面倒なことを? 川にすめばそんな手間は必要ないのでは?」
「あぁ、それは事情があってね……」
かっぱの住民によれば、河童族はかつては川に住んでいたようだが、ある種族から追われて海の方まで追いやられているということだった。
「ある種族って……?」
「お前さんの種族のライバル、アクアリザードだよ」
ランドリザード族がこの大陸の西側に住むのに対し、アクアリザードは東側に住む。
そして陸上を活動拠点にするランドリザードとは違い、アクアリザードは主に水中を活動拠点にするという。
ただ、アクアリザードについては少し本で読んだ位の知識がないので、詳しいことは俺は知らない。
ランドリザードとアクアリザードがライバルだったということも知らなかった。
というか、生息地が違うのにどうしてライバルなのか不思議である。
「まあ、十年前に大陸の中央が土砂で塞がれていて以来生息地は分断されているからその二種の間に争いも起きてはいないけどな」
つまり十年より前までは生息地が隣接していたから縄張り争いのようなものをしていたのだろう。
俺が男と話していると、急に村が騒がしくなり始めた。
「敵襲だー! 女子供は避難して戦える者は村の入り口に集まれー!」
そう誰かが叫ぶ声が聞こえる。
どうやらただ事ではないようだ。
「またアクアリザードが襲ってきたか、いつまでも懲りない奴らだ。あ、お前さんは戦いに巻き込まれないように避難しておくといいよ」
「そうか、無事を祈る」
そう言って俺は男やかぱなと別れ、村から出る。
河童族の戦線に加わって助けるということも考えたが、レンがモグラに騙されたように実は襲われている側に原因があるというパターンもあるから、安易にどちらかに肩入れするのは良くないと思うのだ。
河童族とアクアリザード族の関係を見るために戦線から少し離れた所で見守ることにする。
河童族二十名程に対し、アクアリザード族は七、八名というところだった。
「何の用だ、アクアリザード!」
「だから言ってるじゃないですか、禊の聖皿をいただきたいって」
「そんな我が一族の宝を渡すことができる訳ないだろう?」
「そうですか、では覚悟してくださいね……」
河童とアクアリザードの双方がこう言葉を交わした後に、戦闘が開始された。
『アクアリザード側は禊の聖皿を手に入れたいらしいな。でも、一体何のために?』
そう考え込んでいると、背後から物音が聞こえた。
「おい、お前ランドリザードだな? なんで俺達の縄張りに紛れ込んでいるんだ?」
振り向くと、そこには一人のアクアリザードがいた。
「ちょっと旅をしている途中でな。それより、聞きたいことがあるんだが……」
「ああ? なんでランドリザードの野郎なんかに教えなきゃいけねーんだよ!?」
なんか急にキレはじめた。
俺はただ聞いてるだけなんだが。
キレたアクアリザードは殴りかかってくるが、俺はアクアリザードの攻撃を片手で受け止める。
「なんだと!? あ、甘く見やがって!」
驚きつつもさらに攻撃を仕掛けようとするアクアリザード。
話しかけても聞いてくれそうになくて面倒なので軽く痛めつけてやった。
「いい加減話聞いてくれないか?」
「ひ、ひぃ……バケモノ……!?」
なかなか普通に答えてくれなかったが、どうやらアクアリザードによると、
・今アクアリザードは生息地である川の汚染に悩まされている
・汚染した川を浄化しないと生活できない
・水を浄化する禊の聖皿を手に入れるために河童族を襲っている
とのことだった。
そう困ってるなら河童族を襲ったりせずに話し合って貸してもらうとか他に手があるだろうに……
話し合ったりしなかったのかとアクアリザードに聞くと
「あんな、ちっこい河童に頭を下げるなんて真似できるか!」
そんなバカげたことを言ったのでもう一発おしおきしておいた。
今回は一方的に河童族を襲っているアクアリザードに問題がありそうだな。
だが、アクアリザードもこのままでは生活に困るだろうからなんとか話し合いに持ち込みたいと思う。
とりあえず、今起こっている河童とアクアリザードの戦いを終わらせようと思い、かーぱぁ村へ急いだ。
俺がかーぱぁ村に着いたときもまだ戦いは続いていた。
河童族が残り三人なのに対し、アクアリザードは残り二人戦っている。
河童族が押されているようだった。
戦いを止めようと俺は戦場に近づいて、叫んだ。
「河童もアクアリザードも戦いを止めてくれ! 話がある!」
河童はこっちの方に振り向いて手を止めたが、アクアリザードは全くこちらを見ることなく河童に襲い掛かる。
「ふふ、チャンスだ! もらった!」
もちろん俺はそんなアクアリザードを見逃したりしない。
「炎熱閃光!」
光のような早さで駆け抜ける炎熱がアクアリザード達を襲う。
俺のことが見えていなかったアクアリザード達は避けることもできず、黒焦げになってその場で倒れた。
「まったく、人の話を聞けってんだ」
そうつぶやく俺を見て河童達がおびえて震えている様子が見える。
ちょっとやり過ぎたような気がするが、まあ、戦いが終わったのだからいいだろう。
戦いを終えた後、河童の長の家を借りて河童とアクアリザードのそれぞれの話を聞いた。
内容は先ほどのアクアリザードから聞いた話とだいたい同じだった。
「なら、いきなり襲わずに私達と話し合おうとしてくれればよかったと思うんですけど」
「こんな河童なんかと……」
変な事を言いそうなアクアリザードをにらむと、アクアリザードはまずいと思ったのか黙った。
「河童族としては、禊の聖皿を貸すことはできるのか?」
「三枚ありますが、一枚位であれば貸すことができます。あまり貸してしまうと今度は私達の生活が危うくなるので……」
河童の長の好意に甘え、禊の聖皿を一枚借り、仕方ないから困っているアクアリザードを助けることにした。
「なんでランドリザードなんかに……」
そう文句をいうアクアリザードがいたが、リーダーらしきアクアリザードが黙らせていた。
リーダーは分別のある人みたいだな。
「私達にご助力いただきありがとうございます。あなたを私達の村まで案内します」
ちなみにそのアクアリザードはミリーナというらしい。
女隊長のようだ。
俺とミリーナ率いるアクアリザード達はアクアリザードの村、ミ・ザーカ村へと向かった。




