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異世界で魔物生活  作者: はちみやなつき
第二章 バルグの冒険
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20.最善の行動

 翌朝になっても、レンは起きない。

 結局昼近くになって、ようやくレンは目を覚ました。



「うわっ、もうこんな時間!? すごい遅刻だよ!」



 そう叫びながらレンは大急ぎで出かける準備を整え、図書館へと向かった。


 レンの寝坊の原因が夜更かししていた俺にあるので申し訳なく思っている。

 俺が体を使っていたせいで、レンの体が休まり始めた時間が遅かったからな。

 それがレンの寝坊の原因にもなっていると思う。


 レンは少し迷って途中で人に道を聞きながらもなんとか図書館にたどり着いたようだった。



 レンが図書館にたどり着いても待ち合わせ相手はまだ来ていないようだった。



『バルグ、こんなに寝すぎちゃうなんてなんか僕変だよね?』



 暇を持て余しているレンが俺にそう話しかけてきた。



『悪い、それ実は俺が原因なんだ。昨日レンに無断で体を使って紅蓮封印珠の秘密を探っていたんだ』



 俺はそうレンに返答をする。

 しかし、レンからの反応がない!?



『おい、レン、聞こえているのか!?』

『昨日から体調悪そうだったし、大丈夫かな?』



 レンは俺の心配をしている。

 どうやらレンは俺の声が全く聞こえなくなってしまったようだった。

 原因は一つしか考えられない。



『あの不吉な声、紅蓮封印珠に潜む悪魔の仕業か……』



 これでレンへの連絡手段も断たれてしまった。

 このままではレンに危機を告げることもできないし、レンを見殺しにもしかねない。



『どうすればいいんだ……?』



 俺は考える。どう行動すればよいのかと。

 まず考えられるのは悪魔の呪縛を解除すること。

 ただ呪縛の解除はとても困難である上、一時的に解除してもレンの体に潜む悪魔が速攻で呪縛を再び施してくることが考えられる。

 あまり現実的な策とは言えない。


 となると他に考えられる対策はないだろうか?

 他にできること……そうすると俺が体を取り戻してからの行動になるか?

 いや、それではダメだろう。

 

 ”紅蓮封印珠が全て集まったときに肉体から宿主の魂が消え、抜け殻となった肉体に悪魔が宿る”

 確かそのような文章が書いてあった。

 つまり、俺が動ける時には既にレンの魂は消えてしまっていることになる。


『どうすればいいっていうんだ……』



 絶望感に苛まれているうちにその日は終わってしまった。




 次の日、レンは起きてからずっと部屋に籠っていた。部屋の隅にうずくまっていた。


 レンからは恐怖、不安の感情が伝わってきた。



『こんな残酷な光景を立て続けに目の当たりにしたらおかしくもなるよな……』



 それと同時に俺がしっかりしなくてはと思い直す。

 本当に俺にできることはないのか、まだ抜け落としていることはないのか整理することにした。

 すると、あることがひっかかる。



『本に落書きがあったな。あの落書きってだいぶ昔にかかれたものだし、もしかしたら本の内容と関係があるんじゃないか?』



 そう思い直し、何が書かれていたか思い出すことにした。

 ”しまはたい”と”いるてきい”だったよな、確か。

 あんな訳が分からない言葉をよく覚えていたなと自分に関心しながらも考え始める。



『島は鯛、いる敵意……この島には鯛がいて敵意を持った存在がいる? やっぱり意味不明だな』



 考えても分からないので、無駄な徒労だったなと残念に思った。



 日は傾き始め、一日の後半に差し掛かろうとしているが、俺はまだ何か手がかりはないか考えている。



『俺が行動できる頃にはもうレンの魂が消滅しているということが問題なんだよな。もし俺がレンの魂を消滅する前に行動することができたら策はあるんだが……』



 レンの魂が消滅する前には行動できないし、行動できるようになったと思ったらその時点でレンの魂は消滅している。

 こんな未来をどう変えれば良いというのか?


 もしレンの魂が消滅していないなら、”たましい”が消滅していないなら……

 その瞬間何かが引っかかる。



『あの落書き、”しまはたい”って単語を並び替えると”たましいは”になるな。とすると後の”いるてきい”というのは……』



 ”いきている”と読める。

 このとき絶望の未来に一筋の光が差した。



『”たましいはいきている”か。俺の願望かもしれないけど、あの落書きに意味があるとしたらあるいは……』



 でもあの本には嘘が書いているとはあまり思えない。

 あの本に嘘がなく、かつレンの魂が生きている可能性について考えてみると……


 もう一回書かれていた文章をよく読み直すことにする。

 ”紅蓮封印珠が全て集まったときに肉体から宿主の魂が消え、抜け殻となった肉体に悪魔が宿る”だったよな。



『”肉体から”宿主の魂が消えるってあるが、このことはただ肉体からなくなるというだけで、宿主の魂が消えることではないと解釈すれば良いのでは? 例えば肉体ではなく、他の物体に魂が移っていると考えれば……』



 考えられない話ではない。

 なぜなら俺だって紅蓮封印珠に封じられているときは赤い宝玉という物体に魂が宿っているのだから。


 レンの魂が移るパターンとして、三通り考えている。


 その中で一番有力なのは悪魔が宿っていた紅蓮封印珠の抜け殻がレンの体から飛び出してきて、それにレンの魂が宿ること。


 次に竜の姿を取り戻した俺にレンの魂が宿ること。

 こうなったら今までの俺とレンの立場が逆になるだけで特に問題は感じないし、それならそれでいいかと思っている。


 そして三つめには、悪魔がレンの体に宿ったとき、レンの体の周辺にある何かにレンの魂が宿ること。

 こうなってしまうと、どこに魂が宿っているのか見当もつかないのでとても骨が折れそうだ。

 この場合も考慮して、レンの体に悪魔が宿った場所で戦闘を行って物が破損するようなことは避けた方が良いだろう。

 ほとぼりが冷めたときにゆっくりと探していけばよいのだ。


 やるべきことは決まった!

 あとは実行するときを待つのみである。



 しばらく時間が経つと、うずくまっていたレンが唐突に起きあがる。

 そして唐突に移動し始め、自室から出た。


 急にどうしたのかと思ったが、レンから感じるのは相変わらず恐怖、不安の感情である。

 この行動には何か理由があるんだろうなと思いながら様子を見守る。


 レンが建物から出る。

 するとそこにはゴーダンとコフィーの姿があった。



「お目覚めになられましたか、新たな主よ。儀式の準備は整っております、早速向かいましょう」



 ゴーダンのこの言葉によって、今のレンの体はレンではなく紅蓮封印珠の悪魔が動かしているのだと察した。


 悪魔とゴーダン達はコーボネルドの最も高い所に位置する建物の中に入り、通路を進む。

 そして悪魔達は奥にある部屋の中へと入って行く。


 死体の山が積まれていて腐臭ただよう部屋の中でコボルド達がそれぞれ何か言いだした。



 しばらくすると、ゴーダンがこう叫んだ。



「さあ、新たな主よ、全ての準備が整いました。今こそそのお力を解放なさってください!」



 するとレンの姿をした悪魔は容赦なくコシュダンを殺した。


 そしてコシュダンの亡骸から紅蓮封印珠が飛び出してきて、悪魔の体へと吸収されていった。

 この瞬間に一度、俺の意識は途絶えた。




 あまり時間をおかずに目を覚ました俺はまず、自分が竜の姿に戻ったことを確認する。

 それから辺りを見渡す。


 今俺がいるのは、先ほどまで悪魔の視点でみていた死体の山が積まれている部屋だ。

 悪魔の周りにいるコボルドの人数や立っている位置もほぼ変わっていない。

 変わっているのは、悪魔が何やら死体の山から変なものを吸い出していることと……



『おっ! もしかしたらこれが……』



 紅蓮封印珠の抜け殻だと思われる白い宝玉が存在していることだった。


 白い宝玉は幸い俺の手の届く位置にあったので素早く自分の手でつかみ取る。

 そうして用が済んだ俺はさっさとこの場を離脱しようとするのだが……



「させない、重力倍加ダブルグラビティ!」

「逃がすものか、風刃ウインドエッジ!」

絶対障壁アブソリュートバリア!」



 ゴーダンとコフィーが俺を攻撃してきた。

 なので俺は極力この部屋を傷つけない方法で攻撃を処理した。

 この部屋のどこにレンの魂が移っているか分からないからな。

 この部屋を傷つけることは避けたかったのだ。


 その後は急いで飛び去ったおかげもあり、追撃もなくコーボネルドから脱出することができた。

 コーボネルドの上層部にはシールドが張ってあったが、シールドの一カ所に集中して火の魔法をぶつけたらあっさりと俺が通れる位の穴が開いたので、脱出に苦労はしなかった。

 俺の故郷のシールドに比べてあまりにも脆すぎる。

 多分技術力が違うんだろう。


 とにかく今できる限りの最善は尽くした。

 俺の意識を失う前にはなかった白い宝玉が存在していたということは、それがレンの魂のよりどころになっている可能性が高い気がするのだ。

 抜け殻であるはずの白い宝玉から何か生命の鼓動を感じるしな。


 レンの魂がある可能性の高い白い宝玉は俺の手の中にあるし、万が一白い宝玉以外の何かにレンの魂が宿っている場合も考えて、悪魔のいるあの部屋で戦って周りの物を傷つけたりせずに脱出することもできた。

 恐らくこれ以上の行動はないだろう。


 以上が俺が竜の姿で復活したと同時に一目散に逃げたように見えた行動の真相であった。

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