19.紅蓮封印珠の真実
第二章はバルグ視点です。
ゴーダン達から逃げた俺は上空を飛んでいた。
『なんとか無事に逃げきれてよかった。これでまだ望みはある!』
レンを見捨てて一目散に逃げるなんて何て薄情な奴だと思われるかもしれない。
だが、この行動には理由がある。
この行動こそがレンを救える唯一の方法だと考えているのだ。
時はレンがコーボネルドに住み始めた二日目にまでさかのぼる。
つまり、レンが戦闘訓練でコルトに出会い、観光をする約束をした日だ。
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『明日、楽しみだな! コボルドって自分で言うのもなんだけど、結構怖いイメージがあったから、コルトみたいに親しくしてくれる人がいるとは思わなかったよ!』
『……ああ、それは良かったな』
そう言葉のやり取りをしてレンは眠りにつく。
そしてそのレンが眠っている時間を活かして俺は行動を開始した。
もちろんレンの体を使って行動するのだが。
俺が行動する目的は、紅蓮封印珠の真実を探ることである。
昨日レンが紅蓮封印珠について調べていたが、一部欠けている部分があった。
その欠けている部分にこそ紅蓮封印珠の秘密が隠されていると思うのだ。
紅蓮封印珠に何か秘密があると考える理由は、紅蓮封印珠の不思議な特性にある。
一見紅蓮封印珠は強力なものを封じ込めるためにあると思えそうであるが、例えそうだったとして、どうして封じ込めた後で砕くような使い方をするのか?
封じるだけならば砕かずに一つの宝玉を厳重に保管した方が良さそうである。
また、砕くことで宝玉を抹消しようとするなら、砕く欠片の数をもっと増やしたり、粉々にして回収不可能にしてしまえばよいのだ。
でもそうではなく、俺の場合は五つという集められるほどの数に砕かれ、紅蓮封印珠を吸収した者はみな強力な力を得ていた。
これってまるで紅蓮封印珠を吸収したものがさらなる力をもとめて他の紅蓮封印珠を持つものを倒すことを期待しているようにしか思えない。
そんなふうに考えられるのだ。
もし封印自体が目的ではなく、それ以外に目的があるとしたら?
それを考えると恐ろしいのだ。
『考えすぎなだけだといいんだがな……』
そう思いながら俺は、コーボネルドの図書館へと向かった。
わざわざレンが寝たときを見計らって行動する理由は三点ある。
・レンに余計な心配をかけたくなかったから
・レンが起きているとレンに反対される可能性が高いと思ったから
・警備の目をすり抜けて調べる必要性からレンの眠っている深夜が行動に都合が良いから
特に一つ目のレンに余計な心配をかけたくないということが俺にとって重要である。
もし失敗してレンが強盗犯になって捕まるなんてことは絶対避けたいし、また調査に時間がかかりすぎてレンの睡眠時間が確保できないということも避けたい。
そのため短時間で間違いなく紅蓮封印珠の情報を手に入れないといけないのだ。
紅蓮封印珠の情報を手に入れようと決めたのはレンが紅蓮封印珠を借りたときだ。
それからはレンの部屋から図書館までの道のりを全力で覚えたり、どうしたら無難に調査をすることができるか考えることに集中していた。
考え事に集中していたため、レンが話しかけてくれたときの反応が遅れたり、そっけない対応をとってしまったりしたのでそこは申し訳なかったとは思っている。
でもその甲斐があって、コーボネルド潜入一日目の夜も実は図書館に侵入していたのだが、誰にも気づかれることなく調査をすることができた。
一日目はどこに閲覧禁止室があるのか探すことが目的だったが、これはあっさりと見つけることができた。
図書館の受付の奥に地下への階段があり、その階段を下った先に広い空間と多くの本棚があったのだった。
一般人が立ち入れないことからここが閲覧禁止室だろうと考えた。
一日目は閲覧禁止室の本棚がどのようなジャンルに分かれているのかをざっと見ただけで調査を終えてレンの部屋へと戻った。
時間にしては一時間かからない程度だったのでレンの体への負担もそこまでないと思われる。
上出来な結果だった。
そして今日、二日目は紅蓮封印珠の本を探し、その本を読んで元に戻した上で誰にも気づかれることなく自分の部屋に戻ることが目的だ。
大丈夫、昨日のようにやればうまくいくはずだ。
そう自分に言い聞かせる。
誰もいない夜の図書館は相変わらず静まりかえっていて真っ暗だった。
ちなみに俺が真っ暗な所でも行動できるのは暗視の呪文の効果である。
呪文の効果のおかげで、明かりをつけなくても問題なく本を読むこともできるのだ。
図書館へと侵入した俺はまず入り口のセキュリティゲートを突破する。
このゲートを無事に突破するには、体温を持った状態でセキュリティゲートを通らなければ良い。
体温を周囲と同化させて通ってもよいのだが、それだとレンの体に負担をかけるので、短距離の転移呪文を使ってゲートを突破する。
続いて受付の先にある階段を下って閲覧禁止室へと入る。
部屋の名称とは違ってここの部屋のセキュリティはだいぶ甘いように感じる。
どうしてかと疑問は思ったが、その疑問はすぐに解決された。
閲覧禁止室に置いてある本の一冊一冊にセキュリティがかかっているのだ。
ジャンルを絞り込んでいたおかげで目的の紅蓮封印珠に関する本はあっさりと見つかったのだが、本にかかっているセキュリティを解析するために時間がかかった。
本を読んだことを気づかれないようにするには本にかかっているセキュリティを解析した後に本を読む間だけセキュリティを一時的に解除し、本を読み終わって本棚に戻した後にセキュリティをかけなおす必要があった。
そして紅蓮封印珠の本だけでなく、紅蓮封印珠の本と同じ段の本のセキュリティも念の為に解析して解除していたので時間がかかってしまうのだった。
幸いなことに解除したり再びかけなおす必要のあるセキュリティの方式はすべて同一のものだったので、一冊一冊に応じて違うセキュリティをかけないといけないといった面倒なことは避けられたのは幸いであったが。
セキュリティを解除し終えてから目的の本をとる。
まあ、本といってもレンが借りた本の抜け落ちた部分しかないから、本というよりも紙の集まりという感じだったけどな。
その本の一ページ目を見て、いきなり衝撃を受けた。
そのページには”宝玉本体である悪魔が宿主に代わって肉体を支配する”と書いてあったのだ。
レンが借りた本で欠ける前の最後のページには”赤い宝玉が再び全て集まったとき”と書かれていた。
その二つの文章を合わせると、”赤い宝玉が再び全て集まったとき宝玉本体である悪魔が宿主に代わって肉体を支配する”となる。
この本の内容だけで十分衝撃的だし、今すぐにでも部屋に戻ってレンに本の内容を伝えたいところだが、ここは我慢だ。
だってこの事実が分かった所で俺達ができることはそう多くない。
それよりもより多くの情報を得ることが先決だと思ったからだ。
その後も本を読み進めることで判明したことは、
・紅蓮封印珠は悪魔を宝玉の形に変えたもの
・紅蓮封印珠は珠に何者かを封印させ、いくつかに砕かれた後に効力が発揮する
・紅蓮封印珠は宿主と内に秘められた悪魔の力を増幅させる
・紅蓮封印珠が集まる度に宿主と悪魔の力は増幅される
・紅蓮封印珠が全て集まったときに肉体から宿主の魂が消え、抜け殻となった肉体に悪魔が宿る
・肉体に悪魔が宿ったとき、封印されていた者は解放される
・悪魔には紅蓮封印珠の宿主の力と紅蓮封印珠に封印されている者の力の両方が宿ることになる
・落書きに「いるてきい」と書いている
ということだった。
紅蓮封印珠ってずいぶんと面倒な条件があるものなんだなと正直思った。
いや、それよりも気にしなければいけないことは五つ目の”紅蓮封印珠が全て集まったときに肉体から宿主の魂が消え、抜け殻となった肉体に悪魔が宿る”ということだ。
これが真実だとすると、紅蓮封印珠が全て集まったらレンの魂が消えてしまうということである。
ここまで一緒に旅してきた相棒ともいえるレンが消えてしまうなんて考えたくなかった。
とにかくここを無事に出てレンに紅蓮封印珠のことを知らせなければ。
焦る気持ちがあったが、あくまで冷静に紅蓮封印珠の本を元の位置に戻し、セキュリティを解除した本の一冊一冊に再びセキュリティをかけていく。
だいぶ時間は経ってしまったと思うが、焦らない。
なんとか対象の本にセキュリティをかけ終わり、早足で歩き出す。
秘密を知ってしまったという意識から、昨日よりも帰り道が格段に怖く感じる。
行きはあっさりと下りた図書館の階段も永遠と続くように感じたし、図書館の入り口のセキュリティゲートを突破するときも転移に失敗したらどうしようと怯えた。
図書館から出る前に隠密魔法を自身にかけてから外に出るのだが、隠密魔法がきいているかどうか、道に迷ってしまわないかという不安を抱えていた。
だが、何事もなくレンの部屋がある建物にたどり着き、でも油断しないまま移動し、ついにレンの部屋の中まで戻ってくることができた。
「長かったな……」
緊張から解放され、思わずそう言葉が漏れる。
でもやり遂げたのだ。
作戦実行に時間がかかってしまい、睡眠不足になるであろうレンに迷惑をかけてしまったことが少し心残りだが、作戦はほぼ完璧に遂行することができたのだ。
十分すぎる成果だろう。
『明日レンが起きたら紅蓮封印珠について説明してやろうかな』
そう思いながら俺はベッドに横になった。
そして安心して眠りにつこうとしたのだが……
《我の復活を邪魔させたりはしない……》
そう不吉な声が聞こえると同時に、レンの体に異変が生じる。
何が起きたんだと思って起きようとするが、全く体が動かない。
言葉を発しようとしても口が微動だにもしない。
『でも、俺にはレンがいる。レンに伝えることさえできれば……』
もしかしたら体を動かせないのは俺限定のことなのかもしれない。
それならばレンに俺が知ったことを伝えれば何の問題もないじゃないか。
そう思った俺は一筋の望みをレンに託し、いつものように体をレンに預けるのだった。




