18.新たな長の誕生
外の騒がしさによって目が覚めた。
何が起きているのかと思い、外をのぞいた。
すると目の前には信じられない光景が広がっていた。
街が赤く染まっている……
何で赤いのかと疑問に思っているとその答えはすぐに出てしまった。
遠くに見えたコボルドの一人が別のコボルドを剣で刺し殺していたのだ。
『な……何が起こっているの……!?』
信じられない光景を目にして、僕は底知れぬ恐怖を感じた。
なぜ同族を殺しているのだろうか?
街が血に染まっているなんてどれだけの殺戮が繰り広げられたのか想像もできない。
僕はしばらく部屋の隅で怯えながら何も起きないことを祈りつつじっとしていた。
僕の願いが届いたのか、その後も自分の部屋にコボルドが襲ってくるなど異変はなく、何も起きないまま時間が過ぎた。
いや、何もないというと語弊があるかもしれない。
何となくだが、起きてからというもの、ボーっとして、意識がはっきりしないのだ。
その傾向は時間が経つにつれて強くなっていく。
『何でこんなにボーっとするんだろう? 眠いのかな? でも眠くはないんだよな……』
そう疑問に思いつつもその場でうずくまり続ける。
いつしか日が傾きはじめ、夜を迎えようとしていた。
『そういえば今日何も食べてなかったな。何か食べないと』
そう思った僕は立ち上がろうとした。
しかし、体が全く動いてくれない。
『なに、どうなっているの!?』
自らを襲う異変に驚き、何とか体を動かそうとするのだが、努力もむなしくピクリとも動かない。
確かに体がだるかったりボーっとしたりして調子が悪いとは思っていたが、まさか体が動かなくなるなんて想像もしなかった。
もうなりふり構っていられない。
周りに助けを求めるために叫ぼう。
そう思い、叫ぼうとするのだが、
「………………」
声がでない。
いや、まず声どころか口さえ動かせない。
不思議と呼吸はしているようなのだが、このときに全く体を動かせなくなっていることを悟った。
『まるで金縛りにあったようだな。でも体を動かせないのがこうも辛いなんて……』
絶望を感じた。
それからの時間はものすごく長く感じた。
全く微動だにしないままずっと同じ体勢で時が経つのを待っている。
寝ることもできないのは辛かった。
唯一救いだったのは自分の意識がぼんやりとしている為にこの辛さをしっかりと感じてはいないことだろう。
もし意識がはっきりしたままこの状態でいたら気が狂っていただろうなと思う。
そして唐突に変化が訪れる。
《ついに、この時が来た……!》
そんな不吉な声が頭の中で明瞭に聞こえたと同時に僕の体が起きあがった。
『この声、どこかで聞いたことがあるような……そういえば、寝ているときに聞こえていた変な声にそっくりだ! それにしてもどうして僕の体が急に動き出したんだろう?』
そう疑問に思う間にも、僕の体はどこかへと向かいだし、自室から出ることになった。
建物から出ると、そこにはゴーダンやコフィー、部下数人のコボルドがいた。
「お目覚めになられましたか、新たな主よ。儀式の準備は整っております、早速向かいましょう」
ゴーダンはそう言う。
新たな主?
多分、今僕の体を動かしているのは不吉な声を出していた人で、多分その人のことをゴーダンは呼んでいるのだろう。
でも何故ゴーダンがそんなことを知っているんだろうか?
そう疑問に思っているといつの間にか僕の体はゴーダン達とともに上の方へ移動を開始していた。
一体いつまで移動するのかと思うほどずっと上りつづけ、ついにコーボネルド中で最も高い所に位置する建物の入り口までたどり着いた。
「お手数をおかけいたしました、新たな主よ。儀式はこの建物の中で行われます、もう少しの辛抱です」
そう言ったゴーダンはその建物の扉を開ける。
そして一同は建物の中に入っていく。
建物の中は暗く、黒と赤を基調とした不気味な雰囲気が漂っていた。
そして、建物の中にある長い通路を歩いた先にある大きな扉の前にゴーダンは立ち、その扉を開け放った。
「さあ、儀式の間にたどり着きました! ご覧ください!」
扉の先にはまさに惨状とも言うべき光景が広がっていた。
その部屋は1000人は入れそうなほど広く、床には魔法陣らしき模様が大きくかかれていた。
そして中央には……
『あれって、死体の山!? 動物や亜人、それにコボルドも!?』
そう、死体の山が積み重なっていたのだ。
死体の山の中にコボルドが混じっているのは多分今日の殺戮が原因だと考えられる。
となると、これから行う儀式というものを行うために多くのコボルドが犠牲になったのだろう。
同族を犠牲にしてまでゴーダン達は一体何を企んでいるのか……
そう疑問に思っていると、奥から一人のコボルドが現れる。
そのコボルドは年老いているものの、圧倒的な魔力を感じる。
「新たな主よ、よくぞおいでくださった。私は天より飛来した宝玉によって延命はしたが、残り少ない命。この命、あなたに捧げましょう」
「コシュダン様、今まであなた様にお仕えできて私は誠に幸せでした。最期まで堂々たるその立派なお姿、この目に焼き付けておきます」
どうやら年老いたコボルドはコボルドの長であるコシュダンという者らしい。
コシュダンの言葉から考えると、最後の赤い宝玉はコシュダンの中に眠っているようだった。
ゴーダンに続いて他のコボルドもコシュダンに言葉を贈る。
それが終わると……
「さあ、新たな主よ、全ての準備が整いました。今こそそのお力を解放なさってください!」
ゴーダンの言葉に反応し、僕の体は死体の山の前に立つコシュダンの方に進んでいく。
そして……
《我が生贄となれ》
僕の口から発せられた言葉とともにコシュダンは真っ二つに引き裂かれてしまった。
そしてコシュダンの亡骸から赤い宝玉が飛び出してきて、僕の体へと吸収されていった。
この瞬間、僕の意識は途絶えた。
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コシュダンの亡骸から飛び出した赤い宝玉がレンに吸収されると、突如異変が起こった。
レンの体が強烈な赤い光を放つとともに、レンの体から白い宝玉と一匹の竜が出てきたのだ。
赤い光は徐々に弱まっていき、ついに消えたと思った次の瞬間、今度は死体の山から負のエネルギーがレンの体へと流れ込んでいく。
「ついに、千年ぶりに……新たな主が誕生されるのだな!?」
「ええ、全ては順調です。後は懸念事項を排除するのみ……」
そう言ったコフィーは、レンの体から出てきた竜に視線を向ける。
レンの体から出てきた竜……バルグが眠りから覚めたようだ。
バルグは周りを見渡すと、近くにある白い宝玉を手に取り、この部屋の出口を目指して飛んでいこうとする。
「させない、重力倍加!」
「逃がすものか、風刃!」
ゴーダンとコフィーがバルグに呪文を放つが、
「絶対障壁!」
バルグが出現させた見えない壁によってゴーダンとコフィーの呪文ははじき返される。
こうしてバルグはこの建物の外へと飛び去って行った。
「逃がしたか、まあでもいい。主の誕生の邪魔をされるものだと思ったがそんな心配は杞憂だったな。あんな一目散に逃げるようなやつなんて脅威にならないだろうが、一応指名手配でもして後で始末だけはしておけば良いだろう」
「そうですね。ただ私達の呪文を簡単に防ぐほどの力を持ちながらどうして一目散に逃げる必要なんてあるのでしょう? まあ、気にするだけ無駄でしょうが」
バルグが飛び去ってからしばらく経つと、死体の山からレンの体にエネルギーが流れ込まなくなった。
「いよいよですね、マスター」
「ああ、ついに念願が叶う……」
するとレンはゆっくりと目をあける。
赤い宝玉を四つ取り込んでいた状態よりもさらに体は大きく頑丈になっていて、死体から負のエネルギーを吸い取ったことによって禍々しい妖気を身にまとっていた。
「わが主、ついにお目覚めですか、何なりとご命令を」
「私も同じく主に従います」
ゴーダンとソフィーはそう言って、レンの前にひざまずく。
「そうか。では我の存在を周囲の魔物に知らしめたいと思う。できるか?」
「勿論です! すぐに用意させます!」
ゴーダンがそう返事をし、部下達を引き連れて急いで外へ出ていった。
ゴーダン達の尽力により、日が昇り始めた頃には多くのコボルドと周囲に住んでいる他種族がコーボネルドの広場に集まっていた。
「一体何が起こるんだろう?」
「歴史的な瞬間についに立ち会えるのか!」
「コボルドってこんな所に住んでいるんだな」
群衆はそれぞれしゃべっているが、高台にゴーダンが姿を現すと、一気に静かになる。
「では、これから我がコボルドの新たな長の演説を行う!」
ゴーダンがそう叫ぶと、後ろから一人の巨大なコボルドが現れる。
「よく覚えておくが良い、我が名はブローダン! この地を征服する者の名だ!」
この言葉を皮切りに、レンの姿をした禍々しい妖気を放ったコボルド、ブローダンの演説が始まった。




