2.鍾乳洞脱出
再び目が覚めた僕は改めて自分の体を見てみた。
犬のように毛に覆われた体、鋭利な爪など、確かにゲームで見たことのあるコボルドの特徴と似ている。
信じられないけれど、本当にコボルドになってしまったようだった。
『コボルドって確か雑魚キャラだったような? となるとこの世界で生き延びるだけでも難しいんじゃ?』
『確かにコボルド単体では強くない。だがコボルドは基本的に集団で過ごす魔物だし、集団になったコボルドは魔物の中でも上位の強さを誇るらしいぞ』
『とりあえずはコボルドの集団に入れてもらうことが生き残るための近道なのか。集団で過ごす自信がないんだけど……』
ぼっち経験の長い僕にとって集団生活というものは拷問だ。
みんな複数人で楽しげに会話している中で、一人孤立して過ごすことになるのだから。
だからあまり気が進まないな……
人間でさえダメなのに、コボルドとなんてうまくやっていける気がしない。
『確かにコボルドの集団に入ることは生き残るための近道ではあるが、別にそれ以外の道だってたくさんあるんだぜ?』
『えっ、それってどういう事?』
『お前一人だけの力では弱いかもしれないが、お前には俺がついている。俺の力を使えばその辺の魔物にだって負けはしないさ!』
『バルグの力ってどういうものなの?』
『そうだな……説明するよりも実際にやってみた方が早そうだ。よし。じゃあまずは右手に精神を集中させてみろ』
精神を集中ってどうやるんだろう?
よく分からないが、とりあえず右手に意識を向けてみる。
すると手が赤く光りだした!?
『わわっ!? 手が光った!?』
『フッフッフッ、まだまだこんなものではないぞ。そのままもっと集中するんだ!』
僕はバルグの言葉に従ってさらに右手に精神を集中させることにした。
だが、それ以上の変化は見られなかった。
『これって手を赤く照らす魔法なのかな? 結構生活には便利だけど戦力にはならなそうだな』
『だから俺の力はそんなものじゃないって!』
『そう言われてもどうやればいいのか分からないよ』
『まあ魔法を使ったことないようだし、いきなり使うのは厳しいか。なら俺がやってみせてやる。少し体を借りるぞ』
そうバルグに言われた瞬間に自身の意識が遠くなり、感覚がなくなっていった。
『この感覚をしっかりと感じておけよ』
そうバルグが言うと、僕の右手に焼けるような高密度のエネルギーが集まっているような感覚があった。
ここで僕の体をバルグが操っているのだと理解する。
『いくぞ。ファイアーボール!』
バルグがそう言うと、右手に出現した火の玉が猛烈な勢いで直進し、鍾乳洞の岩を破壊する。
『うわっ、すごい力だね……』
『次はレンの番だ。やってみな』
そうバルグが言うと同時に体の感覚が戻ってきた。
『こんなに強いなら、戦闘は全てバルグがやった方が良いんじゃないかな?』
『そんなに甘えんなよ。自分の体なんだから自分で守れないと意味ないだろ。とにかく早く練習を始めようぜ』
ちぇっ、ダメだったか。
まあ確かに自分の身は自分で守れないと意味ないと思うし、ここは頑張ってみようか。
練習を重ねることで、それなりの威力のファイアーボールを放つことができるようになった。
放ち方は分かったけど、バルグのものには到底及ばないんだよね。
『慣れっていうものもあるからな。これだけできれば上出来だ。よく頑張ったな、レン』
『ありがとう。ところでバルグはこの鍾乳洞の出口は知ってる? 僕、気が付いたらこの場にいて、よく分からないんだ』
『そうだな……俺もレンと同じような状況だから、よく分からねえわ。すまないな』
『いや、分からないならいいんだ。とりあえず手当たり次第に進んでいくしかないか……』
『そうだな。まあ何とかなるだろ、きっと』
脱出への手がかりは全く増えていないことに落胆しながらも、諦めて道を歩くことにした。
ただ歩くだけではつまらないので、バルグに話を聞いてみる。
『バルグって生物にだったら誰にでも憑依できたんだよね? どうして僕に憑依したがっていたの?』
『確かに生物はいたが、知的生命体に出会ったのはレンが初めてだったな』
『ということは、知的生命体なら何でも良かったということ?』
『それは否定はしない。だが、結果的にレンに憑依できて良かったと思ってる。他の俺の部位はこんなにうまくやっていないみたいだからな……』
『他の部位の事も分かるんだ? 確か全部で五つに分かれているんだよね?』
『ああ、何となくだがな。そういうときは宿主を乗っ取ってまた違う宿主に宿ったり、もしくはその宿主に力を使われていたりするみたいだ』
ええ!?
宿主を乗っ取るってそんな恐ろしい事できちゃうの!?
なんかとても怖くなってきたんですけど……
『そんなに心配するなよ。俺はそんな事しない。万が一するつもりなら、こうやって話す訳ないだろう?』
『確かにそれはそうだけど……』
『そうできなくもないというだけだ。俺にその意思がないのはこれからの付き合いで分かってもらうしかないだろうな。まあゆっくりいこうや』
バルグから伝わってくる感情から考えても、嘘をついているようには見えない。
ということは、本当に一緒に過ごしてくれようとしているんだろうか?
元竜との共同生活……なんだか想像がつかないなぁ。
雑談をしながらもしばらく歩いてはいるが、相変わらず鍾乳洞を抜け出せそうにない。
『いつまで歩けば出られるんだろう? 全く出られる気配がないんだけど?』
『確かに不自然だな。もしかして、隠し扉でしか出入りができない構造なのかもしれない。ほら、あの辺りとか怪しくないか?』
バルグがそう念で示してきた所を見ると、壁の一部が少し変色している部分を見つけた。
『多分押すと回転するような気もするぞ』
押すと回転する?
よく分からないけれど、とりあえず変色した辺りを押してみる。
すると壁が回転扉のようにぐるっと回って、僕は違う空間へと出た!
『うわっ、びっくりした! でもバルグ、よくこの仕掛けに気付いたね?』
『………………』
あれっ、返事がない?
それになんかバルグから嫌な感情が流れ込んでくるのを感じる。
もしかしてこの仕掛けにトラウマでもあるのかな?
そんな事を気にしていても仕方ないし、とりあえず先に進もうか。
しばらく進んでいると鍾乳洞の中が徐々に明るくなってきた。
期待を胸に歩みを進めていくと、ついに出口らしきところをみつける!
僕は嬉しさの余りついつい駆け出してしまう。
『やった、外だ! やっと出られるんだ!』
ついに外に出た僕の目の前にはこの世界の光景が映し出された!
目の前に広がるのは大自然。
前には広大な草原が広がり、左には湖や森があるようだ。
右には街らしきものがみられる。
その景色にみとれていると、何か体がおかしいことに気付く。
まるで下に向かって加速しているみたいだ。
いや、まるでではなくて実際に下に加速している!?
どんどん上がるスピード。
僕はどうやら崖から飛び降りてしまったらしい。
鍾乳洞の外が崖になっているなんて誰が想像できるんだろう。
こうなったのは確認を怠った僕の責任なんだけど。
あー、短い人生だったな……
『バカ、まだ諦めるのは早いぞ! 早く崖に捕まって速度を落とせ!!』
バルグの声を聞いて僕は反射的に崖に捕まろうとする。
キキィィィィィィィィィ!!!!!!!!
そのような耳障りな音が辺りに響き渡る。
僕の鋭利な爪が崖とこすれて速度を落としているのだ。
その耳障りな音と爪に走る激痛に耐えながら、速度を落とそうと努めた結果、地面すれすれで止まることができた。
『うーん、一時はどうなるかと思ったよ』
人間であればそんな方法で落下による速度を落とすことなんてできないので、このときばかりは魔物の体に感謝だね。
落下しながらも崖に強い力で爪を押し付けられたのも魔物の体の恩恵なのかもしれない。
また、その強い力だけでなく爪の強度にも驚かされる。
あれだけ長時間崖に爪を押し当てていたのに爪は半分もすり減っていないのだ。
とはいえ、爪はやはりすり減っており、鋭利だった爪は今やすっかりと平らになっている。
『まあこの方が生活するには便利かな。爪が鋭いと危ないし』
戦闘なんてするつもりもないし、この方が良いと思っていた。
だが、その考えはすぐに撤回することになる。
キシャァァァー!!!
目の前にいる赤い大蛇が今にも襲い掛かってきそうなのだから。




