17.遠征軍の凱旋
コルトのお気に入りの場所というのはだいぶ上の方にあるらしい。
さっきからずっと上り坂を歩き続けている。
「ねえ、いつまで登ればいいの?」
「もう少しだ。頑張れ!」
ヒィヒィ言いながらもしばらく歩いていく僕達。
すると……
「この階段を上った所がオレのお気に入りの場所だ!」
コルトが指差した先には、軽く百段はありそうな階段の壁がそびえたっていた。
「ひぇっ、今からこんな階段を上るの!?」
「そうさ、最後の難関ってやつさ! 頑張ろうぜ!」
いくら魔物の体になって体が頑丈になったり体力が増したとはいえ、やはり疲労は感じるらしい。
階段を上っていると、息切れをし始めてしまう。
そのため、時々休みを挟みながら階段を少しずつ上っていくことにした。
そしてついにその瞬間が訪れる。
階段を上りきってから目線をあげるとそこには・・・
「うわあ、凄い景色だなあ……」
思わずそうつぶやいてしまうほど、コーボネルドの城壁よりも高い視点から眺めるこの世界の美しい景色が目の前に広がっていた。
夕日が染める橙色の空もこれまた美しい。
「な、苦労したかいがあったろ?」
「うん、こんな景色見たことない!」
まあ正確には一度は見たことがあるのだがそのときは落ち着いて見られなかったのでノーカウントということで。
「でも不思議なのは、薄い緑色の膜があることだね。あの膜って何なんだろう?」
「あぁ、それはシールドだよ。城壁のない部分も無防備にならないようにああいうシールドを張っておくのさ。正直城壁よりもあのシールドの方が頑丈だと思うよ」
シールドか。
この世界って元の世界より技術が進んでいる所もあれば遅れている所もあってよく分からないなと思った。
シールドという未来的な技術があるのに対し、この世界には電気がなさそうで、夜はまともに出歩けない。
まあ、フィナのような案内役がいれば夜も歩けるのだが、それにしても不便である。
もしかすると僕が住んでいるのが魔物の村や街だから電気がないだけで、人間の街では電気はあるかもしれないけど。
色々と物思いにふけった後で、景色を眺めた。
遠くにはリザース達、ランドリザードの故郷がある湿地帯やキノーフェ村のある森、ゴブリンの村であるゴーブ村が見える。
そういえば、スラオやリザース、フィナは元気で過ごせているのだろうか?
しみじみと仲間達を思い出していると、ふと異様な光景が目に入る。
「コルト、なんかこの街にすごい数の生き物が向かってくるのが見えるよ!」
「おお、きっとそれはオレ達の国の兵士が遠征から帰って来たんだな!」
コルトはその動く何かの集団を見て、そう言った。
「ちょっと下に降りて見てこようぜ!」
コルトが言うと同時に僕の手を引っ張って走り出す。
僕も慌てながらもコルトに走ってついていくことにした。
城門の近くにたどり着くと、既に多くの人でごった返していた。
「すごい人だね……」
「そりゃそうさ! だってこの遠征にオレ達コボルドの将来がかかっているようなものだからな!」
「どういうこと?」
「明後日、千年に一度のコボルドの長の継承の儀式が行われるんだ。そのためには多くの生贄が必要なんだけど、この遠征で生贄を確保するんだ」
いけにえ……?
何でそんなものが必要なんだろう?
というかなんでそんな光景を見ようとするんだろう?
「生贄なんて、そんな悲惨な光景を見る必要はないんじゃないかな?」
「いや、これを見ることは必要だよ。歴史的にこんな光景を見られること自体はめったにないことだし、見ておかないと損だと思うんだ。だけどもっと重要な意味があるんだよ。それはね……」
コルトが何かを語ろうとした所、周囲がざわつき始めた。
「おっ、遠征軍が来たみたいだ!」
城門を見ると、ぞろぞろと多数のコボルドが入ってくる。
そしてそのコボルド達は生贄とされる様々な動物や亜人を抱えている。
生きている亜人は”助けてくれ!”と叫んでいるように見えたが、その叫びは周囲のコボルドの観衆の歓声にかき消されてしまった。
スラオ、リザース、フィナ達は無事だろうか……
自然と心配になる。
本当は亜人を助けたいと思ったりもしたが、この状況に一人で立ち向かっても返り討ちにされるのが目に見えている。
そのためこの状況を見ていることしかできなかった。
でももし仲間達が捕えられているんだったらそんな絶望的な状況でも立ち向かおうと覚悟をしていた。
しかし、そのことは杞憂に終わり、ランドリザードなど馴染みのある亜人を見かけることなく遠征軍の凱旋は終わった。
「……やっぱりただ見ているだけでも辛いものがあるね」
「ごめんな、せっかくの観光気分を台無しにしたみたいで。……でも、これは必要なことなんだ。これを見るだけでも覚悟が違ってくる」
どこか遠くを見ながらコルトが言った。
覚悟って何だろう?
そう疑問に思ったりしたが、コルトの表情を見て聞かない方が良さそうだと思い、聞かないでおいた。
コルト、先程までの元気な表情が一変して、思いつめたような顔をしているのだ。
結局遠征軍の凱旋を見てからは、僕とコルトのテンションが下がってしまい、遊ぶ元気がなくなってしまった。
今日のところは早く休んで明日に備えようというコルトの発言によって、それぞれ家に帰ることになった。
「絶対……絶対また元気で会おうな!」
「もちろんだよ!」
絶対会おうなんて大げさな表現を使うなぁと思いながらも、合わせた返事をしてコルトと別れた。
こうして自室へと戻った僕はベッドの上で寝っ転がる。
『バルグ、今回の遠征軍の凱旋ってひどかったよね』
『………………』
相変わらず返事はない。
バルグが近くにいることが当たり前になっていたからか、この状況はひどく僕を不安にさせるし、落ち着かない。
『早く寝よっと』
起きていると余計な事を考えそうなので早めに寝ることにした。
《あと一日……ついに……》
不吉な声は頭の中にうなるように強く響き渡る!




