15.戦闘訓練
なんだか最近ボーっとすることが多くなってきた。
調子が優れない。
『体調が悪いのかな?』
『……ああ、そうかもしれないな』
自分の体調もすぐれないが、それ以上にバルグの元気のなさが気になるな。
『何か考え事?心配なことでもあるの?』
『いや、何でもない。気にしないでくれ』
いくら聞いても、大丈夫の一点張りだ。
まあ、バルグも僕のように体調が良くないのかもしれない。
気にしないようにしよう。
ところで今日はどうやら戦闘訓練があるそうだ。
一応この街の軍に属していることになるから、サボったりすると後が怖いから素直に訓練に参加しよう。
適当に流してやればいいと思うからね。
起きて、それなりに出かける準備を終えた僕は戦闘訓練を受けるために訓練場へと向かった。
訓練場のある建物に入ると、あまりに多くの軍人っぽいコボルドがいることに驚かされた。
一万人はいるんじゃないかと思う。
そして訓練場の広さにも驚かされた。
どれ位広いかと言われると表現しにくいのだが、一万人が入っても少しだけ余裕がある位の広さってところだろうか。
訓練場に入ってしばらく壁に寄りかかって待つことにした。
「なぁお前、どこの地区の出身だよ?」
「地区? うーん、忘れちゃったな」
待っている間にあるコボルドから声をかけられた。
多分コボルドはみんなこの街で生まれるから、コーボネルドのどの地域で生まれ育ったのかを聞いているのだろう。
洞窟の中で生まれたなんて冗談にしか聞こえないし、そもそも転生ってどういう扱いなのかも分からず、説明するのが面倒なので適当に誤魔化すことにした。
「忘れるなんて変な奴だな。じゃあ今はどこの地区に住んでいるんだよ?」
コボルドはしつこく聞いてくる。
どの地区に住んでいるかということを詳しくは覚えていないが、確か図書館カードを作るときにも使った住民手帳に載っているはずだ。
そこで住民手帳を取り出した。
「あー!? お前シルバーランクの住民手帳持ってんじゃねぇか! オレなんてまだブロンズランクだっていうのによぉ! 一体どんな功績をあげたんだ?」
どうやらゴーダンからもらった住民手帳は少し位の高いものだったらしい。
ゴーダン達は僕を好待遇で招待してくれたのだろうと解釈した。
半ば強制だったのが気に食わないけど。
スカウトされたというと変な勘違いされそうなので適当にはぐらかすことにする。
「住民手帳を紛失して作り直してもらったんだけどそうしたらたまたまシルバーランクになっていたんだ」
「そんな話聞いたことないけどなぁ。あ、そうそう、ランクと言えば、明日遠征から帰ってくる兵士達はきっと大きな成果を挙げて、きっとすごい高位のランクが与えられるんだろうな!」
「そうなんだ……」
あまり興味ないので適当に返事をする。
「あ、そうそうオレはコルトっていうんだ! お前の名前は?」
「レンだよ」
「そっか、じゃあレンよろしくな!」
コルトと会話をして時間をつぶしていると、訓練場全体に第一訓練の剣術を行うように指示をされた。
僕は剣なんて持っていなかったが、武器は訓練場近くの武器庫で借りられるらしいので武器庫に向かうことにした。
「レンは自前の剣持ってないのか?」
「うん。まだ入隊したばっかりで武器は持っていないし、使ったこともないんだ」
「そうか、じゃあオレが剣の使い方ってやつを教えてやろう!」
「ああ、よろしく頼むよ」
武器庫から適当な剣を借り、僕とコルトは広場へと出た。
「第一訓練 剣術、始め!」
その号令とともに、訓練場にいるコボルド達は一斉に誰かと一対一で剣の訓練を始めた。
僕はコルトと剣の訓練を行う。
この世界に来てから、僕は剣と馴染みがない。
剣といえば、リザースが使っている所を見ていた位だ。
剣がなくてもバルグの力で強化された自分の爪で攻撃すれば十分だったから剣を使う必要はなかったし、使う練習もしなかった。
そして元の世界にいたときの僕は帰宅部だったので剣の使い方など分かるはずもない。
えいっと剣をふるった僕はやすやすとコルトに防がれた。
「隙だらけだな。剣とは……こう使うものなのさ!」
そう言ったコルトは目にもとまらぬ早さで無数の斬撃を繰り出した。
攻撃をして隙だらけであった僕はその斬撃の餌食となった……が。
「嘘……だろ?」
僕の体には傷一つなく、一方で攻撃していたはずのコルトの剣が粉々に砕けてしまった……
どこかで見た状況だなぁ。
「自分に防御強化の魔法かけてたからかも……」
「お前どんだけ強い魔法かけてるんだよ……くそっ、もう一回!」
そう言ったコルトは武器庫の方に走り去ってしまった。
『困ったことになったな……』
バルグの力ってとんでもないんだなと改めて実感した瞬間だった。
その後もコルトが攻撃をしてはコルトの剣が壊れるのを数回繰り返した。
するとついに我慢できなくなったのか、防御強化の呪文を解くよう頼まれた。
「いいけど、もう少し剣のぶつかり合いをしたいから、コルトも手加減してよ?」
「ああ、約束する。さすがに今のままだと手ごたえがなさすぎてつまらないんだよな……」
こうして条件をのませた上で、自身に防御低下の魔法をかけた。
元々防御強化の魔法なんてかけてないのだから、防御を低下させるしかないんだよね。
コルトが手加減してくれるおかげでそれなりに様になった剣のぶつかり合いができるようになった。
「くらえっ!」
コルトが放った全力の斬撃は僕の体についに傷をつけた。
「やった、ついにレンに傷をつけることができたぞ!」
「よ、よかったね……」
強力な防御低下呪文がかかった状態の自分に傷をつけただけで喜んでいるコルトが少し気の毒だった。
実は防御低下呪文をかけてましたなんて僕が言ってしまったときのコルトの姿を想像したくない。
なのでここは大人しくコルトの偉業(?)を祝福してあげるのだった。
しばらくすると剣術の訓練が終わり、続いて槍術、魔術の訓練を行った。
槍に関しては僕だけでなくコルトも使ったことがないらしく、互いの攻撃は不発で終わり続けた。
そのため槍の訓練はまともにできないまま終わってしまった。
魔術に関しては、僕はバルグから教わっていたのでそれなりにできていたが、コルトは全く分からないらしい。
結局魔術訓練の時間はコルトに魔法の基本的な使い方を教えるだけで終わってしまった。
魔術の訓練を終えると、今日一日の戦闘訓練は終わったようだった。
「レンって強いんだな! もしかしてレンがシルバーランクなのは、その実力を買われてスカウトされたからなんじゃないか?」
「いや、そんなことないよ、ちょっと魔術が得意なだけだから……」
「そうだ、明日休みだろうから、一緒にこの街の散策にでも行かないか? レンって新しい地区に来て間もないみたいで慣れていないみたいだしさ!」
「そうだね。よろしく頼むよ!」
この街は広大すぎるので、どこへ行くにも迷ってしまう。
なので街を案内してくれるというコルトの提案は願ったりかなったりであった。
それにコルトには何となく好感が持てる。
断る理由なんてないのだ。
こうして明日の約束をしてコルトと別れ、自分の部屋へと戻る。
『明日、楽しみだな! コボルドって自分で言うのもなんだけど、結構怖いイメージがあったから、コルトみたいに親しくしてくれる人がいるとは思わなかったよ!』
『……ああ、それは良かったな』
バルグからはそっけない返事がかえってくる。
今日のバルグは何だか冷たいなと思いつつも寝床に入って休むことにした。
《あと二日……》
不吉な声が昨日よりもはっきりと頭の中に響く……




