13.VS赤ウルフ
それからはコボルドと出会うこともなくゴーブ村にたどり着いた。
何事もなくて何よりだ。
「レンさん、情報収集ならおれがやる。ここで待ってろ」
そう言ってゴンは村の中へ入っていった。
『ゴンの奴、優しいんだな』
『えっ、どうしてなの?』
『ゴブリン達にとって、俺達は敵。つまり歓迎なんてされる訳ないってことだ。そんな所でまともに情報収集なんてできるわけないだろ?』
確かにそうだった。
ゴブリン達は何故か知らないが、スライム村を襲ってきた。
つまり、僕達はゴブリンにとって敵なんだ。
どうしてゴンが協力的なのかは謎だが、基本的にゴブリンが僕達に良い印象を持つわけはないよね。
そういう訳でゴーブ村での情報収集はゴンに任せた。
しばらくして戻ってきたゴンが聞いた話によれば、ウルフはどうやら東の森に潜伏しているらしい。
『ウルフ戦での注意点は二つ。一つはまず攻撃を当てられない可能性があること、二つ目は戦闘が森の中だから火属性を使えないことだね』
『そうだな。特に攻撃を当てにくいというのは厄介だな。でもなんとかなるさ』
『うん、策がないという訳じゃないからね』
実は旅で移動している暇な時間を見計らってバルグから新しい呪文について教えてもらっていて使えるようにしているのだ。
今度の戦いではその新しい呪文を使って勝ちにいこうと思っている。
実戦での使用経験がなくても、使えそうであれば、躊躇せずに戦術に組み込む。
そうでもしなければ強敵との戦いには勝てないのだ。
まあ、一つの技を極めて強力にするというのも策なんだけど、僕には極める為の時間もないからね。
付け焼刃でも、とれる戦略は多いに越したことはないのだ。
「それじゃ、東の森に出発しよう!」
こうして僕達四人は赤いウルフの噂を確かめる為に東の森へ出発することにした。
=======
東の森は霧に覆われていて、何だか薄気味悪い。
そんな中しばらく歩いていると、前を進むフィナが立ち止まる。
「ウルフの群れは近いわよ」
確かに周りから気配を感じる。
「じゃあ、作戦通りに」
僕が言うと、三人は退いて物陰に隠れた。
作戦とは、ウルフの攻撃を僕だけで受けきること。
相手が素早い以上、相手の攻撃は避けられないし、誰かを守る余裕もないと考えたのだ。
そしてこの作戦は初戦の蛇戦のように時間稼ぎを目的としない。
防御することが攻撃の布石となる。
僕だけがその場で待っていると、近くから何者かが襲い掛かってきた!
その少し後に続いて多くの何者かが僕に襲い掛かる。
僕は受け身の態勢をとり、ダメージを減らすように努力した。
霧からうっすらと見えた感じ、黒い狼が襲ってきているようだ。
ちなみに僕の体はバルグの力の恩恵によってだいぶ強化されており、並大抵の攻撃は傷にもならないほどの頑丈さを持つ。
しかしその体を持ってしてもウルフの攻撃は防ぎきれず、ダメージを与えてくるのだ。
「もうそろそろいいかな」
ウルフの攻撃をしばらく受けた後で僕はつぶやいた。
「時限爆弾!」
すると僕を攻撃していたウルフは氷漬けになり、動けなくなって倒れた。
そう、これが防御すること自体が攻撃の布石となるということだ。
仕組みはこうだ。
あらかじめ氷属性変化の技をかけておいた時限爆弾を作成する。
そしてその時限爆弾を設置する相手を僕に攻撃を加えてダメージを与えた対象と設定しておく。
するとウルフが僕を攻撃することで自動的にウルフに時限爆弾がセットされ続け、僕の合図とともにセットされた時限爆弾が発動するという訳である。
多分これで多くのウルフを倒すことができたと思う。
問題は……そう、例の赤いウルフだ。
その赤いウルフが奥からゆっくりとやってくる。
目で見えなくても、強烈な殺気を放ってきているので、どこにいるのかは一目瞭然だ。
そんな赤いウルフが一瞬にして僕の近くを通り過ぎた。
するとその瞬間、僕の右腕が宙を舞った……。
自分の右腕が一瞬にして吹き飛んだのだ。
その事実を認識すると同時に激痛がはしる!
少し経つと、宝玉の再生力により、右腕が自動的に修復され、痛みはなくなった。
『バルグ、どうやら相手を甘く見ていたみたいだ』
『ああ、俺にとっても予想以上の相手だ』
『多分あの赤い狼に対しては受け身をとる戦法は使えない……となると残るはあの戦法だね! バルグ、サポートお願い!』
『任せとけ、レン!』
こうして決死の戦いが改めて開始されるのだった。
これから行うことは戦法と果たして言えるのだろうか?
だってこれから行うことは、僕とバルグの力を合わせて赤い狼よりも素早く、鋭い攻撃を行い、先に致命傷を与えるという、すごくシンプルなものなのだから。
単純な身体能力のぶつかり合いに挑むのである。
そんな戦いに挑んで勝とうとしたら小手先の、付け焼刃の方法は通用しない。
つまり、僕が今まで努力してきた方法では通じないし、どうしたら強大な相手に勝つことができるか想像もつかない。
ただ唯一勝ち筋があるとすれば、それはバルグの力を最大限発揮できたとき、つまり、僕とバルグの気持ちを一致させて二人の力で相手と戦えたときにあると思う。
バルグ単独で動いても確かに強いのだが、バルグは本来は竜族であり、コボルドの体は不慣れである。
恐らくそのような慣れない体を動かすだけで多大なエネルギーを使うから長時間活動できないのだろう。
バルグが自らすすんで僕の体を動かそうとしないのはそれが原因だとバルグも言っていた。
となると長時間、かつ最大の力で活動し続ける為には体を動かす僕の力も必要になるのだ。
『大丈夫、できる!』
『ああ、レンならできるさ! それに俺だってついてる!』
『そうだね!何て言ったって僕達は、』
『俺達は、』
「「二人で一人なのだから!!!」」
そう叫んだ途端に自分の中のエネルギーが増大し、体中を燃え盛る炎が覆い尽くす!
そんな自分に対し、赤い狼が迫ってくる・・・が今までの目で追えない動きが嘘のようにスローモーションで動いているように見える。
「そんなものか!」
そう言った僕は、赤い狼を切り裂き、地面へと叩き落とす。
そしてとどめをさそうと赤い狼に近づいて腕を振り上げたとき
《殺せ・・・》
その声が頭の中から聞こえてくる。
しかし、そんなことは気にせず、目の前の赤い狼を葬り去った。
赤い狼を倒すと同時に僕とバルグの一体化がとけ、通常の状態に戻った。
『やったね、バルグ!』
『ああ、でも喜ぶ前にやるべきことをやろうか』
『うん、そうだね』
そうバルグと語ってから、赤い狼の近くへ行き、手をかざした。
すると赤い宝玉が僕に近づいていき、僕の中に吸収された。
『これで四つ目か……あと一つだね』
『ああ、そうだな』
『バルグは自由の身になったらどうするの?』
『うーん、そうだな……』
そうバルグが悩んでいると、
「さすがは師匠です! あんな強敵を倒してしまうなんて!」
「すごい力ね! やっぱり只者じゃないわ、レン!」
「これで村は救われます!」
そう言うリザース、フィナ、ゴンの声が聞こえる。
その声を聞いて、本当に勝ったんだという実感が湧いてきて、喜びを感じてきた。
「帰り道は私達に任せてください!」
「そうよ。あなたは安心して休んでいるといいわ」
そう、これは事前に話しておいたことである。
戦闘の間は周りを気にせず戦いたいから安全な場所で見守っていてほしい。
そして僕が全力で戦ったら力尽きてしまうかもしれないから、その時は僕を守りながら帰ってほしいということだった。
「ありがとう、みんな……
」
そう言って安心して眠ろうとした瞬間……
「実に見事な戦いだった。褒めて遣わそう」
そう言った不気味な声が背後から聞こえた。
慌てて僕達は戦闘態勢を整える。
「そんなに身構えなくてもよろしいのに……」
その声が聞こえると同時に二人のコボルド、あの草原で見かけた、漆黒のコボルドとコフィーが現れる。
「え、何でこんなところに……」
「それはだな、君のスカウトをするためだよ、レン君?」
「あなたの下で働けということですか?」
「そういうことだな。といってもお前もコボルドだから分かるだろうが、職業が変わるだけだぞ? 所得や待遇は今よりもはるかに上がるはずだ。当然受けてくれるよな?」
職業が変わるだけ、ね。
そうだとしても、やっぱり誰かの下について動くというのは性に合わないんだよね。
直接断るのも怖いから、ここは遠回しに断って、何とかやり過ごそうかな。
「……考える時間を下さい」
そう言って僕は立ち去ろうとした。
しかし……
「君に選択肢はないのですよ?状況をよく見なさい」
冷たい声でそうコフィーが言う。
周りを見ると、多くのコボルドに囲まれている様子が目に入る。
それに加えて……
「リザース、フィナ、ゴン!?」
三人がコボルドによって捕えられ、刃物を突き付けられている様子が見えた……。
「分かったか? 従えばこいつら全員生きて帰してやる! でも、少しでも抵抗しようとしたら……」
「分かりました。あなたの下で働きますから、どうかみんなを見逃してください!」
人に命令されて束縛されることを嫌う僕が、その状況になることを受け入れてでも、リザース達のことを守りたいと決意した瞬間だった。
「師匠、何言っているんですか? 私のことなど放っておいても……」
「馬鹿言うな! すでにリザース達は僕にとってかけがえのない仲間になっていたんだよ! リザース達がいなくなったら、僕は……きっとすごく悲しいと思う。そんなことに比べたら、少し生きにくくなる位どうってことないさ!」
「師匠……」
「レン……」
「レンさん……」
自らを犠牲にしてでも守りたい者達が僕のことを見つめている。
その心配、思いをくれるだけでも大切にしてもらえているという暖かい気持ちになれるし、勇気も湧いてくるのだ。
「そうか。その想い……受け取った。では私についてこい」
こうして僕は漆黒のコボルドの後についていくことになった。




