10.地土族(モグラ)
キノーフェ村に着いてから、村長の町にゴーレムを正常化させたことを報告した。
「いやー、予想以上の成果ですよ! 私達の宝を取り戻せたらいいと思っていましたが、まさか財宝の番人まで残しておいていただけるとは……感激です!」
ゴーレムを倒すという本来の目的とは違う結果にはなったが、むしろ喜んでもらえたので良かったな。
報酬をより弾んでくれるらしいので期待しておこう。
村長からフィナについて聞かれるが、ゴーレムに襲われている所を助けたと適当にはぐらかしておいた。
正直に財宝を盗むためにきたなんていったらどんな目で見られるか他人事とはいえ想像したくないからね。
村長への報告を終えて報酬を受け取った僕達は村の宿屋へ向かった。
宿屋で部屋を借りて落ち着いた所で僕は話を切り出す。
「さて、これからどうしようか? 村長によれば森の外はランドリザードが僕のことを探し回っているみたいだし、夜に出発するしかないのかな? でも夜に移動するとまた変な方向に進んで道に迷いそうだし困ったな……」
「なになに? どうしてレンがランドリザードに追われているの? 何か訳アリ?」
フィナが興味津々である。
なんかフィナに話すとそこら中にウワサされそうで話すのは嫌なんだよなぁ。
そうためらっていると、
「それはだな、師匠が圧倒的な力を見せつけて、我々ランドリザードの心を奪っていったのだ! それはもう……」
リザースが語りだして止まらない。
対するフィナも真剣にリザースの話を聞いている。
リザースを止めるのも億劫になので放っておいて寝ることにした。
「師匠……起きてください、師匠!」
「うーん、何だよ、リザース……ってもう夜になっちゃったのか」
「そうです。今から出発しようと思うんですけど、どうですか?」
「出発って……別にいいけど、方向が分からなくてまた迷っちゃうんじゃないの?」
「それがですね! フィナさんがそういう方向感覚に優れているみたいでスライム村の近くまで案内してくれることになったんです!」
「そうよ、この私がいれば夜でも心配なく目的地に着けるわよ!」
どうやらリザースとフィナは僕が知らないうちに仲良くなったらしい。
そして仲良くなったリザースがフィナの協力をいつの間にか取り付けたようだ。
「フィナは、旅の途中なんでしょ? 僕達と一緒についてきてもいいの?」
「確かにお金集めにも興味があるけど、リザースの話を聞いてレンに興味を持っちゃったからついていきたいと思うの! ダメかな?」
「別にダメな訳じゃないけど、多分僕と一緒にいても退屈だし、お金を稼ぐ邪魔にもなるかと思って」
「それについては心配いらないわ。私が退屈だと思ったりお金稼ぎたいと思ったらふらっといなくなるし、自分の意思で勝手にレンについていくんだからレンは私の心配をする必要はないわよ!」
余計な心配をしなくてもいい、か。
気を遣わなくてもいいならということで、僕はフィナが一緒に来ることを了承した。
「ありがとう、レン! レンの近くにいればどんどん強敵が現れてお金も集まってきそうね……」
なんだ、結局お金目当てかい!
まあスライム村まで戻る為にはフィナの力が必要なのは事実だ。
同行する理由については気にしないようにしよう。
こうして新しい同行者、フィナを連れてキノーフェ村から旅立つことになった。
フィナの案内のおかげで、夜にも関わらず、迷わずに森を抜けることができた。
すると左の方向に何やら家の明かりのようなものが見える。
「あそこは何だろう?」
「あれはゴブリンの村、ゴーブ村よ。ゴブリンって少し気性が荒いからあまり村には近づかない方がいいかもね」
「そっか、ゴブリンの村なんてあるんだ、知らなかった……。すると今ってどの辺にいるんだろう?」
「そうですね、リ・ザーラ村から少し南下した所って言えば分かりやすいでしょうか?」
「そうよ。ランドリザードに見つからないようにしようとしたら、湿地帯を迂回するようにしてスライム村までたどり着く必要がありそうだから、このルートを選んだの」
こうして先導するフィナについていき、ゴーブ村に近づきすぎず、でも湿地帯に踏み込みすぎない絶妙なラインを通っていく。
すると突然地面に引っ張られた。
えっ、と思う間もなく落とし穴に落ちたかのように地面の中を落ちていく。
いつしか僕は気を失っていた。
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目が覚めた……が辺りは真っ暗である。
一方で周りは騒がしく、お祭り騒ぎである。
そして何だか足元が熱いし吊るされているような感じがする。
『これってもしかして何者かが僕を食べようとしているんじゃ!?』
『ああ、そうだな』
そうなのか。
僕は食べられようとしているのか―――って、何でバルグはそんなに平然としているんだよ!?
そういう状況になっている事に気付いているならそうなる前に何とかしてくれたらよかったのに!?
『何でこの状態になるまで放っておいたの? バルグだったら僕の体を使って抵抗することもできたんじゃ?』
『まぁ確かにそうだな。でもこういう状況なんて滅多にないから興味があってな。邪魔をしないようにしてやっていたんだ』
『興味って……まぁ、それはいいとして、この状況をどうやって切り抜けるか考えないと……』
『ふふ、さあどうする?』
『なんでバルグはそんなに楽しそうなんだよ!?』
困っている僕を見て楽しそうにしているバルグに少しイラつきながらも脱出方法を考える。
『とりあえず目が見えないと話にならないかな……』
『そうか、それなら任せろ。炎燃!』
すると体が熱を帯びて、目隠しがとれたようだった。
周りを見渡すと、どうやら洞窟の中にいるようで、周りには黒くて小さな生物が踊っていた。
その中で僕の異変に気付いたものはこちらを見て驚いているようだった。
『バルグ、助かっ……』
僕がバルグに感謝の気持ちを伝えようとした瞬間、ブチっという音が聞こえた。
何か嫌な予感がする……
その音が聞こえるとともに僕の体は落下を始めた。
慌てて下をみると、何とそこにはグツグツと沸騰した巨大な鍋が!
このままでは僕は鍋の具になってしまう!?
「氷変換! そしてブレイズプリズン!」
とっさに二つの技を地面に放つと、氷属性の炎の牢獄……すなわち冷気の塊がこの部屋全体を襲う!
足元の鍋も凍り付き、周りの黒い生物もみんな凍り付いてしまった。
その技のおかげで僕は無事に凍った鍋の上に着地する。
『少しやりすぎちゃったな、部屋の中がすごく寒くなったし』
『ああ、見ていた俺もちょっと引いたぞ……』
いや、やりすぎの常習犯であるバルグにだけは言われたくないから。
『そもそもバルグが事前に助けてくれればこんなことにならずに済んだじゃないか!』
『それだとこの穴から脱出するまで全部俺が行動しなくちゃいけないだろ? そんな面倒なことは嫌だね』
さすがは面倒な事を嫌うバルグ。
確かに僕が気を失っているときに行動しようとするとその間は全部バルグが行動しないといけなくなるのは本当なんだけどさ。
『それに、レンならこんな状況を何とかしてくれると信じてたさ』
こういう状況じゃなければ嬉しい言葉なんだけどなぁ……
とにかく口喧嘩はもう終わりにしよう。
それよりも問題なのは―――ここからどう脱出するかだ。
ブレイズプリズンは人を苦しめる技であって殺す技ではないのと同様に、氷属性に変えたブレイズプリズンも時間が経てば効果がなくなるだろう。
すると周りの生物から追い掛け回されることになりそうだ。
早く脱出しなければ。
『この黒い生物、どうやら地土族だな』
『モグラ……もしかして僕はモグラの罠にはまって落ちた?』
『そういうことだな。地土族の穴は複雑怪奇で脱出は困難らしいぞ?』
『脱出は困難かぁ。気が滅入るよ……。とにかく移動するしかないんだけど』
こうして移動を開始したのだが、歩いても歩いても通路ばかりで変わり映えしない景色が続く。
すると遠くから音が聞こえてくる。
『まずい。もう氷解けちゃったかな?』
『らしいな。もうそこにやってきてるぞ』
モグラの大群がこちらに向かってきている様子が見えてきた。
そしてモグラ達は僕に近づいてきて……
「お願いです! そのお力を私達に貸していただけませんか?」
はい?
何言っているんだ、こいつは?
まさかこのモグラ、先ほどまで食べようとしていた相手に対して助けを求めているの?
冗談だよね?
「食べようとした相手に対してよくそんな事言えるね?」
「そのことは本当に申し訳ありませんでした! あなた様の力を見誤っていたということもありますし、私達の食糧がない現状もあって、なりふりかまっていられなかったんです!」
どうやら、モグラによれば、ある日を境に大蛇族に追いかけられ、食糧を探すこともままならないのだという。
「ある日っていつ頃?」
「確か5日位前だったような気がします……巨大な蛇の死骸を見つけてラッキーと思ってその死骸を私達が持ち帰って食したのですが、そのときから追いかけられるようになりましたね……」
確か5日前というと僕がこの世界にやってきて、蛇を倒した日と重なる。
蛇を殺したことで恨まれるということは確かにあり得ない話ではない。
多分蛇は勘違いしてモグラが蛇を殺したのだと思って追いかけているんだろうと思う。
そんな風に思っているなら僕にとっては都合が良い。
蛇が勘違いしてくれたままならば、蛇が僕を襲ってくることがなさそうだからだ。
そして、この件に関わってしまうと、僕に蛇の怒りの矛先がくることは簡単に想像できる。
なので関わらない方向でいこう。
「そうなんだ。でも蛇って毒ありそうだし、怖いから僕じゃ敵わないな……ごめんね、君達の願いは叶えられそうにないよ」
「そんなこと言わないでください! 蛇を倒してくれれば出口から案内してあげますから!」
蛇を倒さない限りここから出してくれるつもりないのかよと正直思った。
自分達でこの地中の迷宮に陥れておきながらさ。
なんてずうずうしい奴らなんだ。
ちょっとイラついたので少し考えていた強引な脱出手段を脅しも兼ねて言ってみる。
「ここから地上に向かって攻撃して道ができれば脱出できるから案内なんて必要ないよ、だから諦めて」
すると、モグラは困っている様子だった。
少し罪悪感はあるが、蛇に恨まれて追いかけられるよりはマシだろう。
「いいんですか? そんなことを言っているとあなたがスライム村に戻る頃にはそのスライム村は穴だらけで荒らされていてまともに住めなくなっていますよ?」
もう一匹の違うモグラがそう言ってきた。
なんて恐ろしいことを考えるんだろうか……
というか、このモグラ達、僕がスライム村で過ごしていたことを知っている?
やはり僕が倒した大蛇の死骸を持って行ったのはこいつらだったのか。
この脅しにはさすがに逆らえそうにないので不本意ながらモグラの願いを聞き入れることにした。
モグラ達に連れられて、蛇がよく出現するという場所までたどり着いた。
細い薄暗い通路であり、所々に蛇の攻撃の跡のような傷がついている。
ちなみに僕に蛇退治をお願いしたモグラは”もぐた”で、脅してきたモグラは”もぐと”というらしい。
「ここで激しい戦いをしているんだね……」
「はい。あいつらの侵攻をここで何とか食い止めてはいるのですが……その足止めに手間取ってで食糧をまともに回収できないのです」
そうもぐたはしょんぼりした様子で言う。
「ここで蛇を圧倒的な力で倒して、私達の近くに蛇が寄り付かないようにするのがあなたの役目です」
もぐと、ウザいな。
相変わらずもぐとの言葉を聞いていると非常にイラつくのだが気にしない。
気にしたら負けだ。
しばらく待機していると、奥から何か来る音が聞こえてくる。
「きたぞ!」
そうモグラの男が叫ぶ。
目の前にはかつて倒した赤い蛇に負けず劣らず大きな黒い蛇が三体いた。
『うわっ、久しぶりに蛇を見たけど相変わらず大きいな……』
僕にとっては蛇との戦いが初めての戦いで、最も苦戦した相手でもあるので印象深い。
そう、しみじみ感慨にふけっていると
「出番です。さっさといって倒してきて下さい!」
もぐとにそう言われると同時に背中を強く押された。
背中を押された僕は一人、三体の蛇に囲まれる位置に来てしまった。
『もぐとめ……絶対後で後悔させてやる……』
僕はそう心に誓った。
我慢にも限界ってものがあるのだ。
蛇に囲まれた僕は身構えるが、睨みあったまま膠着状態となった。
しばらくすると何やら三体の蛇が話し合った後で、一体の蛇が顔を近づけてくる。
攻撃されると思い、身構えていたのだが……
「あなたに話があります。大丈夫です、悪い話ではないですから。ちょっとここでは話しにくいので私達の住処に来てもらいます。大丈夫、あなたに危害を加えるつもりはありません。あなたの力は分かっていますから。大人しく、できればやられる演技をしてくれると助かります」
そう蛇が耳打ちしてきたのだ。
すると、その蛇が尻尾で僕を巻き付け締め付けているように見える行動をした。
でも実際蛇は僕の体を抱き上げるように優しく包んでいるだけで全く苦しくない。
状況がよく分からないが、どうやら蛇は敵対するつもりはなさそうだ。
戦わなくてもいいならば戦いたくないので、おとなしく蛇の言葉に従うことにする。
「うわー、や、やめろ! くるし……(バタッ)」
そう叫んで暴れた後に気を失う演技をしてみた。
ちょっとわざとらしすぎたかと思ったが
「わー、妖狼がやられた!? どうしよう!? しょうがないから一旦引こう!」
もぐたの声とともにモグラ達が退いていくような音が聞こえたので、モグラ達をだませたようだ。
蛇達はモグラ達が逃げていく姿を見送ると自分達の住処へと帰って行った。




