9.ゴーレム
さて、ゆっくり休めたのはいいんだけど、どうやってこの森から脱出しよう?
お金もないからずっとここにはいられないしなぁ。
そう部屋で悩んでいるとドアをノックする音が聞こえる。
入ってもいいと伝えると、ドアが開く。
「失礼します、旅のお方。もしやあなた様は”孤高の炎熱神”と呼ばれる方ですかな?」
「え、いや初めて聞きましたけど?」
「いやいや、他種族とともに行動している妖狼族なんて”孤高の炎熱神”以外に聞いたことがないですよ!」
「その”孤高の炎熱神”とやらはどこから聞いたんですか?」
「ランドリザードがその言葉をそこら中で叫んで探し回っている所を情報部隊が聞きつけたようです」
またランドリザードか……
面倒なことになっていることが明らかだよなぁ。
『これはしばらく森から出られそうにないなぁ』
『ああ、そうだな。ここでしばらく過ごすか?』
『お金がないからそれは無理だろうね。どうしたらいいんだろう?』
しばらく悩んでいると、老人から声をまたかけられる。
「本題に入るのですが、そんなあなたにお願いがあるのです。森を荒らしまわっている赤いゴーレムの破壊をしていただけないでしょうか?」
「ゴーレムが森にいるんですか?」
「はい。実はその泥人族はキノーフェ村の住人の大事なものを守護する番人だったのですが、数か月前に体が赤く変色してからは言うことを聞かずに暴れまわっていて困っているのです……」
なるほど、確かに大変そうだ……
それに赤く変色してからおかしくなったというのも気になる。
『バルグ、そのゴーレムって、もしかして赤い宝玉を取り込んだんじゃないかな?』
『その可能性はあるな。確かめた方が良さそうだ』
バルグと確認し合った後、その依頼を受けることに決めた。
ただしせっかくだし、条件をつけよう
「依頼を受けてもいいんですが、報酬とかもらえたりしないですか? 何しろ無一文なもので……」
「それはもちろんですとも!」
やった!
これでお金も手に入るし、赤い宝玉探しもできるし、一石二鳥だね!
こうして僕達は赤いゴーレムとの戦いに挑むことになった。
依頼をしてきた老人はキノーフェ村の長であることが判明した。
村長は依頼に対する報酬を払うと約束してくれただけでなく、ゴーレムと戦う準備として村の施設を自由に使うことを許可してくれた。
そして僕は今、キノーフェ村の図書館で調べものをしている。
『火が使えないのは痛いなあ……バルグって火以外の魔法は使えるの?』
『使えるが、だいぶ威力は落ちるだろうな』
『なら他の方法を考えた方がいい、か』
キノーフェ村は森の中にあり、おそらくゴーレムとの戦闘も森の中で行われることが推測される。
となると山火事の原因となるような火属性の魔法は安易に使えなくなる。
今までバルグの強力な火属性の魔法に頼り切っていたので、火属性の使えない戦いとなるゴーレム戦では苦戦を強いられるだろう。
そこで僕はなんとかゴーレム戦に使えそうな魔法をいくつか覚えることにしたのだ。
やることを終えた僕は図書館を後にした。
少しの休憩をはさんだ後で、僕とリザースは村長から教えてもらったゴーレムの居場所へ向かった。
「この中にゴーレムがいるんだね」
「そうですね。でも私がついていますからゴーレムなんて敵じゃないですよ!」
森の中を歩いてきた僕達は今、ゴーレムの住処となっている洞窟の入り口に来ていた。
火属性なしで行う今回の戦いではリザースが貴重な戦力であることは間違いなく、頼りにしている。
少し緊張しつつも洞窟の中に足を踏み入れる。
洞窟の中は外よりは少し暗いものの、意外と明るかった。
所々に松明があって洞窟の中を明るく照らしているのである。
あれっ、松明があるってことは洞窟の中は火属性攻撃をしても問題ないんじゃ?
……まあ、使えるんだったらそれでいいし、一応油断はしないようにしようか。
しばらく歩いていると、前方に赤い塊のようなものが見えた。
あれがゴーレムなんだろうか?
恐る恐る僕達は赤い塊に近付く。
すると急に赤い塊が宙を舞って、みるみるうちに形を作られていき、最終的には巨人のような形となった!
ゴガァァァァァー!!!!
ゴーレムがうなり声を上げる。
「すごい迫力ですね! でもこんな敵、師匠が手を出す必要もありません!」
そう言ったリザースはゴーレムに突撃する。
「いきますよ、ストリームソード!」
リザースの一撃がゴーレムを襲い、ゴーレムの左腕を切断する。
「リザース、すごいよ!このままいけば……」
僕がそう声をかけると同時に、信じられない光景を目の当たりにする。
なんと、切断されたはずの左腕が瞬時に復活しているのだ!
『一体何が起こっているの!?』
『おそらくあのゴーレムは再生力を持った赤い宝玉を取り込んでいるんだろう。一撃で仕留めないと永遠に戦うことになるぞ!』
そんなのアリですか!?
でも絶望している暇もなさそうだ。
傷を回復させたゴーレムが反撃に出たようで、こぶしを振り上げ、地面をたたきつける。
すると隆起した地面が僕達を襲う!
とっさに避けてその場はしのいだが、ゴーレムの攻撃の影響を受けた部分の足場がでこぼこしていて不安定になっている。
『これは長期戦になればなるほど不利になりそうだね』
『ああ、一気に決める必要がありそうだ』
『うん、次の一撃で決めよう!』
そう決心し、リザースへと近づいていく。
「リザース、次の一撃で決めたいんだ。同時攻撃でいくよ!」
「分かりました! では、私が師匠の攻撃に合わせます!」
「うん、分かった、頼んだよ! あと、少しリザースに手助けをするね。ウォーターレインフォース!!」
僕はリザースに水魔法を強化する補助魔法をかける。
図書館で覚えた力を役立てられて良かった。
ってまだ戦いは終わっていないんだった。
気を引き締めなければ。
「助かります、これなら……」
「油断は禁物! 来るよ!」
ゴーレムの地面隆起攻撃を僕達は左右に避ける。
「よし、このタイミングだ! いくよ!」
「了解です!」
僕とリザースは一斉にゴーレムに向かっていく。
「水変換!! そしてフレイムクロー!」
「ストリームスラッシュ!」
僕とリザースの攻撃がゴーレムを襲う!
そしてゴーレムの体の大半を破壊することに成功した!
「やりましたね! 師匠!」
「いや、まだだ!でも一体どうしたら?」
ゴーレムの方を見ると、ゆっくりとではあるが、壊れた部分が再生しかけている様子が見える。
こんなに大破させてもまだ復活するなんて、どんだけしぶといんだよ……
『レン、早く赤い宝玉を吸収するんだ! 宝玉を吸収すればゴーレムの復活もなくなる!』
バルグの助言を聞いた僕は急いでゴーレムの体の近くまで行き、手をかざす。
すると宝玉が赤い光を放ちながら僕の体に吸い寄せられてきた。
そして、宝玉は僕の体の中に吸収される。
前は気づかなかったが、宝玉を取り込むと体が成長するそうで、目線が今までよりも高くなった気がする。
「あぁ、これがあの奇跡なのですね……」
リザースがそう言って何かの思い出に浸っているようだが、よく分からないのでスルーしよう。
「なんとかこれで依頼は達成できたね」
宝玉の吸収が終わって安心していると、足元の岩や泥が動き出して移動していく!
移動していく先を見ると、そこには黒いゴーレムの姿があった。
「まだ倒し切れていなかったの!? ど……どうすれば!?」
予想外の事態に僕は戸惑っていると、
ごがぁ……
とゴーレムが手を差し伸べてきた。
一体どういう事なんだ?
『多分赤い宝玉が抜けてゴーレムが正常に戻ったんじゃないか?』
バルグの話によれば、元々のゴーレムは穏やかな性格で、敵意のない相手に対しては優しくて頼れる存在になってくれるそうだ。
だからこそ宝を守る万人として使われるのだとか。
試しにゴーレムの手の上に乗ってみると、ゴーレムは僕を肩に乗せてくれて、そのまま洞窟の奥に向かった。
「もしかして洞窟の中を案内してくれるの?」
「ごがぁ!」
ゴーレムの言葉はよく分からないが、多分案内してくれるんだろう。
「ま、待ってくださいよぉー!?」
ゴーレムに乗り遅れたリザースが叫んで走ってくる。
そんなリザースを後目に、僕はこの奥にどんな宝があるのかを楽しみにしていた。
洞窟の最深部へと到着した。
その中は財宝がたくさんあった。
金や銀など貴金属などで溢れていて目がくらむほどだ。
中は大きな部屋のようになっていて、財宝が山のように積まれている。
そんな部屋の片隅から何やら声が聞こえる。
「こらー! ゴーレムー! 縄を早くほどきなさーい!!」
どうやら誰かが縄でつるされているようだ。
その声の方に近づいていくと……
「あっ! こんなところに人がいる! 助けてよ~お願い~!」
吊るされた人は約30cmほどと小さくて何やら透明な羽をパタパタさせている。
ゲームでいえば妖精に似ている。
『バルグ、あれって妖精なの?何ていう種族か分かる?』
『そうだな、多分レンの言う通り妖精で、妖精族だと思うぞ』
僕の予想は当たっていたみたいだった。
このまま妖精を放っておくのは可哀そうだと思ったので縄をほどいてやることにした。
「助かったわ、ありがとう! 私は妖精族のフィナって言うの。あなたは?」
「レンだよ、よろしく」
「あなた、コボルドよね? 妖狼族が一人でいる様子なんて初めて見るし、しかも他種族と一緒にいるし、なんか強烈な火のオーラも感じるし一体あなた何者なの?」
「うーん、色々とあってね。説明するのは面倒だからそういうもんだと思っていてよ」
「いや、気になるわ! どうしてどうしてどうして?」
この妖精、かなり騒がしいな……
でも魔法を使ってもいないのに火のオーラを持っていると見抜いてきた。
只者ではないんだろうな、きっと。
でも対応するのが面倒臭いなぁ。
諦めてくれなさそうだったので、適当に誤魔化した説明をすることにした。
説明内容は、
・集団でいないのは途中で道に迷ったから
・リザースと一緒にいるのは、困ったリザースを助けたらついていきたいと言ってきかないから
・火の力があるのは、火の魔法をたくさん覚える努力をしたから
と説明した。
もちろん全部嘘である。
本当の事を下手に言うと、スライム村の村長の時みたいに変な反応されかねないからね。
「ふーん……そうなんだ……」
フィナは疑わしい様子で僕を見ながら言う。
その割には、これ以上の詮索はしてこないようだった。
「ところでフィナはなんでこんなところにいるの?」
「だって、こんなにお金になりそうな財宝があるような所があるって聞いたらじっとしていられる訳ないじゃない!」
どうやらフィナの話によれば、フィナはお金を稼ぐために旅をしていて、旅の途中で財宝の話を聞いてここまでやってきたのだそうだ。
そして黒い巨人に捕まってこの最深部にずっと閉じ込められていたのだそうだ。
というか赤い巨人ではなく黒い巨人に捕まったということは……
「フィナ、ここにはいつから閉じ込められているの?」
「うーん、正直ずっとここにいたから分からないけど、数か月はいたんじゃないかしら?」
「ずっとここにいたって……飲まず食わずでいたっていうこと!?」
「知らないの? 妖精は空気中にある魔力や水分を補給すれば、何も食べなくても生きていけるのよ!」
「そ、そうなんだ……」
この世界は常識外れなことが多すぎるなとつくづく思わされるのだった。
フィナと一通り話し終わってから僕達はキノーフェ村まで戻ることにした。
その途中でフィナがこっそりと財宝に手を出そうとすると、ゴーレムに掴まれるのだった。
「は、放しなさいよ! 少し位いいじゃない、ケチ!」
フィナがそう言うと、ゴーレムはフィナを握る力を少し強める。
「痛い痛い! 分かったわ。もう取らないから許してー!?」
そう言ってようやくゴーレムの手から解放されるのだった。
ゴーレムとは洞窟の入り口で別れ、僕達三人はキノーフェ村へと向かった。




