8.キノーフェ村
圧倒的な力で勝ったことが、敗北して逃げ帰ったリ・ザーダ村の兵士達によって伝えられた。
それからリ・ザーダ村から降伏が宣言され、ランドリザードの戦いは終わったのだった。
一見、面倒事が片付いたかに見えたのだが、そうはならなかった。
「レン様、あなたの圧倒的な力に感服いたしました! 是非我らもあなたの配下に加えさせてください!」
敗北したリ・ザーダ村の兵士達がそう申し出てきたのだ。
「いや、別にランドリザードの人達は勝手についてきただけで、誰も配下になんてしてないんだけど?」
「それならば我らも勝手についていきます!」
現状でさえ面倒なのに、これ以上取り巻きが増えたら面倒すぎる。
なので適当にあしらって城から出て行ってもらった。
今、僕はリ・ザーダ村が占領していたリ・ザーラ村の城の玉座にいる。
立派な城があるのになんで村というのか違和感があったが、そんなことはどうでもいい。
問題なのは―――城の周りにランドリザードが集まりすぎて城からでられないことだ!
城の周りに集まる理由は様々で、ランドリザードの王になってほしいとか、もっと他種族を攻めて勢力を広げてほしいとか、どうやったらもっと強くなれるのか教えてほしいなどがあるそうだ。
僕に対する願いを伝えに来る者や、その人達を対象に物を売る商人達でまるでお祭り騒ぎになっていた。
『早くスライムの村に戻って、ゆっくりと生活したいなぁ』
なんか赤い宝玉を探すのがどうでもよくなってきていて、一人じゃなくてもいいからとにかく落ち着いて暮らしたいと思う今日この頃だった。
というか、なんで一人でゆっくりと過ごしたいのに多くの人に囲まれて忙しく過ごさないといけなくなっているのだろう?
努力の方向音痴っていうやつなんだろうか?
とにかく今はこの状況を打破しないといけなさそうだ。
『昼間はどう頑張っても脱出できそうにないな。狙うは夜か。でも一体どうやったら抜け出せるのだろう……?』
『俺に良い考えがあるぞ? 聞くか?』
『うん。あまり良い予感はしないけど、一応聞いておくよ』
僕はバルグの案を聞き、早速今日の夜に実行しようと決めた。
そして今日の夜遅くに、周りの人々が寝床につく。
僕も自室に入ってベッドに入って眠った……ようにみせて、ベッドに人形を置いておく。
これでしばらく僕が城を抜け出したことに気づかれなくなり、第一段階はクリアだ。
そして次は……
『姿偽装!』
バルグの変装呪文によってランドリザードの兵士に化け、城から脱出するのだ。
あまり物音をたてずに……では不自然なので、兵士っぽく見えるように歩くように努力しながら城を脱出しようと試みた。
途中で他の兵士からお前も早く寝ろよと声をかけられたときは焦ったが、変装に気づかれていた訳ではなさそうなので一安心だった。
こうして変装に誰も気づくことなく城から出ることができた。
城から出て、人目のつきにくい所にたどり着く。
『兵士のまま外に出ると変だよね。バルグ、またお願い!』
『ああ、分かってる! ほらよ!』
バルグの魔法によって、兵士から今度は民間人の姿に変わった。
姿が変わったことを確認してから、町の出口の方へ向かう。
だが、途中で運悪く不良っぽいランドリザードの集団に目を付けられてしまった。
人目がつきにくい裏通りを通っていることが裏目にでてしまったようだ。
「おいお前、早く金だせよ! 金さえだせば命まではとらないぞ?」
「いやぁ、僕がそんなお金を持っているように見えます?」
「あぁ? なめてんのかテメェ? さっさと金出せっつってんだろうが!」
男がそう言ってつかみかかろうとしてきたと思ったら、いつの間にか不良達は地面にめりこんでいた。
何が起きたのか分からない僕はその状況を呆然と眺めていると、
『すまん、ちょっとやりすぎた……』
はい、バルグが犯人でした。
せっかく変装しているのにこれじゃまた誰かに追われることになりそうじゃないかとツッコミを入れたくなったが我慢して、とにかく今は村から出ることを優先する。
こうして一悶着あったものの、なんとか村は脱出できたのはいいんだが、問題があった。
真っ暗で全然先が見えないのだ。
外灯とか人工物が一切ないので当たり前ではあるのだが、この世界に来てから夜に出歩いたのは今日が初めてなので今まで気づかなかったのだ。
『うわぁ……怖いし、どっちに向かえばいいか分からないよ。バルグはスライム村の方向分かったりする?』
『いや、分からないな。というか、鍾乳洞の時は大丈夫だったのにどうして急に怖くなるんだ?』
『その時は慣れていただけだよ! とにかくここにいても時間の無駄だし、歩くしかないかぁ』
バルグも分からないみたいだ。
だからといってこのままここにいたり町に戻ってしまうと、面倒な環境にまた巻き込まれてしまうから厄介である。
とりあえず進むしかない。
しばらく暗闇の中を歩いていくと、だんだんと茂みや木が多い所に入っていく。
多分森の中に入ったんだろう。
スライム村の近くの茂みだといいなと思いつつも、なんだかジメッと湿気がすごい所なのでそれはないんだろうなと薄々気づいてはいる。
『なんか変な所に来ちゃったみたいだね……』
『ああ、これは大変なことになったな。どこか安全に寝られる場所を確保しないと』
バルグの力のおかげで今の僕はほとんどの魔物を相手にしても難なく勝つことができるだろうが、それは起きているときの話。
寝込みを襲われたらたまったもんじゃない。
この世界では安全に寝られる場所というものがいかに貴重なのか実感する。
しばらく歩いていると、ムニュッという感覚のするものを踏んづけたように感じた。
「むぎゃー!! あたいをふんだのはだれですかー!?」
「え、誰かいるの?」
「むきー!! あたいをむしするなんていいどきょうです! これでもくらえです!」
その声を聞いてから、何やら強烈な眠気が襲ってきた。
なんかヤバいかもしれない。
焦る気持ちとは裏腹に、みるみるうちに眠気で身動きがとれなくなっていく……
「ウォーターフィルム!」
その声が聞こえると、僕の周りは水の膜で覆い、眠気が吹き飛んた。
「師匠、大丈夫ですか? 心配しましたよ!」
「ど……どうしてここに!?」
助けてくれたのはリザースだった。
助けてくれたのは嬉しいが、どうして僕の居場所がバレていたのか気になった。
「言ったじゃないですか! 師匠にどこまでもついていきますって!」
いや、答えになってないから……とツッコミをいれようとしたとき、
「こらー! あたいをむしするなぁー!」
そう叫ぶ声が聞こえる。
どうやらさっきから喚いているのは足元にあって踏みつけてしまったキノコだったようだ。
「この一帯は菌糸族の住処になっているんです。菌糸族は粉を使って状態異常を引き起こす攻撃を得意としているので対策をしないと結構大変ですよ」
「そうなのか……とりあえずありがとう、リザース」
そう感謝をしてから、今日の寝床をどうしようか二人で話し合った。
「だったら菌糸族の住処に案内してもらうというのはどうです?」
「そんなことできるの? できるならお願いしたいけど」
「私にお任せ下さい。この菌糸族に自分の村に案内させてみせましょう!」
リザースはそう自信を持って宣言をした。
「あたいぜったいにあんないなんかしてやらないもん!」
こんな感じでこのキノコの少女は機嫌が悪い様子だ。
こんな状態の子にどうしたら案内してもらえるんだろう?
そう不思議に思いながら僕はリザースと少女のやり取りを眺める。
リザースがとある物をちらつかせて、こそこそ何かを伝えると、少女は急に表情は変わった。
「こっちよ、ついてくるといいわ」
そう言って村までの案内までしてくれそうだ。
リザース、一体何を使ったんだ……?
少女のあまりの変化に驚きながらも、おとなしく少女の後をついていくことにする。
少女にしばらくついていくと、前方に蛍のような明かりがぽつぽつと見えてきた。
『きれいな光だなぁ。赤、青、黄色と色んな明かりもあるしすごいなあ。あれってホタルなのかな?』
『あれは光るキノコだな。さすがは菌糸族といったところか。俺も本では見たことがあるが、実物は初めてだ』
光るキノコか。
元の世界でもあることは知っていたけど、こうして実際に見たことはなかったな。
思わず見とれてしまいそうだ。
しばらく光るキノコを楽しみつつ、僕は気になったことをリザースに聞いてみることにした。
「そういえばリザース、どうやって僕達の居場所つきとめたの?」
「そうですね。実は師匠が部屋に身代わりを設置する所から見ていたので。後は気づかれないようにずっと追跡していたってだけです」
「そうなんだ。そんな前から見ていたのか。もしかしてずっと僕の事を監視していたりしない?」
「そ、そんな事はないですよ! もちろん師匠のプライバシーはきちんと配慮してますとも! プライバシーと警護。絶妙なバランスを保ってお守りしていますよ!」
うーん、本当にそうならいいんだけど。
いくらバルグに私生活が全て見られているとはいえ、リザースにまで見せたくはないからなぁ。
自分の時間っていうものはやっぱり大事だよ。
「なにいってんのかわからないけど、あたいたちのむら、きのーふぇむらについたよー!」
周りを見渡すと、確かに明かりに照らされた家らしきものが見える。
大きなキノコを住処にしているようだ。
キノコの柄を登って傘部分をくり抜いて作られた住居部分に向かう構造になっているように見える。
どうやら本当に村に到着したようだ。
「おにーちゃん、やくそくのものちょーだい!」
少女はリザースにおねだりすると、リザースは以前ちらつかせていたものを少女に渡した。
「ありがとー! じゃああたいはこれでかえるね! きがむいたらうちにもよってっていいよ!」
少女はそう言うと上機嫌になって帰って行った。
「リザース、何を渡したの?」
「あれは幸福菌木といって菌糸族にとってはたまらない成分があるそうです。もっとも私にはその魅力は分からないのですが……」
「ふーん。多分猫にとってのまたたびみたいな物か。とにかくありがとね、リザース。さて、寝るところを探さないと」
そう言ってから、僕達は近くの住民に宿屋の場所を聞き、無事宿屋にたどり着いた。
「二名様ですね! 一泊で20ガーダになります!」
えっと、20ガーダって、あっ……
そういえば僕、お金がないんだった……
だって今までお金を使う機会がなくて何不自由なく過ごせちゃったから気づかないよね。
ガーダというお金の単位も初めて聞いた位だしさ。
「ごめん、僕、今持ち合わせがないんだ……」
「お金を持ち歩かなくても、その身一つで旅をしてしまう師匠、さすがです! ここは私が払いますから師匠は先に部屋で休んでいてください!」
なんか褒められたんだけど……
まあ、今度からは少しお金を稼ぐことも視野に入れて活動すればいいかな。
あまりリザースに借りを作りたくないからね。
こうしてようやくちゃんとした寝床について体を休めることができたのだった。




