1.衝撃の事実
学校の帰り道。
帰宅部の僕は一人さっさと家に帰っている途中だった。
日が傾き始め、空はきれいな橙色に染まっている。
きれいな夕日だと思いながら、いつものように河川敷そばにある道を自転車で疾走する。
夏の終わり頃である今、僕にあたる風も程よく冷たくなってきていて、一層気持ちが良い。
もう何年間もこうやって帰っているので、一人でいるのは慣れてはいる。
だけど何か物寂しくなるんだよなぁ。
そこで”異世界にでも行けたらいいのに”とつぶやいてみた。
何も起きないと思いながらも。
しかしその瞬間、状況が一変した。
橙色で美しかった周りの景色がみるみるうちに闇に包まれていく……!?
驚きの余り、思わず自転車を止める僕。
すると足元が沼のようにぬかるんで沈み始め、徐々に体が闇の中に飲み込まれる!
懸命に脱出を試みようともがくが、もがけばもがくほどより体が沈むペースが速まっていく!?
いつしか意識も闇の中に飲み込まれていった……
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目が覚めた、いや覚めたのだろうか?
目を開けても目を閉じている状態と変わらないのでよく分からない。
意識はあるから目は覚めたんだろうけど。
しばらくその場に留まっていると、うっすらと中の様子が見えるようになってきた。
周りはいわゆる鍾乳洞のような場所で、天井からつららのような形状のものがあちこちに垂れ下がっており、そこから水がポタポタとおちている。
闇の中に飲み込まれて命を落としたと思っていたが、どうやらまだ生きているようだ。
ほっと胸を撫で下ろし、立ち上がろうとしたとき違和感があった。
なんかモフモフするような……
ふと目線を下げると自分の異変に気が付いた。
服を着ていない!?
しかしそれは僕にとって些細な問題である。
普通は大問題なのだが、そんなことが問題にならないほどの大きな問題があるのだ。
その問題とは……
「なんで全身毛むくじゃらなんだよー!?」
そう、全身が毛で覆われていたのだ。
人には毛深い人もいるが、そんな比ではなかった。
どちらかというと犬の毛並みに近いのではないだろうか?
「でも二本足で立てるし、言葉も話せている?」
二本足で立てて言葉を話せるのは人間だけなので、人間ではあるんだろう。
犬のような毛並みの人間なんているかは疑問だが。
夢だと思った僕は自分の顔をつねってみた。
痛い。
ということは現実なのか、これ。
全然信じられないんだけど。
どうしてこうなってのかよく分からないけど、じっとしていても仕方ないし、この辺りを散策しようかな。
あれからしばらく歩いたが、周りの様子は同じような構造が続いていた。
ずっと同じ方向に進んでいるので同じところを何度も歩いていることはないはずだが。
変わり映えのしない景色に気が滅入りながらも頑張って進んでいると、前から明かりが見えた!
外に出られるかもしれないと思い、僕は夢中で駆け出した。
明かりが見えた方向に進むにつれて、明かりが強くなっていく!
だが残念ながら、その明かりは外の明かりではなかった。
その明かりは赤い宝玉が放っているものだと判明したのだ。
外に出られないのは残念だけど、赤い宝玉は綺麗だなぁ。
思わず見とれてしまいそうだ。
「おい、そこに誰かいるのか!?」
えっ!?
宝玉をじっと見つめているときに不意に声が聞こえ、僕は慌てふためく。
周囲に人影らしきものは見当たらなかったはずだけど……
「だ、だれかいるんですか!?」
「俺はここにいるよ。お前の目の前にさ」
「目の前って……宝石しかないんですけど?」
「だからそれが俺なんだってば!」
その言葉の意味が分からず、戸惑う僕。
聞き間違いかと思ったが、どうやら目の前にある赤い宝玉が話しているので間違いなさそうだった。
「えっ、なんで宝玉が言葉を話せるの!?」
「ふふっ、気になるだろ? なら俺を手に取ってくれよ。そうすれば分かるぞ」
なんでそんなことをする必要があるのかよく分からない。
でも何もしないと進展しなさそうなので、とりあえず言われた通りに宝玉を手に取ってみた。
すると……
「ありがとな! それじゃちょいと失礼!」
そう宝玉が言うと、僕の手の中にめり込み始めた!?
慌ててめり込み始めた宝玉を引っこ抜こうとした。
だが既に手遅れのようで、完全に宝玉は体の中に吸収されてしまう。
それと同時に宝玉がなくなったことで、周囲が暗闇に包まれる。
一体何が起こったんだろう?
そう疑問に思っていると
『フフフ、知りたいか? 知りたいだろう?』
そう言う宝玉の声が頭の中から聞こえてきた。
『その声はさっきの宝玉!? どこにいるんだ!?』
『先程の状況を見て分からないのか? お前の体の中にいるんだよ!』
一瞬理解に苦しんだが、理解するとともに騙されたという思いから怒りが募ってきた。
『一体何を企んでいるんだ!?』
『おいおい、そんなに怒らないでくれよ。まあ、何も知らないお前の中にいきなり入ろうとする俺も非常識だった訳だ。説明するから少し落ち着いてくれないか?』
全く悪びれる様子もない宝玉の口調に余計腹が立ったが、ここはおとなしく話を聞くことにした。
『とりあえず自己紹介から始めるか。俺の名前はバルグだ、よろしくな。お前の名前は?』
『鈴蘭蓮』
『スズランレンっていうのか。なんか長くて呼びにくい名前だな。何か略称とかないのか?』
『短い呼び方ってこと? それなら蓮みたいな感じで名前呼びになるかな』
『じゃあレンって呼べば良いんだな! よろしくな、レン! お前とは友達以上の付き合いをすることになるぞ。なんていったって、お前とは思ったことも共有してしまうんだからな!』
この瞬間、僕に衝撃が走る。
思ったことが共有されるって、プライバシーも何もないじゃないか!?
『全てが筒抜けになるのは俺の方も同じだ。気にするなって』
『気にするよ! それに全てが筒抜けと言ったって、僕の方は全然バルグの事を知らないんですけど!?』
『おっと、そうだったな。いくら思いが共有されても知識までは共有されないからな。手始めに俺が何故宝玉の姿になっているのか話しておこう』
こうしてバルグについての話を聞くことになった。
ひたすら長いバルグの話を聞かされた訳だが、その話を要約するとこうなる。
・バルグは竜の国の王子
・バルグは人間の国から来た魔法使いに敗れる
・魔法使いによってバルグは5つの赤い宝玉に封印された
・僕の体に入っているバルグはバルグの意志部分である
・バルグの意志部分は他のモンスターと融合することによってそのモンスターの体を操って行動することができる
……色々とつっこみたい所があるのだが、一つずついこう。
まずこの世界が今までいた世界と違うかどうかの確認だ。
『竜の国があるなんて、ここはファンタジーの世界なの? 竜なんて架空の存在だと思うんだけど』
『ファンタジーって言葉の意味がよく分からないが、とにかく竜が存在するっていうことは本当だぞ』
竜が存在するということはここの世界は今までの世界とは違うんだな。
異世界に来てしまったということはとても驚くべきことなんだろう。
だけど今までに宝玉がしゃべったり、体の中に入り込むなど非現実的なことが起こりすぎていたので、そこまで驚かなかった。
明らかに感覚がマヒしているな、僕。
『レンがいた世界には竜はいなかったのか?』
『僕がいた世界には竜なんていなかったし、言葉を話せる生物自体人間しかいなかったよ』
『おおっ、そんな世界があるのか! ということはレンは異世界から来ていて、人間”だった”わけなんだな!』
ん?
なんかちょっと言葉を聞き間違えたかもしれない。
疲れているのかな?
まあ疲れるのも無理はないんだけど。
色々おかしなことが起きすぎたしさ。
もう一度確認の為に聞いてみよう。
『人間”だった”ってバルグは言うけど、僕は今も人間だよ?』
『いや、お前はどこからどう見ても人間じゃなくてコボルドなんだが? ここ暗いから分かんなかったか?』
僕は目の前が真っ暗になった。




