VS.魔王
俺は部室を出ると一気に校門まで駆け抜けた。マジふざけんな!あの女たらしの腐れ○○○野郎!強姦とか!犯罪なんだからな!総司の身体だったらたこ殴りにしてやったのに!いや、そもそも総司だったらあんな事にはならねぇか。朝から皆なんだってんだよ。くそっ!
校門を出て歩きだす。うつむいた顔から雫が落ちた。なんだよ俺、泣いてんのか?心まで女の子みたいになっちまったのかな…。早く涙を止めないと雅に心配かけちまう。しかし涙は止まることなく次から次へと頬を伝って流れ落ちた。暫くするとぼやけた視界に入り込む誰かの靴。
「カズ?」
聞きなれた、しかしいつもと違う優しい声音に俺は思わず顔を上げる。そこには一馬さんが普段なら俺には絶対向けない優しげな笑顔で立っていた。愛犬コタローはいない。そういえばさっきの電話掛けなおしてない。
「どうした?泣いてるのか?」
一馬さんは、ピシッとアイロンがかかったハンカチを取り出し、そっとオレの涙を拭ってくれる。いつに無いその優しさに拭っても拭っても涙があふれてきた。
「ちょっと歩くか?」
一馬さんは黙って頷く俺の頭をクシャっと撫でると、「よしっ」と言って俺の手を引き歩き出す。一馬さんまでいつもと違う…。頭のどこかで警鐘がなってる気がした。
途中コンビニに寄る。一馬さんは俺をコンビニの前で待たせると、一人で中に入っていった。涙でぐしゃぐしゃの俺に配慮してくれたんだろう。その間に俺は雅にメールをすることにする。
『少し遅くなる。一馬さんも一緒だから心配ない。』っと、送信。しばらくたつと携帯が着信を告げる。雅からの電話だ。げっ声を聞かれたくないからメールにしたのに。涙でうまく話せねぇんだよ。
逡巡していると大きな手に横から携帯を掻っ攫われる。あせってそっちを振り向くと、いつの間にか一馬さんが斜め後ろに立っていた。
「少しの間カズの時間を俺に独占させてよ。それにその様子じゃ、まだ出れないだろ?」
一馬さんは携帯の電源を切って俺の鞄の中に放り込む。そのまま鞄を持つと逆の手で俺の手を引いて歩き出した。ま、いっか。雅にはメール入れたし、落ち着いたらすぐ帰るしな。泣きすぎてよく回らない頭でそう結論付けると俺はそのまま一馬さんに従った。
一馬さんに手を引かれ、やってきたのはいつもの公園だった。夜の公園は相変わらず人気がない。一馬さんに池の脇へと誘導される。昔、俺が突き落とされたあの池だ。池を囲むように等間隔に少し背の高い植え込みがあり、ベンチは池と植え込みの間に設置されていた。人気の無い公園の中でさらに人目に付き難い場所にある。
ベンチに座り未だにもれる嗚咽をやりすごす。一馬さんから借りたハンカチは俺の涙と鼻水でグチョグチョになっている。洗って返さないとな。
俺は時々しゃくり上げながら、一馬さんに渡されたプラスチックカップの抹茶オレをちびちびと口に含む。少し気分が落ち着いてきた。一馬さんは俺の様子を窺いつつ隣に座ってペットボトルのお茶を飲んでいる。
「それ美味しそうだな。一口くれるか?」
唐突にそんなことを言われ一馬さんを見ると、まるで催促するように口を開いて待っている。なんか餌を欲しがる雛鳥みてぇだな。その様子に思わず笑いがこぼれた。
俺は特に深く考えずストローの先をその口元に持って行く。一馬さんはそれを咥えて一口飲むとありがとうと俺の頭を撫でてきた。優しすぎてちょっと恐い。
「なぁ一総。何が有ったか聞いてもいいか?」
少しゆるんでいた空気がまた強張る。そりゃ聞かれるよな。でもいやだ。思い出したくない。
「なにも無いですよ。」
うつむいてそう言うと、一馬さんの手が俺の頬を包んで、目を合わせるように俺の顔を自分の方に向ける。次の瞬間俺の唇に柔らかな感触が掠めた。
「俺に嘘をつくなんて、いけない子だ。」
呆然とする俺。一拍後我に返ると状況を理解した。キ、キキキ、キスされた!?
「悪い子には、お仕置きしないとな。」
今までの優しげな顔が一気にいつもの鬼畜腹黒スマイルに切り替わる。やっぱり魔王はどこまで行っても魔王だった!顔を固定する手をはずそうと躍起になるがやはり力ではかなわない。
そうこうする内に襲い掛かる第二弾。何度か啄ばむようにキスが落とされた後、唇をふさがれ執拗に舐められる。ディープだけはさせてたまるか!口の中に進入しようとする舌を防ごうと必死になっているうちに、気がつくとベンチに押し倒されていた。本日二度目かよ!
「可愛い可愛い俺の一総。この可愛いお口はいつから嘘をつくようになったんだ?」
胸焼けしそうなほど甘い声で囁く。俺の目を覗き込んできた眼鏡の奥の瞳には、ほの暗い劣情の色が見て取れた。ヤ バ イ!
「嘘をついても無駄だよ。俺は全部お見通しなんだから。」
例えば朝から凶悪面の糞ガキにキスされそうになったとか。そう言って俺の唇にキスを落とす。
例えばヘタレのぼくちゃんに下着を見られたとか。そう言って俺の制服のリボンを解くとボタンをはずしていく。
例えば女好きの変態に身体を撫で回されたとか。そう言って露になった俺の素肌にねっとりと手を這わす。
例えば身の程知らずの腹黒小僧にキスマークをつけられたとか。そう言ってオレの首筋に唇を落とし痛いくらい強く吸い付く。
あの野郎いつの間にキスマークとかつけやがった!ってそうじゃなくて。やめろ!変な声出るだろ!しかも、何でそんなこと知ってんだ!?
「何で知ってるかって思ってる?それはね。一総を愛してるからさ。カズが朝起きてから夜寝るまで…いや、夜寝てる間も全部ぜ~んぶ知ってる。」
ストーカーだ!雅が男だからって対象が俺になってる!?嘘だろ!?このままじゃヤられる!
「カズが困ってたら助けてあげるよ。さっきみたいにね。危なかったな。俺が電話しなきゃどうなってたことか。あんまり心配だったから迎えにきちゃった。あいつには後でちゃんとカズが誰のものか教えとかなきゃな。」
「…っあぅっ……」
ブラ越しにやわやわと胸を揉まれ思わず声が漏れる。必然的に少しあいた唇にすかさず舌をねじ込まれた。口内をぬめぬめとした熱いものに容赦なく犯される。っやめっ…。いき…くるし……。歯茎の裏、上顎、舌の裏まで余すとこなく舐め上げられる。そそぎこまれた唾液が溢れて首筋をぬらした。
「…っん……やっ…」
「ふふっ可愛い。ほんとに無防備。でもこんなに無防備だと心配だな。俺以外の奴にこんな風に触らせちゃ駄目だよ。じゃないとカズが俺意外を視界に入れないようにどこかに閉じ込めないといけなくなるからね。」
一総は俺だけ見てればいいんだよ。
初めての強すぎる刺激と息苦しさで真っ白になった頭に染み込ませるように甘くつむがれる言葉達。
あぁそうか。これはやっぱり夢なんだ。だって一馬さんが俺に優しいわけないし、俺にこんなことするわけねぇ。
わずかに残った理性が切れそうになったとき、遠くで何かを叫んでいる声が聞こえた。
あれ?次で終われないかも?
魔王が思ったより変態でorz次回もよろしくお願いします。