VS.主将
ドナドナ気分で部室に着くとやっとで離される腕。げっ痕になってる。
「遅いと思って探しに行ってみれば、よりにもよって雅隆なんぞに絡まれやがって!お前はどうしてそう無防備なんだ!」
しげしげと腕を観察していると怒鳴り声がふってきた。ひぃ!マジギレしてる。思わず身体を強張らせると、主将から苛立ちを逃がすかのような大きなため息が漏れた。
「…悪かった。さっさと仕事しろ。遅刻だぞ。」
言うだけ言うと主将はさっさと部室を出て行った。もっと怒られるかと思ったけど拍子抜け。
それにしても女の子に対してあんなふうに怒るの珍しいな。確かにいつも男に対しては鬼畜な人だけど、女の子に対してはかなり優しいからな。ん?つまり女とみなされてないってことか?まぁいいんだけど。
俺は首をかしげながらロッカーに荷物を放り込むと靴だけ体育館シューズに履き替えて朝練に向かった。
あ~バスケしてぇ。部活後、俺はそんなことを考えながら無人の部室で活動日誌をつけていた。今日は遅刻したから部室の片づけやら日誌つけを引き受けたのだ。
それにしてもまさか翔がバスケ部に入ってるなんてな。思わず大声を出して皆の注目を集めちまったぜ。同じマネージャーの重本に何であいつがここにいるんだと詰め寄り、それを聞きつけた翔に、朝のことで怒っているのか?と泣きつかれ、ついに頭がいかれたんじゃと大騒ぎになったのはいい思い出だ。
と、そこにノックの音が響く。それに返事を返すと入ってきたのは主将だった。
うわっ!まだ機嫌直ってねぇ。今日の主将、一日中機嫌悪かったからな。いつもの二割り増しのしごきで部活が終わる頃には死屍累々だ。
無言で入ってきた主将は、相変わらず不機嫌オーラを纏いつかせて自分ロッカーまで移動した。今まで居残り練習でもしていたのか体中汗だくだ。触らぬ神に祟りなし。今から着替えるみたいだし俺はさっさと退散しますかね。
それにしても、よくあのハードな練習の後で居残りする体力があるな。そんなことを思いつつ素早く日誌を書きあげると筆記用具を片付け、鞄と日誌を持って立ち上がる。お疲れっす。あと鍵お願いします。と主将の横を通り過ぎ、ドアノブに手を掛けたところでそこに重なる大きな手。
ギョッとして振り返ると主将が俺を見下ろしていた。外はもう随分暗く、室内を明るく照らす蛍光灯のジーっという音がやたらと耳につく。
え?何?いつもと違う雰囲気に恐怖を感じる。慌てて外に逃れようとするもここは内開きのドアだ。主将が抑えてて開けられない。
「キャ、キャプテン?どうかしたんすか?」
主将はそんな俺の問いに答えることなく、俺の手をドアノブから剥がすとその手を握りこんだまま、そっと俺を抱きしめてきた。展開についていけない。こんな女とみなしてない様な人間を抱きしめて楽しいのだろうか?
「キャプテン。離し…」
「嫌だ。」
いやいやいや。俺帰りたいんですけど。
「あの、人待たせてるんで。」
実際待っている人間はいなかった。翔が一緒に帰ると言って聞かなかったが、朝の恐怖から絶対嫌だと断固拒否したのだ。
しかし早く開放されたいばかりに放ったその嘘は間違いだった。言葉を発した瞬間ざわりと部室内の空気が凍りついた。なに?俺なんか地雷踏んだ?
「城戸か?お前らいつも一緒にいるよな?付き合ってんの?」
「へ、変な事言わないでくださいよ。ただの幼馴染です。」
うぇ。翔と付き合うとか想像しただけで気持ち悪い。
「じゃあ。雅隆が気になる?」
へっ!?
俺を抱きしめる腕に力がこもる。
「何言ってるんすか?」
「あいつはやめとけ。あいつは顔だけの最低野郎だぞ。」
あんたにだけは言われたくないだろ。
「あいつにやるくらいなら城戸の方が幾らかましだ。」
ギブギブ!更にきつくなる締め付けに俺の限界も近い。
「いや、誰にも渡したくない。…俺を、選べよ。」
耳元で切なげに響くその言葉にどうしたらいいのか分からなくなる。コレは誰だ?この人のこんな姿は知らない。
「朝、あいつに何された?抱きしめられて、キスされて、それから?」
そういいながら頭頂部に唇を落とされる。そのままの体勢で強引に引きずられ俺はさっきまで日誌を書いていた机に押し倒された。
「消毒してやる。」
ちょっ!まっ…。変なとこさわんな!…あっやめ…。こんなことまでされてねぇ!何!?もしかして貞操のピンチ?童貞捨てるまえに処女を奪われるのか?
何とか拘束をはずそうともがくも、一総の手は総司の手に比べて小さく、主将の大きな手に纏めて机に縫いとめられビクともしない。それならばと体全体を使って暴れてみてもバスケで鍛えられた身体はそれを難なく封じ込める。太もも辺りに当たる硬い感触に青褪めた。コレはマジでヤバイ。女の身の非力を呪った。
「キャプテン!やめてください!犯罪ですよ!」
「大丈夫だ。すぐによくなるから。」
大丈夫なもんか!しゃれになんねぇって!誰か助けろ!
そこに響くダー○ベ○ダ○のテーマ。どうも俺の鞄から聞こえる。コレはもしかしなくても魔王サマからの着信ですか?
「あの、携帯。」
「気にすんな。俺をみてろ。」
そのまま行為を続行する主将に鎖骨辺りをなめ上げられる。うひゃう!とりあえずやめてください。気にすんなって無理だから!これ無視したら大変なことになるから!
しかし携帯は一向に鳴り止まなかった。一度途切れてはすぐまたかかって来る電話。その場に響く着信音に張り詰めたその場の空気がどんどん崩れる。
「気がそがれた。」
主将は大きく舌打ちをしたあとひとつ息を吐くと俺を机の上に引き起こした。慌てて服装を整える。助かった。魔王サマもたまには人助けをするんですね。
「今日の所はやめてやる。」
そう言うと朝、主将につけられた腕の手痕にキスをされる。
「明日から覚悟しとけよ。」
主将はそこに口付けたまま不適に笑うと手痕を一舐めして今度こそ俺を完全に開放した。
「無理!」
俺はそれだけ叫ぶと未だに着信音を鳴らし続ける鞄を掴んで部室から逃げ出す。
もう勘弁してくれ!
キャプテンは割りと好きなキャラなので他に比べて大分長いです。多分あと2話位で【IF】ヒロインな姉は終わるかな?と思います。次回は魔王様のターン。よろしくお付き合いください。