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VS.生徒会長

 俺は小走りになりつつ学校の廊下を急いでいる。部活の朝練に遅れそうなのだ。なぜ俺が女の子になってしまっているのかは謎のままだが、朝のみやびの言葉を思い出せば俺は恐らくマネージャーなのだろう。多分バスケ部。てかそれ以外に行くあてねぇ。

 時計を見るとそろそろやばい時間だ。何故だ?家を出たのはいつもより早かったはずなのに…。



 あせった俺が丁度職員室の前を通りがかった時。その扉がガラッと開く音が聞こえて、誰かが職員室から出てくるのが見えた。朝から職員室に用事とか日直か?とそっちの方に視線をやった拍子に、俺の内履きのスリッパが俺の足からすっぽ抜けた。ま じ で!?

 とたんにバランスを崩す俺。何とか持ち直そうと踏ん張るも健闘むなしく、あぁ~こけるなぁ。なんてことを考えながら衝撃に備える。

 しかし覚悟した衝撃は訪れなかった。誰かの腕に抱きとめられたらしい。俺が無事腕の中にいることに安心したのか、強張っていた誰かの腕からほ~っと力が抜けた。なんかすみません。

 とりあえず恩人にお礼をしようと顔を上げる。が、助けてくれた誰かさんの顔を見て俺の顔は盛大に引き攣った。マジ勘弁してくれ。


一総かずさちゃん。大丈夫だった?」


 ん?一総って誰だっけ?あぁ俺かぁ。ここでの俺の名前は一総なんだなぁ。と現実逃避してみるも現実は否応無く俺に迫ってくる。


「一総ちゃん?どうしたの?もしかして具合悪い?」


 そう言って俺の顔を覗き込んできた人物。この学校の生徒会長様だ。朝からもう三人目だよ!俺の記憶にあるみやびを狙ってる男の度重なる登場にげんなりする。もう泣いてもいいかな。


「大丈夫です。何でもありません。助けていただいてありがとうございます。」


 あの、離して下さい。と言おうとしたところで何故か逆に抱き寄せられた。香水の香りが鼻をくすぐる。


「無事でよかった。君ホントになんでもないところで転ぶんだね。」


 そんなところも可愛いけど。と言っていたずらっぽく笑う。わずかに細められたその目からは色気が駄々漏れだ。

 さすが女たらしの名を欲しいままにする双子の片割れ。女の子だったらキュン死ですね。ですが俺には鳥肌しか立ちません。

 そういえばいつものオシャレ眼鏡はどうしたんですか?え?授業中とかしか掛けない?はぁ、そうですか。ん?興味もってくれてうれしい?やめてください。興味とか一切無いんで。あのホントもう離してください。


「やっぱり君いいよ。あいつが気に入るのも分かるなぁ。なんていうか癒される?」


 ねぇ、俺のものになっちゃいなよ。頭を抱え込むように抱きしめられ耳元でそんなことを囁かれる。耳に息がかかって気持ち悪い。ぶわっと全身の毛穴が開いたような感覚がする。

 これのどこが癒しだ!?これっぽっちもそんな態度とってませんけど?もうやめたげてよ~。俺のライフはもうゼロよ。これ以上削らないで~。やめろ!背中を撫で回すな!頭のてっぺんにキスとか!訴えますよ!


雅隆まさたか!お前うちの大事なマネージャーに何してんだ!」


 もうどうにでもなぁれ☆となすがままになっていたところに第三者の声が割って入った。声の出所を確認すると廊下の向こう側に茶色い頭が見える。我らが主将キャプテンにして生徒会長の双子のお兄様の登場だ。そのとたんスッと離される身体に俺は心底安堵した。

 主将はすごい勢いで駆け寄ってくると、その勢いのまま俺の腕を力任せに引き寄せる。いってぇ!脱臼する!


「なにって、転びそうになってたところを助けてあげただけだ。」


 このやろう!今のは立派なセクハラだ!

 ギロリと睨む俺を尻目に会長はやれやれと言ったていで肩をすくめると、すっぽ抜けた俺のスリッパを回収して主将の陰に隠されるように庇われる俺に差し出してくる。主将はひったくるようにそれを奪い後ろ手で俺に渡してきた。

 それを受け取りそっと主将の横から顔を出すとバッチリ会長と目が合った。瞬間繰り出されたウィンクに俺は慌てて主将の陰に隠れる。再び立つ鳥肌。朝から鳥肌が絶えないんですけど…俺このまま鳥になるかも。


「っざけんな!こいつには二度と関わんじゃねぇぞ!」


 主将はそう怒鳴りつけると、背後に庇っている俺の手を掴んでぐいぐいと早足で歩き出した。ちょっと待って俺まだスリッパ履いてない。


「一総ちゃんまたね。今度生徒会室にも遊びに来てよ。」


 行かねぇよ!クスクスと笑いながら後ろからかかるそんな声に、俺の腕を掴む主将の手の力が増す。主将!痛い!腕が折れる!


 引きずられながら主将の横顔を見上げる。こわっ!めっちゃ怒ってるよ。だ~れかた~すけて~。


 俺は絶望的な気分で部室まで連行された。

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