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しにたがりやなあんさつしゃと、ころさずのそうぎやさん よん ちゅうへん

※多少なりとも、話によっては流血表現がある場合もあります。

 そういった話が苦手な方は、閲覧を控えられる事をお勧めします。

「いやぁ……恥ずかしい所を見られちゃったね……」

 たはーと、弱々しくもいつものように笑う彼女に、フネラルは呆れた溜め息を一つ吐いた。

 あの後、血を洗い流すシャワーを止め、すぐに止血を行った。幸い、深いとはいえ歩行や任務には支障が出ない程度の傷だった。その辺りは流石に彼女も弁えていたのだろう、「大丈夫なのにー……」と、止血の合間に溢していた。

 止血を終え、面倒とは言え身体を拭いてやり、流石に裸体のままという訳にもいかず服を着せてやり。そうして、フネラルは口を開いた。

「……話せ。初めてではないんだろ?」

 今は包帯が巻かれているが、その下に隠されているのはぐずぐずになっている傷口。一度や二度の自傷でなるような物では、ない。

 誤魔化しは、許さない。そう眼差しに力を込めれば、力無く笑っていた表情が消えた。無表情、否、今まで見せた事のない悲しげな、辛そうな表情を変わりに浮かべ、とつり、と紡ぐ。

「……贖罪、だよ。自己満足な、ね」

「………………」

 贖罪。何に対しての、等と聞かなくても、理由は明白だった。

「……ラルは強いから、そんな事ないかもしんないけど。けど、アタシは弱虫だからさ。こうして、自分痛め付けて、目に見える形で罪を刻み付けておかないと……壊れそうで怖いんだ……アタシ自身が……」

「……」

 なら、足を洗えば良い。そんな事は、言えなかった。そんな事しようとすれば、今度は自分が終われる身となり、殺される。逃れる事は決して許されない、人殺しの牢獄なのだ、ここは。生きる為には、裏切り者に手を下し続けるしかない。

「……実はね、妹がいるんだ、一人」

 唐突な、告白。今まで、フネラルは他者に興味を持つ事が無かった。しかし、彼女の突然の告白に知らず動揺しているのか、無意識に「妹……?」と問い返していた。

「そ、妹。暫く逢ってないから、どんだけおっきくなったかはわからないけどさ……。けど、軍からの許しが下りれば、アタシは一時的とはいえ『日常』に帰れる。死体も、血も、阿鼻叫喚も何もない、妹がいる『異常』な『日常』にさ。

 けど……たまに思うんだ。裏切り者とはいえ人を殺して……そんな人殺しなアタシは、悠々と一般人が過ごすような『日常』に浸る事が出来る。殺人鬼の癖にさ。その矛盾、罪の意識ってやつ? にさ、時々潰されそうになるんだ。殺人鬼の癖にって、幻聴が聞こえて……。

 だから、アタシは忘れない為にも、あーして自傷行為なんてマゾ行為をやってたって訳。罪を、『アタシ自身りせい』を忘れない為にも、さ」

 ちゃんちゃん。そうふざけて締め括る彼女に、フネラルは何も言えなかった。彼にとって、彼女の思考は理解出来ない、否今まで思いもしなかった事だった。

 裏切り者は、始末する。それが誰であれ、関係無く。そこに罪の意識など存在せず、考えた事すら無かった。

 ざわり。胸が不意にざわめく。動揺からだと、冷めた彼の一部が告げた。まだ辛うじて残っていた、『人間』らしい感情が動揺し、胸をざわつかせているのだと。

 だが、彼にとってそれだけ――『動揺を覚えたという現象を認めた』だけに過ぎなかった。彼女のように、殺した者達への罪の意識は相も変わらず沸いてこない。しかし、

「……辛いなら」

「ん?」

「辛いなら、吐き出せば良いだろ」

 そう、辛ければぶちまければいい。隠れて自傷行為をされて、それが原因で任務を失敗するよりも、遥かに良い。辿り着いた結論を告げれば、何故だか吹き出されてしまった。

「……誰にぃ? まさか、ラル君にとか?」

 ケラケラと笑うジュンテリーアに、不服ながらも頷いた。こちらは真面目に話をしているのだ、冗談と取られては不愉快だと。

 しかし、その仕草すら彼女からすれば可笑しかったのだろう。笑いは治まる風を見せなかった。

「……ジュンテリーア」

 非難するように名を呼べば、漸く彼女は笑う事を止めた。

「あー、ごめんごめん。やー、まさかラルからそんな優しい言葉が出るとは思わなかったから、ついつい」

「……人が真面目に話せば」

「だぁから、ごめんってば。……それにさ、アタシだって純粋に嬉しかったんだよ? 変人なんて言われて、しかもこんな自傷行為なんて馬鹿な事してるアタシに、あんな事言ってくれてさ」

 ニシャリ、ジュンテリーアは笑う。それは、人をおちょくるような物ではなく、純粋な喜びの笑顔。

 初めて見る、彼女の一面。美しいそれに、不覚にも胸が一つ高鳴る。その音を認識した刹那、まるで身体中の熱が集まったかのように頬が火照り始めた。それを無性に誤魔化したくて、ふいと反らす視線。

「……そんな顔も、出来るんだな」

「それはお互い様ってとこだよ。……ねえ、フネラル」

「……なん」

 不意打ちの呼び名。振り返れば、不意に唇へと触れる温もり。至近距離に、ジュンテリーアの整った顔。

 接吻を、された。そう、硬直していた思考が答えを弾き出した頃には、もう温もりは離れた後。

 ニシャリ、またジュンテリーアが笑う。あの、人をおちょくるような笑みで。しかし、頬を仄かに染めながら。

「……アタシ、どうやらラル君に惚れちゃったみたい。だから、さ」

 責任、ちゃんと取ってよ? そう茶化す彼女に、ただ小さく、赤いまま鼻を鳴らす事しか、フネラルには出来なかった……。




 ◆◇◆




 そんな、様々な告白があった日を境にして。フネラルの中で、確かな『変化』が生まれた。それは、相棒たるジュンテリーアに対してであり、軍の狗として粛清を続ける自分に対して。

 今までは、ただの仕事上の相棒であり、変人でしかなかったジュンテリーア。しかし、確かにフネラルの中で一人の『女性』として、彼女の存在が変化していったのだ。気が付けば、何かと気に掛けるようになっていて、彼女は勿論、自分自身でさえその事に驚きを覚える程。だが、その変化は決して嫌悪を抱く物ではなかった。

 ジュンテリーアが笑えば、不思議と自分も喜びを感じる。それが人に恋をするという事なのだろうかと、フネラルは朧気ではあるが理解し始めた。

 しかし、穏やかなそれとは正反対であった。もう一つの生まれた『変化』は、彼を徒に惑わせ、混乱させる。否、正常な人間の精神に戻そうとしている。そう表現した方が、正しいのであろう。

 今まで、裏切り者を粛清する事に躊躇いはおろか、何も感じなかった。だというのに、最近は人を殺める度に何かが胸に引っ掛かるのだ。ちくりとした、『何か』が。それが、ジュンテリーアの言っていた『罪悪感』だとわかるのに、時間はかからなかった。

(だが、だからといって何なのだ……)

 そう、自分にはこの道しかない。逃げ出せば、粛清される。決して逃げられない、牢獄。それにそもそも、軍から逃げ出す理由などフネラルには無かった。剣を振るう度、浮かび上がる罪悪感共々裏切り者を、脱走者を切り捨てる。

 しかし、浴びた返り血をいくら拭い落としても。浮かび上がり続ける罪悪感は決して拭われる事は無く、寧ろ彼の中でゆっくりと、膨らみ続けていった……。




 To Be Continued...

 後少しだけ四章は続きます。今しばらくおつきあいをお願いします。

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