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田舎物語  作者: 苺乙女
1/1

~森ノ宮の少女~

この物語の舞台である、限界集落


限界集落は、これからの未来、残して置かなければならない風景です


これからどんどん機械化が進み、自然と言う文字が消えていく中で、残して置かなければならないのは、こういった風景なのかも知れません

新作書きましたが、途中感想ほし~です






久し振りにやってきた、三重県の多度…


相変わらず、空気がうまい


延々と続く田園の中に、ぽつんと集落がある


いわゆる、限界集落だ


ここには、私の祖母が住んでいる


そして、時々写真撮影に来る




カシャ




カシャ




カメラのシャッター音が響く


「ふぅ…」


何度来ても、良い風景だ



限界集落とは言えど、後世に残しておかなければならない風景が幾つもある




木造建築が続く長い道


少し離れた所には、綺麗な川がある


それは、住民の生活用水になっており、民家の前の溝を流れている


ここも、撮っておこう




私の地元に帰ったら、こんな風景は滅多に無い


「に~ちゃん、どっから来た」


「大阪です」


「遠いとこからこんな所まで、ご苦労なこった。ほれ、これ持ってけ」


「あ、ありがとうございます」


清水で果物を洗っていたおばさんに、ミカンをいただいた


それを頬張りながら、私はある所を目指す


「ば~ちゃん、いるか??」


「おや、あんた!!来たのかい」


「“あいつ”は??」


「畑行っとる」


「そっか、ちょっと顔見て来るわ」


「丁度ええ、飯作ったから、呼んで来てくれ」


「わかった」


荷物を置き、カメラだけ持って、畑を目指した


「あれか」


遠くに見える、一人の女性


私は彼女にカメラを向け、何度かシャッターを落とした


「おっと」


フィルムが切れた


替えのフィルムは、確か内ポケットに…


「あっ」


フィルムケースを落としてしまい、あぜ道を転がる


「ほれ」


「あっ、すいません」


「気をつけるさ」


くわを担いだおじさんに、フィルムケースを取ってもらった


「あの娘をとっとるのか??」


「あ、はい。田舎で働く若い女性は珍しいですから」


「そうか。ま、ガンバレさ」


「ありがとうございます」


もう一度、彼女にカメラを向けた


ちょくちょく休憩しながら、野菜を収穫している


彼女は、何処にいても写真になる


色素が足らず、元々赤みがかった、短い髪


そこそこ大きい、胸の膨らみ


ちょっと切り傷がある、太もも


都会にいたら、必ずモテる感じの彼女だ


彼女の所に近付き、もう一度シャッターを落とそうとした時だった


レンズから、何かを構えて野球のフォームをして、こちらを向いている


「いたっ」


彼女の投げたものは、私のおでこにジャストミートした


「盗撮とは、いい度胸ですね!!」


「俺だ」


「あっ!!あんたか!!」


「ピーマンを投げるな、ピーマンを」


「いやぁ、ゴメンゴメン」

後頭部を掻きながら、笑顔を見せる


すかさずこの瞬間にシャッターを落とした


「流石はカメラマンだね」


「この一枚が欲しかった」


「ちょっと待ってて、大豆採ったらすぐ終わるから」


「ちょっと手伝う」


「い~の、あんたは黙って写真撮ってれば」


「…わかったよ」


彼女の収穫が終わる間、ぶつけられたピーマンを拾い、畑の本近くを通っている小川を一枚撮った


「…」


落ち着くな…


彼女の鎌を振る音しか聞こえない…


「うりゃ!!」


暇潰しに大根を一本抜く彼女


そしてしりもちを付く


「ほら、つかまれ」


「いいっ…一人で立てるもん…よっこらせ」


「飯出来たから、帰って来いだと」


「ご飯!?行く行く!!」


ざるを抱え、颯爽と畑を出た


「楓、ちょっと待て」


「ほら、早く」


傾斜を上がるため、今度は私が彼女の手に掴まった



「いつきた」


「昨日の晩」


「いつまで“いてくれる”」



「ん??」


「いつまで“いてくれる”」


気が強い彼女だが、ほんの一瞬の隙に、甘えたさが出る


その間、彼女は真顔のため、中々その感情に気付かない


「しばらくはいるつもり」


「“ふぁみれす”…連れてってくれるか??」


「行きたいのか??」


「“かれー”が食べたい」


「いる間に連れてってやるよ」


「…ゆっくりしてくといいさ」


そう言うと、無言で私にざるを持たせる


「あ、ちょっと」


ざるからきゅうりを一本取り、川で洗い、それを食べた


「飯だぞ」


「い~の、きゅうりは別腹!!」


美味しそうにきゅうりを頬張る


「あんたも食べる??」


「いい」


「食べないと大きくなれないぞ!!!」


「もう飯だ」


「しつこいっ!!」


そう言って、ふくらはぎを蹴り飛ばされた


「あ、お味噌汁の匂いだ」


「鼻だけ達者だな」


「へへっ、い~のっ。ただいまぁ~」




…私は、この限界集落に、彼女を連れて来て良かったと思う


彼女は中学の時、虐めにあっていた


それはもう酷いものだった


女子の逆恨みで、悪口を言われたり


誹謗中傷を書かれたり



男子からは、時々暴行を受けていた


そんな彼女を見かねて、中学二年の夏休みに、多度に連れて行った


彼女は、この限界集落に魅了された


幾度も私に、


多度に行きたい


多度に行きたい


逢うたびそう言っていた




そして中学三年の春、とうとう彼女は登校拒否をし始めた


その時、もう一度多度に連れて行った


祖母の家に何日か泊り、彼女は農作業も手伝った


そして、祖母が言ったあの一言が始まりだった


「楓、お前はここに残れ。中学はここから遠いが、しっかりした学校がある」


嬉しかった…


祖母のあの一言が無ければ、彼女の運命はもっと悪化していただろう


私だけ彼女の地元の名張に帰り、身辺整理をし、転校届を出し、住所変更も行った


彼女は若い時に両親が亡くなり、生活保護で細々と一人で暮らしていた


又従兄弟である私は、時々彼女の所に訪れていた



私と二つしか違わない彼女


もう少し私が歳を取っていたら、養女に迎え入れる事も出来たと、市役所の連中に言われた



宅配で彼女の荷物を送り、一人夜行列車に揺られていた時…


これで、ようやく彼女が幸せに暮らせる…


そう思うと、少し涙が出た


それから彼女は中学を卒業し、高校には行かず、農作業に専念した


なので、ちょくちょく抜け作な所がある


「お~い、あんた、あんた!!」


「ん??」


「ぼ~っとしてるぞ」


「いやぁ、次は何処撮ろうかなって」


「なら、あたしイイ所知ってる!!」


「ホントか??」


「うん。あ、あんたの新作見たよ」


「ありがとう」


棚から、一冊の雑誌を取り出した


私は、写真家だ


風景や人が中々見掛けない場所を撮るのが私のモットー


こう言った場所を、残さなければならないからだ


「あたしはね、これっ“田舎むすめ”が好きっ」


よく見ると、棚には私の雑誌ばかりあり、処女作から最新作まで全てあった


「ふっ…どうしてまたそれを??」


「あたしが載ってるっ!!」


「どれ」


「これ」


もんぺを着て、畑で農作業をしている写真と


割烹着を着て、畑で取れた野菜を料理する横顔の二枚


「スッゴいシンプルだけど、あたしはこの二枚がお気に入り」


「ありがとうな、楓」


「うん。あ、ごちそうさま。行って来る。行くよ。」


「あ、お、おう」


外に出て、砂利の道を歩く


「あ、これ」


ポケットから、割烹着の女の子のキーホルダーを出した


「何これ」


「あの写真、佳作取った」


「被写体が良かったんだよっ」


「ふっ」


「ふふっ」


「ほら」


「お財布に付けてもいい??」


「好きにしろ」


ポケットにそれをしまうと、自然と彼女が腕を絡めてきた


「たまにだからい~のっ」


「わかったわかった」


こうやって、私は少しずつ彼女の世界に吸い込まれて行く…




彼女に着いて行くと、川原に案内された


「シンプルだけど、綺麗でしょ」


「…」


両手でカメラを持ったまま、私は動かなかった


全く車が走っておらず、川のせせらぎが延々と耳に入り…


ずっと先まで田園が続いている…


美しい…


こんな場所が、限界集落だなんて…


「写真撮らないの??」


「…」


自然と、涙が流れた


こんな美しい場所が


時代の流れに沿って、今


消えようとしている…


「あ、ウサさん!!」


私の気持ちとは裏腹に、彼女はウサギを追い掛ける


そんな彼女にシャッターを落とし、その後、何枚もその風景を焼き付けた


「とった!!」


「ウサギ採ってどうする」


「何って…お鍋に入れるの」


「離してあげなさい」


「やだね~。あたし、ウサさんのお肉好きだもんっ」


べ~っと、舌を見せる



呆れたように、ふぅとため息をつき、草の上に座った


「やっぱり、ここにいると、落ち着くな」


「あたしも多度好きっ」


片手でウサギの首根っこを掴んだまま、私の横に座る


「あ~ぁ、死んじゃった」


「大丈夫、気絶させてるだけ」


「どうやって」


「えいっ!!って、どつくの。早くウサさん食べたいな~」


「ふっ…」


無邪気な彼女と、この風景


彼女は、ここにいるべき存在なんだな…


「あたし、お家にウサさん置いてくる。お散歩しながら帰って来てね」


「気をつけてな」


ウサギを掴んだまま、彼女は颯爽と走っていった


「あ~!!そうだ~!!」


「どした~??」


「郵便局で待ってて~」


郵便局…か


郵便局は、集落の中心にあり、住民の集合場所になっていた


住民にとっては、何の変哲もない郵便局だが、私にとっては実に良い風景になる


何故なら、郵便局の真ん前に生活用水路が流れており、時々配達員が足を付けて羽を休めているからだ


それに、局の中に駄菓子が売っている実に珍しい郵便局だ



「そういえば…」


確か、ここ限定の切手があったような…


「いらっしゃい」


「五十円切手を五枚」


「はいよ。」


ここの郵便局は、民家と一体となっており、カウンターより後ろは普通の民家になっていた


タンスから五十円切手を出し、私の前に置いた


「これだ」


「切手収集かい??」


「いえ…デザインが好きなので」


「そうかい」


小さな紙袋に入れて貰い、二百五十円を置き、私は郵便局を出た


この切手のデザインは、私にとって、ものすごく嬉しい


私の撮った風景がデザインとなっており、割烹着を着た、すまし顔の楓が写っているからだ


この切手を手に入れるには、ここしか無い


なので、ネットで随分高値で取引されている


確か、五千円から一万円だったかな??


「はい、置いてきた」


「どこ行くんだ??」


「ぜんざい食べに行くの」


「こんなあっついのにか??」


「行ってからのお楽しみ。行くよ」


彼女が連れて来てくれたのは、ちょっとしたベンチがある小広い駄菓子屋だった


そこでも私はシャッターを落とし



「かき氷ぜんざい2つ~」


「はいよ~」


楓が百円玉を二枚置く


ベンチに座ると、真ん前に大きな川が見えた


シャッターを落とした後、かき氷が置かれた


「いっただっきま~すっ」


シロップの代わりにアンコがかけられたかき氷


「ん??」


混ぜていると、中に柔らかいものがあった


「おもち」


「いらないなら、あたしが食べてあ~げるっと」


許可も無しに、私のおもちを口に入れた


「ん~ぅ、美味しい」


そんな笑顔の彼女の頭を撫でた


「いっぱい食べろ」


「なんかさ、あんたお父さんになったら、幸せだろうね」


「そうか??」


「何となく、何となく、だよ」


「ふっ」


無造作に携帯電話を開けた


圏外…


まぁ、これで編集社を気にせず写真を撮る事が出来る


ゴーン


ゴーン



5時を告げる鐘が鳴る


「あ、もうこんな時間」


「ん??」


「帰るよ。ごちそうさま~」


「あ、容器置いといて良いよ」




再びあぜ道を歩く


私はポケットに手を入れ、彼女はその横をちょこちょこ着いて来た


「カァカァさん鳴いてるね」


「うん」


「ケロッピも鳴いてるね」


「うん」


「ミンミンさんも鳴いてるね」


「うん」


彼女は、動物の名前を鳴き声で呼ぶ学力が足りず、少し子供っぽいが、その反面、家庭ではしっかりしている


「楓、あれ何て言うんだ??」


私が指差した方向には、アヒルが田んぼで泳いでいた


「あ、ガーガーさん。珍しいね、ホントはグワグワ使うのに」


「グワグワ??」


「くちばしでっかい、緑色の鳥。食べると美味しいんだよ??」


あぁ、カモか


「あ、ウサさんの匂いだ!!早く!!」


手を引かれ、家に急ぐ


「ただいま!!」


「お帰り。丁度えぇ、飯出来たぞ」


「ウサさん!!??ウサさんだよね!?」


「食わんと言っても食うのがお前だろ」


「あちゃ~、あんたには見切られてたか」




三人で、いろりを囲む


「美味しい美味しい」


笑顔でバクバク食べる楓



家の中に、シャッター音が響いた


「題名は、“田舎むすめの休息”だな」


「は~、上手いもんだね」


「楓、こんな抜け作でも、こんな風に強くなれる」



祖母の一言に、私は微笑む


確かに、私の成長を見てきただけある


「ごちそうさま」


ダイアル式テレビを付け、楓は釈迦寝像の様に横になった


「あっはっは!!!!!」


オヤジの様に笑い声を上げる楓


「ほれ、でざぁとだ」


祖母が出してくれたのは、スイカと塩だった


「やったあ」


「わしは、ちょっと役場まで行くさかいな」


「気をつけてな」


「お前に気をつけてって言って貰うほど、老いぼれとらん」


「ふっ」


「楓に欲情するんでねぇぞ」


そう高笑いをし、家を出て行った


あれでこそ、私の祖母だ



何だかんだで、私達が心配で仕方無い


「あたしは塩ちょっとで良いから」


「俺に振れと」


「あんたが一番近くにいるの」


渋々スイカに塩を振る


「ほれ」


「ありがとう」


テレビを消し、ようやく座ったと思ったら、今度はあぐらをかく


「あ~美味しかった」


「もう食べたのか!?」


「あたしにかかれば、スイカなんざ数秒よ」


再び横になり、右手をフリフリする


「ったく」


ポケットからタバコを出す


「お前のキライなタバコ吸ってやる」


「ンガ…」


「楓??」


いびきを立てて、眠っていた


布団を被せ、そっと頭を撫でて、外に出た


郵便局の前にしか街灯が無く、まだ7時なのに、辺りの民家も灯りを消しており、辺りは本当に真っ暗だった


携帯電話の灯りで辺りを探りながら、川原を目指した


「…」


タバコを吸いながら考えた


楓は、やはりここにいるべき人間だ



だが、直にここも無くなる


そういう運命だから


もし無くなったら、楓は…


楓は、どうするのだろう

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