表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

最後

「ねぇ…ロウがさっき出してた黒いの…何?」

私は気になって、ロウに尋ねた。

「…あれが見えたのですか?」

ロウは目を丸くして私を見る。何か変な事言ったかな?

「えっ見えちゃまずいの?」

「…いえ、はじめ様…そうですか…ふふっ楽しみです。」

「…何が?」

「ふふっいっいえ、なんでもありません。」

ロウは幸せそうな笑顔を浮かべる。何かあったのかな?

「なっ何よー!」

もう、意味分かんない。

「私が最初に質問する事ではないので…あぁ、凄く幸せです。」

…意味わかんない。

「もうっ…んで、あれの意味、教えてよ。」

「あっすみません。あの黒い物は、平たく言えば魔力を吸いつくす呪いの様な物です。」

「のっ呪い?」

「はい。思ったより魔力が高かったので、最初から魔力を消させて頂きました。」

「ふーん、そんな事できるんだ。ロウって凄いね!!」

私は素直に感心した。ロウって策士だなぁ。


出口まで後一歩の所まで来て、5メートル程横にルーへのプレゼントが落ちているのを見つけた。

「あっロウ!ちょっと待って?」

私はロウの体から離れ、ヒョコヒョコとプレゼントを取りに行った。

「はっはじめ様!」

ロウが焦って追いかけようとする。こんな近くだもん。大丈夫。

膝を曲げ、プレゼントに手を掛けた瞬間、倉庫の奥から音が聞こえた…


「バンッ!!!」


腹部に熱い熱が走った…

一瞬何が起こったのか分からない…ただ腹部が熱い…

「はっはじめぇぇぇぇぇーーーー!!!」

ロウの凄まじい叫び声が聞こえる。

急いで私に駆け寄るロウ…何焦ってるの?


あれっ?お腹が…冷たくなってきた。

なんか…お腹が濡れてきた…


だっ駄目…お腹は…

お腹だけはやめて…

ここには大事な…


私は意識が遠のくのを感じた…


「バンッ!!!!」


また忌まわしい音が聞こえた。

ロウは私の側まで来て、私に覆い被さった…

おっ重いよ…ロウ。

ロウは私の腹部に顔を埋め、何かブツブツ呟く。

もう、こんな時に何考えてるの?


ロウは深く深呼吸して私のお腹にキスをする…温かいなぁ…

それに…凄く気持ちいい…

ロウは優しくお腹に息を吹きかける…

「ふぅぅぅぅ…………ぅっ。」

ロウの全体重が私に掛る。


それと同時刻、凄い早さの足音が聞こえてきた…

その足音の主は私たちの様子を見るなり物凄いオーラを発する…


「……っううっうおぁぁぁぁぁーーーー!!!!」

声に鳴らない大きな叫び…倉庫全体が大きく揺れる…

「貴様ぁぁぁ!!!楽には死なせぬ!!弄り殺してやるぅぅぅーー!!」


私の意識はそこで途絶える…

薄く開いた目の中に、血まみれのプレゼントが映った…



……朝の木漏れ日が、私の瞼を刺激する。


「……んっ眩しい…。」

私は重い瞼を開ける…体、重いな。

ボーっとした頭で考える。

昨日…なんか急に運動でもしたっけ…全身筋肉痛みたい…

うーんと…確か、学校終わって…ロウと買い物行って…それで………あっ!!!

私は体を起こす。


そうだ…マイクが私を誘拐して…ロウが戦って…血が…

そうだ、お腹…お腹は??

私は急いで自分の下腹部に手を当てる…よっ良かった…何ともない。

私は深く息を吐き安堵する。

お腹から手を離し下へ降ろすと、手にフワっっとした感覚が分かった。

「…ルー?」

ルーはベットに頭を載せグッタリ眠っている様子だった。

「クスッ何こんな所で寝てるんだろう…ふふっ。」

私は頭を伏して眠っているルーの美しい髪を自分の指に絡ませる…


「…っ!はじめっ…」

ルーは急に目を覚まし、私の顔をジッと見つめる。

「…なっ何?どうしたのルー…」

ルーの表情は普通じゃなかった。何をそんなに驚いているの?

ルーは目を丸くして私の顔を見ている。

そして私の両頬に手を当て、そのまま優しくキスをした。

ルー…温かいな…

ルーは口を離した後、もう一度顔を見つめ、優しく自分の胸で私を包んだ…

「…ねぇ、どうしたの?なんか変だよ?」

何時もと様子の違うルー…なにかあったの?

「…はじめ…三日間ずっと寝てた…起きないかと思った…」

ルーの綺麗な瞳から、静かに涙が流れる。

「…うそ…冗談でしょ?」

「…本当だ。」

ルーの尋常じゃな様子を見ると、本当に三日間眠っていたんだろう。

「…私…何が起こったの?マイクが襲ってきて…」

頭をフル回転させて記憶を辿る…

「…思い出さなくていい…思い出すな…」

ルーは私を強く抱きしめる。でも…思い出さないといけない気がするの。


そっそうだ…最後に見たのは…

血に染まったプレゼントの箱…あれは誰の血なの?

「…ねぇ、ロウは?ロウは何処?」

何時も私の側に居たロウの姿が見えなかった…おかしい。

「…ロウは寝ている。」

「へぇ、珍しい。」

ロウが私より後に起きるなんて…今まで一度も無い。

そうだ!ロウに聞けば…あの時の事が思い出せる!!

だってロウが一緒に居たのは覚えてるんだもん。

「私、ちょっとロウに聞いて来る!!」

ベットから体を起こす…重い足が冷たい床に着く。

「…やめろ…」

ルーは私の肩を抱いて制止する。

「…何で?」

「……っ…」

答えないルー…嫌な予感がする…

「いや…退いて!!!」

「はっはじめ!」

私はルーを突き飛ばし、屋敷の外れにあるロウの部屋に走って行った。


「はぁはぁはぁ…」

ロウの部屋のドアノブに手を掛ける。

…なんだろう…怖くて開けられない…手が震えてくる…

私は自分でドアを開ける事が出来なくて…ただ立ち尽くす。


「…はじめ…」

後ろからルーの声が聞こえる。

「…ねぇ…ドアを開けて?…はっあはは!自分でノブが回せないの…」

笑いながら言うんだけど…目から涙が止まらない…どうして?

……多分、ロウも私と同じだと予想していたから。

このドアを開けると…眠ったままのロウが居る気がして…怖かったから…

「…ねぇ…お願い…ルー、ここ開けて?」


ルーは、私の手の上に自分の手を載せ…強く握った。

そして…そのままずっと握っていた…

ねぇ、ルー?手が震えてるよ?


「そこにロウは…居ない。」

静かに話すルー…

「じゃあ…ロウは何処行ったの?」

「……はっはぁ…はぁはぁ…」

ルーは息を乱す…

自分の胸に手を当て、呼吸を整え…私に話しかける。

「ロウに会いたいか?」

「…うんっ会いたい。」

「何を見ても正気で居られるか?」

「……うん…」

正直ロウに悪い事が起こってるのは分かってた…

でも、ロウに会いたかったから。

あの時、私を助けてくれたのはロウだって確信があったから。

お礼も言わなくちゃ。でも…

もしロウが大怪我してたら?正気で居る自信なんてない。でも…

嘘でも付かないと逢わせてくれないでしょ?


ロウは何も言わずに私の手を引く。

「どっ何処行くの?」

「……すぐ分かる。」

ルーの握る手が汗ばんで…凄い力で私の手を握る。


ルーは私を屋敷の外に連れ出した。

「…もしかして…入院でもしてるの?」

「……。」

何も答えないロウ。

ロウは車に乗るでもなく、私の手を引いて…庭の中を進んでいく。


……いっいや…そっちに行きたくない…


「いや…ルー…そっそっちに行きたくない…」

私は手を振り払う…

ルーの進む、その先にある場所を私は知っていた。


ルーは立ち止まり、私の顔を優しく両手で掴む。

「……大丈夫。ルーが一緒だ…。」

ルーは私の肩を抱き、静かに私が歩き出すのを待っている。

「……だめ…やっぱり…」

全身に力が入らない…あっ足が動かない…

「ルー、ごめん。やっぱり私…」

来た道を戻ろうとする…

「はじめ…」

優しく私を呼ぶルーの声…


「ロウが待っている。」


ルーの一言で全てを悟った………


「…うそ……嘘よ…っ。」

私は力なく座り込む。

ルーは私に近づき、優しく私を抱きあげた。


「ロウに会いに行こう。」


「…うんっ。」

小さく頷いた…

私はルーに助けて貰いながら……先に進む…


私はゆっくり…そして確実に足を進める。

そして…薄暗い…その場所で私は足を止める。


ヒッソリと静まり返るその場所…

地面に置かれた無数の石板…

その中に一つの真新しい石板を見つけた。


私は…立ち止まったまま動けなかった…


「はじめ…」

優しくルーが話しかける。

「…うん…。」

私はルーの言葉に背中を押され、真新しい石板の元へ足を進めた。


   ロウ・カイン


石板に刻まれたロウの名前…

足がガクガク震え…近くに寄れない…

い…いや…みっ認めない…これは何かの間違い…


「はじめ…ロウの側に…」

私はルーに手を引かれ、石板の元へ足を運ぶ。


そっと石に触れる。

ひんやりと冷たい…


「ロウ…はじめが目を覚ました。」

ルーの声に私は振り返る。

やっぱり…この石の下には…


「ロウ……」

私は地面に向かって声を掛ける。

「ロウ…ロウ…ロウ…」

「……はじめ…」

ルーの声をキッカケに、私の感情が爆発する。


「いっ嫌…嘘でしょ?認めない…こんなの認めない…」

全身が震える…立っていられなくて、その場に座り込んだ。

手に新しく掘り返された土が触れる…

その感覚は妙にリアルだった…

土を手に取り、指で擦る。指の間からサラサラと流れ落ちる…そう、まるで…

ロウの命の様に。


「いや…ヤダヤダヤダ…ヤダヤダヤダ…」

頭を抱え、激しく振る…なにもかも嘘だと思いたかった。

「はじめ!!!」

ルーは私を力強く抱きしめた…

ルーの温もりが私を現実に連れ戻す。


「あっあぁ…あっあっ…いっいや…いやあぁぁぁぁぁーーーーー!!!」

私は力の限り叫んだ…

喉が裂けて…血の味がしても…

心の奥底から…思いっきり叫んだ…

「ああああ!!!!うぅああああああああ!!!」

息が苦しくても…喉から血が噴き出しても…やめられなかった…


ルーは私を、ずっと抱きしめていてくれた。

私が他の男を重い、泣き叫んでいても…

ルーは私を離さないでいてくれた…


私の頭の中の…何かが弾けた。

「……あぁ…」

私の中のリミッターが働き…私は意識を失った。

ルーはそんな私を優しく抱きあげ…寝室に連れて行く。


それからの私は…まるで廃人の様だった…

だって…ロウは私の為に死んだ…

私が危機感を持たなかった結果。

私の軽率な行動の結果が…ロウの死を招いた…

あんなに優しくて…

あんなに私を愛してくれたロウ…

私は…ロウに何かしてあげられた?

ううん、何も…

私はただ…ロウから貰ってばかり。

そう、何もかも全部…奪った…


私を後悔が襲う。


私はベットから起きる事が出来なかった…

お腹も空かない…喉も乾かない…ただ眠りたいの。

何もかも忘れて…眠っていたいの。

だって…私がロウを殺したも同然。

ロウ一人なら負けなかった。

私が…殺した…


「うあぁぁぁぁーーーーー!!!」

私はベットの上で暴れる。

自分でも抑えられない…

だれか…助けて…


「はじめ!!」

ルーが部屋に飛び込んでくる。

「うぁぁぁーー!!!あああぁぁぁぁーーー!!」

私は叫び続ける…

ルーは私を抱きしめる…

「あぁっあぁ……っはぁはぁはぁ…」

私は少し落ち着き、再び眠りに入る。

そんな私をルーが悲しげに見つめる。


「はじめ…食事だ。」

ルーは寝室に食事を運んでくる。

「……いらない…」

私は素っ気なく答える。

食べたくないの…ごめんね?

「…食べるんだ。」

「…やだ。」

「はじめ…」

「食べたくない!ロウはもう食べられないのに…私だけ食べるなんて出来ない!!」

私は思った事を口にする。

「そんな事…ロウが喜ぶと思うか?」

分かってる。そんな事…。

「ルーの所為よ…ルーが最初から居てくれたら!!!こんな事に…」

こんな事、思っていた訳じゃない。

でも、八つ当たりでもしないと…自分を保てなかったの。

「…はじめ…」

ルーの悲しそうな表情…

ルーだて悔んでるハズなのに…私はなんて非情な言葉を…

「…すまない。」

俯くルー…

「ごっごめん…」

謝って済まないけど…

「いいから。」

ルーは俯いたまま答えた。

「ルーの所為じゃないのに…あれは全部、私の責任。私がロウを…」

「違う!!!」

私の言葉をルーが遮る。

「ロウは自分の意思ではじめを助けた。はじめが拒否してもロウは同じ事をする!!」

「でも…私の行動がロウの命を!!!」

私は泣き崩れる…

「はじめ…」

ルーは泣きじゃくる私を優しく抱きしめる。

「ロウははじめの為に死んだんじゃない。自分の為に死んだんだ。

 もし逆に…はじめが死んでいたら…ロウは必ず自害するだろう。」

「…結局…死ぬの?」

「……ルーが悪いんだ。はじめは悪くない。」


私とルーは…きつく抱き合った。


それからも毎日私の看病をするルー。

私が食事を拒否すると、私に縛りをかけて食事をさせ、

私が泣いていると、そっと私を包み込む。


ルーのお陰で、私は少しずつ落ち着きを取り戻した。


そんな時、ルーは何かを持って私に会いに来た。

「はじめ…」

ルーに渡された包み…

「これ…何?」

ルーは答えにくそうに言う。

「…ロウが守った物。」

「…えっ?」

私は急いで包みを開ける。

そこには見覚えのある物が入っていた。

「箱は汚れてしまったが、中身は無事だった。

 ロウは…はじめと、これを守る様に倒れていた。」

「…これ…」

真っ白な肌掛け…私からルーへのプレゼント…

私はその肌掛けを抱きしめ…泣いた。


「ロウは、その箱が汚れるのを避けるように…自分の腕に抱いていたんだ…

 それは…はじめへのプレゼントかもしれない。貰ってくれ。」

「…ちっ違う…これは…ルーの………」

!!!!!!!

私は、大事な事を忘れてた。

なんでこんな大事な事を忘れてたの?

プレゼントを抱いて、私はあの日ルーにあげたかった、もう一つの存在を思い出す。


私は急いで自分の下腹部に手を当てる…

パジャマをめくり…素肌を撫でる。そこには小さな傷跡。

「ここ…ロウの命が吹き込まれた場所。」

傷跡に優しくキスをするルー。

私はロウの最後の瞬間を思い出す。

「ロウ…ここに息を吹きかけてた…」


ルーは優しく話し出した。

「獣人は大なり小なり、他人の傷を癒す力がある。でも、自分の命を削って助けるんだ。

 きっとロウは傷を癒そうと…」

「命…を?だから死んじゃったの?」

「いや…魔力の少ない者なら可能性はあるが…ロウに限ってそれはあり得ない。

 ロウなら死人でも生き返らせない限り、自分が死ぬ事は無い。」

「しっ死人?」

「あぁ…でも、はじめの傷は致命傷まで達してない。

 だからロウが死んだのは別の理由がある筈だ。」

……私は全てを悟った。


「違う…ロウが死んだのは、やっぱり私の所為だ…」

「はじめ、それは違う!ロウはルーの次に魔力が高かったんだ。

 傷の直す位で死ぬ筈は無い!!!」

ルーは私の目を見て、大声で話した。

「違うの!!私の所為なの!!!」

「はじめ…」

ルーは驚いている。

私はルーの話と自分の微かな記憶で、あの時起きた事を話し始めた。

「多分ロウは、私との会話で私の体の事が分かったんだと思う。

 それで…私が倒れて…お腹から血が出て…ロウは自分の命と引き換えに助けたの。」

「…だから、はじめを助けた所でロウは…」

「…あのね…ロウは私を助けたんじゃないの。」

「???なっ何を助けたんだ?」

ルーは頭をフル回転させて考え込む…まだ分かんないの?

「あのね…多分このフレーズでロウは気付いたと思うんだけど…言うね。」

「…うん、聞く。」

私は姿勢を正してルーに言った。


「私…ロウが攻撃した時…ロウが黒い何かを飛ばすのが見えたの。」


うん、多分これだと思う。

ロウは黒い何かの話をした直後に嬉しそうにしてたし…


ルーは少し考え…思いついたように目を丸くした。

「はっはじめ…魔力が見えたのか?」

「魔力?あぁ…あれって魔力だったんだ。」

「…はっはじめ…うっうわっ嘘みたいだ…」

ルーは私の下腹部に頬を付け…愛おしそうにキスをした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ