ルー
翌朝、私は目を覚ました。
慌てて状況を確認しようと辺りを見回す…が、何だか様子が…
「あれ…もしかして…夢?」
私は自分の部屋で寝ていた。見慣れた部屋の風景…
「やっ嫌だ!私…すっごいヤラシイ夢見ちゃった…」
軽く自分の頭を叩き、ベットから身を起こす。
立ち上がろうと足を下に垂らし、力を込める…っと、下腹部に痛みが走った…
「っ痛ぅー!!なっ何これ…」
膣が痛い、それに腰もダルい…生理痛?でも何時もと違う様な…
私はヨロヨロ立ち上がり鏡を見る。
「うっわー、乙女の顔じゃない。最悪。」
鏡の中の私は顔色も悪く、疲れた顔をしている。
「変な夢見て疲れたのかな…」
頬を弄りながらマジマジ鏡に食い入る…っと、ある事に気付く。
「えっなっ何これ…」
そっと首に触る。チクッっと鈍い痛みが走る。
「何かに刺された?でもこれって…」
首筋に二つの小さな傷…吸血鬼の噛み跡みたい。
「うーん…何だろうこれ…」
私はチラリと時計を見る…うわっ学校に遅刻しそう!
急いで制服に着替え、とりあえず鏡の前に立つ。
クルンッと一回転して乱れをチェックする。
「うんっ平凡でよろしい!…ん?何だろう…」
自分の制服にキラリと反射する物が付いている。
私はその反射する細長い毛の様な物をつまみ上げる。
「何だろう…これって…猫の毛?」
細く真っ白な毛…夢で見た猫の毛に良く似ていた…
「昨日猫なんて触ったっけ…って時間!!」
私は遅刻寸前なのを思い出し、急いで家を飛び出した。
何時もの無機質な街を歩く。
車の音が五月蠅い…空気が臭い…
あー、夢で見た神社…本当にあればいいのに…
私が考え事をしながら歩いていると、目の前を一匹の猫が通り過ぎる。
「あっ猫…」
黒い猫…夢の猫とは違って、全身真っ黒な猫…でも毛が艶々輝いて綺麗…
猫は、私の前を通り過ぎる瞬間、一瞬頭を下げる。
「えっうそ…」
確かに頭を下げた様に見えた。
「まっまさかね!偶然!偶然!」
私は歩き出す。
学校付近の大きな家…私は何時も緊張しながら通る。
何でかと言うと、物凄く大きな犬が飼われているから。
多分狩猟犬とか警察犬とかで見かけそうな鋭い顔…
鎖に繋がれているけど、必ず吠えてくる。門の隙間に鼻を突っ込み吠えるから、
前を通る人達は必ずビックリする。分かっていても怖い…
私は道路の反対側を歩き、なるべく近寄らない様に通り過ぎる。
「おっ今日は吠えない…ラッキー!」
私はチラリと横目で犬を見る…えっ嘘…また?
犬は私に向かって頭を下げている…嘘みたい…
「そんな…こんな事ってあるの?二回も偶然が起こるなんて…」
私は周りを慎重に見渡す。良く見ると至る所で動物たちが私に会釈をしている。
「きっ気持ち悪…」
私は急に怖くなり、学校に逃げ込んだ…
その日の授業は全然頭に入らなかった。
気味の悪い光景…まるで人間の様な仕草…見間違いにしては多すぎる。
授業が終わっても学校から出るのが怖い。
「おい!様が無いなら早く帰れ!」
担任の先生から怒られ学校を出る。
帰り道でもお辞儀されたら怖い…
私は余所見せず全力で走って帰る…
いくら走っていても、信号だけは止まらない訳には…
私は早る気持ちで変わるのを待つ…
早く…早く…早く…
もう少しで変わろうとした時、私の足元に異変が起きる。
「ニャーニャー。」
「にゃう。」
「ニーニー。」
数匹の猫に囲まれた。
特に噛みつく訳でも、すり寄る訳でもなく、ただ足元で鳴くだけ。
「えっ何?」
訳も分からず震える。
「ニャー。」
「ニャッニャッ。」
「ニャウニャウ。」
猫は鳴き続ける…絶対に変な光景。怖い…
「お願い…怖いからあっちに行って…」
私は手をヒラヒラさせて追い払う動作をする。
すると猫たちは頭を下げてから何処かに行ってしまった…
「言葉が…分かる?」
私はなるべく人通りが多い道を選び家まで帰った…
「一!ご飯よー!」
一階から母の呼ぶ声が聞こえ、私は自分の部屋から出る。
「お腹すいたー!オカズ何ー?って…なんで…」
私がダイニングテーブルの私の何時も座る席…そこには一匹の猫が座っている。
「おっお母さん…なんで…」
私は震える指で猫を指す。
「何って…ルーじゃない…変な子ね。」
「ルッ…ルーって?この猫の名前?」
「本当に変な子ね。早く座りなさい。」
「座れって…私の席に猫が座ってるじゃない。早く退かしてよ!」
「何言ってるの?その席はルー専用じゃない。」
「おっお母さんこそ何言ってるの?」
私は父と母の顔を交互に眺める。冗談を言っている顔ではない…
「何がどうなってるの…」
「食べるの?食べないの?」
母が少しイラッっとしながら話す。
「たっ食べるわよ…」
私は状況が理解できなかったが、取り合えず空いている席に座る。
「もう、本当に変な子!早く食べちゃいなさい。」
私の前に食事が並べられる…今日は魚料理ばかり…
「頂きます。」
取り合えず食べ始める…何時もより味が薄いな…
ふと目の前の席に目を向ける…ねっ猫も一緒に食事をしている…
人間様が使うより高級そうな銀の皿の上に並べられた食事…なっ生意気!
「お母さん?なんで猫が一緒に食事してるの?」
私は少し声を荒げ母に聞く。
「今日は本当にどうしたの?何時もそうじゃない…」
「いっ何時もって…」
呆気にとられていると、猫は、
「ニャッ。」
っと短く鳴き食事を続ける。
その猫は真っ白で…夢で見た猫によく似ていた…
蛍光灯の下でも輝く毛…若く美しい猫…
食事も綺麗に食べる…口元なんて汚さない…
猫は食事を終え、顔を洗っている。
軽く自分の手を舐め、スタンッと華麗に椅子から降りる。
そのままリビングを出て何処かに行ってしまった。
私はその流れるような動作に見惚れ…目が離せなかった。
「食べないなら片づけて!」
母の声に急いで食事を口に詰め込む。
私は自分の部屋に戻るとすぐさま布団に飛び込んだ。
何か変…外も内の中も…
おかしいのは自分の方かもっと思うくらい全部がおかしい。
とっ取り合えず寝てしまえ!私は寝る準備をしようとクローゼットへ向かう。
「ニャウ!」
急に猫の声が聞こえ振り向く。
さっきの白い猫がベットの上に座っている。
なんか睨んでいる様にも見える。
「なっ何よ…」
私は身を竦めながら猫に喋りかける。
「ニャウニャウ…ニャ…ふぅ。」
猫は鳴いた後ため息を吐く…ねっ猫がため息?
猫はウーンと伸びた後、不思議な変化を遂げる。
体をバキバキ鳴らしたかと思ったら、見る見る身長が伸び始めた…
「いっ嘘…」
私は怖い気持ちもあったが、何故か猫から目が離せなくなった。
身長はある程度の長さで止まり、今度は骨格が変わり始めた。
抜ける毛と伸びる毛…手足が伸びツルツルの白い肌に変わる。
瞬く間に、美しい若い男の姿になった…
腰まである美しい髪、引き締まった体…整った顔。
この男…夢に出てきた…私に恥ずかしい事をした…ってかこいつ、真っ裸!!
てか、ゆっ夢じゃなかったの?
私は目の前の光景が受け入れられず、失神してしまう。
「おいっ起きろ…」
頬を叩く痛みで意識が戻る。
「いっ痛い!」
私はムカッっとして飛び起きる。
「おいっ大丈夫か?」
心配そうに覗きこむ美しい顔…あっこの人!!
私はさっきの出来事を思い出し、
「ぎゃーーー!」
っと思いっきり叫ぶ。
男は一瞬脳震盪を起こしたようにクラッと来ていた様だか、すぐに元に戻り、
「五月蠅い。」
っと一言。
「うっ五月蠅いって、あんた誰?ってか昨日私に何かした?それに何で裸?」
っと言い返した後、私の叫び声を聞いた家族が駆け上がってきた。
「おい!一!大丈夫か!」
「一?一?」
焦る父と母の声…階段を駆け上がる音…
バタンッと私の部屋の扉が開く…
やばい!この男の事、なんて説明しよう…
「あっ!!」
両親は目を丸くして立ち止まる。口をアガアガ震わせて…
「あっあの…これは…」
私が良い訳しようとオドオドしていると、男は華麗に立ち上がり両親の目の前に…
「……王の寝室に無断で入るな…」
こっこいつ頭も狂ってる!!お父さんと取っ組み合い??マズイ!
慌てて割って入ろうとするが…両親の様子が変だった。
「……はい…申し訳ありません…」
うつろ気に謝罪する両親…どうなってるの?
「…下がれ…呼ぶまで控えろ…」
男は低い声で命令する。
「かしこまりました…」
素直に従う両親…頭を下げたまま部屋を出て行った。