返す約束の木杭を、干場の検査役が握って離さないので、行き先を訂正しました
「あなたを私の干場には置かない」
濡れた木杭を差し出したまま、私は追放後の手順を数え始めた。
一、貸された籠を洗う。二、寝床を空ける。三、藁代を精算する。四、浜を出る荷車を探す。五、海へ入る服だけは最後まで詰めない。先に詰めると、着るものがなくなる。全裸で最後の漁をするほど、私は浜への恨みをこじらせてはいない。
「籠は返さなくていい」
ガレス子爵様は言った。
「一つ消えました」
「寝床は三日使える」
「二つ」
「精算はスネジャナがする」
「三つ。荷車は?」
「要らない」
「まさか徒歩で追放ですか。荷物の軽量化に、着替えを燃やす項目を加えます」
「追放しない」
そこでようやく、子爵様は私の手から木杭を取った。
長さは私の肘ほど。先端には区画を示す刻み、側面には五寸、七寸、九寸を取る三本の刻み、上端にはブロンウェンという私の名。二度の不漁を呼んだ海女にしては立派すぎる名前札だ。
「私の家の干場には入れない。空いている独立区画を使え。六束、試す」
拒絶の後ろに採用が隠れていた。言葉を干しすぎではないか。水分どころか意味まで抜けている。
「特別扱いはしない」
「望むところです。不合格になった場合は、一、束をほどく。二、腐りを分ける。三——」
「先に干せ」
六束なら失敗しない。そう思った時点で、海はだいたい人間を嫌っている。
私は薄い葉を外へ、厚い葉を内へ重ねた。昼まではよく乾いた。だが夕刻、中央を指で押すと、冷たい湿りが爪の腹へ戻ってきた。六束すべて、外側だけが乾いた見せかけの出来だった。
「また一列だめにすれば、今度こそ浜へ戻れないわね」
割付板の前で、ヴェセラが笑った。私の木杭の脇には、いつの間にか旧家族の添え札が掛けられている。合格なら家の分。不合格なら不吉な海女の分。ずいぶん便利な家族の共有である。
子爵様は束を割り、中心を確かめた。
「厚い葉を混ぜたな」
「はい。ほどいて塩抜きからやり直します」
「六束、不合格」
木杭を外された。やはり四つ目の荷車は必要だったか。
ところが子爵様は、杭を不合格札の籠へ落とさなかった。
人差し指一本で割付板へ押し戻し、その指だけをしばらく離さなかった。
「次は十八束」
「追加調査ですか」
「二度目の検査だ」
ほぼ同じ意味では? だが、割付板に残った私の名を見れば、口を挟むのも惜しかった。
* * *
二度目は、葉の厚さを二つに分けた。
薄い葉は指二本ぶん、厚い葉は指三本ぶんの間を空ける。十八束を半日で乾かすには、陽より風が要る。西から来る風を拾えるよう、干し台の端を少し開けた。
昼過ぎまではよかった。
西の旗布が垂れた途端、端から三列目の二束だけが湿りを戻した。私は束をほどき、合格十六、不合格二と自分で札を分けた。
「一、二束を売り物から外す。二、干し台を洗う。三、次の浜へ渡る舟賃を確かめる。四——」
「一は済んだ」
背後から子爵様の声がした。
「二は共同干場の仕事だ」
「では二つ減りました。三、次は別の浜を探します」
子爵様は全戸共通の木尺を握っていた。
「働く場所はあなたの自由だ」
「はい。ですから舟賃を」
「台が低い」
会話が崖から落ちた。
木尺を持つ指の節が白い。視線は割付板の私の木杭へ行き、干場の出口へ行き、また木杭へ戻った。
自由と言った人の目が、私の退路を三往復している。監督業務とは忙しいものだ。
「東側の脚を半寸上げろ。床下の風道が通る」
「それで二束も乾きますか」
「次は厚さを三つに分けろ」
「三度目があるのですか」
答えの代わりに、子爵様は検査札を私の掌へ置いた。角ばった札が、濡れた皮膚へぴたりと吸いつく。
木尺を握る指は、まだ白かった。
* * *
夏の大潮の日、潮見石は黒い腹を朝日へ晒していた。
石の三番目の白筋まで濡れ、頂の窪みだけが乾いている。引きは速い。沖の根に生えた海藻へ届く時間は短いが、水が戻る前なら三度潜れる。
一、綱の結び目を確認。二、籠の底を確認。三、潮の戻りを確認。四、足場の貝殻を避ける。五、上がったあと倒れない。
「五は守れ」
腰綱を確かめていた子爵様が言った。
「一から四は?」
「私も見る」
「海女の検査にしては範囲が広いですね」
「潜れ」
言葉は短いくせに、結び目を引く指は二度も確かめた。私は三度目を待たず、海へ入った。
冷たい。
息を吸い込み、岩を蹴る。耳の奥で水が鳴り、空の明るさが頭上へ遠ざかった。海藻は沖へ傾いている。根元を残して刃を入れ、左腕へ抱え、腰の籠へ押し込む。厚い葉は重い。水の中では揺れるだけなのに、浮上した途端、肩を下へ引きちぎろうとする。
籠一杯目を浜へ上げた。
樹皮編みの縁を両手で持ち、波が引く力に合わせて後ろへ下がる。引く。置く。息を吸う。腰綱を外す。
「倒れるな」
「五番は最後まで監視される項目でしたか」
「最重要だ」
では一番に置けばいいのに。子爵様の項目順は、意味と同じく不親切である。
二度目は息を一つ詰め、中葉を刈った。浮上して樹皮の縁を肩へ掛け、引き波に合わせて浜まで曳く。三度目は戻る水に膝を打たれながら厚葉を根元から切り、腰と肩で三杯目を引き上げた。潮見石の白筋へ水が触れる前に、籠三杯を浜へ揃える。
そこで干し台の南脚が沈んだ。
濡れた砂が、籠の重みごと脚を呑んだのだ。台が傾き、上に移した一杯目が滑る。
「退け!」
子爵様が走る。
「退いたら全部落ちます!」
私は籠の取っ手を左肩へ引っ掛け、腰を落とした。重い。肩の骨が悲鳴を上げる。知ったことか。これを落とせば洗い直し、砂噛みの選別、籠の修繕、台の立て直し、日没後の荷造り。五項目では足りない。六は嫌だ。縁起が悪いからではない。数えるのが面倒だからだ!
空いた右手で、台の下に置いてあった横木を掴む。沈んだ脚の手前へ差し込み、踵で端を踏んだ。横木が梃子になり、脚が指二本ぶん浮く。
「石を!」
子爵様は私の横へ膝をつき、脚の下へ平石を滑り込ませた。
「もう一枚。薄いものです」
「これか」
「それは厚すぎます。台が北へ傾きます」
「注文が多い」
「全量を海へ返したいなら、どうぞ厚いほうを!」
薄い石が入る。子爵様が脚を押さえ、私は籠を肩から下ろした。台は止まった。
止まったが、子爵様の手は私の腰綱を掴んだままだった。
「子爵様」
「台へ上るな」
「上らないと籠を移せません」
「私が持つ」
「検査役に採取量を持たせたら、ヴェセラが一月は喋ります」
「なら二人で持つ」
その通り、ヴェセラは干場の端で唇を尖らせていた。特別扱いだと叫ぶため、たっぷり息を吸っている顔だ。
私と子爵様は籠の両側を持ち、立て直した台へ移した。子爵様の視線は籠より私の足を追う。右、左、濡れた板、次の足場。私が降りるまで一度も海藻を見なかった。
検査役として減点。転倒防止係としては満点。採点表をどこへ提出すればいいのだろう。
採った葉を一枚ずつ広げた。
光が透け、縁が柔らかいものは薄葉。筋が一本濃く、曲げると中央だけ戻るものは中葉。二本の指で挟んでも水を吐き、折り目が残らないものは厚葉。
薄葉を五寸。
中葉を七寸。
厚葉を九寸。
木杭の刻みを木尺で取り、十二間の干し台へ順に並べる。五寸の列は風を逃がしすぎないよう中央へ。七寸はその外。九寸は西端へ置き、弱くなる風を一番広い隙間へ通す。
「ずいぶん空けるのね」
ヴェセラが添え札を持って近づいた。
「家の採取分まで場所を取られては困るわ。三杯のうち一杯は、うちの籠でしょう?」
「籠は私が編み直しました。底の継ぎも私です」
「家族の道具は共有よ。採ったものも同じでしょう」
なるほど。破れた底は私のもの、入った海藻は家族のもの。共有とは便利な言葉だ。穴だけ選んで人へ渡せる。
「割付は十二間だ」
子爵様が言った。
ヴェセラへ向けた声は低くも高くもない。ただ、余分な一滴まで乾いていた。
「見るのは束だけだ。名も、家も見ない」
「でも、その台を直したのは子爵様でしょう。公平な検査になるのかしら」
周りの干し手が手を止めた。ヴェセラは私へ言う時より顎を上げ、語尾を長くした。反撃しない不吉な海女には断定。監督には疑問形。丈夫な処世術である。
子爵様は全戸へ使う木尺と、乾燥検査用の石の重りを台へ置いた。
「全列、同じ順で測る。疑うなら見ろ」
ヴェセラの顎が半寸下がった。
朝のうちは水切りだ。
束ねず、一枚ずつ縄へ掛ける。葉先から落ちる雫が下の列へ触れないよう、薄葉を高く、厚葉を低くする。陽が上がるにつれ、表面の光が消えた。
一、薄葉の端をつまむ。二、中葉を持ち上げる。三、厚葉の裏へ指を滑らせる。
「四は?」
子爵様が訊いた。
「四、監督が邪魔なら肘で退ける」
「退かない」
「では五、踏む」
「許可しない」
退かない人を避けて、私は十二間を往復した。
正午、裏返す。
薄葉は縄を弾いて一息に返す。中葉は中央の筋を折らないよう両手で持つ。厚葉は片側ずつ剥がし、下から風を入れてから返す。四十八束へまとめる順番を崩さぬよう、木杭の刻みに合わせて仮紐を置いた。
八束、十六束、二十四束。
腕へ塩が乾き、皮膚がつっぱる。
三十二束、四十束。
厚葉の最後の八束を返した時、足元の板が潮気で滑った。
爪先が半歩ずれた。
下から伸びた手が、私の足首へ触れる寸前で止まる。子爵様は掌を開いたまま、台の縁へ指を食い込ませていた。
「落ちていません」
「落ちる前に言え」
「未来予測に六項目目が必要ですね。一、板が滑る。二、私が落ちる。三、子爵様が受け損ねる。四、二人で台を壊す。五、ヴェセラが喜ぶ。六——」
「一は板を拭く。二は私が止める」
「私を?」
「潮は止まらない」
子爵様は布で板を拭き始めた。
耳が赤かった。陽射しのせいだろう。首筋まで色づく陽射しは、ずいぶん器用だ。
夕刻前、海から湿った風が戻った。
ここで慌てて束ねれば、表面の乾きに閉じ込められた湿りが夜中に中心へ集まる。一度目の六束と同じだ。
私は薄葉の列を一間詰め、中葉を半間ずつずらし、厚葉の縄をさらに半寸上げた。西から入った風が九寸の隙間を抜け、七寸へ曲がり、最後に五寸の薄葉を揺らす。
葉の擦れる音が変わった。
濡れた布の音から、乾いた紙の音へ。
四十八束ぶんの葉を仮紐の位置から外し、同じ重さになるよう束ねる。厚葉だけが一束へ偏らないよう三段を混ぜる。ただし重ねない。筋と筋の間へ風の通り道を一本残す。
日が落ちる前に、検査が始まった。
子爵様は木尺を束の中央へ差し、幅を測った。次に石の重りを載せ、十を数えて外す。湿りの残る束なら沈んだ形が戻らない。乾いた束なら葉が押し返す。
一束目。
「合格」
二束目。
「合格」
ヴェセラが腕を組んだ。三束目、四束目と進むたび、その腕がきつくなる。十束を越える頃には添え札の角が掌へ食い込んでいた。
二十四束目。
「合格」
子爵様は束しか見ないと言った。
けれど私が台へ上がれば視線が足元へ落ち、降りれば呼吸が戻る。木尺を置く指は正確なのに、スネジャナが割付板の前で私の名を読む準備をすると、親指だけが木尺の端で止まった。
三十六束。
四十束。
四十七束。
最後の一束へ石が載った。
十を数える。
石を外す。
厚葉の筋が、ゆっくり元の高さへ戻った。
「四十八束、合格」
子爵様の声のあと、スネジャナが割付板を拳で叩いた。
「ブロンウェン。籠三杯、十二間、四十八束。四十八、全部だ。これを不吉と呼ぶなら、浜じゅう不吉になりな」
浜の干し手たちが動いた。
最初の一人は束を抱え、旧家族の列へ向かいかけた。割付板を見て止まり、私の木杭の後ろへ置く。次の二人も続いた。四十八束が、ヴェセラの添え札ではなく、ブロンウェンと刻んだ一本の杭の後ろへ積み上がる。
誰も私を不吉と呼ばなかった。
呼ぶ暇があるなら運べ、とスネジャナが背中を叩いて回っていた。
私は塩の固まった指を握った。
よし。
二度の不漁は戻らない。消された採取量も、食べられなかった冬の夕飯も戻らない。だが今日の四十八束だけは、一枚も、一筋も、一滴の働きも、他人の名へ渡らなかった。
これは私の分だ。全部。
* * *
「共同名義にしなさい」
ヴェセラは四十八束の前へ立ち、添え札を割付板へ掛け直そうとした。
「この子はうちの家族よ。採取も干し方も、家で教えたものだわ。取り分だけ別にするなんて——」
「採取簿を」
子爵様が手を出した。
スネジャナが去年と一昨年の板を運んできた。籠数を刻んだ横線の隣に、家名の札と私の不合格札が並ぶ。
「三杯採った日は?」
「家の採取よ」
「不良が出た日は?」
「この子の不注意でしょう」
「同じ籠だ」
ヴェセラは私を見る時だけ口を大きく開いた。
「家族の間のことです! ブロンウェンだって承知して——」
「承知していたのは、お前だ」
子爵様は添え札の紐を外した。
割付板から、ヴェセラの名が離れる。
「本日以降、ブロンウェンの採取量、干場、取り分へ旧家族の添え札は付けない。過去二年分は記録どおり再計算する。異議は管理所で聞く」
「そんな、家族を盗人みたいに」
スネジャナが鼻を鳴らした。
「みたい、で済むうちに札を持って帰んな」
ヴェセラの手へ添え札が返された。
浜の者が見ている前で、彼女はそれを受け取るしかなかった。含み笑いを交わしていた旧家族の二人も、積まれた四十八束へ手を伸ばさない。伸ばせば今度は、誰の欄へ記載されるか分かったのだろう。
子爵様は、自家の最良列に立っていた木杭を一本抜いた。
それを私の杭の隣へ打ち込む。
「あなたを私の干場には置かない」
最初と同じ言葉だった。
けれど二本の杭は、どちらも名を失わず並んでいた。
「自家名義へ吸収しない。あなたの列は、あなたのものだ」
「検査は終わりましたね」
「終わった」
「では、私は行きます」
四十八束は合格した。添え札も外れた。働く場所は自由だと聞いた。ここから先は、追放ではなく出発になる。
着替えを先に詰めてもいい出発だ。
「どこへ」
「まだ決めていません。別の浜か、干し手を探している家か。今なら不吉な海女ではなく、四十八束ぶんの腕を売れます」
「働く場所はあなたの自由だ」
子爵様は言った。
正しい。正しすぎる。腹が立つほど正しい。
私は一礼し、三歩進んだ。
背後で、木が軋んだ。
振り返ると、子爵様が私の木杭を掌へ握り込んでいた。抜いてはいない。ただ、開けない手で押さえている。
親指だけが、深く名の刻みへ沈んでいた。
合格は四十八束。返却する木杭は一本。なのに、子爵様の親指だけが数に合わない。
私は戻った。
一歩ごとに、彼の呼吸が浅くなる。
「検査は終わったのですよね」
「ああ」
「働く場所は自由」
「ああ」
「では、なぜ返さないのです」
返事がない。
私は木杭を握った彼の手へ触れた。海風に晒された甲は冷たいのに、閉じた指の内側だけが熱い。
「一、業務上の必要。二、紛失防止。三、追加検査。四、嫌がらせ。五——」
「違う」
「まだ一しか言っていません」
「全部違う」
ならば、指に聞くしかない。
小指を開く。抵抗したあと、開いた。
薬指。節が震えた。
中指を木杭から離すと、子爵様の耳から首筋まで色が上がった。
人差し指は、最初の不合格で私の杭を籠へ落とさなかった指だ。爪の脇に、割付板のささくれでついた古い傷がある。
最後の親指は動かなかった。
「これは?」
「返したくない」
声が掠れた。
「木杭を?」
「あなたを」
子爵様は顔を背けなかった。睫毛の際に溜まったものが頬を伝い、私の手首へ落ちた。
「六束を不合格にしても、あなたは腐った分を誰かへ押しつけなかった。十八束のうち二束を、自分で外した。台が沈んだ時は、助けを待たずに横木を入れた。四十八束を乾かした。誰より働ける」
閉じた親指が震えている。
「だが、それだけではない」
息を吸う音が崩れた。
「失敗するたび、追放後の荷造りまで数える。事故も、損耗も、弁償も、他人が困る分まで先に背負う。笑っている時ほど逃げ道を測る。別の浜と言われるたび、私は——」
そこで一度、声が途切れた。
私は急かさなかった。
親指の力が抜ける。木杭に刻まれた私の名が、ようやく全部見えた。
「不漁を呼ぶ海女ではない。潮の戻りを読み、風道を作り、四十八束を守った干し手だ。誰かの家へ入れて名を消したくない。欠けたところを直してから欲しいのでもない。そのままのあなたを、ただ一人、愛している」
頬から落ちた雫が、もう一つ、開いた掌へ溜まった。
「妻になってほしい。私の家の名に隠すためではない。あなたの名の隣に、私の名を置かせてほしい」
仕事の出来を数える人はいた。
失敗を数える人も、籠を数える人も、私の分を家の分へ足す人もいた。
追放後の荷造りまで数える癖を、捨てずに選ぶ人はいなかった。
まったく、困る。
五項目では足りない。胸の内側で暴れているものを数えるには、指が十本あっても足りそうにない。
私は開いた掌へ、自分の手を置いた。
今度は木杭ではなく、指と指を合わせる。
「一つ、訂正します」
「何を」
「行き先です」
子爵様の指が、恐る恐る私の手を包んだ。
「ここに残ります、ガレス」
初めて呼んだ名に、彼の肩が大きく揺れた。
次に落ちた雫は、重なった手の中へ隠れた。
* * *
婚約の登録には、証人二名、独立干場の名義確認、取り分口座の分離証明が要った。
ガレスは三日で揃えようとしたが、スネジャナに「干し台と役所は叩けば早くなると思うな」と追い返され、七日かかった。私の木杭は消されず、隣へガレスの杭が登録された。
噂だけを信じて距離を置いた干し手には、薄葉、中葉、厚葉の見分け方を教えた。目の前の葉を自分で分け、同じ基準で束を作るなら、働く場所は残した。
ヴェセラの添え札は戻さなかった。
採取量も取り分も別。婚姻後の生活へ口を挟む欄もない。家族の共有という便利な穴には、きちんと板を打った。
そして後日。
「四十九回目です」
私は干し台の前で言った。
ガレスは私の木杭を木尺で測り、刻みを確かめ、地面への刺さり具合まで調べている。杭は乾物ではない。四十八束の検査を終えた翌日から、毎朝これだ。
「一、木杭は昨日から伸びていません。二、名も変わっていません。三、区画も逃げません。四、検査札はもう要りません。五、検査役が仕事をさぼっています」
「五は違う」
「では木杭を放してください」
ガレスは素直に杭を放した。
代わりに私の手首を掴んだ。
「検査基準が急に大雑把です、ガレス」
「必要な確認だ」
「何の水分を測るつもりですか」
「逃げないか見ている」
「働く場所は私の自由では?」
「自由だ」
「手を放す気は?」
「ない」
スネジャナが干し台の向こうから木尺を投げつけた。
「検査対象を間違えている!」
ガレスは私の手を離さないまま答えた。
「承知している」




