わたしは所謂「正ヒロイン」である。
転生ヒドインに転生した人の話
わたしは、悪役令嬢ものの、所謂ざまぁ展開が好きだ。
そして、読みながらふと考える事がある。
「正ヒロインの存在意義とは何か?」
悪役令嬢もののテンプレとして破滅フラグを回避する為に行動を起こし、本来不仲である攻略対象と良好な関係を築きその結果として幸せになる事もあれば、悪役令嬢の影の努力を見ていた本来の婚約者よりも地位の高い殿方に見初められる場合もある。
稀に、自分ひとりで解決する場合もある。
それでは、「正ヒロイン」はどうか。
例えば、わたしが転生した「正ヒロイン」は所謂ざまぁ系悪役令嬢ものに出て来る存在である。
乙女ゲームのヒロインと言えば、超が付く程のお人好しで健気、努力家、と言った人物像だ。
転生ヒドインの場合、乙女ゲームが好きだと言う割には本来のヒロインの性格をド忘れしたのかかなり性格がひん曲がっていたり、承認欲求を満たす為に攻略対象を非合法手段も問わずに侍らせようとする。
読んでいた時は、「まあ、こいつ後でざまぁされるし...」と考えていたのだが、悪役令嬢ものの転生ヒドインに転生したわたしにとって、彼女がそういう行動を取らざるを得ない状況だったら?と考える様になった。
わたしが転生した世界には、魔王がいる。
悪役令嬢は裏ボスになる可能性を秘めていていたのだが、前世の記憶を取り戻した事で色々と奔走する事になるのだ。
例えば攻略対象のメンタルケアであったり、貴族社会の腐敗、教会の闇、インフラや領内で発生する様々な問題を解決する為に動いていくのだ。
悪役令嬢―――シェリー・マルグリット・ドートリッシュ公爵令嬢は貴族社会の繋がりと絆を結んだ個性豊かなキャラクター達と痛快に問題を解決していく。
正ヒロインクレア・トゥール子爵令嬢に転生したヒドイン―――リエルはことある事にシェリーの邪魔をし、最後には聖女としての身分を剥奪された上で追放される訳だが、魔王を討伐する為には聖女が持つ光の魔法が必要不可欠である。
魔王討伐エピソードの前に断罪劇でクレアは遠い異国の土地で魔力封じの呪いを掛けられた上で犯罪労働者として労働に従事している。
その為魔王は「討伐」ではなく「封印」をする事となった。
呼び戻せば良いのでは?と思ったが、そうもいかないのが貴族社会であり、シェリーが底抜けにお人好しである事で討伐には何処か後ろ向きで魔王にトドメをさす事は出来なかったので封印、と言うかたちになった。
今のわたしは、クレアが攻略対象の男性陣にコナ撒いてる時に転生してきた訳なのだが、リエルは何も前世での欲求を満たす為だけに行動していた訳ではない事が分かった。
憧れの攻略対象が目の前にいるのは嬉しい事だが、聖女であるが為に国全体の問題がひっきりなしに国や教会を通して手元にやってくる。
ゲームの知識でどの様に解決出来るかを知っているから、この問題を解決するには特定キャラクターと懇意にならなければならない。
しかし、その取っ掛りとも呼べるキャラクターの抱える悩みは既に幼少時にシェリーが解決済みであり、そうとは知らずに話しかけた結果
「婚約者のいる殿方に躊躇いなく近付くなんて...」
と後ろ指を指される。
「問題解決の為に貴方の力(主に人脈)が必要なんです」と訴えても聞く耳を持って貰えない。
「聖女なのだから、1人で解決すべきでは?」
―――攻略対象の誰かにそう言われた時、リエルの心はポキ、っと折れた。
聖女として頑張るのって馬鹿らしい、乙女ゲームのヒロインとして楽しもう、と言う風に考える様になってしまった。
国も教会も攻略対象も、聖女を社畜か何かだと思っているのだろうか。
そこに転生してきたわたしは「攻略対象にメンタルケアはあっても、聖女にはないのか...」と思った。
今のわたしの中にはわたし個人の記憶と、「正ヒロインクレア・トゥール子爵令嬢」と「転生ヒドイン、リエル」の記憶がある。
この3つの記憶を統合して、わたしはどう行動すべきか考えた結果、
「何もしない」
事にした。
依頼には目を通すが、手を付けない。
学校では勉学に励み、それ以上はしない。
悪役令嬢の為に整えられた世界で正ヒロインが出来る事は何もしない事だろう。
だって、問題解決に必要な高位貴族や王族とのコネ等聖女としての能力を買われて子爵の後ろ盾を得た平民である正ヒロインにいったい何が出来ると言うのだろいか。
シェリーと仲良くなればいいんじゃないか、と考えた事もあるけれど、シェリーはこちらの一挙手一投足を破滅フラグと捉えてしまうのだから下手に動かないのが最善だ。
皆に好かれる公爵令嬢が怯える様子を見れば攻略対象達はそちらのフォローにまわり、こちらの言い分を全くと言っていい程聞いてくれないのだから。
だからわたしは
「精々魔王討伐だけはしておくか」
と魔法の鍛錬だけはしておくのだった。
まだ巻き返せるタイミングでの転生で良かったと、主人公は考えています。




