9.味方の選定(ジェラルド)
「北部は厄介だな」
伯父のオランド公爵が忌々しそうにつぶやいた。
「軍事力だけでなく、ケルテス辺境伯家は『召喚』のスキルまで持っている。敵に回すわけにはいかんが、下手に懐に入れれば国を乗っ取られかねん」
しかしケルテス辺境伯家とつかず離れずの距離を保った結果、伯父上は政敵に足元をすくわれて失脚する憂き目を見た。
もし北部の後ろ盾を得ていたならば、そうはならなかっただろう。……母上の死も防げたかもしれない。今更だが。
私は、伯父上のようにはならない。
味方を増やし、必ずソラン王国の王位に就いてみせる。そして、優しいばかりで何の力も持たぬ父上に代わり、母上を殺した第二王子側の奴らを皆殺しにしてやる。
そう決意してから五年が経った。
とにもかくにも力が必要だと思った私は、まず手あたり次第に情報を集めた。味方に引き入れる相手の見極めに失敗すれば、それはそのまま断頭台への道行きになる。慎重にならねばならないが、時間を無駄にはできない。
事を起こすのは学院卒業後だが、それまでに第二王子側の勢力に匹敵する力を手に入れなければならないのだ。
伯父上が危惧していたとおり、北部は厄介だ。ケルテス辺境伯家もだが、北部は全体的に結束が固く、下手に切り崩そうとすれば反撃を受ける恐れがある。
だが、面白い情報を手に入れた。
ケルテス家の後妻の連れ子。ランドールという名の少年は、どうやらケルテス家で冷遇されているらしい。父親は平民の商人だが、剣術に優れているとか。剣術系のスキルも持っていないのに珍しい。私の二つ下ということは、来年は学院に入学する。その時に人となりを見極めることにしよう。
そう考えたのだが、ランドールは私の予想をはるかに上回る人材だった。
無口で愛想はよくないが、誠実な人柄で信用できる。それに、彼の剣術には目を見張るものがあった。あれでスキルが『商売』だと? 何かの間違いではないのか?
それに彼の異母兄、シモン。あれは何だ? あれが武の名門ケルテス家の嫡男だと?
たしかに見目はいいが、剣術は私にも劣るだろう。体もまともに鍛えていないようだ。入学してすぐ、女学生と浮名を流すなど、人柄にも問題がある。こちらは駄目だ、とても戦力にならない。
ランドールを側近候補として学生会に入れ、その他にも魔術師の塔、騎士団などに使える手駒を増やしてゆく。慎重に立ち回らなければならないが、のんびり構えている時間などない。
ただ私には、貴族令嬢に繋がる人脈が圧倒的に不足していた。
通常は婚約者を通じて貴族令嬢たち、引いてはその家門を味方に引き入れるべく動いていくのだが、いまだに私には婚約者がいない。ラクロワ公爵家から打診があったが、第二王子側が妨害してのらりくらりと返事を先送りさせている。まったく腹立たしい話だ。
ただ、婚約者がいないのは悪いことばかりではない。そもそもラクロワ公爵家は元々国王派だ。その娘と婚約しても、私の利益は少ない。
婚約は私の持つ数少ないカードだ。もっと私の力となるような、そんな相手と婚約を結ばなければ。
どうしたものか、と考えていると、ランドールの幼なじみだという少女が王立学院に入学した。
マティルド・ルブラン。……ケルテス家の寄り子か。ふむ、この少女は政治的駆け引きとは無縁のようだ。思ったことがすべて顔に出る。
しかしランドールが珍しく褒めていた。王宮騎士団に入団できるだろう、と断言したのだ。彼がそこまで言うとは、よほどの腕前なのだろう。
マティルド・ルブランは学友であるリヴィエール侯爵令嬢とは違い、平民の血を引くランドールに嫌悪感を抱いていないようだ。ランドールを通じてこちら側に引き込めれば……、だが謀略には向いていないな。王宮で腹の探り合いをさせるのは無理だろう。
だがこうした人物は、ランドールもそうだが、決して人を裏切らぬ。北部の勇と名高いルブラン家の人間を、こちらの味方につけられれば成果は大きい。何より、こうした裏表のない人間と付き合うのは気を張らずに済む。
ルブラン家は中道派だが、なんとかして手に入れたい。
リヴィエール侯爵令嬢は……、これも驚くほど正直な少女だが、使い道は限られるだろう。
あの美貌は人目を引くが、その他に目立った才はなさそうだ。人柄にも問題がある。
「北部か」
ソラン王国の北端、魔獣の跋扈する大森林地帯。
一年の半分を雪で閉ざされる苛烈な気候。北部は同じ国とは思えぬほど、文化も風習も王都とは違う。
そして何より、伯父上が――いや、王家すら恐れるあの特殊なスキル。主にのみ絶対服従する聖獣を召喚できるという――。
シモン、あのろくでもない男が『召喚』という強大な力を有するのかと思うと、ぞっとしない。
たしかに力のみを考えれば、ランドールよりシモンを仲間にすべきだろう。しかし、信用できない味方は敵より厄介だ。仲間は、何よりも信を第一に選びたい。
決して失敗はできないのだ。
母上の仇を討ち、私の地位を虎視眈々と狙う奴らを一網打尽にする。
もし私に王としての力がないのなら、第二王子の擁立も甘んじて受け入れたかもしれない。
だが、奴らの狙いはただ利権を貪り甘い汁を吸うことだけ。ソラン王国の行く末など、気にかけてもいないのだ。
そんな奴らの思うがまま、この国を荒廃させてなるものか。




