59.気前のいい学院
「お二方は何の薬草を採集してるんですか?」
「まあ、色々だな。風邪薬用と傷薬用と……、ここで採集した薬草は学院で買い取ってもらえるから、いい小遣い稼ぎになるんだよ」
なに!?
「えっ、買い取っ……、え、本当ですか!? じゃ、じゃあわたしも薬草を採ります!」
「薬草だけじゃなく、魔獣の毛皮も買い取ってくれますよ」
エミール様の言葉に、わたしは血抜きのため水辺の木に逆さ吊りした一角ウサギを見た。
お肉は明日、皆さんのお昼ご飯用に提供する予定だけど、毛皮はいらないよね。
「え、じゃあこの毛皮も……?」
「はい、傷がないので高く買い取ってもらえると思います。一角ウサギは角も買い取り対象ですよ」
そういえば一角ウサギの角は滋養強壮の薬になるんだっけ。
やったー! ストレス解消の魔獣狩りでお小遣いも稼げるなんて! 一石二鳥!
この森で一番高い値がつくのは、一角ウサギの毛皮らしい。それを聞いたわたしは、血眼になって一角ウサギを探し、狩りまくった。
「あのさ、そのくらいで止めとかねえと乱獲だっつって怒られるぞ」
「でもまだ五羽しか……」
「マティルド様、それだけあれば三日分のお肉になります」
五羽しかないのに!? と思ったけど、そういえばあのスープにはあまりお肉が入ってなかったっけ。
まあ、たしかに獲りすぎはよくないよね。
エミール様もジャン様もたくさん薬草を採集できたので、本日のハイキングはここで終了。
ログハウスに戻って、わたしは一角ウサギの解体、二人は薬草の選別に取りかかった。
「……あんた、手馴れてるな……」
「魔獣を捌くのはお任せください! 鳥型から熊型まで、ありとあらゆる種類の魔獣を解体できます!」
そうは言っても、今回は毛皮を売る予定だから慎重に! 短剣よりもっと小さなナイフがログハウスにあったのでそれを借りて、穴をあけないよう丁寧に一角ウサギの皮を剥ぐ。
「王都は冬になっても雪が降らないんでしょうか」
「一番寒い時期に二、三日降るくれーかな」
「それも、ほとんど積もらずに消えてしまいますね」
そっかあ。ある程度積もれば、川に移動しなくても雪の上で血抜きできるんだけどな。残念。
一角ウサギの解体をすべて終えても、まだ迎えの馬車が来るまで時間があった。
今日は授業で知り合った生徒と一緒に学院の森で狩りをしてから帰る、とグレース伯母様に伝えてある。
グレース伯母様には「あなたはルブラン家の娘なのですから、狩りに慣れていない王都の民を守らねばなりません。わかっていますね?」と念を押された。わかっていますとも。
まあ今回は、別に何の危険もなかったけど。
「おやつに一角ウサギを一羽、調理しますから一緒に食べませんか?」
わたしはエミール様とジャン様を、夕食前の軽いおやつに誘った。
今回は仕留めてすぐ血抜きしたから、臭みもないだろう。
「一角ウサギをおやつにするって発想がすげえよな……」
「あの、よければこの香草を使いますか?」
エミール様にいただいた香草を肉に挟み、簡単に塩を振って焼く。骨は出汁がとれるから、適当に切った野菜と一緒に鍋で煮込むことにした。
「どうぞ! お召し上がりください!」
ほどなくして一角ウサギステーキと一角ウサギ汁が出来上がった。いい匂い!
「……じゃあ食うか」
「い、いただきます……」
エミール様とジャン様は、遠慮がちに一角ウサギ汁をスプーンですくい、飲むというより舐めた。
「お?」
「……美味しい」
わたしも一角ウサギ汁に口をつけた。
うん、いつもよりちょっと手の込んだ味がする。野外だと、香草とかなくって塩だけで調理するしかない時もあるからね。まあそれでも骨からいい出汁が出るから、美味しいんだけどさ。
「おまえ、ちゃんと食えるもん作れるんだな」
「ジャン! ……すみません、マティルド様」
申し訳なさそうに謝るエミール様。いいんですよ、なぜかそのセリフ、故郷でもよく言われましたからね。魔獣退治についてきてくれる騎士は、そう言って毎回、驚いていましたよ。
「この後、俺らは薬草を学院の受付に持ってって買い取ってもらうが、あんたはどうする?」
「毛皮はなめさなくても、そのまま買い取ってもらえるんですか?」
「手間賃を引かれますが、買い取ってもらえますよ」
そうなのか。じゃ今回はこのまま査定して買い取ってもらおう。
食事の後、ジャン様とエミール様が食器や鍋を洗って片付けてくれた。
「一角ウサギを狩ったのも調理したのもマティルド様ですから、後片付けくらいは……」
「おう、一角ウサギ汁なんて食ったのは初めてだが、うまかったぜ」
えへへ。わたしでも出来る、簡単得意メニューを褒められて嬉しい。
一年生の学舎に併設されている建屋に入り、そこの受付に行くと、
「ああ、薬草の買取だね。今回は角と毛皮もか。一角ウサギかい? ……え、けっこう多いね?」
受付に座っていた中年男性が、一角ウサギの角と毛皮の量を見て驚いていた。五羽分だけだけど、それでも多いんだ。あれ以上狩らなくてよかった。
「毛皮は何の処理もしていないので、なめしてもらう必要があるんですが……」
「ああ、それは大丈夫。……ふうん、穴も開いてないし焦げ跡もないね。どうやって仕留めたの?」
「地面にたたきつけました」
正直に答えると、
「えっ?」
中年男性にまじまじと見られた。
「たたき……? え?」
「まあ、いいだろ。早く査定してくれよ」
ジャン様の言葉に、「あ、はい……」と中年男性は毛皮と角、薬草を持って奥に引っ込んだ。
「なんかマズかったですか?」
「マズいっつーか……」
「珍しい仕留め方ですから……」
二人とも口ごもってしまった。えー、そんなに珍しい仕留め方かなあ。毛皮を売るなら、傷をつけずに仕留めたほうがいいんじゃないの?
査定金額は、薬草分が大銅貨八枚と銅貨、小銅貨がそれぞれ二枚。前世の金額に換算すると八千二百二十円か。おお、エミール様とジャン様、二人で分けても一人四千百十円。森には一刻もいなかったから、だいぶ割のいいお小遣い稼ぎだ。
わたしの分はどうだろう。
「一角ウサギの毛皮は銀貨二枚、角は大銅貨三枚になります」
キラキラ輝く銀貨と大銅貨を手渡され、わたしは硬直した。
えっ……、えっ……!? 銀貨が二枚、大銅貨三枚……、前世換算で二万三千円!?
すすすごい……! 学院ってすごい……‼
白目を剥くわたしに、
「いや、あんたのほうがすげーから……」
ジャン様のつぶやきが聞こえた。
そんなことはありません! 学院がすごいんですよ!
ちょっと一角ウサギを狩っただけで、銀貨二枚に大銅貨三枚ももらえるなんて! ありがとう学院、ほんとにありがとう! 入学して良かった!




