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「わたしのために死んでちょうだい」と言われて殺されるモブ令嬢に転生しましたが、生き延びるため魔法騎士を目指します  作者: 倉本縞


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55.理解できない恋心


 何か言わねばと焦るのに、恐怖のあまり言葉が出ない。

「だっ……、いや、ちがっ……」

「マティルド?」


 言わなければ。シモン様の婚約者にはならない、と。

 そもそもわたしは王太子殿下に求婚されている。ケルテス辺境伯家だって今の段階でわたしに婚約を申し込むことはできない。

 しかし、王太子殿下の正式な婚約者にはなれない……、ええと、だから、ルーディガー様が。


「わっ……、わたしは、ルーディガー様と結婚します!」

 パニックになったわたしは、とにかく何か言わなくちゃと焦って叫んだ。

 あああ、何を言ってるんだわたしは!


「……え?」

 コレット様がいぶかしげに目を細めた。

「ルーディガー? ……ソレル魔法伯のこと? どうしてここにソレル魔法伯が出てくるのよ」

「それは、ええと、それはですね!」

 わたしは必死になって言った。


 考えろ、考えるんだ!

 ここで打つ手を間違ったら、卒業を待たずしてわたしの人生が終了してしまう!


「わたしとルーディガー様は、相思相愛の仲なんです!」

「はあ?」

「ウソじゃありません!」

 ウソだけど。


「あれです、その……、ユニーク魔術です! わたしがユニーク魔術の使い手だと知ったルーディガー様が、わたしを魔術師の塔に招いてくださって、魔術談義で盛り上がって……。そ、それでルーディガー様ってすっごく素敵なんですよ! スラっと背が高くて、足が長くて、顔も魔王みたいで!」

「魔王?」

「真っ赤な瞳がめちゃくちゃ綺麗だなって!」

 これは本当。


「そ、それにそれに、黒髪っていいなーって……。北部は黒髪とかあまり見ないので、新鮮というか何というか」

「黒髪……?」

「何より、ルーディガー様の魔術愛に心を打たれました!」

「………………」

「ルーディガー様もわたしを気に入ってくださって! あの、その、今は王太子殿下から求婚されているから公にはできないけれど、時がきたら婚約を発表しようって……、そっ、そうだ! 来週、ルーディガー様が正式に求婚してくださる予定なんです! 建国記念祭のための軍事訓練で! す、すすごく楽しみ!」


 あわあわしながら必死に言いつのるわたしを、コレット様は黙って見つめた。

 え……、何、どうして黙っていらっしゃるんですか?

 だ、ダメですか? こんな言い訳じゃ納得できないですか?


「……そう」

 コレット様は小さくつぶやいた。

「ソレル魔法伯とマティルドが……」

「ええ、そうそうそう! そうなんですよ!」

「でも……」

 コレット様は消えそうに小さな声で言った。


「たしかにソレル魔法伯との縁談なら、ルブラン伯爵も了承するでしょうけど。……でも、あなたはどうなの、マティルド?」

「え? は? どう、とは……」

「シモン様と結婚できなくてもいいって言うの? いくらソレル魔法伯っていったって……、わたしは見たことがないからわからないけど、だいぶマティルドより年上なんじゃない?」

「えーっと……」


 そういえばルーディガー様っていくつだったっけ。史上最年少で魔術師の塔のトップに立った、っていうのは覚えているんだけど。

 あ、たしか甥っこのガブリエル様よりちょうど十歳年上だから……。

「二十二歳です。十歳くらいの年の差は、貴族ではよくあることですわ」

「でも……」

「ルーディガー様はとても素敵な方ですよ。魔術師団長でなくとも、すごくモテると思います」

「そうかしら? でもシモン様に比べたら見劣りするんじゃない?」

「そんなことはないです!」

 ここだけは自信をもって言える!


「逆にお伺いしたいのですが、コレット様はシモン様のどこがお好きなのですか?」

「まあ」

 コレット様は、ぱっと頬を赤らめた。

「そんなことを口にするのは、はしたないことよ」

「いいじゃないですか。ここにはわたしとコレット様しかいないし、それに……、わたしたちは学友なんですから」

 友情というよりは恐怖で結びついた縁だが、まあそれは一端、置いておこう。


「それじゃあ、言うけど……、でも、こんなこと誰にも言わないでね? 約束よ?」

「絶対に言いません。お約束します」

 大丈夫! コレット様とシモン様の恋物語を聞きたいなんて、そんなことを望む友人、知人は皆無だ!


「……最初にシモン様にお会いした時……、わたし、緊張していたしマナーを学び終えてなくて……。カップを置く時に音を立ててしまったし、それに、スプーンを落としてしまったの」

 恥ずかしそうに語るコレット様。

 うーん、まあでも、コレット様がシモン様と初めてお会いした時って、たしか侯爵家に引き取られてすぐくらいの頃だったはず。それなら、少々のマナー違反はしかたないのでは。


「そうしたら、ケルテス家のメイドに笑われたの。……いいえ、見間違いじゃないわ。ちゃんと見たもの。そのメイドの顔も覚えているわ」

 許さない、とつぶやくコレット様に、恐怖で心臓が縮みあがった。


 ヒィイイ、怖いよー。そのメイドさん、コレット様が嫁ぐ前に転職しなければ、ホラーなことになりそう。

 コレット様のちょっとした失敗を笑ったのはひどいと思うけど、それだけで人生終了してしまうのは、罪と罰のバランスが悪すぎるよ!


「でもその時、それまで黙っていたシモン様がおっしゃったの。……おまえは僕の婚約者になるんだから、もっと堂々としろ、って。僕に恥をかかせるな、って」

 うっとりと言うコレット様。


 ……えっ……、今の話にうっとりポイントってあった?

 シモン様は自分の立場しか気にしていないというか、コレット様のことをまったく気遣ってないよね?


「その言葉を聞いて、わたし……、たった二つしか違わないのに、こんなに自信に満ちた頼りがいのある方と結婚できるなんて、なんてわたしは幸せなのかしら、って思ったの。それに、シモン様ってとても美しいでしょう?」


 えええー……。まあ美形なのは同意するけど、でも、わたしだったらヤだなあ。

 あんな人と結婚なんてしたくない! って家に帰ってから暴れそう。


 わたしは先ほどまでとは打って変わり、頬を染め、瞳をきらめかせて恋心を語るコレット様をじっと見た。


 人の好みは千差万別というけれど、コレット様の好みはわたしには理解できそうにない。


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