53.エキシビション・マッチ
「ランドール君、そろそろ準備してくれ」
講師の一人がやって来て、ランドール様を連れていった。
全学年の最終勝者が決まったんだろうか。エキシビションだから全力は出さないだろうけど、ランドール様の試合を見逃すわけにはいかない。
わたしはランドール様と講師の後をついていった。
訓練場の中央で模範試合はおこなわれるようだった。
北部でもあまり見かけない、かなり大柄な男子がいた。あれが男子の優勝者か。
「マティルド様、こっち!」
ブリジット様が手招きしてくれたので見物人の前列に向かうと、王太子殿下と目があった。
「マティルド嬢」
にっこり微笑まれ、手を差し出される。これは無視するわけにはいかない……。
「優勝戦は気にならなくとも、ランドールの試合は観たいのだね」
くすくす笑うジェラルド様に、わたしは正直に答えた。
「ランドール様は昔からわたしの憧れというか、目標ですから」
あれくらい強ければ、女だろうが何だろうが文句を言う人はいないだろう。実際、魔法騎士になってもランドール様を越えることは不可能だと思うが、努力は怠らずにいかねば。
「……君とランドールは、かなり親しい間柄のようだ」
つぶやくような声でジェラルド様が言った。
「かつて婚約者であったケルテス辺境伯家の嫡男より、ランドールのほうがよほど君をよく知っているようだし、それは君も同じだ。ランドールは無口で誤解されることも多いが、君とは心が通じ合っているように見える」
「幼なじみですので」
たしかにランドール様は無口だけど、誤解されるような性格はしていないと思う。表情に出るというか、基本的にランドール様って素直だし。
だが、ジェラルド様はまた違う意見を持っているようだ。
「そもそもランドールは、あまり他人に関心を持たない。だが君のこととなると態度が変わる。……北部は結束が固いのだろうが、それにしても……」
「はい! 北部の民は、一致団結して難局に立ち向かいます!」
これは胸を張って言える! 気性が荒いとか野蛮だとか色々評判の悪い北部だけど、とにかく絆が強いのは間違いない。
ケルテス辺境伯家とルブラン伯爵家の妙な親しさも、建国以前からのことのようだし。
「ふうん……」
ジェラルド様は物言いたげな顔でわたしを見た。
何なんだ。北部について何か知りたいことでもあるんだろうか。
……まさかとは思うが、今の時点でランドール様の出自に疑いを抱いているとか?
そうだったらすごくありがたいんだけどなあ。ジェラルド様がケルテス辺境伯家を調べてくれれば、ランドール様のスキル覚醒もうまくいくかもしれないし。
「それではこれより、優勝者クレマンとランドールとの模範試合を始める!」
講師が宣言し、模範試合が始まった。
ランドール様は長剣を高く構えている。身長が高いから、この構えをとられると攻撃範囲が広くなって対戦相手は苦労するだろう。これは体格的にわたしには無理。
対する優勝者クレマン様も、ランドール様と同じ構えをとっている。こちらも体格がいいから、ランドール様と同じ戦法をとってくるかも。
しかしそうなると、もう結果は見えている。
「ハッ!」
クレマン様がランドール様に斬りかかったけど、やはり遅い。
わたしでもそう思うくらいだから、ランドール様はなおさらだろう。
ランドール様はクレマン様の剣をひらりと避けた。剣を打ち合わせることすらしない。
おおお……、カッコいい。ランドール様も王太子殿下という直属上司の前だから、実力をアピールしたいのかな。
そのまま数回、ランドール様はクレマン様の剣を避けた後、素早く距離をつめてクレマン様の剣を撥ね飛ばした。
「わあ!」
思わず興奮して叫んでしまった。すごい! 速い!
その時、ランドール様がわたしを見た……ような、気がした。
かすかに口角を上げ、微笑んだ直後。
「動くな」
ガッとクレマン様の首をつかんで後ろに回り込み、喉元に剣を突きつける。
おお、これって! わたしと同じ!
「勝者、ランドール!」
講師が宣言し、ワッと訓練場に歓声が上がった。
わたしももちろん、大はしゃぎだ。王太子殿下の前じゃなければ、指笛を吹いて足を踏み鳴らしたいくらい。
ランドール様、やるう! 未来の仲間であるわたしと同じ勝ち方をして、一体感を示してくれたんだね! その技術もさることながら、勝ち方が粋だよ! 最高!




