48.喜べない
明日、エミール様、ジャン様と一緒に、学院裏手の森で魔獣狩りをする約束をした。
「では明日の午後、薬草学の授業が終わりましたら、またここで」
「おう、得物は前もってこの建屋に置いとけばいい」
「それではまた明日、マティルド様」
今日はこれから剣術の授業がある。二人と分かれ、わたしは訓練場へ向かった。
馬術の授業がアレだったから、ちょっと心配だ。変な生徒がいないといいなあ。
中庭を突っ切って訓練場へ行こうとしたら、ランドール様がいた。
「マティルド」
ランドール様もわたしに気づき、片手を上げた。
「訓練場へ行くのか?」
「はい、ランドール様は?」
聞けば、ランドール様も剣術の授業だという。今日は一年生から六年生まで、合同練習があるそうだ。
「もうじき建国記念祭がある。その閲兵式には学院からも数人、生徒が参加するから、その選抜を兼ねて合同練習を行っている」
「そうなんですか。じゃあ、ランドール様は絶対選抜されますね」
まだランドール様は三年生だが、学院内でランドール様に敵う相手は誰もいない。
当然、選抜メンバーに選ばれるだろうと思ったら、ランドール様は苦笑して言った。
「いや、俺は毎年参加を辞退している」
「え、どうしてですか?」
建国記念祭の閲兵式に参加できれば、騎士団の入団試験にも有利に働くだろうに。
「ケルテス家から、学院外の活動に参加することは控えるようにと言われている」
「………………」
多分、シモン様じゃなくてランドール様が選ばれたことに腹を立てたマデリーン夫人が、陰湿な嫌がらせをしてるんだろうな。ひどすぎる。
「ランドール様! サヴィニー伯爵に申し出れば、閲兵式に出られると思いますよ!」
サヴィニー伯爵は、スキル覚醒する前のランドール様にも目をかけていた。優秀な騎士候補のランドール様がこんなケチ臭い嫌がらせをされているとわかれば、激怒してケルテス辺境伯家に抗議してくれるだろう。
しかしランドール様は、特に気にした風もなく言った。
「閲兵式に参加となれば、パレードにも出なければならんだろう。俺はあまりそういうのは得意ではないから、別にいい」
あああ……、ランドール様は謙虚というか目立つの嫌いだからなあ。
でも、もったいない! ランドール様は背が高いし、彫像のような美形だから、パレード用のちょっと古風な騎士服がさぞ映えるだろうに。
「俺よりもマティルドが閲兵式に出たほうがいいと思うが」
「なんでわたし!?」
驚きのあまり、ちょっと飛び上がってしまった。それを見たランドール様が、小さく笑う。
「マティルドは剣技に優れている。それに、炎の剣を創れるのだろう? 魔法騎士が増えるのは、ソラン王国としても周辺国へのいい宣伝になる」
「でも、わたしはまだ魔法騎士になれるかどうか、わかりません」
ランドール様はわたしをじっと見つめた。切れ長の灰色の瞳が午後の光を受けてキラキラ輝いている。
わたしはなんだか落ち着かない気持ちになった。
「……王太子殿下と結婚するからか?」
「え」
「王族となるから、魔法騎士にはならないのか?」
「まさか!」
思わず大声を上げてしまった。
「誰と結婚しようが、それで魔法騎士になるのをあきらめたりしません! ていうか、王太子殿下と結婚はしませんから」
ランドール様が驚いたように目を見開いた。
「結婚しない? ……しかし、殿下から求婚されたと」
「求婚はされましたけど、王家がルブラン家との婚姻を了承するとは思えません」
「何故」
何故と言われても。
「ルブラン家は、次期王妃を輩出できるような家柄ではありませんから。……というか、わたしが王妃なんて無理ですよ。ランドール様はそう思いませんか?」
「え」
ランドール様は、珍しくうろたえた様子を見せた。
「……そういうことは……、俺にはよくわからん。ルブラン家は、武勇に優れ忠義に厚い、素晴らしい家門だ。マティルドも……」
ふと微笑を浮かべ、ランドール様はつぶやくように言った。
「昔、マティルドが兄上の婚約者になった時……、不安だった。もし兄嫁になる方が、俺を嫌っていつも怒っているような女性だったらどうしようかと」
ああー、マデリーン様みたいだったらヤだなあ、って思っていたのか。
「だがマティルドは、俺の想像とはまったく違っていた。小さくて元気が良くて、礼儀正しい。それに、とても可愛かった」
「えっ!?」
今ランドール様、わたしのこと可愛いって言った!?
ウソ、男性に可愛いなんて褒めてもらったの、初めてじゃない!? 落ち着きがないとかガサツだとか叱られることはあっても、可愛いなんて父親からさえ言ってもらったことないのに! 社交辞令でも嬉しい!
「マティルドが兄嫁になれば、毎日会えるのかと思って嬉しかった」
「ありがとうございます!」
わたしはニコニコしてしまった。
昔からランドール様を大好きだったけど、今の話を聞いてさらに大大大好きになった。
本当にランドール様はいい人だよ! なんとしてもランドール様の本当のスキルを覚醒させなければ!
決意に燃えるわたしに、ランドール様は小さく言った。
「だが、王太子殿下がマティルドに求婚したと聞いた時は……、うまく言えないが、あまり喜べなかった」




