46.三人目の求婚者?
「えっ?」
「私と結婚すればいい。そうすれば嫌いな男と結婚せずに済むし、好きなだけ魔術の研究に打ち込めるぞ」
これで問題解決! と満足そうなルーディガー様を見て、わたしは頭痛を覚えた。隣でグレース伯母様も、お茶ではなくもらったばかりの薬を飲んでいる。
「魔術師団長様」
「ルーディガーでいい」
じっと見つめられ、思わずドキッとした。ルーディガー様って王太子殿下とはまた違うタイプの美形なんだよね。黒髪に赤い瞳という組み合わせが、ちょっと魔王っぽいんだけど。
「そうだ、婚約には指輪など宝飾品が必要だったな。後で贈るが、何か希望があれば言ってくれ」
「ちょっと待ってください!」
わたしは慌てて言った。
「まだ王家から婚約を断られてはいないので! 他の方と婚約はできかねます!」
「ああ、そうだったな」
ふむ、とルーディガー様が考え込んだ。何ですか。なんかイヤな予感がするんですけど。
「では婚約者候補、というのはどうだ?」
「……婚約者候補?」
「そうだ。王太子殿下はマティルドに婚約を申し込んでいるが、王家はまだ正式にそれを認めたわけではない。つまり王太子殿下とマティルドは、正式な婚約者同士ではないということになる」
そのとおり。しかも正式な婚約者になる前に白紙になる可能性が高い。だからケルテス辺境伯家がちょっかいをかけてくるんだよねえ。
「そこで、私がマティルドの婚約者候補に名乗りを上げるのだ。他の貴族なら王家に配慮してマティルドに縁談を申し込めんが、私は違う。相手が高位貴族だろうが王族だろうが、私は配慮などせん。それは皆が知っているからな」
納得していい話なんだろうか。
しかし、ルーディガー様は大陸戦争の功績で、ソレル魔法伯という一代限りの名誉爵位をいただいている。伝説の大魔術師ドミニク・ソレル様の名を冠した爵位を持ち、魔術師の塔というソラン王国の魔術の粋ともいうべき機関のトップに立つルーディガー様が相手では、王家といえど下手な手出しはできないだろう。
「なるべく人目のあるところでマティルドに婚約を申し込んだほうがいいな」
「いや、でもそれを受けるわけには」
「わかっている」
ルーディガー様が頷いた。
「王太子殿下から求婚されている身で、私からの求婚に応えるわけにはいかん。だから、私がこう言えばいい。『あなたに受け入れてもらえなくとも、あなたと結ばれる日を私はいつまでも待っている』と。そうすれば周囲の人間は、王太子殿下との話がまとまらなければ、私がマティルドの婚約者になると思うだろう」
「おお!」
わたしは思わず大声を上げた。
ルーディガー様の言うとおりだ。ケルテス辺境伯家はリヴィエール侯爵家との婚約を解消したりして裏から手を回しているが、王太子殿下がわたしに求婚した今となっては、正面切ってわたしに縁談を持ち掛けることはできない。
だからルーディガー様が王家に配慮せずわたしに求婚しても、それを指をくわえて見ているしかないのだ。
「ルーディガー様、すごいです!」
「おまえは私の弟子だからな。師匠が弟子の面倒を見るのは当然だ」
ルーディガー様が魔術愛あふれる方でよかった!
「そういう事情なら、求婚を急いだほうがいいな」
ルーディガー様は少し考えてから言った。
「来週、王都の演習場で建国記念祭のための軍事訓練がおこなわれる。王宮騎士団と魔術師の塔の合同訓練だから、陛下も観覧される予定だ。王都の主要貴族も参加するだろうし、そこでおまえに求婚することにしよう」
そ、それは確かに人目は多いだろうけど、そんな国家行事にからむ大事な訓練で、求婚とか私的な行動をしても怒られないの?
「ああ、建国祭の訓練なら……」
それまで青い顔で黙っていたグレース伯母様が、急に生き生きしだした。
「訓練に参加する騎士様や魔術師の方が、意中の姫君に活躍を誓い、愛を捧げるのは有名な慣習ですからね。……ああ、なんてロマンチックなんでしょう……」
伯母様が両手を組んでうっとりしている。
夢を壊して悪いけど、ルーディガー様が愛しているのはあくまで魔術であってわたしではない。
考えてみれば、ジェラルド様の求婚も単に王太子陣営へ引き抜くためだったし、この先わたしが本当に恋愛する機会なんてあるんだろうか……。うん、悲しくなるから考えるのはやめとこう……。




