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「わたしのために死んでちょうだい」と言われて殺されるモブ令嬢に転生しましたが、生き延びるため魔法騎士を目指します  作者: 倉本縞


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45.ルーディガー様の魔術愛


「ですが、あなたは王太子殿下から求婚されましたからね。いかにケルテス辺境伯家といえど、王太子殿下が相手では引くしかないでしょう」

 助かった! よかった、王太子殿下ありがとう! 殿下のために頑張って働きます!


「ただ、王家はルブラン家と姻戚になりたいとは思わないでしょうから、問題はあなたと王太子殿下の婚約が、正式に白紙となった後でしょうね」

「えっ、あの、まさかとは思うのですが、もしわたしが王太子殿下と婚約できないとなったら……、そうしたらまたケルテス辺境伯家から、婚約を持ちかけられるってことですか?」

「そうなると思います。あちらもリヴィエール侯爵家との婚約を解消しようとしていますから」

「今日、シモン様ご本人に婚約はできないと、はっきりとお断り申し上げたのですが」

 グレース伯母様がため息をつた。


「ごめんなさいね、マティルド。まさかケルテス辺境伯家が、ここまで強硬にあなたとの婚約を推し進めてこようとは思わなかったの。あなたのお父様も予想外だったようよ」

「えっ、あの、まさかお父様は、ケルテス辺境伯家からの要求を飲むおつもりなのですか!?」

 それだけは勘弁してください!

「あなたのお父様は、ケルテス辺境伯家のやりように不信感を抱いていらっしゃいます。まったく、長老たちも何を考えているのか……。とにかく今は、ルブラン家としても王家と話がつくまでは他家との縁談など進められない、と突っぱねることができるでしょう。しかしその後はどうなるか……」


 そんな……、それじゃ、聖女さまが現れるか、もしくは王家から婚約はできないって通達を受けたら、わたしの命の危機再びではないか。困るよ!


 でも、だからって王太子妃にはなれない……、どうしよう、どうすればいい?

 他に婚約者を探す? でも、いったい誰に頼めばいいんだ!


「グレース伯母様、王家とルブラン家の話し合いはどれくらいかかると思われますか?」

「そうねえ……、まず冬の間は無理でしょう。王都は雪が降らないけれど、この時期のルブラン領は外を歩くのもひと苦労ですからね。それに、今回は王太子殿下たっての望みということもあって、話し合いは長引くでしょう。……マティルド、ひょっとしたらあなたがユニーク魔術の使い手であるということを考慮され、王太子妃にしてもよいという決断を下されるかもしれません」

 それはそれで困る。まあ聖女さまが現れれば自動的に婚約解消されるだろうから、婚約が長引く分には問題ないけど。


 問題は、王家が速攻で「おまえなんかに王太子妃は無理!」という至極まっとうな結論を出してしまった場合だ。

 うーん……、どうしよう。いざとなったら学院を辞めて逃げちゃう?

 そういえばルーディガー様は「学院なんて辞めて弟子になれ」って言っていたっけ。あの時はなんて無茶を言う人だって思ったけど、今となってみればありがたい申し出だったかも。


 よし、どうにもならなくなったら、魔術師の塔に逃げ込もう!


 そんな事を考えていたせいだろうか。

 タウンハウスに着くと、ルーディガー様がいた。何故!?

「帰ってきたか」

 まるで屋敷の主のようなルーディガー様の出迎えに、グレース伯母様が卒倒しそうになっている。


「えっ、あの、魔術師団長様? こちらにいらっしゃると、ご連絡はいただきましたでしょうか?」

「連絡はしていない」

 胸を張って堂々と言うルーディガー様に、わたしは色々とあきらめることにした。


「そうなのですね。……伯母様、大丈夫ですか?」

「マティルド。……ええ、大丈夫……、大丈夫です……」

「顔色が悪いな。休んだほうがいい」

 誰のせいだよと思ったが、ルーディガー様は小さな革袋を取り出し、わたしに手渡した。


「昨日言っていた滋養強壮の薬だ」

「え」

 わざわざこれを届けに来てくれたの!?


「それと、気になる噂を耳にした。王太子殿下がマティルドと婚約すると」

 誰から聞いたんだ。わたしだって今朝、ジェラルド様から求婚されたばかりだっていうのに。


 わたしの表情を読んだのか、ルーディガー様が肩をすくめた。

「昨日、ジェラルド殿下は塔から帰ってすぐ、陛下にマティルドを婚約者にしたいと奏上したらしい。その場で婚約の打診のためにルブラン家へ早馬を出していたから、耳が早い貴族なら知っているだろう」

 グレース伯母様の顔色がいっそう悪くなる。わたしは伯母様に滋養強壮の薬を渡した。

「伯母様、こちらをどうぞ」

「ええ。……魔術師団長様、応接室へどうぞ」


 応接室に入ってソファに腰を下ろすなり、ルーディガー様がいきなり言った。

「マティルド、誰と結婚してもかまわんが、魔術の研究は続けてくれ」

「え」

「過去、王族と結婚しても魔術師の塔に所属していた令嬢もいる。話のわからぬアホが文句を言ってきても、私がそいつを黙らせると約束するから」


 わたしはルーディガー様を見た。

 そうか。貴族令嬢は家門の圧力のせいで、才能があっても魔術師への道をあきらめる方もいる。ルーディガー様はそれを心配して、わざわざわたしに会いに来てくれたんだ。


「ありがとうございます」

 わたしはルーディガー様に深々と頭を下げた。

 魔術愛のなせるわざだとは思うが、ここまでバックアップを約束してくれるのはありがたい。


 ただ問題はケルテス辺境伯家の出方なんだよなあ……。

 向こうも別にわたしが魔術師の塔に所属することを妨害しようとはしていない。ただシモン様との婚約を押し付けてくるだから困ってるんだよ。


「どうした?」

 ルーディガー様がわたしを見て首を傾げた。

「何か問題でもあるのか?」

「問題というか……」

「困っていることがあるなら言え。私にできることなら、何でもするぞ」

 すごい魔術愛だ。でもこればっかりはルーディガー様にもどうにもできないだろう。


「……わたしは恐らく、王太子殿下の正式な婚約者にはなれません。それはかまわないのですが、王家から正式に婚約をお断りされた後、ケルテス辺境伯家から婚約を申し込まれるのではないかと危惧しております」

「ふうん? ケルテス辺境伯家というと……あれか、銀髪の無口な男がいたな。あれと婚約したくないのか?」

「いえ、違います!」

 わたしは慌てて言った。

 銀髪の無口な男ってランドール様のことだよね。


「ランドール様ではなく、ご嫡男のシモン様のことです」

「ん? ケルテス辺境伯家の嫡男は、銀髪の男だろう? ……よくわからんが、つまりマティルドはそのシモンとかいう男と結婚したくないんだな」

「そのとおりです」

「なら話は簡単だ」

 ルーディガー様はニコニコして言った。


「私と結婚しよう、マティルド」



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