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4.生存ルートを探せ

 コレット様の学友となる筋書きは変えられない。

 ていうか、もう来週から王立学院が始まる。


 夕食後、わたしは部屋で日記帳を開いた。


 今のところ『ソランの薔薇』の筋書きどおりに現実も進んでしまっているが、コレット様の侍女としてケルテス辺境伯領にお供するという未来を変えなければならない。

 タイムリミットまであと六年ある。それまでに、なんとしても生存ルートを探しださねば。

 わたしは具体的な目標を定め、それを日記帳に書き込んだ。


 まず、学院卒業後にルブラン伯爵家とリヴィエール侯爵家、どちらからも文句の出ない、かつ安定した就職先を見つけること。

 そうすれば、わたしはコレット様の侍女ではなくなり、ケルテス辺境伯領へも行かずに済む。

 コレット様の侍女でなくなれば安全か? といわれると自信はないが、マンガの筋書きとは違う流れを作れるし、より安全度が上がるのは間違いないだろう。


 しかし、リヴィエール侯爵令嬢の侍女よりも、貴族子女として望ましい就職先というのは、それほど多くない。そもそもわたしがリヴィエール侯爵令嬢の学友という立場を手に入れたことにより、ルブラン家はケルテス家への出禁を解かれているのだ。生半可な就職先では、またケルテス家からの出禁が復活してしまう可能性もある。


 他家との婚姻という手もあるが、今のところルブラン家にきている縁談で、お父様が承諾するような話はない。それに、前世を思い出した今となっては、自分がどこぞの貴族の嫁としてうまくやっていけるのか? と考えると不安しかない。無理だ。


 ならば、貴族からも王家からも、独立した機関への就職を狙えばいいのでは?


 そう考えたわたしは、日記帳に二つの名を記した。

 神殿と魔術師の塔。

 この二つの機関は比較的独立性が高く、高位貴族や王族であっても干渉しづらい。

 ただ、神殿は貴族にとってはソフト流刑地的立ち位置にある。やらかした貴族の子弟が放り込まれる刑務所的な感じだ。

 最終的に、どうにもならなくなったら神殿に逃げ込めば命だけは助かるだろうが、できればそれは本当に最後の手段にとっておきたい。


 貴族としての面目を保ちつつ、神殿ほど窮屈な生活を強いられない就職先。

 とすれば、そこはやはり魔術師の塔しかないだろう。王立学院である程度、魔術の腕を磨けば豪商のお抱え魔術師としての道も開けるだろうが、貴族として聞こえがいいのは、やはり魔術師の塔に入ることだろう。ここなら少数ではあるが、貴族令嬢の先達もいらっしゃることだし。


 しかし魔術師の塔は、魔術師のエリートのみを集めたソラン王国最高峰の魔術機関だ。王立学院でよほど優秀な成績を修めなければ、入塔試験を受けることすらかなわない。

 わたしの魔力量は、可もなく不可もなくといった程度だ。魔術師の塔に入る方々に比べれば見劣りする。


「困った……」

 考えすぎて頭痛がしてきた。

 死にたくないが、あまりに高い目標を掲げてもしかたないしなあ。


 とりあえずあらゆる可能性を探るため、学院では様々な分野に挑戦し、自分に向いた就職先を見つけるために全力で努力する。それしかない。


 後は、人脈づくりか。

 なるべくリヴィエール侯爵家の影響下にない家門と親しくなるべく、地道に頑張ってみよう。

 リヴィエール侯爵家は中道派だ。とすると国王派か貴族派か、選択肢は二つに一つだが、『ソランの薔薇』の展開を考えれば国王派に接近をはかったほうがいいだろう。

 国王派、つまりは王太子の味方になる家門は……、ラクロワ公爵家、ミレー伯爵家あたりが中心勢力だっただろうか。その寄り子も含めると、ざっと二十くらいの家門、氏族になるだろう。

 味方にならないまでも敵には回したくない。うまく立ち回らなければ。


 そして一番気を付けなければならないのが、ケルテス辺境伯家だろう。

 シモン様とランドール様。この二人と関わると、自動的にコレット様につながる。二人とも学年が二つ上だから大丈夫だとは思うが、なるべく近寄らないように注意しよう。


 だがここで、面倒なことを思い出した。

 ランドール様がスキルを覚醒させるのは、わたしの死がきっかけだったはずだ。

 赤子の頃にシモン様と取り替えられたランドール様は、本来のスキルを闇術師によって封印されている。ケルテス辺境伯家に代々伝わる固有スキル『召喚』、それに『剣聖』という二つのスキルをランドール様は持っているのだが、それを封じられ、その代わりに『商売』というスキルで上書きされているのだ。


 『ソランの薔薇』では、自分の目の前で幼なじみのマティルド、つまりわたしを殺されたショックにより、ランドール様は封印されたスキルを覚醒させる……、んだけど、わたしが学院卒業後、ケルテス領に行かなかったら、このイベントはどうなるんだろうか。


 まさかランドール様は一生、スキルを覚醒させないまま……、なんてことはないよね?

 ランドール様の本来のスキルがなければ、王太子側の戦力は大幅ダウンしてしまうし、『ソランの薔薇』のストーリーはだいぶ違ったものになってしまうだろう。いや、ストーリーそのまま進まれても困るんだけど。


 でも、ランドール様のスキルが覚醒しないのは、ちょっとなあ……。

 ランドール様は子どもの頃からとても礼儀正しく、貧乏伯爵令嬢であるわたしにも優しくしてくれた。

 シモン様はルブラン家自体を下に見ていたから、そこの娘であるわたしの扱いもひどかったけど、ランドール様はシモン様に意地悪をされるわたしをいつも庇ってくれた。それに、わたしに会うたびにお菓子をくれたんだよね。ケルテス辺境伯家のお菓子は、バターと砂糖たっぷりで美味しかった……。

 とにかく、わたしのせいでランドール様のスキルが覚醒しないのは、ちょっとなんていうか……、いや、わたしのせいじゃないんだけど。


 本当なら、ランドール様には関わらないほうがいい。でも、わたしの死というイベント抜きで、何とかランドール様のスキルを覚醒させられないだろうか。

 もちろん、自分の命が一番大切だ。身の安全を図ったうえで、ランドール様のスキル覚醒のために出来ることをしよう、うん。


 よし、自分のやるべきことは三つだ。


 まず、一つ目。できるだけたくさんの授業を受けて自分の適性を見極め、将来に備えること。コレットの様の侍女以外の就職先を見つけるのだ。

 二つ目に、王太子の味方となる貴族たちと親しくなること。『ソランの薔薇』では、将来、王太子は第二王子側との戦いに勝利し、王位に就く。未来がわかっているのだから、勝ち馬に乗らない手はない。

 最後に、身の安全を図ったうえでだが、ランドール様のスキル覚醒の手助けをすること。……うーん、たしかマティルドが死んだ後、ランドール様にかけられた闇術を、魔術に秀でたミレー伯爵令息が完全に解呪していたはずだ。ミレー家の……、なんていったっけ、ガブリエル様だっけ? たしか「ほぼ自力で闇術を打ち破っているから、僕がしたのは後始末程度だよ」とかなんとか言っていたような。とすると、やっぱりスキル覚醒は、本人の力頼みな部分が大きいんだろうか。


 いろいろ考えていたら、眠くなってきた。

 わたしは日記帳を閉じ、寝台に入った。天蓋のついた寝台に、ちょっとテンションが上がる。しかし貴族令嬢としてのマティルドにとって、天蓋は寒さ対策とホコリ除けという実用的な目的でつけられたものでしかない。それより、天蓋から垂れるカーテンがちょっと古びているのが気にかかっているみたいだ。まあ、たしかにちょっと色あせている部分もあるけど。


 ルブラン伯爵家は貧乏だから、タウンハウスのカーテンや敷物がちょっと古くなったからってすぐさま新調するお金がないんだろう。

 何か貴族令嬢でもできるようなバイトってないんだろうか、と考えると、マティルドの常識が『刺繍かしら?』と答える。なるほど、手巾などにイニシャルや家紋を縫うやつか。でもわたし、あまり手先が器用じゃないからなあ。マティルドは違うんだろうか……。


 だめだ、眠い。

 睡魔に抗えず、わたしは目を閉じた。

 とりあえず、卒業までの目標は決まった。後は入学してから考えよう……。



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