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「わたしのために死んでちょうだい」と言われて殺されるモブ令嬢に転生しましたが、生き延びるため魔法騎士を目指します  作者: 倉本縞


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38.王太子殿下とデルフィーヌ様


 シモン様にいちゃもんを付けられたと思ったら、なぜか王太子殿下から求婚された。

 意味がわからないが、『ソランの薔薇』のストーリーからは大幅に外れた流れになっている。うん、いいんじゃないでしょうか。

 だが、


「マティルド嬢は、魔術師の塔には入らないのか?」

 魔術の授業で隣に座ったガブリエル様にいきなり聞かれた。

「……卒業後のことはまだわかりませんが、魔術師の塔か王宮騎士団に入りたいと思っております」

「ふうん。まあ、塔に所属する魔術師が王族と婚姻を結んだ例もあるしな」


 毎度思うことだが、学院内で起きる出来事を皆どうやって知るんだろう。ジェラルド様に求婚されたのはついさっきなのに。


 わたしの表情を読んだのか、ガブリエル様が肩をすくめた。

「マティルド嬢は有名人だからな。しかも一緒にいたのは王太子殿下とケルテス辺境伯家の嫡男だ。あれだけ派手にやらかせば、明日までには王都の主要貴族は全員、何があったのか知るはすだ」

 うわあ。


 ガブリエル様が首をかしげた。

「君は王太子殿下の求婚を受けたのだろう? 何か問題でもあるのか?」

 いや、問題はないけど……、でも、ジェラルド様は求婚というか、わたしをヘッドハンティングしたようなものだから……。


「そうか、もしかして親の了承を得る前に求婚を受けてしまったのか?」

「あ、ええ……、まあ」

「たしかにルブラン伯爵家は中道派だが、国王への忠義は厚いと聞く。ましてや王太子殿下御自らによる求婚なのだから、受けたところで問題ないと思うが」

 それはそう。

 ただ、わたしはこれが単なるヘッドハンティング婚約だってわかってるけど、後で聖女さまが現れた時にまた婚約解消となったら、両親が悲しむだろうことに今さら気づいてしまった。


 うーん……。二度も婚約解消されたら、さすがにもう嫁ぎ先は見つからないだろうな。

 まあでも、うん、前世の記憶を持ったまま貴族の嫁をやるのは荷が重いと思ってたし、幸いなことに福利厚生のしっかりした職場にも就職できそうだし、別にいいか。

 何より、死神コレット様から離れられる訳だしね。


 一人納得していると、

「いやあね、身の程もわきまえない貧乏伯爵家の娘って」

「ねえ。ちょっと魔術ができるからって、図々しく王太子妃の座を狙うなんて」

 刺々しい声が耳に入った。


 あからさまに確認したりできないが、これは恐らくデルフィーヌ様の取り巻き令嬢たちの声だ。

 そうか、ラクロワ公爵家は王太子殿下に婚約の打診をしていたんだっけ。聖女さまが現れるまでは、王太子殿下の婚約者に一番近いと目されていたのがデルフィーヌ様だった。


 しかもデルフィーヌ様は、心からジェラルド様を慕っていた。

 まあ気持ちはわかる。ジェラルド様って文武両道、容姿は神レベルなうえ、持ってるスキルは『カリスマ』という生まれながらの王者だもんね。女性に対しては一貫して紳士な態度を崩さないし、そんな王子様が幼なじみだったら、そりゃ恋に落ちないほうが不自然だ……、いや、ちょっと待て。


 おそるおそる視線を上げると、

「……っ」

 ちらりと見えたデルフィーヌ様の表情に、わたしは思わず息を呑んだ。


 暗く淀んだ目に、固く引き結ばれた唇。

 まるで嫉妬にかられたコレット様みたいだ。


「マティルド嬢? どうした?」

 ガブリエル様が心配そうにわたしを見ている。


 い、いや、考えすぎだ。デルフィーヌ様は殿下と聖女さまが婚約した時だって、悲しみはしたものの、コレット様みたいに恋敵を殺そうとしたりはしなかった。

 でも……コレット様から逃げられたと思ったら、まさか今度はデルフィーヌ様が新たな刺客となってわたしを殺しにかかるとか、そういう展開はない……、よね?

 原作の強制力とか、そういうのはカンベンしてもらいたいんですけど。


「皆さん、今日はそれぞれの魔力属性に応じた魔術を一つ、披露していただきます」

 バベット先生の声に意識を引き戻された。


 いけない、魔術の授業はわたしの命綱なんだから、ちゃんと受けないと。


「どんな魔術でもかまいません。炎や水球など、それぞれ魔術で生み出したものを最低三十秒、維持していただければ合格です」


「先生」

 デルフィーヌ様の取り巻きが手を上げた。

「わたしたちは、魔術で炎や水、土や光を生み出せますけど、それができない方もいらっしゃいますでしょう? そういう方はどうなさるんです? ……いくら珍しい魔術を使えるからって、それで優遇されるのはおかしいですわ。わたしたちと同じ基準で審査をしていただかないと」

 その令嬢はわたしを見て、嫌な感じの笑みを浮かべた。


 ほう。つまり、こう言いたい訳か。

 あなたはユニーク魔術を使えるかもしれないけど、でも逆に言えば、それしか使えないってことよね? どこかに移動できるってだけで、炎や水といった目に見えるものを生み出すことはできないんでしょう?


「バベット先生」

 わたしも手を上げて言った。

「わたしも魔術で生み出したものを披露いたしますわ。皆様と同じ基準で審査してください」


「マティルド嬢、転移以外のユニーク魔術を使えるのか!?」

 ガブリエル様が大興奮している。

「目に見えるもの……、ユニーク魔術で何を生み出すんだ!?」

「それは見てのお楽しみですわ」

 フッと笑ってみせると、


「まあ、随分な自信ですこと」

「さぞかし珍しく貴重なものを見せてくださるんでしょうねえ」

 デルフィーヌ様の取り巻きたちが嫌味ったらしく言ったが、わたしは平気だった。


 なぜならば! わたしにはあの炎の剣がある!

 北部の勇者さまが使っていたのと同じ剣! 見るがいい!

 ていうか、生み出すだけじゃなくて使いたい!


 ウキウキのわたしに、

「いったい何を生み出すことに成功したんだ? 賢者の石か?」

 ガブリエル様もウキウキしている。


「もっと素晴らしいものです!」

 断言してから、気が付いた。


 あ、北部出身者以外には、炎の剣ってあんまり受けないかもしれない……。



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