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「わたしのために死んでちょうだい」と言われて殺されるモブ令嬢に転生しましたが、生き延びるため魔法騎士を目指します  作者: 倉本縞


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35/59

35.お断りだ!


「魔術師の塔に、王宮騎士団。光栄なことだけれど、マティルド……、大変なことになったわねえ」

 夕食の後、お茶を片手にグレース伯母様がしみじみ言った。


「ミレー家のルーディガー様と魔法騎士のサヴィニー伯爵から、直々にお誘いいただくなんて」

「……光栄なことと思っています」

「これが知れ渡れば、また多くの貴族から縁談が持ち込まれるでしょう。……ケルテス辺境伯家からなにがしかの圧力がかかるかもしれません」

 うげっ。


「圧力と言いますと」

「ルブラン家当主である、あなたの父上にはあまり強く出られないでしょう。婚約を一方的に解消したうえ、最近まで出入り禁止を申し渡していたというのに、急に手の平を返して再度婚約を強要すれば、他の寄り子たちからも批判されるでしょうしね」

 とすると、わたしに直接、何か言ってくるってことかな。


「シモン様から接触が……、先日学院であったような事がまた起こる、という事でしょうか?」

「ええ、おそらくシモン様もケルテス辺境伯から何らかの指示を受けているでしょう」

 最悪!


「グレース伯母様、たぶんコレット様はまだケルテス辺境伯家がシモン様の婚約者を変更しようとしていることに気づいていらっしゃいません」

 言いながら、いや、どうだろうとわたしは考えた。


 少なくともコレット様は、シモン様の対応に不信感を抱いていた。当然だ。三週間も放っておかれたんだから。

「マティルド。リヴィエール家とわがルブラン家は、同じ政治派閥に属しています。難しいとは思いますが、リヴィエール家とは波風を立てないよう、立ち回らなければなりません」

 そんなの不可能では。


 しかし、ケルテス家はともかくリヴィエール家、もっと言えばコレット様に敵認定されることだけは避けたい。わたしの命がかかっているのだ!


「グレース伯母様。父上は、ケルテス家からの再婚約のお申し出を、断ってもよいと考えているのですよね?」

「ええ、ここ最近のケルテス家のやりようは目に余ります。ケルテス辺境伯が再婚されてからというもの、北部の寄り子たちをないがしろにし、王都の高位貴族にすり寄るようになって……。あなたのお父上も苦々しく思われていました」

 グレース伯母様は眉をひそめた。


「マティルド、ケルテス辺境伯家のヒョロヒョロした嫡男が、何を言ってこようと気にすることはありません。あなたはユニーク魔術の使い手なのです。ビシッと言っておやりなさい!」

「わかりました!」

 わたしは力強く頷いた。


 忖度や気遣いは苦手だけど、そういうのは得意! 今度シモン様が何か言ってきたら、ふざけんな近寄るんじゃねえ! って背負い投げを決めてやる!


 気合を入れていると、

「ただし、今きている縁談がなくなるような暴力沙汰は起こさないように」

 グレース伯母様に釘を刺された。


 ……あっ、そうなんだ……。いえ、もちろん、そのつもりでしたよ……。



 翌日は、ちょっとビクビクしながら学院へ行った。

 婚約を断っていいって言われているんだから、別にビクつく必要はないんだけど。

 でも、シモン様に威圧的に出られるの、イヤなんだよなあ……。投げ飛ばしていいなら話は簡単なんだけど、暴力沙汰はダメって言われちゃったし。


 しかも、シモン様と揉めているところを、絶対にコレット様に見られる訳にはいかない。

 コレット様に気づかれないよう、ちゃちゃっと再婚約の件を片付けなければならないのだ。

 とりあえず、今日の一限目は魔術だから、コレット様とは会わずに済む。そそくさと学舎に向かうと、


「おい」


 一年生の学舎の入り口に、シモン様が立っていた。なぜ‼

 見なかったことにして走って逃げようかと一瞬、思ったが、ここで逃げても問題を先送りするだけだ。

 こうなったら、コレット様に見つかる前に決着をつけてやる!


「……おはようございます、シモン様」

「おまえ、どういうつもりだ?」

 挨拶すら返さず、シモン様は不満そうにわたしを睨みつけた。


「どういうつもり、とは」

「わかってるんだろう、この間のことだ」

 シモン様は苛立たしげに言った。

「この僕が、おまえと婚約してやってもいいって言ってるんだぞ。それを、あんな風に無視するなんて、何を考えてるんだ」


 わたしは黙ってシモン様を見返した。

 手入れの行き届いた美しい金髪、淡い茶色の瞳。確かにシモン様は美しい顔立ちをしているし、スタイルだっていい。本当のスキル『商売』をうまく使えば、平民になったってお金持ちになれるだろう。


 だが! こんなヤツと婚約するなんて、コレット様のことがなくても断固お断りだ!


「まあ、シモン様、わたしが何を考えているのか知りたい、と。そうおっしゃるのですね」

 ならば言ってやる! 聞くがいい!


 わたしはシモン様を見据え、はっきりと言った。

「シモン様と婚約だなんて、死んでもお断りですわ!」


「……は? え?」

 目を丸くするシモン様に、もう一度。

「この世の黄金、宝石すべてをくれてやると言われても、あなたと婚約なんてしたくない! 絶対に絶対にイヤ! です‼」


 鼻息荒く言い切ったわたしを、シモン様が呆然と見つめる。

 フン! この世の女性全員が自分の言いなりになると思ったら大間違いだ、この勘違い野郎め!


 あー、スッキリした!



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